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4番サード 最終話



●これまでのあらすじ

甲子園で死闘を繰り広げる港南高校。”ベーブ・ルースのバット”を持つ長島茂雄は仲間たちと共に幾多の強豪を打ち破り、
ついに甲子園決勝戦の舞台に立つ。

決勝戦の相手は大金高校。そのエースピッチャー・稲尾は、かつてベーブ・ルースを三振に取った名投手・”沢村栄治のグローブ”
を持つ豪腕投手であった。

果たして、往年の名選手の技を持つ少年たちの対決の行方は・・・・?








●最終話 伝説の対決の巻







「ベーブ・ルース・・・かつて、野球の神様とうたわれた米(アメリカ)球界を代表する偉大な打者である・・・」

「その彼を三振にきってとった伝説の名投手、沢村栄治」

「人々に感動と興奮を与えた二人の対決から約60年・・・」

「その対決が再びよみがえろうとしている・・・」

「この甲子園球場で!!」




  ワアア(観客の声が響く甲子園球場)

アナウンス(以降アナ)「さあ、超満員にふくれあがった夏の甲子園決勝戦!!」「港南高校対大金高校!!」
           「真紅の大優勝旗を手にするのは、はたしてどちらの高校か!?」
           「そしてこの試合の最大の注目は、やはりこの二人の対決でしょう!!」

  (大金高校のベンチ。腕を組んで立つ稲尾)

アナ「高校野球至上bPの呼び声も高い、大金高校のエース稲尾か!?」

  (マウンドにてウォームアップをしているチームメイト)

アナ「それとも大会通算打率6割8分!」
  「港南高校の驚異のスラッガー・・・」

  パシッ(投げられたボールをしっかり受け止めたのは・・・)

アナ「長島か!?」「まもなくプレイボールです!!」

  (決意を秘めた表情の長島)


アナ「さあ1回表、大金高校の攻撃は・・・」

長島(ついに決勝か・・・)
  (ここまでこれたのも、みんなあのジイさんのくれたバットのおかげだな・・・)

  (ベーブ・ルースのバットをくれた名園運動具店店主を思い浮かべる長島)



店主「このバットはいかなる珠でも打ちくだくベーブ・ルースのバットじゃ・・・」
  「ただし使う時は必ずユニフォームのポケットにお金を入れんと、威力は発揮されんぞ!」



長島(あーあ、おかげで借金がたまるばかり・・・)
  (でもせっかくここまできたんだ・・・)
  (オレに期待しているみんなのためにも・・・)
  (ボロボロになってがんばった、ナインのためにも)
  (そして・・・)

  キン、バッ(サードに飛んできたボールを見事キャッチする長島)

審判「アウトーーー!!」

長島(ずっと応援してくれたあの子のためにも・・・)

  (大勢の観客の中に、長島を応援する豊の姿が。隣には喫茶店「景虎」のマスターも来ている)

長島「負けるわけにはいかない!!」

観客「いいぞ〜〜長島ぁ!!!」「さすが長島茂雄! みせるねー!!」
マスター「ケッ、なーにが長島茂雄だ! 本物の長嶋はとっくに引退してんだよ!!」
豊「しかたないでしょ! 本名なんだから・・・」

  (相変わらず巨人および長嶋嫌いのマスターをたしなめる豊)

マスター「ん? なんだそりゃ?」

  (豊は長い箱を膝に載せている)

豊「あ、これ? 長島くんへのプレゼント!」「この試合が終わったらあげるんだ」
マスター「フーン・・・」


  ワーワー(鳴り止まない歓声が響く中、1回表・大金高校の攻撃が終了した)

監督「よーし、よくおさえたぞ!!」

  (ベンチでナインを激励する港南の監督)

監督「次はこっちの攻撃じゃ!! なんとしても先制点をとるんじゃ!!」
  「大会bP投手だがなんだかしらんが、心配するな! うちには長島がいる!!」
  「4番の長島までまわしゃー、1点や2点・・・」

  (余裕で笑う港南の監督だが・・・)


  ザッ、ドギュ、ズドッ!(凄まじい剛速球を投げる稲尾。その凄まじさはバッターが思わず仰け反り、甲子園を無音にするほどだ)


審判「ス、ストライーーーーーク!!」


  ドン、ドン、ドオン(次々と剛速球を投げる稲尾。港南の打者のバットにかすりもしない)


アナ「三振!! 三者連続三振ー!!!」
  「今日もさえわたる稲尾の剛速球!! 港南高校、バットにかすることもできません!!」

  ゴク・・(思わず唾を飲み込む長島)

長島(お、お金足りるかな・・・)

  (あわててポケットのお金を確認する長島。そんな彼の前に・・・)

稲尾「フン・・・ベーブ・ルースのバットか・・・」「せいぜいそのバットでがんばりや・・・」
長島「な!?」「な、なんでそれを・・・?」
稲尾「おまえといっしょや・・・オレもジイさんからもろたんや・・・」
  「この沢村栄治のグローブをな!!」

  (左手にはめたグローブを誇示する稲尾)

長島(な、なにぃ〜〜〜!?)
  「じゃ、じゃあ君もポケットにお金を・・・」
稲尾「フッ・・・オレは稲尾財閥の御曹司や! そんな面倒なマネはせえへん!!」

  ゴソ(ポケットからカードを取り出す稲尾)

稲尾「キャッシュカードや!! 投げるたびに金がひきおとされるってなわけや!!」
  「オレはこの試合に五千万円用意しとる・・・そんな大金、ポケットに入れへんからなあ・・・」
長島(ご、ご、ご・・・五千万円)

  (数万円をどうにかやりくりしている長島には夢のような大金。思わず絶句する)

稲尾「次の回のおまえとの勝負、楽しみににしてるで!!」
長島「・・・・・・・・・」
  (う・・・うそだろ・・・・・・)

  (お金のスケールの違いにショックを受け、唖然と立ちすくす長島)


アナ「2回表、大金高校、ランナーを出しながらも無得点!」
  「さあ! その裏の港南高校の攻撃!!」
  「この回の先頭バッターは注目のこの人!!」

アナ「4番・・・サード・・・長島くん!!」

  (不安げな表情を浮かべてマウンドに立つ長島)

観客「ワアアアアアアアアアア」
アナ「お聞きください、この大歓声!!!」
  「球状につめ掛けた5万5千の観衆が、すべて二人の対決を待っていたといっても、過言ではないでしょう!!」

  (ついに初対決を向かえる長島と稲尾)



  (観客席。二人の対決を楽しげに見ているのは名園運動具店店主)

店主「ホッホッホッ・・・ついにきおったわい・・・」
  「ベーブ・ルースと沢村栄治の、再対決じゃーーーー!!」



  チャリ(マウンドにてポケットのお金を確認する長島)

長島(いちおう5千円入れたけど・・・)
  (相手はその1万倍!!)

  (汗をたらしてピッチャーを睨む長島)

アナ「さあ、注目の第一球!!」
  「投げたぁ!!」

  ドギュ、ズドォン(凄まじい剛速球がキャッチャーのミットにおさまる)

審判「ストライクワン!!」

長島(す、すごい・・・)(この球、50万円ぐらいだったりして・・・)
  (だとしたら、今まであいつが使ったのが十球で500万・・・のこりは・・・・・・)

  ズドオン(稲尾の残り金額が気になる長島だが、その間にも剛速球が飛んでくる)

審判「ストライクツーーーーー!!」

稲尾「フッ」

アナ「長島、おいこまれました!!」

  (長島とは対照的に余裕の表情の稲尾)

アナ「稲尾、足をあげて第三球!!」

長島(ダメだ、振らなきゃ・・・振らなきゃ当たらねー・・・)


アナ「投げたぁ」

  ギュオオ・・(やはり剛速球だがストライクゾーンからはずれている)

長島(アウトコース!!)
  (ボールだ!!)

  ギュオ(右に大きくカーブする球。ストライクゾーンに入りキャッチャーが受け止める)

長島「な!?」
  「ま、まがった・・・」

アナ「三振!!」「長島の第一打席は三球三振!!」
  「今大会1本のヒットもゆるしていない剛腕稲尾!! やはり長島でも打てないのか!?」

稲尾「どや!! 沢村は剛球だけやないんやで!!」

  (勝利の笑みを浮かべる稲尾)





  (試合はすすむが5回になってもお互いに得点ならず)

アナ「試合は0対0の投手戦まま、5回裏をむかえております・・・」
  「打席は再び4番長島!!」
  「しかし、はやくも稲尾の剛球の前にツーナッシングに追い込まれています!!」

長島(こーなりゃ、ヤマをはるしかない!!)
  (カーブだ、カーブでこい!!)

アナ「稲尾追い込んで、第三球・・・」

  ギュオ(長島の狙い通り大きく曲がった珠が飛んでいく)

長島(よし、カーブだ!!)
  (いけえ!!!)

  キン(長島の振るったバットは稲尾の剛球を見事捕えた!)

アナ「打ったぁ三塁線!!」
審判「ファール!!」

  ザシッ(球は惜しくもファールとなる)

長島(う 打てる・・・打てるじゃないか・・・)

  (わずかに自信を得た長島)

アナ「さ、さすが長島!! 稲尾の球をジャストミートしたバッターは、初めててです!!」

稲尾(フン・・・さすがベーブ・ルースのバットやで・・・)
  (だが・・・ベーブ・ルースは沢村に・・・)
  (負けたんやで!!!)

  ズオッ、ズドッ(今までの球にも勝る剛速球。なんとキャッチャーを吹き飛ばす)

アナ「キャ、キャッチャーふっとんだーーーー!!」

審判「ス、ストライクバッターアウトー!!」

アナ「さ、三振!! 長島、またしても三振です!」

  しん・・・(静まり返って声も出ない観衆)

稲尾「へっ! 本気で投げたら、こんなもんや!!」

長島(打てるのか? オレに・・・この球が・・・)

  (恐るべき稲尾の実力にショックを隠せない長島)




  (また少し時間が流れ・・・)

アナ「さあ試合は0対0のまま、7回表ラッキーセブン!!」
  「再三のチャンスを港南の堅い守りにはばまれて、生かせない大金高校!!」
  「この回も四球とエラーで、一死(ワンアウト)満塁のチャンスをむかえました!!」

  ハァ、ハァ(ピッチャー有藤をはじめ、息が荒い港南ナイン)

アナ「きのうの準決勝でケガ人続出!! 疲れのみえる港南ナイン!!」「はたして守りきれるのか!?」
  「むかえるバッターは、3番ピッチャー稲尾!!」

長島(やばい・・・ここで先に点を取られたら、試合がほとんど決まってしまう・・・)

アナ「ピッチャー有藤、セットポジションから第一球・・・」

有藤「くっ!」

アナ「投げた!!」

  キン(稲尾がバットに球をとらえる)

アナ「打ったあ!! 打球はレフトへ!!」「これは犠牲フライになりそーだー!!」

  パシッ(アナウンスの予想通りフライに終わった稲尾の打球。だが・・・・)

アナ「サードランナー、ゆうゆうホームへ・・・」
  「ついに均衡が破れたー!!」「7回表、大金高校1点先制!!」

稲尾「フン・・・決まりやな・・・」

  (メットを放り投げ余裕の表情を浮かべる稲尾)


有藤(ここまでか・・・)

  (マウンドに膝をつき、疲労困憊している有藤)

長島(キャプテン・・・)




  ワーワー(盛り上がる観衆。試合はさらに続く。攻守交替だ)

アナ「なんとか後続を断った港南高校!」「しかしこの回の1点が重くのしかかります!」
  「まだヒットのでない港南打線・・・はたして反撃できるのか!?」

  ハア、ハア(息を切らしてベンチに戻る港南ナイン。その顔には諦めの文字が浮かんでいるようだが・・・)

長島「あきらめちゃダメです、キャプテン!!」

  (ただひとり戦意が衰えていない長島)

長島「オレ次の打席・・・・・・必ず打ちますから・・・」
  「あきらめないでください!! 絶対に!!!」
有藤(長島・・・)





  (さらに時は流れる。試合は大詰めにさしかかろうとしていた・・・)

アナ「さあ終盤8回裏!!」「1点を追う港南高校の攻撃・・・」
  「いまだに1人のランナーも出していない豪腕稲尾!! それどころか奪ったアウトはすべて三進です!!」

  ポンポン(ロージンをつける稲尾)

アナ「大記録まであと6人!」
  「そしてむかえるバッターは、今日三度目の対決!」

アナ「4番・・・サード・・・長島くん!!」

  ウアアアア(さらなる歓声が響く中、対峙する長島と稲尾)

アナ「残すは8、9回のみ!!」
  「稲尾くんの調子からみて、おそらくこれが最後の対決となるでしょう!!」





稲尾(どんなバッターでも封じ込める、沢村栄治のグローブ)
長島(どんな球でも打てるベーブ・ルースのバット・・・)


稲尾&長島((どちらが上か・・・勝負!!!))



  ドギュ、ゴオオ(稲尾が投げた剛速球がど真ん中ストレートでつきすすむ。それにバットを振るう長島・・・・)

  バキッ(芯でとらえた長島。だがなんとバットが折れてしまう!!)

アナ「バ、バットが折れたぁ!!!」
  「打球は三遊間に転がっているー!!」

稲尾「な!?」

  ダッ(大金高校ショートがボールをとりに走る)

アナ「ショート、はじいたーーーっ!!」
  「打った長島、一塁へ・・・」
  「き、記録はヒットか!? エラーか!?」

  (きわどい判定。緊張の面持ちの長島と稲尾)

  パッ(Hのランプが点灯。と、いうことは・・・・)

アナ「ヒ、ヒットです!! 港南高校初ヒット!!」「剛腕稲尾、甲子園に来て初めてヒットを打たれましたー!!」

  (完全試合の夢破れショックを受ける稲尾)

  (一方、折れたバットを唖然と見つめる長島)

長島(折れちゃった・・・ベーブ・ルースのバットが・・・)
  (折れちゃったよ〜〜〜〜〜・・・))

  (絶望の表情を浮かべる長島)

稲尾(あ、あの野郎・・・)

  ギリ・・・(怒りのあまり歯軋りする稲尾)


  ドン(試合は続きまたしてもストライクをとる稲尾)

アナ「三振!!」
  「稲尾くん、後続の5,6,7番を三者連続三振!!」
  「一塁ランナーの長島くん、一歩も動けず!!」
  「しかし、ついにこの8回裏に稲尾くんのパーフェクトの夢はとだえました・・・」

  (いままでの余裕が消えている稲尾)




稲尾「このドアホ!! おまえあんな球もとれへんのか!?」

  (大金高校のベンチ。稲尾がエラーしたショートを締め上げている。見かねてとめに入るキャッチャー)

キャッチャー「やめんか稲尾、そこまでいわんでも・・・」
稲尾「あんたもあんたや!! 投げるたびにふっとびよって・・・」
  「ウチの会社で作らせたその特製ミットが泣いとるぞ!」
キャッチャー「お、おまえ、先輩のオレにむかって・・・」
稲尾「フン! いったい、誰のおかげでここまでこれたと思っとるんや?」「えー?」
キャッチャー「・・・・・・・・・」

  (稲尾の剣幕と毒舌に唖然とする大金ナイン)

稲尾(そうや、このオレや・・・・・・・・・)
  (金持ちのボンボンだけの集まるこの弱小高校を、甲子園に連れてきてやったのはこの稲尾一久や!!)
  (オレはもう、あの頃のオレとはちゃうでー!!)
  (ヘボな守備と貧打線のせいで負け続けていたあの頃とは・・・)

  (ベンチからマウンドに出て行く稲尾)

稲尾(そうや! オレは変わったんや!!)
  (この・・・沢村栄治のグローブでな!!)

  (投球のフォームをとる稲尾)

稲尾(野球は打たれなきゃいいんや!)
  (点を取られなきゃ・・・)
  (勝てるんや!!)

  ズドン(衰えを知らぬ稲尾の剛速球。またしても港南バッターは空振り)

アナ「三振!!」
  「9回裏港南高校最後の攻撃もすでに二死(ツーアウト)!!」
  「大金高校優勝まであと1人!!」
  「剛腕稲尾!! 奪ったアウトは全て三振です!!」
  「なるか27奪三振!!」


  チラッ(港南ベンチに視線を向ける稲尾)

稲尾(長島・・・)
  (最後の三振はおまえからや! さっきの借りをかえしたる・・・)



  (港南高校最後の攻撃が始まった)

審判「ボール!」「フォアボール!」

アナ「突如、コントロールをみだし始めた稲尾くん!!」
  「1,2、3番を歩かせて二死満塁の大ピンチ!」
  「そして再びこの人までまわってきました!!」

アナ「4番・・・サード・・・」

  (港南ベンチにて。長島をつつく部員)

部員「お、おい長島・・・」


アナ「長島くん!!」

  ウアアアアアア(意外そうな顔をしてベンチを出る長島。外は大声援が渦を巻いている)


アナ「さあ、大変な場面をむかえました!! 9回裏二死満塁、一打サヨナラのチャンスで長島登場!!」

  (大いに盛り上がる観衆だが、肝心の長島は・・・)

アナ「おっと長島くん、ベンチの前から動こうとしない! どうしたのでしょう?」

長島(ダメだ・・・打てないよ・・・)
  (あのバットがないと・・・前のダメだった頃のオレに逆戻りだ・・・)

  (ベーブ・ルースのバットを手にする前のことを思い出す長島)


港南部員「長島の奴、また三振したぜ・・・」
江古田部員「おまえかぁ、ニセの長島ってーのは・・・」
おっちゃん「名前は優秀なんだがなー・・・」


  (完全に名前負けしていた自分を笑う人々の姿を思い浮かべる)

長島(打てっこない!!)



豊(な・・・長島くん・・・)

  (不安げに長島を見つめる豊。膝の上の箱の包装を取り、中から何か取り出す)

豊「長島くん!!」
長島「へ?」

  バッ、ガシッ(取り出した何かを投げる豊。それを受け取った長島)

長島(バ、バット!?)
豊(自信を持って長島くん・・・勇気を出して・・・)
 (長島くん!!!)

  (フェンス越しにみつめあう二人・・・・)



  (そして、バッターボックスに立つ長島)

長島(みんはオレがバットの力で打ってたことを知らない・・・)
  (でも・・・みんなはオレに期待している・・・)


  ズドォ(相も変わらずの稲尾の剛速球がうなる)

審判「ストライクワン!!」


長島(ナインのみんなも・・・観客のみんなも・・・オレに期待している・・・)
  (ベーブ・ルースのバットはもうないけど・・・)


  ドオン(さらなる剛球。もはや長島に後はない)

審判「ストライクツー!!」

長島(みんなのためにも・・・そしてオレ自身のためにも・・・)
  (この打席、逃げるわけにはいかない!!!)


稲尾「これで・・・終わりや!!!」

  ドオ(ついに放たれた最後のボール。凄まじい勢いで飛ぶそれを・・・)



長島(見えた!!!)



  カッ、キイイン(見事にジャストミートする長島。ボールはピッチャー返しとなり、稲尾に向けて飛んでいく)

稲尾「!?」

  バシッ(ボールを左手の”沢村栄治のグローブ”で捕える稲尾)

稲尾「へっ・・・これでゲームセットや!!」
  「!?」

  バヒュ(グローブに収まったかに見えた打球だが勢いは衰えず。なんとグローブを破壊してさらに飛んでいく)

  バキッ(打球は高く飛び、甲子園球場のポールを破壊する。それはすなわち・・・)




アナ「ホ、ホームラン・・・・・・サヨナラホームラーン!!」
  「港南高校初優勝!!」

  ワアアアア(球場に響く観客の大歓声)


  
稲尾(なんでや・・・沢村のグローブを持つこのオレが・・・なんで打たれたんや!?)

  (マウンドにがっくりと膝をつく稲尾)

ショート「一人でカッコつけるからや!! アホ!!」

  ポカッ(落ち込んだ稲尾の後頭部を殴る大金のショート)

稲尾「な、なんやてー!?」
ショート「またこよーや、甲子園・・・」「オレたち、まだ2年生やろ?」
稲尾「そうやな・・・・・・また来ればええな・・・」
  「今度は沢村のグローブもベーブ・ルースのバットもなしで対決や!!」
  「あの長島と!!」

  (ベースを走る長島を眺め、笑みを浮かべる稲尾)



  (一方、ホームランを打った長島だが心中疑問が渦巻いている)

長島(なんで・・・なんで打てたんだ・・・)
?(おまえの実力じゃよ・・・)
長島「その声はあのジイさん・・・」

  (観客席からテレパシーのようなもので話しかける名園運動具店店主)

店主「バットの力を借りて打ったのは、最初の一、二試合ぐらいじゃ・・・」
  「人一倍練習しておるのに、プレッシャーに負けて力が出せないおまえに、暗示をかけていたんじゃよ・・・」
  「あとはおまえが、自分の力で打っておったというわけじゃ!!」
長島「で、でもお金が減ってたぜ?」
店主(ホッホッホ・・・)
  「授業料じゃよ!!」
長島「な、なにぃ〜!!」
店主(さあ、もっと胸をはれ!! みんながおまえを待っとるぞ!!)
  (4番サードのおまえをな・・・)

  (紙吹雪の舞う中、長島を祝福に走る港南ナイン・・・)







「三日後」






  (名園運動具店。店主とサッカーボールを抱えた男の子が話している)

店主「なるほど・・・そんなに君はサッカーがうまくなりたいのかね?」
男の子「カズのようになりたくて・・・」
店主「だったら、いいスパイクあるぞ!!」
  「かつて伝説のストライカーが愛用しとったスパイクじゃ!!」
  「それを履けば風のごとく走りぬけ、雷のごとくシュートがうてるといわれておる・・・」
男の子「へーー・・・」
店主「ただし・・・・・・」
  「少々、金がかかるがな・・・」







  4番サード・完



















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