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ドラえもんの最終回(1971年版)「ドラえもん未来へ帰る」


1971年に雑誌『小学四年生』に掲載された作品です。てんとう虫コミックス6巻収録『さようならドラえもん』や、そのアニメ化作品『帰ってきたドラえもん』とは別物です。


夜、のび太の部屋。ザワザワと人の声がする。

布団の中でのび太が目を覚ますと、部屋の壁の中から大勢の人が現れ、部屋の中を見回し、また壁の中へと消えてゆく。

のび太「ハレー


翌朝、ドラえもんがのび太の机の引き出しから現れる。

のび太「やあ、ドラえもん!! どこへ行ってたんだ、ゆうべ おかしなできごとが…… おおぜいの人間が、かべから出てきて かべの中へ。ゆめかなあ。いや、ぜったいにちがう!! ドラえもん!! 聞いてんのか、おいっ」
ドラえもん「ん? ああ…… うん」

ママの声「のび太さん!!

のび太がママのもとへ行くと、部屋中に落書き。

ママ「このらくがきは、なんです」
のび太「知らないよ、そんなの」

そこへ、パパが飛んで来る。

パパ「たいへんだ、ぼくのライターが、ぬすまれた」
ママ「だれが あんなボロっちいライターを」
のび太「どこかへ置きわすれたんだよ」
パパ「ボロっちいとはなんだ。あれは、マージャン大会にゆう勝して取った だいじな品だぞ。ほかにもこのごろ」
ママ「そういえば いろんなものが」
のび太「よく なくなるなあ」

ドラえもん「とうとう、このへんにもあらわれたか」

何か考え込んでいる様子のドラえもん。おやつの、大好物のドラ焼きにも手を付けない。

のび太「どうしたんだ。ぼんやりしてないで 食べなよ」
ドラえもん「あ…… うん」

突然、壁の中から見知らぬ少年が飛び出し、ドラえもんのドラ焼きを奪い、また壁の中へ消える。

のび太「お、お、おいっ、み、み、見たか いまの」
ドラえもん「あ…… うん」
のび太「あ、うん? 言うことは それだけ?」
ドラえもん「のび太くん!! もしも……。もしもだよ。もしも、ぼくが……。いなくなっても、きみ ひとりで、やっていけるかい?」
のび太「何を言うかと思ったら。そんなこと、考えられないね。きみがいなくちゃ、ぼくはだめなんだ」
ドラえもん「なさけないこと言うなよ。じつは……」

また、壁の中から数人の男女が現れる。

男「こちらですよ」
ドラえもん「まっぴるまから こんなとこへ。ひと目につかないように、回るのがきそくだぞ!」
男「まあまあ、かたいこと いいっこなし。こそこそかくれながらの観光じゃ、お客さんがまんぞくしなくなってね」
のび太「だれだい、この人」
男「しつれいしました。わたくし こういう者で」

名刺を見ると「フジヤマ時間観光株式会社」の一級ガイド「カバキチ カバタ」とある。

カバキチ「早い話が、お客様を『タイムマシン』で、むかしの世界におつれして、見物していただく案内人です」
のび太「へーえ」
カバキチ「みなさま、これが古代日本の民家です。ご自由にごらんください」

さらに大勢の人々が、のび太の部屋の中に現れる。

ドラえもん「めいわくだっ
のび太「帰ってよ
ドラえもん「タイムパトロールにうったえるぞ。帰れというのに!!」

ドラえもんが一同を止めようとするが、カバキチも人々も壁の中へ消えてしまう。

ドラえもん「四次元い動で 動いているらしい。ほっといたら、くせになる」
のび太「おっぱらわなくちゃ」


ママは庭で洗濯をしている。

「おばさん、おばさん」

振り向くと、男女が肩を組んで、カメラを差し出している。

男「悪いけどさ。ぼくらが こうやってるとこ、シャッターきってくんない?」
ママ「どなた!? だまってよその庭へ はいりこんで!!」
男「ぼくらが? なにものかって? なにをかくそう。ぼくらは新こん旅行です。ぼく、とってもしあわせよ」
女「うそよっ。あたしのほうが もっとしあわせよン」
男「ぼく」
女「あたし」
男「じゃ、じゃ おばさんに決めてもらおうよ」
女「すてきっ、あなたって なんて頭がいいんでしょ」
ママ「いそがしいんです!」

別の中年女と少年が、勝手に洗濯機の中の服を手にしている。

中年女「ごらんなさい、これが古代の服です」
少年「博物館で見たよ」
中年女「まだ、植物のせんいが使われていますねえ」
少年「そまつなものを着てたんだね」
ママ「どうせ、うちのは特売品ですっ」

ママが服を取り返すが、また別の中年男がそれを手にする。

中年男「うむ、これはいい。この、あらいざらした感じ!! この糸目のほつれぐあい!! なんともいえぬ そぼくな味がある。売ってくれたまえ」
ママ「ひとをからかわないでっ!!」

なぜかママの体が浮かび上がり、ひとりでに物置のほうへと運ばれる。
物置の裏から、人相の悪い男が現れる。

男「やあ、おくさん。ここが気にいった、下宿するぜ」
ママ「そんなこと、とつぜん…… うちは せまいから……」
男「ことわらないほうが身のためだろうぜ」

男が銃を抜く。

ママ「な、なにをするんです」
ドラえもん「あっ、ここにひとりいたなっ」
男「くそっ」

ドラえもんが男を追うが、男も壁の中へ消えてしまう。

一方では、入浴中のパパを女性たちが見物しており、ある者はカメラを構えている。

パパ「たすけてえ!!
女性たち「古代人の体格は、ひんじゃくざますのね」「食物が まずしかったんざんしょね」
パパ「シッ、シッ」
女性「あら、おまちになって」

パパが脱衣所へと逃げると、先の中年男がパパの服を手にしている。

中年男「売ってくれ」
ドラえもん「こらーっ

先ほどの新婚カップルは、部屋の中に平気で落書きをしている。

ママ「だめっ 落書きしちゃ!!
のび太「ドラえもーん

先ほどの中年女と少年は、のび太の宿題を見ている。

中年女「古代の学校は ていどが低かったのね」
少年「ぼくが保育園のころやった問題だよ。この子 できが悪いんだね」
のび太「あーっ、なにをするんだ

銃を抜いた男は、パパを追い回している。

パパ「うちは下宿屋じゃないったら」

カバキチが現れ、銃の男を止める。

カバキチ「お客さん、いくらなんでもピストルはやめなさい」
銃の男「うるさい、おれをだれだと思う。全世界指名手配の殺し屋ジャックだぞ。追い詰められ、いばしょがなくなったので 昔の世界へにげてきたのだ。こうなったら きさまらをみな殺しに……」

のび太も、勝手に部屋に上がりこんでいた人々も、一斉に震え上がる。
しかしそこへ光線が炸裂し、銃の男が倒れる。

制服姿の3人の男。

カバキチ「あっ、タイムパトロール」


家に勝手に上がりこんでいた人々が、ようやくいなくなる。

ドラえもん「やっと しずかになったよ」
のび太「時間観光旅行なんて めいわくだァ。なんとかしろ」

そこへ、セワシが現れる。

セワシ「それはもう、心配いらないよ」
のび太「あ、セワシくん」
セワシ「時間旅行きせい法が……」
ドラえもん「えっ、とうとう決まったの!?」
のび太「それ、なんのこと?」
セワシ「『タイムマシン』で旅行する人がふえてきて、」
ドラえもん「むかしの人にめいわくをかけることが多くなったので。こんご、いっさいの時間旅行をきん止する法りつができたんだ」
のび太「すると…… ドラえもんは!?」
セワシ「もちろん 帰らなくちゃならない」
のび太「そ、そんな!! いやだ! ぼくは帰さないぞ!!」
セワシ「こまるなあ」
ドラえもん「男だろ! これからは ひとりでやっていくんだ。きみならできる!! ぼくが来たころからみると、ずっとましになっているからね」
セワシ「そう、元気になったし、からだも強くなった。頭もすこーし よくなった」

机の引き出しから、音が鳴る。

セワシ「ひきあげの合い図だ。いそがないと」
ドラえもん「じゃ……」

ドラえもんがのび太の手を固く握り、セワシとともに机の引き出しに入る。
しかし、ドラえもんが引き出しの中で、大泣きしながら大暴れし始める。

ドラえもん「いやだァ。のび太くんとわかれるの いやだぁ
セワシ「いまさらなにを」
のび太「ドラえもん!!

とうとう、ドラえもんがセワシとともに姿を消す。


のび太「ドラえもん……」


つくえの引き出しは、ただの引き出しにもどりました。
でも……

ぼくは開けるたびにドラえもんを思い出すのです。


(終)
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