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最終話                  Spiral                  〜なるべくなら良き日々が多くありますよう〜

タクシーに一人の女が乗り込んだ
運転手「どちらまでです?」
女「Fahren Sie mich bitte zu―――」
運転手「え?」
女「あっ、すみません久ぶりに日本にもどったもので…」
女は一枚の紙を運転手に渡す
女「この住所の病院に行ってください」

場面変わってまどかの家
寝起きのまどかがリビングに入ってくる      清隆は朝食を用意している清「おはよう、まどか」
ま「ああ、うんおはよう」清「しかし私達よく離婚もせず続いてるよなぁ、ある意味怖いぞ?」
ま「あのね、妻が夫を許さないで誰が許すっていうの?」
清「おおっ、愛だ!」
ま「なんかその言い方むかつくわね」
ピルルルル ピルルルル ピルルルル
清隆の携帯がなり清隆は携帯に出る
清「私だ…ああ……そうか、こちらからまたかける」ま「何があったの?」  清「ミズシロ火澄がついさっき息を引き取ったよ」
ま「……そう、あの子もがんばったわね」

警察署から出てきて清隆と車に乗るまどか
まどかが運転し清隆が隣で携帯とノートパソコンをいじっている
ま《清隆さんが帰って来て――歩と清隆さんの対決が終わって二年あまりが過ぎた
かといって何かが劇的に変わったわけではない
歩の選んだ運命は閉じない運命
清隆さんが全てが円環のように閉じる運命を築こうとしたのに対し
歩はいわばらせんの運命を選び勝利したのだ
らせんは輪のようだが閉じず遠回りでもどこかに向かう
だから歩の選択の結果が出るのは、まだずっと先のことだ
けれど多くの人が今、歩の正しさを現実にするためにそれぞれの人生を生きている
竹内理緒は退院して歩の所に挨拶に来ると     すぐに学園を中退して海外に渡り
紛争・内乱のあった地域の地雷撤去活動に従事している
今もあちこち渡り歩いているそうで何度か歩のもとに写真が送られてきた
アイズ・ラザフォードは一年前まで
土屋キリエ、歩と共に生き残るブレード・チルドレンと接触し        その問題解決のための相談や説得を繰り返していた
しかし今はピアニスト活動に専念し        まるで「音楽は世界を救う」といわんばかりに   精力的に世界を回っている土屋キリエは歩とブレード・チルドレン間の連絡員のような役割を果たしている以前うちに来た時は用件もそこそこに       歩相手にえんえんと愚痴をこぼしていたが     昔と違い今の仕事を素直に誇れてはいるようだ   浅月香介と高町亮子は普通に学園を卒業し     二人とも同じ大学に通っている
高町亮子は陸上短距離ですでにオリンピックを期待されているとか      浅月香介は前にいっていたように大学でゆっくり将来設計をしているのだろう
以前二人は進路について歩に相談に来たことがあった》

まどかの家に亮子、香介がいて、歩がお茶を出している
亮「なあ、弟!香介を説得してくれよ!」     歩「そうは言っても、大学進学はいいと思うぞ
 あんただって陸上で誘いがあるんだろう?」
亮「でもさ…理緒やラザフォードはもう社会に出て立派に役立っているのに
短距離走って何になるのさ大学で勉強してる時間だって惜しいだろ!」
歩「別に先のこと考えれば大学でゆっくり勉強するのもありだと思うけどな」
亮「だからその先がいつまであるか――――…」
気付いたように言葉を止める亮子、香介が亮子の頭を撫でる
香「…理緒もラザフォードも立派さ        でもどこかで焦ってやがるのさいつ呪いに負けていいよう、成果を残したがってる
でも俺は負ける気ないからなゆっくり将来考えるよ
亮子だってせっかくの才能無駄にすることないだろ?なあ?」
歩「知るかよ      俺は自分で決めるチャンスを作ってやるだけって言ったろ?」
香「…俺は生き残ってる ブレード・チルドレンの中で一番生まれが早いからな最初に呪いが振りかかるだろう
だからさお前が生きてるうちに見せてやるよ    ちゃんと呪いに勝ったブレード・チルドレンがいるってことを        そうすりゃいつでも安心して死ねるだろ?」
歩「縁起でもないな   俺は簡単に死んでやらないぞ?」

ま《この直後歩は初めて貧血で倒れた       すでに造血幹細胞の機能が落ち始めていたのだ》
ま「……火澄君の遺体解剖段取りついたの?」
清「ああ、成人に近いヒトクローンの遺体を調べられるなんて        百年に一度とない機会だからな          皆、協力的だよ」
ま「無駄にならないといいわね」         清「ならないさ、これで歩の余命はまた延びる」

ま《ミズシロ火澄は歩との対決後         クローン体治療の被験者となるのを自ら志願した  それが彼の選んだ道だった歩と同じクローン体の彼なら           その体独自の症状に対する新薬や治療法の効果を試すことも         きわどい臨床試験を行なうこともできる      その結果、ミズシロ火澄は半年前副作用と無理が重なって昏睡状態に陥り   今朝永眠することになったのだ          でも彼の犠牲は意味のないことではない      おかげで歩の症状の進行はかなり押さえれ     生きる時間を少しでも延ばすことができた
歩が長く生きることが  ブレード・チルドレンの希望だ          ミズシロ火澄も自分の意志で希望をつないだのだ》

場面変わって空港でアイズ・ラザフォードは火澄が死んだことを知る     ラ「………《ミズシロ火澄が死んだか――…》」

まだ火澄が生きていた頃 病室を訪れるラザフォード火澄はテレビゲームをやっている
火「っしゃ!あと少しや!うわっ………なんや?どないしたんラザフォード」
ラ「…お前の受けている 臨床試験の内容を見ると どうやら長生きしそうにないからな        一度くらい顔を見ておいてやろうと思っただけだ」
火「それはええけどな  俺はあやまらんで?」
ラ「残念だな      あやまったら絞め殺してやろうと決めていたんだが たやすくあやまるような 覚悟で         この先にあるものに連なる資格はないからな    …ではな」
火「……ああ、せや   俺が死んだら歩に伝えてくれへん?        「行けよ、お前の願うとこまで」って」      ラ「死んでからでいいのか?」          火「生きてるうちに伝えたら、なんか嘘くさいやろ?」

ラ「《あの言葉を伝えてやらないといけないな》」 ラザフォードはソファから立ち上がり歩きだそうとしたら理緒に出会う
理「…あれ?アイズ君!?びっくりした――    移動がねちょうど西欧回りになったからさっきカノン君のお墓参りに行ってきたんだよ         そしたらまだ新しい花が供えてあったから     アイズ君もこっちに来てるのかなって       でもまさかこんなとこで 会うなんてねっ」
ラ「…お前はろくに電話もつながらない所を回るからもう話す機会もないと思っていたな        聞くところ「荒野の小妖精」といわれているらしいが」
理「それはっみんなが勝手にへんな呼び名つけただけ!」          ラ「たまには休め    でないとアサヅキあたりに「何を焦ってやがる?」とバカにされるぞ」
理「…言われてそうだねーでもアイズ君もだよ   忙しさにかけては負けず劣らずでしょ       それにあんま暗い顔してちゃダメだからね     あたし達は希望なんだから!           じゃあもう行くねばいばーーい!」
ラザフォードは理緒を見送ったあと逆方向に歩き始めた

まどかと清隆は病院に入るま《――それでも不安と恐怖は誰の胸にもある   誰もがこの先途方もない 裏切りが待っているのではと疑わずにはいられないのだ           歩が描いた運命は夢のようそれだけに実現せず   破滅を導く可能性は高い たとえ実現しても多くの犠牲が出るのは避けられない事実――何人かのブレード・チルドレンはすでに呪いに負け         悲しい結果を出していた
残る子供たちも厳しく監視されているのに変わりはない           …一度だけ歩が泣いているようにた見えたことがあるけど私の視線に気づくとすぐに笑ってみせた    ひとりきりの時は不安と恐れに身を折り泣くこともあるのだろう       三ヵ月前歩はとうとう入院せざるを得なくなった
毎晩ひとりきりの白い病室で何を思って過ごしているのか私にはわからない  けれど歩は選んだ    時に無慈悲とも思える現実と戦い         閉じない運命を描くことを―――…》
ま「…歩、火澄君が亡くなったと聞いて落ち着いてたわね」         清「こんなことはこれからまだ何度でもある」
ま「……そうね」
するとエレベーターが開く中に乗っていたのはひよのだった
ま「………!」
清「…ご無沙汰だったね ずっとヨーロッパの方を飛び回っていたそうだが」
ひ「ええ忙しくて忙しくて今日もまた夕方には発たないといけないんですよ?」清「そうかなら引き止めては悪いな」
ひよのは歩きだす    清「そうだひとつきいておきたかった私のことを恨んでいるか?」
ひよのは振り返り満面の笑みで
ひ「―――はい     あなたなんかだいっきらいです」         清「…ありがとうキミにまで許されたらどうしようかと思ったよ」
ひよのはまた歩き始めた 清「…歩の描く未来は今にも壊れそうで信じるべき何ものもないというのになぜ自分を信じる私が負けてしまったと思う?」
ま「人は現実にしか生きられないけど夢を見ずに生きるのが全てとは思いたくないのよ」
清「だが夢はたいてい人を裏切る歩の夢は世界を滅ぼすかもしれない」
ま「…それでも手放さずにいられないものそれが本物の見るべき夢よ     成功するから信じるなんて不純な話よね単に見返り期待してるだけでしょ
そんな打算的な心でどれほどのものを手に入れられるかしら?        裏切りも暗闇も知りながらなお進める者だけが   誰にも決して奪えないとても佳いものを手に入れられるのよ」
そしてそれが―――   清「…だといいがな」  ま「ほんと頼りない話よね」           きっと世界を救うのだ―…
歩の病室、立派なグランドピアノがベットの近くにあり歩は楽譜を書いている
ひ「…お久しぶりです「鳴海さん」」       歩「……ああ、あんたか悪い後にしてくれ今忙しいから」
ひ「何ですかその態度は!感動的なお別れして二年ぶりの再開ですよ!?」
歩「知るかよ、だいたいあんた何しに来たんだ?」
ひよのは歩にピアスを差し出す
ひ「…一応お預かりしていたものをお返しにです」
歩「…そんなもん預けたっけか?」
ひ《うわっこの人相変わらずの人でなしですよ!》
ひ「何やってるんです?」歩「ピアノ曲の編曲最近症状が進んで左手がろくに動きやがらないから右手だけで弾けるようになたまに目までみえなくなるんだから冗談じゃないぞ」
ひ「…ピアノやめてなかったんですね」
歩「当たり前だろやっと俺は俺の音楽を取り戻したんだから         ひとつ聴いてみるか?」
ひ「…そうですね鳴海さんが「どうしても聴いてくれ」と頼むんでしたら」
歩「…じゃあ「どうしても」だ」         ピアノを弾く歩それを聴くひよの

できるなら希望が閉じないように         一面の暗闇でも変わらぬ音色が響くように     未来を歩く誰かのために その祈りと祝福があらんことを                      どうか―――――                いつまでも――――――…



END

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