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ああっ 女神さまっ @

― コールナンバーは WRONG NUMBER ―


猫実工大 男子寮
寮の一室…電話をしている 森里 螢一(もりさと けいいち)
「はい、青山先輩は急にバイトが…ええ…次に埋め合わせすると…はい、そういうことで。」
チン!先輩から預かったと思われる黒電話(ダイヤル式)を切る螢一。
「ちえっ、留守番電話くらい買えってんだ!あーあ、もうやだ…」
しかし、頭に浮かぶのは、怖〜い顔の青山先輩 『しっかり留守番しとけよ!!』
「へいへい…」 ぴぴっぴぴっ… 目覚まし時計が鳴る。
「おっと、青山先輩に、電話をかけるように頼まれたんだ。」
今度は、自分の電話を取ってかける螢一…
『ぷるる…ガチャ  はいっ、”お助け女神事務所”です。
「ありゃ、まちがえちまった。」
ご希望は、そちらでうかがいます。
「なにっ、おい…ちょっと…」
「こんばんは。」 !螢一の目の前に、突然、女が、逆さまにぶら下がってきた!!
「なにを、お望みですか?…あれ?」
白目をむいて、倒れている螢一 …顔、真っ青。「な…なななな…」
「あらあら、申し遅れましたが、私、女神の…よいしょ…」
今度は、ちゃんと立って…といっても、少し床から浮いてはいるが。
「ベルダンディーと、申します。」
にっこり笑うベルダンディー。
紫色の長い髪、額には何かのマーク、オレンジ色の、薄絹のような布を巻きつけた服。
どう見ても、フツーの女の子ではない…が…顔は…すごく、かわいい♪
「私たちは、あなたのようにお困りの方を救済するのが目的で、
その要求が、電話という形をとって届いたのです。」
そう言って、名刺を出すベルダンディー。
「(名刺?女神が名刺!?) …救済ってなにを?」 あっけにとられる螢一。
「あなたの願いをかなえます。ただし、一つだけに限りますけど…」
「それって…なんでもいいんですか?」
「もちろんどんな事でも…あなたが、お金持ちになりたいとおっしゃるなら、
ならせて差し上げます。また、世界の破滅を望むなら、それも可能。
もっとも、それを望むような人の所には、参りませんが…
なんなりとお申し付けください。」
螢一は、考えた。
(夢か?いいや、これは青山先輩たちのしわざに違いない。
おれが女に縁がないのをいいことに、こいつを使って、バカにしてんだな―)
「いいえ、それは違います。」
!! ベルダンディーの言葉に、螢一、びっくり!
「夢でもウソでもありません。私は、偽りを申し上げられないのです。
それより…なぜ、あなたが女の子に縁がないのか、わかりません。」
「見てわかんない?」 「ええ。」 「じゃ、ちょっと立ってみて。」
二人が、並んで立つと、螢一の身長は、ベルダンディーの肩くらいまでしかない。
ま、ベルダンディーは、床からちょっと浮いてるが…
「ごらんの通りだい。この背の高さだからな。」
しかし、ベルダンディーは、首をかしげた。
「やっぱりわかりませんわ。なぜそれで、縁がなくなるのかしら…」
(な…なんか本気で言ってるみたいだな…)
…じっと、お互いをみている二人。
「じゃあ、願いを聞いてもらおうかな。」
「お決まりになりました?」
螢一は、ベルダンディーを指差して、言った。
君のような女神に、ずっとそばにいて欲しい!!
ベルダンディーは、ちょっと驚いた様子で、しばし、無言…。
「…っていうのは、だめだよなあ、やっぱり…」
螢一は、軽いジョークを飛ばしたつもりだったが…
ぶううん、ぶううん
ぶううん
ベルダンディーの様子が、おかしい!
何かに共鳴しているかのような音を立て…やがて、カッ!と、ベルダンディーの額のマークから!!
バキーーーン! 稲妻のような光が放たれ、寮の天井を貫く!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…部屋中に竜巻が起こり、螢一も何もかも中を舞っている。
「わあっ!ちょっと待ってくれ!今のは、ちょっと言ってみただけだよ!!」
しかし、ベルダンディーには、聞こえていないのか、一向に収まる様子がない。
やがて、額から放たれた光が、空にできた不思議な渦に、完全に吸い込まれると、
竜巻のような現象も、収まった…
と、天井近くまで上がっていたベルダンディーの体が、落ちてくる。
…気を失っている。
「わあっ!」 ベルダンディーの体を受け止める螢一。
思わず、その軽さにびっくりする。
ベルダンディーを受け止めたまま、じっとその顔を見ていると…
「う…」 「わ!」 「あ…」
慌てる螢一! 「いや…これは別に…」
「!!大変っ!」 何事もなかったかのように、起きあがるベルダンディー。
「え?」
カタマる螢一をよそに、ベルダンディーは、電話の受話器をとった。
「この電話お借りします!」 「はあ、どーぞ…」
「もしもし、ベルダンディーですが…はい…」
(どこに電話してんだろ…) 螢一、アゼン…
「いえ、先ほどのは…え?あれもアリですか、そんなっ神様っ!!」
(はは…うちのでんわ、どーなってんの?) ホゲホゲ状態の螢一。
「もう…」 電話を切るベルダンディー。
「どうかしたの?」
「先ほどの願い事は、受理されてしまったので、もう変更はできないって。」
「そーかー、受理されたのか、俺の願い事…良かっ…」
そこまで言って、やっと状況が把握できたらしい螢一、突然、目をむく!
なんだあっ!受理されたあっ?ここにいて欲しいってのがか?
「そうです。」 ベルダンディー、あっさり。
「そ…そんな無茶な!!なんか帰る手だてがあるんだろっ。」
「いいえ。」 今度は、きっぱり。
「いったん受理された願い事の、強制力は絶大です。誰も反抗できません。
それに、私自身には大きな力は使えないの。TVは単体では受信できないでしょう?
アンテナで受信して、必要ならブースターも使って、TVは映るんです。
私は、そのアンテナでしかない…神様に、願いを届けるためのね。」
「じ…じゃあ…」
「ご心配なく!私のアンテナとしての義務も解消されていますから、
ずっとここにいられます。」 ベルダンディーは、にっこり微笑んだ。が…
「いや、実は…この猫実工大の寮は男子寮でね、女人禁制なんだ。
だから、君がここにいるのがばれると、退寮ってことに…」
「あら、大丈夫ですよ。」
「わかってくれた?」
「だって、私は女人ではなく、女神なのですから!」
いや、そういう問題じゃなくって…と、コケる蛍一。
「つまり、一時的にここから出て欲しいんだ。」
「まあ、そうでしたの…でも、残念ながら、
あなたにも、願い事の強制力は働いているのです。」
「えっ?」
「そのような事を口にされると、あなたに迷惑が…」
うつむくベルダンディー…螢一は、ベルダンディーの両肩をつかみ…
「いったいどんな!!」 と、たずねようとしたその時!
ドンドン!!バン! 部屋のドアが開きーーー
「おおっ森里っ、ちゃんと留守番してたか?」
帰ってこられた先輩方……みんな、すっごく怖い。
一瞬、静まり返る部屋…
「あら、もう働いてしまったみたい…」
先輩の一人が、パチン!と、指を鳴らす。
「森里、わかっているな?寮則にそむいた者は?」
先輩方、声を合わせて… 「退寮ーーーっ!
そして、有無を言わせず全員で荷造り開始〜!
そいや、そいや、そいや、そいや……で、
螢一は、あっという間に、外へ放り出されてしまった。
ベルダンディーと、身の回りの物だけ一緒に…。
「行き先が決まったら、後で荷物は送ってやる!」 バタン…
玄関口で、ボーぜんとする螢一。
「これが、強制力なんです。あなたと引き離されそうになると、働くんです。」
申し訳なさそうに、ベルダンディーがつぶやくと、
「そうか…でも、今回は、もうダメだな。」
螢一が、自分のバイクのところへ歩きながら言った。
「俺のBMW…サイドカーが壊れてて…あれ?」
螢一がバイクのサイドカーを見ると、壊れていたはずなのに…
「なおってる…!」
そこへ、窓から顔を出した先輩。
「おお、森里っ、サイドカーなおしといたぞ。」
顔と違って、なんてやさしい先輩!?
「そりゃ、どーも…(くそーよけいな事を…)」
メットをかぶり、バイクにまたがる螢一。
「ちえっ、しようがねーな、サイドに乗んな…」
ベルダンディーは、微笑んで、サイドカーに乗る。
ドドドドドドドド……
螢一は、サイドに、おかしな女神を乗せ、夜の街に、走り出した。

〜 今にして思えば これも 強制力の
            一つだったのかもしれない 〜


― コールナンバーはWRONG NUMBER  終わり ―

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