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あ た し ン ち

テレビ 第1話
『だから そーじゃなくてっ』



学校帰りの女の子がひとり。
てくてくてくてく……ぴとっ!
突然、道の真ん中で立ち止まり、ワナワナ〜
怒りのこぶしを握りしめ…
「…ん〜〜〜っ、おかあさんっ!」


とあるマンションの一室の台所で…
「♪情熱の〜紅いバラ〜♪」
自分の歌に酔いしれながら、
お皿を洗うおかあさん。
「♪はんははんはん…ふふんふん…♪」
…今日も、ノドの調子は絶好調らしい。
そこへ、娘のみかんが学校から帰って来た。
そう!さっき、道の真ん中でこぶし握ってた…あの子。
どうも、こちらはあまりご機嫌がよろしくないようで…
「ただいま…」
「♪ん〜お帰り〜〜ふんふふん〜情熱の…♪」
歌いながらお皿を洗い続けるおかあさんの横へ、
お弁当の包みをドカッと出すみかん。
「おかあさん、今日のお弁当さぁ…」
と、そこまで言っただけで…!!
「まぁた弁当の文句かいっ?!」
口から火を吹くおかあさん。
「だぁってぇ〜、
おかずに塩ジャケが一つジャケとかってさぁ…」
「あら…シャケ嫌いだったっけ…?」
「ん〜、違う〜!!、そーじゃなくてぇ…
それだけしかおかずがないのはヤなの!
おかずが塩ジャケ一つだけっつうの?
昨日はタラコだけだったし、
おとといはきんぴらゴボウだけだったし、
その前の日は切干大根だけだったし、
その前の日はコンニャク炒めだけっ、
その前はヒジキだけっっ!」

・・・・・・しばし、静寂・・・・・・

「おとうさんなんか、一回も弁当のことで
文句なんか言ったことないよ。」
それを聞いて、カタマるみかん。
「え…、おとうさんも同じ弁当なの…?」
みかんの頭に浮かぶ、シャケしか入っていない弁当を
1人虚しく食べようとする不憫なおとうさんの姿…。
「…おとうさん、かわいそ。」
「かわいそうじゃないよ!喜んでるよ!」
平然と答えるおかあさん。
「だけどぉ、恥ずかしンだよね、
女子でそういうお弁当ってさぁ…」
『なに隠して食べてんの?みかん』
と、友だちの注目を浴びつつ、
フタでお弁当箱を隠しながら、必死に食べるお弁当…。
その情景がみかんの脳裏をよぎる。
「…シャケがダメじゃぁ、他に入れるモンないねぇ。」
「だからああああ…っ!そーじゃなくてーーーっ!!
…だからね、それだけボーン!と一品っていうんじゃなくてね、
ほら…、なんか、せめてもう一品くらい…は…。」

・・・・・・しばし、静寂・・・・・・

「一品豪華主義っつうことだったんだケドねっ!うふ!」
おかあさん…にっこり!
(一品貧弱主義…だってば…)
しかし、口には出せないみかんであった。
「はいはいっ!♪情熱の〜紅いバラ〜〜♪」
お皿洗いを再開するおかあさん。
おしりの振りぐあいも、相変わらず絶好調〜♪
「…はいはい…?はいはいって…??(汗…)
わかってんのかな…」
みかんの不安は、一晩中消えることはなかった…。

そして、次の日…
テーブルで、トーストを無言でかじるおとうさん。
「おはよ〜」
「おはよっ」
テーブルにつくみかんと弟のユズヒコ。
「はぁい、おとうさん、お弁当。」
おとうさんにお弁当を渡すおかあさん。
「ん。」
おとうさんは、寡黙な人のようだ…。
「はぁい…」
次におかあさんは、みかんの横にお弁当を置いた。
「あ…、ねぇ、今日のは大丈夫ぅ?
おかず、イロイロ入れてくれた?」
みかんの心配をよそに、おかあさんはにっこり!
「ん〜!作るの大変だったよ。」
これは、期待できるかもっ??

で、すぐ昼休み!
お弁当のフタを開けてみると…!!
ど〜〜〜〜〜〜ん!
「あ〜〜〜!!」
おかず入れの部分には、
茶色いさつまあげと、茶色く煮しまったゆで玉子がごろんっっ…!
ま、確かに二種類って言えば二種類だけど…。
で、今日も、ひたすらお弁当を隠しながらかき込むハメになった
かわいそ〜なみかん…。
「また今日も、コソコソ食べてるの?みかん。」
「かえって、どんな弁当か気になるんですケド…」
そしてこのように、友だちの注目を集めてしまうのだった。

「あ〜〜あ〜〜あ〜〜…」
家に吹っ飛んで帰るみかん。

で、おとうさんはというと…
お弁当のフタを開け…ちょっとおかずを見つめ…
表情ひとつ変えずに、煮玉子をぱくり…むしゃむしゃ。

帰るなり、お弁当の包みを持って台所にかけ込んだみかん。
「…そーじゃなくてぇ!!」
みかんの、おかあさんに差し伸べた手が、ワナワナ…。
すると、いつも通りお皿を洗っていたおかあさんが、
再び火を吹いた!
「まぁた弁当の文句??ちゃあんと増えたでしょ、おかずぅ!」
「増えたけどさぁ…、何て言ったらわかってもらえるかなぁ?」
「おとうさんなんか、弁当に一度も文句なんか言ったことないよぉ。」
「他の人のお弁当はさぁ、なんか家のとは違うんだよねぇ…」
「ただいま。」
みかんを無視して通り過ぎるユズヒコ。
おかあさんは、歌うように
「お帰り〜♪」
「家のはさぁ、なんかこう…なんて言うか、地味って言うかぁ…
茶色すぎぃ?
みんなのはもっとぉ、プチトマトとかぁ!ブロッコリーとかぁ!
そういうのが入ってて、なんかシャレてんだよねぇ!
ミートボールとか串ささってたりとかぁ!」
「串ささってりゃいいの?」
「あん、違うって!ささってりゃいいわけじゃなくてぇ…」
「じゃあ買って来るよ、ブロッコリー……とか?」
「…え……??」
嫌な予感に、カタマるみかん。
「♪情熱の〜紅いバラ〜♪」
お皿を洗うおかあさんを見て、
(…わかってんのかな……)
またまた不安でいっぱいになるみかんであった。

次の日のお弁当の時間…
カポッ!
フタを開けてみると…!!
やっぱり……、中にはご飯とブロッコリーが3房…。
「ふおぁ〜!」
みかん、吹っ飛ぶ…。

で、次の日…
カポッ!
ご飯とプチトマトがいっぱい…。

そんで、次の日は…
カポッ!
ご飯と串ざしミートボールが2本…。

「ああああああ…!!」
涙を振り飛ばしながら帰宅するみかん…。

で、おとうさんはというと…
串ざしミートボールを、
当たり前のように箸でつまんでいた。

台所で、激論バトルを繰り広げるおかあさんとみかん。
「ただいま。」
平然と2人の横を通り過ぎるユズヒコ。
「わかんないよっっ!!」
「だぁかぁらぁ!!!!!みんなのお弁当はさぁ、
もっとランチタイムがた〜のしくなるような、
夢のあるカンジなわけぇ!
なんか、お肉とアスパラがぁ、こうなってるのとかぁ!
(手振りからすると、
アスパラにお肉がクルクルッと巻いてある)
きのこと玉子がぁ、おいしそうに…ほら、
こんなんなってたりとかぁ!
(たぶん、いっしょにふんわり炒めてあって、
その二つが絶妙なハーモニーをかもし出している)」
「…わかんないよ。」
がーーーーーん!
みかんの「夢見る乙女」の瞳が、一瞬で真っ黒に。
しかし、今回はめげない!
「…こう、美味しいものの世界がね、
ギュッと詰まってるみたいなのぉ!!」

・・・・・・しばし、静寂・・・・・・

「全然わからない。」
おかあさん、あっさり…。
「がああああああ…」
みかんの、今までの身振り手振りをまじえた熱弁は…
なんにもならなかった。

・・・・・・しばし、静寂・・・・・・

だが、今日こそはなんとかわかってもらわねばっ!!
…の、みかん。
「だ、だからさぁ…とにかくまずは…
茶色っぽいのを!…、そうじゃなくて…
な、なんて言うのかなぁ…
あっ!!!
っ!!」
「カラフルぅ?」
「そうそう!カラフルなヤツ作って欲しいのぉ!」
「あ〜、カラフルね。あ、色のことかい?」
みかんに、一筋の光が!
「ちゃあんとそう言ってくれれば、
おかあさんだってわかるよ!」
「わかってくれたぁ?!」
「あ、色ねぇ、色…
♪フン、フン、…あ、情熱の紅いバラ〜♪」
こぶしを利かせて、いつもの十八番を口ずさみながら
お皿を洗い始めたおかあさん…
みかんの脳裏に、言い知れぬ不安がよぎる…。

で、運命(?)の次の日…
カポッ!
カ、カラフル〜〜っ!
まっ、確かにカラフルではあるが、
いつもご飯の詰まっている部分に、
赤、黄、緑の…
ミックスベジタブル(たぶん冷凍食品)がどっさり〜っ!
「だああああああああああああああ………」

そこに居ないはずのユズヒコが一言。
「自分で作れよ。」

そして、おとうさんは…
ひとつ粒ずつミックスベジタブルを箸でつまんで…、
ちょっと食べるのに時間がかかりそうなことを除けば、
いつも通りのランチタイム。

「♪情熱の〜〜〜♪」
おかあさんだけは、今日も絶好調だった。


だから そーじゃなくてっ!!



第1話 おしまい

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