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TRAIN×TRAIN・EPISODE38(最終話)

(最終話までのあらすじ)
巨大な学校列車にて1年をかけ、諸都市を巡り学んでいく「スクールトレイン」と呼ばれる教育システムが確立した惑星デロカ。
主人公・坂草礼一は幼なじみの五十嵐理恵とともに、普通科のスクールトレインに乗るはずだったが、首都イデオ=シティの駅で出会った少女・アリーナ=ペンドルトンとの不幸な事故からはみ出し者揃いのスクールトレイン「スペシャルトレイン」に乗る事になってしまう。
破天荒なアリーナが、デロカ有数の名家から逃げ出してスペシャルトレインに乗った理由は思い出の人で、彼女の愛用する刀を打った男・ケビン=ガードナーを探すためであり、彼の住むルーブルの町に「スペシャルトレイン」が立ち寄るためであるからだ。
礼一はその後、普通科に戻ることではなくスペシャルトレインに残ることを決意する。それは自分の進路を見つけるためでもあった。
1年近いスペシャルトレインでの旅路の中、礼一は精神的に成長し始める。
やがてスペシャルはルーブルに辿りつく。そこで出会った女性・ノウラからケビンがスペシャルが辿り着く数日前に病死していたことを聞かされる。失意により、抜け殻同然となるアリーナ。
それと時を同じくしてこの年をもって、スペシャルトレインが廃校となることになった。
連れ戻しに来た探偵・コングに連れられペンドルトン家に戻るアリーナ。
一方礼一は、廃校を間近にしてスペシャルトレインの先頭車両がかつての移民船を改造して使っていたものだという事を知り、あるアイディアを考える事となる。
それはスペシャルトレインのOBたちの資金援助を得て先頭車両を買い取り、自ら惑星探索会社を設立することであった。途方もないアイディアだが多くの人たちが賛同し、新たな将来のレールが延ばされてゆく。
そんな礼一の前にコングが現れ、アリーナが祖父の命で結婚式を間近に控えている、という事を伝える。そしてアリーナの挙式の日…

(本文)
 いよいよアリーナの婚礼の日。多くの参列者が聖堂に集まっている。
参列者A「あれがペンドルトンの…」
参列者B「さすがに美しい…」
参列者C「次は女当主か…こちらも対応を考えねばな…」
アリーナの祖父「……」
 神父が祝福の言葉を述べ始める。
神父「今日のよき日に新たな幸福の契りを…始まりの人は神が御身に似せて作られた人形でした…」
アリーナ(にん…ぎょう…)

 舞台は変わって一軒の家。ぴーこ(スペシャルトレインに乗っていたアンドロイドの少女)を1人の男性が出迎える。
パパ「ぴーこ!!」
ぴーこ「パパ…」
パパ「よく来たね。マリアンヌも楽しみに待っていたよ」
ぴーこ「ママの具合はもういいの?」
パパ「ああ、それどころか…」
 男性が扉を開けると、赤ちゃんを抱いた1人の女性が出迎える。
マリアンヌ「ぴーこちゃんッ」
ぴーこ「ママッ、そちらは…?」
マリアンヌ「ナタリア…つい先日生まれたばかりよ。こっちへ来て、ぴーこちゃん」
 マリアンヌ、ぴーこを抱き寄せる。
マリアンヌ「ごめんね…あの頃の私には、心の準備が必要だったのよ…喪った…レッドの相手にと、あなたを選んでおきながら…」
 ぴーこ、涙ぐみながら、
ぴーこ「ママ…ぴーこはここにいていいの?」
パパ「もちろんだよ、ぴーこ」
マリアンヌ「ナタリアのお姉さんになってちょうだい」
パパ「レッドもそれを喜んでくれるはずだ…」
 一枚の写真が見える。夫妻の亡くした子供の写真。
パパ「そうだろ?ぴーこ」
ぴーこ「うんッ…」
マリアンヌ「さあ、聞かせてちょうだい。旅の思い出を…」

 再び結婚式場。
神父「人形は心を宿らせ人間となりました。人間は地に満ち仲間を増やし、自然と獣と時に争い、時に手を結んで日々を重ねていきました…」
アリーナ(自然…獣…争い、手を結んで…)

 ウィンズビール(デロカの先住民族。獣人型)の村にて。今年も旅立っていくウィンズビールの若者たちとアニア(スペシャルトレインに乗っていた、ウィンズビールの若き長)の会話。
若者A「長…我らの新たな旅立ちに言葉を」
若者B「地球種とはどのような連中なのですか?」
若者C「我々は一年の間、如何にして誇りを守るべきなのでしょうか?」
アニア「……言葉はない。自分たちの目で確かめるのだ。我らの星が如何なる場所で…我らが如何なる者たちと生きているのか…それが旅の意味だ」
 旅立っていく若者たちを見届け、アニアは独り呟く。
アニア「父よ、願わくば私の様な旅を彼らの身にも…」

 三度結婚式場。
神父「人にはそれぞれ信じるものがあります。それは様々に異なれど、信じる心に変わりはありません。迷いなく信じる心、そのものが大切なのです」
アリーナ(迷いなく…信じる心…)
アリーナの祖父「……」

 ルー(スペシャルトレインに乗っていた新興宗教のシスター)と理恵(礼一の幼なじみ。普通科のスクールトレインに乗っていた)の会話。
ルー「布教は人生そのものです。列車がなくなっても私には関係ありません。新世界?上等じゃありませんか。それこそがデスウィッシュ様の御心を広めるチャンスなのです」
 ファイティングポーズを取るルーに、理恵は呆れ、
理恵「いいんだけど、礼ちゃんにはちょっかい出さないでよ。礼ちゃんもあたしも、そんな乱暴なシューキョーには興味ないからね」
ルー「無礼ですわね。乱暴とはあのバカ女のような人を言うのです」
理恵「まあね…あのバカ女みたいなね………」
ルー「そうですとも…」
 2人とも、アリーナのことを思い出し、
理恵「まったくッ」
ルー「あのバカ、何やって――」

 4度結婚式場に視点は移る。
神父「様々な人が様々に結ばれます。人の絆を繋ぐのは、運命という輪なのです」
アリーナ(きずな…繋ぐ…)
 その時、アリーナはふとスペシャルトレインで旅をした時の記憶を思い出す。そして振り返る。
アリーナの祖父「…?」
 参列者の一人が抱えていたアリーナの母の遺影がその眼には映っていた。アリーナ「……」
 アリーナの祖父、手で神父に「続けるように」と指図し神父は頷く。
アリーナ(うれしそうだったな…母さん…あたしは…今にも泣き出しそうだよ…)
神父「今、神の御元において新たな絆が結ばれます。誓いの指輪を…」
 アリーナ、全てを諦めたかのように見える。新郎が指輪を差し出して、
アリーナ(さよなら…父さん…母さん…さよなら…ケビン…礼…)
その時、聖堂の屋根が突然崩れる。
参列者D「キャアアア」
参列者E「何だ!?」
アリーナの祖父「!!?」
 彼らが見上げたその先には、宇宙船に改造されたスペシャルトレインの姿があった。そしてそこには礼一の姿が。礼一アリーナがもっていた刀を手にしており、手を伸ばす。
アリーナの祖父「警備はどうしたッ、撃墜してもかまわんッ」
 アリーナは走り出す。
アリーナの祖父「アリーナ」
アリーナ「爺さんごめんッ、あたしの旅――まだ終わってなかったんだッ」
 アリーナの顔にさっきまでの人形のような生気のなさは消えており、活力と不思議な魅力が戻ってきていた。扉を開け、礼一たちの元に走り出す。
アリーナ(そうだ、まだ……終わってなんかいないんだッ)
アリーナの祖父「スタンガンだ、つかまえろッ」
 警備員たちはスタンガンを発砲する。
アリーナ「くッ」
 が、その時チェーンが彼らを襲う。
警備員「ぐあッ」
礼一・アリーナ「!?」
 見るとそこには散々追いかけつつけた探偵・コングの姿が。
コング「アフターサービスだ、行きな」
礼一「アリーナッ」
 礼一の差し出したロープに掴まろうとするが、その時警備員の1人がバズーカを構え、発射する。
礼一「高電磁気スタンだ!?」
アリーナ「礼一ッ、刀だッ」
 アリーナ、刀を抜き放つと弾丸を切りつける。刀は弾丸を真っ二つにして、そのまま地に突き刺さる。
アリーナの祖父「アリーナ、戻れッ、戻ってこいッ」
 その時刀から声が聞こえてきた。
刀の声「やめなさい。行かせてあげなさい」
アリーナの祖父「………ッ」
 アリーナの祖父、その場に膝をつき崩れる。そして飛び立っていくスペシャルトレイン。

 スペシャルトレインの中にて。
礼一「刀……落としちゃったね」
アリーナ「いいさ…もういい…」
礼一「……さてっと、僕らはこれから未開発惑星の探査事業をこの船で始めるんだけど――一緒に来るかい?」
 アリーナ、不適に微笑んで、
アリーナ「断るわけねーだろッ」
 礼一たちも満足そうな笑みを浮かべる。

 その日、デロカの多くの人たちがスペシャルトレインの新たな旅立ちを見ていた。それはスペシャルに乗っていた人たちでもあり、また通り過ぎた都市で出会った人たちでもある。

新たな進路を探して旅だった日――
宇宙は果てしなく広げられたキャンバスであり
僕たちは絵筆を手にうろたえる新米画家だった――
だがその胸にはあふれる程の高揚があった
あふれる程の高揚が――

始まりの詩――
惑星ケビン開拓史
 坂草礼一
 アリーナ=ペンドルトン
       ――共著

To be continued ANOTHER PLANET(完)

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