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白書

第19巻

― それから… ―


前回までのあらすじ
浦飯幽助は、現世に戻っていたが、霊界の「審判の門」が占拠され、
仲間のコエンマやぼたん達が人質となっている事を聞き、
霊魂体となって救出に向かう。
敵を倒し、人質救出には成功したものの、最後に3つのボタンの選択を迫られる。
一つは、皿屋敷市に向けて異次元砲発射、
一つは、審判の門もろとも自爆、
そしてもう一つは、何も起こらない。
赤、青、黄…三つのボタンの前で悩む幽助。
そして、思いきってボタンを…!!!!



とある墓地…
一つの墓の前に、花と線香が手向けられている。
「こっちの花、どうすんべ。」
花とほうきを担いだ桑原が尋ねる。
「あ、じゃ横の方に。」 答えたのは蔵馬。
「雪村、大学もう決めたんか?」
ほうきで墓の前を掃く桑原の前に、
手桶でタオルをゆすぐ雪村瑩子がいた。
「うん、四谷大の教育…」
「先生かァ、でも得意のビンタは出せねーな。」
「やんないわよ!」 ムクレる瑩子。
「蔵馬は、なんで大学受けなかったんだ?」
「義父の会社の方が面白くてね…
すっかりキレイになりましたよ。(お墓が)」
「しかし、おせーな、あのヤロー。」
「あ、来ましたよ。」
「おーお、ダラダラ歩いてんぞ。」
みんなの見つめる先からやって来たのは…
「ウィース」 幽助だった。
「なんだよオメー、花も持って来てねーのか。」
怒る桑原。
「あー?オレの笑顔で十分だろ。
ろくすっぽ寝てねーんだよ、徹マンで。」
「バチアタリねー」 幽助の前に立つ瑩子。
「そこの団子食っていい?」
ペチッ!幽助のおでこを張り飛ばす瑩子。
「手を合わせてからよ!」

お寺の座敷
幽助たちが、話しをしている。
「あのあとすぐだもんな、バーサン(玄海)逝っちまったの。」
(玄海バーサンとは、言ってみれば幽助の師匠)
「もしやと思ったんだよ。霊界(あっち)でボタン押す直前、
いきなり声かけてきたからよ。
もう、あん時やばかったんだな。」
そう言って、タバコを吸う幽助。
「当たり前のよーにタバコをすうな!」 怒る瑩子。
そこへ、桑原の姉・静流がやってきた。
「ちょっといい?」

「バーサンの遺言状!?」 驚くみんな。
「頃合を見計らって、公開してくれって言われてたんだ。
ちょうどガン首そろってるし…」
「もしかして…莫大な遺産!?」
「埋蔵金のありかとか!」
幽助と桑原が、目をらんらんと輝かせた。
「えーと…」 「誰あてだ!?」
「みんなへ。」 玄海バーサンの遺言状を開く静流。
はぁ〜〜…みんな、がっかり。
「でだしからして、相続じゃなさそーだ。」
静流は、遺言を読み始めた。
『この手紙が公開される頃には、一人くらいあの世(こっち)に
来てるかもしれないが…』
「ババァ…」
『全員元気にやっているものとして、話をすすめる。
早速だが、生前あたしが住んでいた寺の周りの土地を
お前達に区分けして譲る。
詳細は○△銀行□×支店の貸し金庫の中の
資料に書いてある。
一番近い町まで車で数時間、とても人が住める所でもないが
妖怪達の隠れ家にはもってこいだろう。
できれば自然のまま、残しておいてくれ…』

車で、遺言の場所へ向かう幽助達。
山道を上っていくと、美しい森に囲まれた広大な土地があった。
鳥や小動物が、そこここに姿を見せている。
「――で、どこらへんがバーサンの土地なんだ?」
周りを見渡す幽助。
目の前に広がる山々は、果てなく続いているようだった。
「とりあえず、見えるとこは全部だって。」
静流の答えに、幽助はあ然! 「マジ?」
「どーするよ、これ?」 アセる桑原。
すると幽助は、小首をかしげてこちらを見ているリスを眺めて…
そして、ニコッと笑って言った。
「いーんじゃねーか、放っといて。
人がいじくっていい場所じゃねーよ。
オレらのポケットにゃ、大きすぎらぁ。」

夕日の沈みかけた浜辺
ちょっと寄り道して帰ることにした、
幽助、桑原、静流、蔵馬、雪菜、ぼたん…そして、瑩子。
「ひゃー!絶景かな、絶景かな。」
ぼたんが、オレンジ色に染まる海を眺めて言った。
「私、初めて海見ました!!きれいですね。」
感激する雪菜。
「そうスね。でもね、雪菜さん…
もっと美しいものを教えましょうか?」
カッコを付けて桑原は、目を閉じて続けようとした…
が、雪菜はすでに、走り去ったあと。
「そこのバカ、車からサンダルとってきて。」
タバコをくわえて、弟に情け容赦のない姉。

「きれーな夕日ー」 雪菜は、波打ち際でうっとり…
「お昼もすっごいキレイよ。空も海も真っ青で。
あたし、昼の海の方が好きだなァ。」
その横に立って、瑩子が伸びをする。
「えー、ぜひ見てみたいです。」
「一泊してこうか、今の時期なら、宿あるっしょ。」
静流の言葉に…
「異議アリ!!学生の身分で、異性と外泊など…」
セリフとは裏腹な顔つきの桑原…瞳が輝いている。
「顔は正直だねェ。」 ぼたんがツッコむ。

砂浜に横たわる樹に腰掛け、瑩子が幽助に尋ねた。
「ねェ、最後に玄海さんと何話したの?」
「別に…一方的に叱咤激励されただけ。
三色のボタン前にしてビビッてたらよ、
縁起でもかついで気軽に押せってよ。」
小石を海に投げる幽助。
「あ、じゃ、赤のボタンでしょ、押したの。」
「あ〜〜うっせーな、もう忘れた。」
幽助は、少しムスッとしてその場から離れた。
「なに怒ってんの?」 幽助を見つめる瑩子…
そんな瑩子の横で、ニヤニヤ笑いながら顔を見合わせる桑原と蔵馬。
「何ー?」
「これ絶っっ対ナイショな。浦飯にぶっ殺される。
あいつ、コーフンして口すべらしたの、一生の不覚だと
思ってっからよ。」 桑原は、昔から口が軽かった。
「幽助が押したのは、青いボタンですよ。」 と、蔵馬。
「オメーの一番好きな色だろ、雪村。
あのバカ、何て言ったと思う?
あっちが神なら、こっちは女神だとよ。」
ハッとする瑩子…。しかし…瑩子以外の全員が!
あははははははは、くさくさ、くっさ〜〜!!
大笑い!
「なんだぁ?何、笑ってんだオメーら。」
みんなの方を振り返る幽助。
「何でもないッス隊長!!」 ぼたんが、笑いながら敬礼してみせた。
「バカだろ、あいつ。」 桑原はニカッと笑い、瑩子の顔を覗き込む。
「もーバカね…バカ…ね。」
立ち上がり、サンダルを脱ぎ捨てる瑩子。
そして、みんなが見つめる中、海に足を浸した幽助の元へ歩き出し、
そっと後ろから近づき…幽助の背中に飛びついた!
バランスを崩す幽助、水しぶきが上がる…
「一泊決定〜!」 それを見て微笑む静流。
「やだよもう、今日は残暑のきびしいこと。」 ぼたんもニッコリ。

「いきなし何すっだ、このアマー!」
「あはははははは…」
びしょ濡れになって水をかける幽助。
とびっきりの笑顔の瑩子…。


書類の山にハンコを押す、コエンマ。
大口を開けて笑う、桑原。
高い木の枝に寝そべる、飛影。
微笑む、蔵馬。
競馬場で騒ぐ、温子(幽助の母)。
雪菜、静流、ぼたん…そして、霊鳥プー。

誰もいない部屋…
窓から入り込んだやさしい風が、カーテンを揺らし、
壁の写真を一枚、床に落とす。

その写真には―

飛影、桑原、蔵馬の真ん中で、
絆創膏を勲章のごとく…
ナナメに構えて腕組みをする幽助…


― 幽遊白書 完 ―

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