最終話 |
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暁の探偵事務所。 椅子から転げ落ちた暁が、ねぼけまなこを擦る。 椅子に座ったまま、うたた寝していたようだ。 暁「痛ぁ〜……あぁ、夢かぁ……まだ眠ぃ……」 椅子に横になり、毛布をかぶる暁。 そこへ、速水、エリ、宗方長官が事務所に入ってくる。 速水「おい暁! 何やってんだ! おら、いい加減にシャキッとしろ!」 速水が暁を起こし、突き飛ばす。 速水「真昼間からグースカとぉ! はっきり言って、見るに耐えんぞ!」 暁「はぁ〜、しかし、やな夢見たなぁ」 エリ「また『女の子に惚れられた夢』とか言うんじゃないの?」 長官「うむ」 暁「いや俺がさぁ、SAIDOCの隊員でな。真面目な性格なんだなぁ〜。でさぁ、ダークザイドと必死こいて戦ってんだなぁ」 速水「いい夢じゃないか! 真面目なお前に、俺も夢でいいから一度会いたいよ……」 長官「そうだ。それに、暁くんもそろそろ私立探偵を卒業して、我々の正式隊員になったらどうだ。そうなったらまさに正夢だ。ワッハッハ!」 暁「何言ってんの!? 俺はね、私立探偵だから格好いいの! 第一、俺が探偵を辞めてみなさい? お得意さんたちが悲しむでしょうが」 速水「ろくに事件を解決したことが無いお前に、お得意さんがぁ?」 暁「ん? 何だ、その疑いの眼差しはぁ!」 チャイムが鳴る。 暁「ほら見ろぉ。いらっしゃ〜い、お得意さん!」 お得意さん、犬の写真を手にした老婆が現れる。 老婆「すいません……毎度」 暁「またその犬が迷子? ……16回目かよ」 長官「あ、大丈夫ですよ。ねぇ暁くん……あ?」 居眠りを決め込んでいる暁。 速水「寝るなぁ!」 |
事務所で居眠りしている暁を、速水がハリセンで叩き起こす。 速水「犬を探すんだろうが!! えぇ?」 暁「……お? おぉ、わんわん!」 速水「何を寝ぼけてんだ! 仕事だ! さぁ、仕事だ仕事!」 速水が暁を掴み上げ、強引に事務所から連れ出す。 慌てて2人を追うエリ、苦笑しつつ一同を見送る長官。 速見の運転する車で犬を捜索中の暁たち。 暁「いやぁ〜、しかし嫌な夢見たぁ……」 速水「またかぁ?」 暁「それが今度はさぁ、宗方のおっさんがおっ死んじまってな」 速水「夢の話はもういい! それより仕事だ仕事!」 車の前に立ち塞がる人影。慌てて速水が車を止める。 暁の借金借入先の銀行員2人である。 車を降りる暁たちに、銀行員たちが駆け寄る。 銀行員「今日こそは払ってもらいますからね!」 暁「これはこれは、素敵な銀行員さん! お元気そうですね〜」 銀行員「また借金返済の期限!」「お願いします! このままでは左遷です。一家心中です〜」「そうですよぉ」 暁「やめなさい! あのさぁ、俺よく憶えてないんだけどぉ〜、一体いくらぐらいあんのかなぁ、借金?」 銀行員「それがですね……」 銀行員の1人が電卓を叩く。 速水がそれを覗き込むと、画面には「10,000,002」。 速水「1千万……飛んで2円!?」 エリ「大変……! とにかく犬を探しましょ! そうすれば、お金入るんだから」 暁「お、そうだ! 君たちも手伝いなさい!」 銀行員たち「え?」 暁「犬探し!」 |
エリ「えぇっ!? 私がダークザイドだったぁ!?」 暁「あぁ」 速水「馬鹿! 縁起の悪いこと言うな!」 暁「しかしさ、何だって俺が、こんな嫌な夢ばっかり見なきゃなんねぇんだ? 何か嫌な気分だなぁ〜」 そこへ銀行員たちが駆けてくる。 銀行員「探偵さ〜ん、いました、いました! しゃ、写真の犬が!」「あ、あっち〜!」 暁「何ぃ〜!」 犬を抱え上げる、いつもの間抜けな誘拐犯2人。 誘拐犯「兄貴、これで身代金がガッポリだ!」「おうよ! これで俺も、一流の犯罪者の仲間入りだ! 何セ大金持ちの家の犬だからなぁ……3万円、いや、5万円は堅いぞ!」 暁「ちょっと待て、こらぁ!」 暁たちが橋の上から誘拐犯2人を見つける。 暁「またお前たちか!」 誘拐犯「ありゃお前、またあの探偵じゃねぇか!」 暁「言いたいことは、わかってるな?」 誘拐犯「はい〜っ、わかってます〜! もうしませんです〜、ごめんなさ〜い!」 誘拐犯たちが犬を地面に下ろすと、犬はさっさと逃げてしまう。 暁「あら〜? こら、待て! 待てぇ!」 |
赤い首輪をしたダックスフンドを見つけたのは、通学途中の霧子。 霧子「かわいい〜ちょっと待ってね。今お弁当あげるから、いい子で待っててね」 霧子が鞄から弁当箱を取り出し、犬に差し出す。 霧子「ほら、おいしいよ。食べて、ほら」 速水「霧子ちゃん!?」 霧子「速水さん!」 速水「霧子ちゃん! 俺は、俺は猛烈に感動している! きちんと更生した君に、こうしてまた会えるなんて!」 霧子「私も! 速水さんには、もっとちゃんとお礼を言わなきゃと思っていたの」 微笑む速水を、暁が後ろから締め上げる。 暁「速水に礼なぞ勿体ない! それよりさ、これ見なかった? ワン公」 暁の差し出した写真を霧子が見る。 霧子「この犬ならここに!」 暁「え?」 いつの間にか弁当箱を残し、犬が消えている。 霧子「あれぇ……今までいたんだけど」 暁「よし、この辺を徹底的に探すぞ!」 速水「よし!」 霧子「私も一緒に探します。少しでも速水さんの力になれるなら」 エリ「あっ、いたぁ!」 エリの指した先、石段を犬が駆け上っている。 暁「よし、捕まえろ!」 |
暁「お前が死んだ!」 速水「はぁ?」 暁「いや、さっきの夢の続きなんだけどさぁ……意外とほら、こっちが夢だったりしてな」 速水「何を言ってるんだ、お前は?」 暁「だからぁ、夢の世界の方が現実で、今の俺たちの世界が夢の世界だったら、そしたら俺嫌だなぁって……」 速水「寝言言ってろぉ! それより犬だろ! 仕事だろ! 行くぞ!」 銀行員「そうそう、だから早く犬探して、借金返して下さいよ」「お願いします」 暁「おぅ、任せとけ!」 「暁ー!」 保母に転職した元秘書・朱美が現れる。 朱美「お久しぶりー!」 暁「朱美! 何やってんだよ、こんなとこで!」 朱美「暁こそ何やってんのよ?」 暁「俺? 俺は仕事だよ。ほら、例の犬がまた迷子になっちゃって。お前見なかった?」 朱美「馬鹿ねぇ、あの犬ならあそこに決まってんじゃない。探すまでもないでしょ?」 暁「あそこ? あ……そうか! さすが元俺の秘書!」 秘書スタイルに戻った朱美と共に、暁がハードボイルドな雰囲気で路地裏を走る。 暁「奴は逃げ足が速いから、油断するな。行くぞ」 2人が懐から銃を取り出して構え、倉庫に突入する。 朱美「いつもあそこよ」 朱美が指した倉庫の片隅、床が濡れている。 朱美「チビった跡よ……」 暁「ホヤホヤだな……奴はこの近くにいるな……」 倉庫内を探す2人。 背後でドラム缶が倒れる。 2人が振り向くと、ドラム缶の中から犬が現れる。 朱美「暁、早く!」 暁が銃を構える。 銃口から、弾丸ならぬ網が撃ち出され、犬が網に絡め取られる。 暁「よっしゃ〜!」 2人が駆け寄り、遂に犬を捕まえる。 暁「お前な、これで16回目だぞ! こら、17回目もよろしくな!」 朱美「任務完了〜!」 朱実が銃を構えると、銃身から火が灯る。ピストル型ライターである。 そこへ速水が駆けてくる。 速水「暁!」 暁「お、速水、どしたの?」 速水「今チーフから連絡があった。急いでくれ、ダークザイド出現だ! 早く!」 速水が暁の腕を掴んで急がせようとする。 が、暁はその腕を振り解き、ポーズを決める。 暁「慌てるなって! どうせ俺が、勝つに決まってるからなぁ!」 |