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●前回のあらすじ

ついに開始された武田軍2万による長野家・箕輪城への攻撃。長野家家臣である上泉一門の疋田文五郎は、師や同門の者たちとともに
圧倒的多勢の寄せ手相手に死に物ぐるいの戦いを演じていた。

一方、戦場の中で捜し求める仇を見つけたハルナは、彼らを誘い込み文五郎から習った剣で倒していくが・・・・







●第五話 遊び







  (仇の男二人を倒したハルナ。残る一人・十郎左にむかって刀を構える)

十郎左(げえ・・・・・・)
ハルナ「おまえも! 何から何まですべて悪し!」
十郎左「ふ・・・・・・ふは」「ふはははは」「で・・・・・・でもよォ」「そんなに悪かったか?」
ハルナ「・・・・・・・・・・・・・・・」
十郎左「そんなに悪くもなかっただろう」「そりゃちっと乱暴だったけどよ・・・・・・」
ハルナ「!」

  (なぜか兜を脱ぐ十郎左)

十郎左「思い出してみろ・・・・・・・・・・・・」
   「そうさ・・・・・・・・・悪くなかったよなァ・・・・・・だからここで待ってたんだろ?」
   「また抱かれたくてよ」

  (十郎左の言葉に陵辱された忌まわしい記憶を思い出すハルナ。動揺し構えを解いてしまう)


  (そこに飛んでくる兜。十郎左が投げたのだ)


  ガッ ガチャン(兜が手に当たり、刀を落としてしまうハルナ)

ハルナ「あっ」
十郎左「うりゃああ!!」

  (ここぞとばかりに襲い掛かる十郎左)


  シャッ(腰から脇差を抜くハルナ。だが十郎左に手首を押さえられてしまう)

  ダン(十郎左に押し込まれ壁際に追い詰められるハルナ)

  (右手に持った刀で鎧の隙間からハルナを斬ろうとする十郎左。必死に刀を手で押さえるハルナ)


ハルナ「く・・・・・・う」


  グブッ(必死に抵抗するもついに胸を抉られたハルナ)

ハルナ「ぐああ!!」

  (悲鳴をあげ血を吐くハルナ。力を失って脇差を落とす)

十郎左「ふーーっ ふーーっ」

  ズッ(刀を抜く十郎左。ハルナの胸元から血が流れる)

  カクッ(力を失い十郎左にもたれかかるハルナ)

十郎左「ふ・・・・・・・・・・・・ふへへへ・・・・・・」


  トッ(右手に持った刀を床に刺す十郎左。その手でハルナの胸元をまさぐる)


十郎左「あああ・・・・・・もったいね〜〜〜〜〜」
ハルナ「文・・・・・・・・・」

  (涙を浮かべるハルナだが、文五郎の言葉を思い出す)



文五郎「動きに無駄が多い・・・・・・・・・にもかかわらず一点ばかりに気をとられすぎる」
   「逆なんだ」



ハルナ(逆・・・・・・・・・・・・)


  (血まみれの手を腰にやるハルナ)

  (獣のような舌でハルナを舐める十郎左)


ハルナ(一点に惑わされず全体を見て・・・・・・・・・)


  (腰から碁石金の入った袋を取り出したハルナ。それを床に落とす)

  ゴサッ(床に落ちて音を立てる袋。それに気をとられる十郎左)

十郎左「!」
ハルナ(無駄なく!)

  (一瞬の隙をつき十郎左の腕を跳ね上げたハルナ)

十郎左「んっ」

  (さらに十郎左の腰に差していた脇差を抜くハルナ)

  (振り上げられた脇差は、見事に十郎左の首筋を斬り裂いた)


十郎左「が・・はっ」

  (首筋から夥しい血を噴出す十郎左)

十郎左「げう・・・・・・・・・」

  ドサッ(血を滴らせた十郎左。そのまま床に倒れる)

  (刀を振り上げたまま動かないハルナ。だが・・・・)



  (ハルナを探し家の中を見る与吉)

与吉「ハルナ?」「あっ!!」「ハルナァ!!」

  (ぐったりと倒れたハルナを見つけた与吉。近寄って抱えようとする)

与吉「おい!! しっかりしろ!!」
ハルナ「や・・・・・・・・・やったよ」「おねがい・・・・・・文五郎さまに・・・・・・・・・・・」
   「おかげで・・・・・・何もかもうまく・・・・・・いきました・・・・・・って・・・・・・・・・」
与吉「ハルナ・・・・・・・・・」
ハルナ(これで・・・・・・・・・)
   (これであらためて・・・・・・あの方のお弟子に・・・・・・)


  (どこかの草原で剣の稽古をしようとする自分と文五郎の姿を夢想するハルナ)


与吉「ハ・・・・・・・ハル・・・・・」

  (涙声の与吉の言葉に、もはやハルナは答えない・・・・)

与吉「ううう・・・・・ああああああ」

  (涙を流しハルナの亡骸を抱く与吉)




  (そのころ文五郎は、傷だらけで甲冑が血に染まりながらも生き延びていた)

文五郎「はーーー・・・・・はーーー・・・・・はーーー・・・・・はーーー・・・・・」

  (折れた刀を手に持ち荒い息を吐く文五郎)

文五郎(囲みを・・・・・・破ったのか・・・・・・・・・!)

  (周りを見ると上泉秀綱と神後宗治がやはり血まみれだが生きている)

文五郎「師匠・・・・・・・・・」「神後どの・・・・・・・・・」

  (佇む二人を見た後、城へ思いを馳せる文五郎)

文五郎「ハルナ・・・・・・・・・」

  (城からは煙が立ち昇っている・・・・)





与吉「あんたら武田に誘われたのに断ったんだって? もったいねえ」
  「敵ながら天晴れなる腕前だってか?」
文五郎「・・・・・・・・・・・・・・・」

  (花が添えられた墓石の前に座る与吉。その後ろに佇む文五郎)

文五郎「旅に出る・・・・・・・・・おそらくもうここへは戻らん」
与吉「ふん 榛名山も見納めってわけだ」「ま 好きにすりゃいいさ」
  「けどなァ! しょせん剣術なんざたかが知れてるぜ!」「何しろ天下一が2人もそろって城1つ女1人守れねえんだからな!」
文五郎「そうだな・・・・・・・・・たかが知れてる・・・・・・」
与吉「なにが『文五郎さまのおかげで何もかもうまくいきました』だ!」

  (懐からハルナが遺した碁石金の袋を取り出す与吉)

与吉「ほら! 残りのお代!」
文五郎「いや・・・・・・それはおまえが・・・・・・・・・」
与吉「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  「あそ! じゃもらっとく」

  (袋を懐へ戻す与吉)

文五郎「では・・・・・・達者でな」

  (与吉に別れを告げて立ち去る文五郎)

与吉「く・・・・・・・・・」

  (ハルナの墓に触れ涙を浮かべる与吉)



  (与吉と別れ道を歩く文五郎。碁石金を渡そうとするハルナの姿を思い出す)

文五郎(ばかめ! おれは・・・・・・・・・少しの間 遊んでやっただけだ!)

  (さらに道を歩いてゆく文五郎)





神後「文五郎ーーーっ 遅いよーーーーっ」

  (旅姿の神後。後方の文五郎に怒鳴る)

文五郎「はあ・・・・・・・・・」

  (気の無い返事をする文五郎)

神後「上州からずっとあの調子ですな」
上泉「ま・・・・・・・のんびり行くさ・・・・・・」

  (剃髪した頭を触りマイペースな様子でつぶやく上泉)






  (そして場面変わって。ここは大和国 奈良 宝蔵院)

「この場所で剣術の歴史に転換をもたらす一つの出会いがあったのは永禄6年(1563年)初夏のことといわれる」

  (とある道場で立会いが行われようとしている)

  (一人は新陰流 上泉伊勢守秀綱(56) 後に信綱)

  (対するは新当流 柳生新左衛門宗厳(35) 後に石舟斎)

  (立会人は宝蔵院胤栄(43))

  (文五郎や神後、柳生の高弟の姿も見える)

神後(これが畿内一の遣い手といわれる柳生新左衛門か・・・・・・・・・・・・)
柳生「上野の上泉どののご高名 上方 西国までも響きわたっておりまする」
  「本日はぜひともひと手ご教示賜りたく柳生の庄より馳せ参じました」
上泉「おそれいります」
柳生「ひとつうかがいたいのだが」
上泉「なんなりと」
柳生「お手元の得物は木剣とは違うようですが一体・・・・・・」
上泉「これでござるか・・・・・・これは拙者が考案したもので『撓(しない)』といいます」
  「竹の節を割り中央から先を割り裂いて皮袋に入れたもの・・・・・・」

  (撓を手に持って説明する上泉)

上泉「これなら力まかせに打ち合うてもケガをせずにすみます」
柳生「ケガ・・・・・・・・・ですか・・・」
柳生の高弟「プッハッハッハ! これはまた! 関東といえば武骨な気風と聞いておったに」
     「むしろ上方のわれらよりも優雅な剣をたしなまれるようじゃ」
柳生「ひかえよ!」

  (思わず笑い出す高弟に注意する柳生新左衛門)

柳生「では拙者もそちらに合わせねばなりますまい」「その・・・・・・『撓』とやらをお貸し願えるか?」
上泉「いえいえ そちらは使いなれた木刀がよろしかろう」
柳生「さようか・・・・・・・」
  「では上泉どの」

  (立ち上がり勝負を始めようとする柳生新左衛門)

上泉「いやまずは・・・・・・・・・弟子の疋田文五郎がお相手いたす」
柳生の高弟「ぶっ無礼な!!」「当方が当主自ら立ち会おうというのにまず弟子が相手じゃと!?」
     「我ら柳生を格下と申されるか!!」
柳生「よさんか!」
胤栄「まあまあ・・・・・・・・」

  (激昂する高弟たちをなだめる柳生新左衛門と胤栄)

神後(当然よ・・・・・・たしかに柳生が天下一か知らんがわが師こそは天下一! しかし・・・・・・・・)

  (一抹の不安をおぼえる神後。文五郎は半分寝ているようだ)

神後「こら文五郎! 起きろ!」
文五郎「んん・・・・・・・・・?」

  (小声で呼びかける神後の声に目を覚ました文五郎)

柳生「心得ました」「では 疋田どのとやら・・・・・・」
文五郎「あ・・・・・・・・・はあ」
柳生の高弟(まだるっこしい! そんな貧相なヤツ ササッと片づけて下され!)

  (パッとしない様子の文五郎を侮る柳生の高弟)


  (ここにあらためて柳生新左衛門宗厳と、新陰流 疋田文五郎景忠(27)の立会いが行われることになった)

上泉「文五」「楽しめ これは遊びじゃ」
文五郎「遊び・・・・・・・・・?」

  (文五郎の後ろから声をかける上泉)

柳生「まいる!」

  (木刀を構える柳生新左衛門)


文五郎(遊び・・・・・・・・・)

  (「遊び」という言葉で剣を学ぶハルナの姿を思い浮かべる文五郎)



ハルナ「先生はそんな竹ボーでいいんですか?」

  (必死に木刀を振るうハルナ)

   「文五郎さま・・・・・・」

  (笑顔を浮かべるハルナ)

   「さすが天下一」



  (悲しげに目をつぶる文五郎・・・)



柳生「?」




文五郎「それは 悪しゅうござる」




柳生「なに!?」

  (文五郎の言葉に怪訝な表情を浮かべる柳生新左衛門)

  パアン(文五郎の振るった撓が見事に柳生新左衛門の面を取った)

神後「真っ二つ」
柳生「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

  (打たれた跡を額に残し、汗を浮かべる柳生新左衛門)




「文五郎はつづけざまに3本取った」

「上泉伊勢守どころか弟子の疋田文五郎にさえ歯が立たなかった柳生新左衛門は ただちに新陰流の門下となり腕をみがく」
「いわゆる柳生新陰流の祖となるのである」

「一方の疋田文五郎はほどなく師と別れて諸方を旅し各地で試合を行う」

「その際 相手はいつも木剣を手にしたのに対し 文五郎は必ず『撓』を用いすべてに勝利したという」





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