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sh15uya(シブヤフィフティーン)の最終回


謎の街・シブヤの正体は、問題を抱えた15歳の少年少女たちを更正させるための教育機関として作られた仮想世界だった。
エマの力によってアサギやリュウゴたちは本来の記憶を取り戻し、シブヤを出る決意をする。
そんな中、エマだけは本来の記憶を取り戻せずにいた。現実世界のエマとは……?


Face. 12


タトゥーショップ・KOYA。
ツヨシ、アサギ、リュウゴ、DJの4人にケンゴがカツ丼を出す。

ケンゴ「てめぇら、よくここに戻って来てくれたな。作り物の世界でも腹は減るだろ? 食えよ」
ツヨシ「ケンゴさんは、シブヤを出たらどうするんですか?」
ケンゴ「……さぁな」
ツヨシ「俺、ケンゴさんのこと信じてますから」
ケンゴ「何が言いたい?」

ツヨシは無言でケンゴを見つめる。

ケンゴ「若い奴はカツ丼食って元気出さんとダメだ! エマも食え! 仲直りだ」

1人でカウンターに掛けているエマに、ケンゴがカツ丼を差し出す。

ツヨシ「食べようぜ、アサギ。じゃなくって、本当の名前は……」
アサギ「ウザイな。アサギでいいよ」
DJ「俺はカズヒコ……」
リュウゴ「俺もリュウゴだ」
DJ「……じゃあ、俺もDJでいいや」

嬉々としてカツ丼をかき込むツヨシたち。
エマも箸を手にするが、なぜか丼に手をつけることを躊躇う。

アサギ「ツヨシ、この後どうすんだ?」
ツヨシ「ケンゴさんが協力してくれる」
ケンゴ「ったく、お前は最後の最後まで図々しい野郎だなぁ」
ツヨシ「ケンゴさんに鍛えられたお陰です」
ケンゴ「フン……しょうがねぇな」
ツヨシ「やったな、エマ!」

いつの間にかエマの姿は消えている。
驚いて店を飛び出すツヨシ。

アサギ「ツヨシ!?」


エマを捜し、ツヨシは街を駆け回る。

ツヨシ「どこに行ったんだよ? エマ……一緒にシブヤから出るんじゃなかったのかよ……? エマァ──ッッ!!」

そんなツヨシの後ろ姿を見つめているエマ。

エマ「ツヨシ……」

ツヨシに駆け寄ろうとするエマ。

「行ってはならん!」

呼び止められたエマが振り向く。
そこにいたのは、彼らの前にしばしば出没していたレゲエのおっさん・オオトモ。

エマ「あなたは……!」

脳裏に甦る記憶。
どこかの部屋で、セーラー服姿のエマを診断する医師、オオトモ。

エマ「あのとき私を診断した……」
オオトモ「君はシブヤを出てはいけない」
エマ「でも、私……」
オオトモ「君がシブヤを出ても、どうにもならないことは、君も薄々感ずいてはいただろう?」

再びエマの脳裏に記憶が甦る。
セーラー服姿のエマが暴れ回り、警官や機動隊員たちに取り押さえられる……。

オオトモ「シブヤのシャットダウンは私が止める。システムが変調をきたした程度で、この世界を終わらせるわけにはいかない」


タトゥーショップ・KOYA。
1人佇むエマ。ドアの開く音。

エマ「ツヨシ?」

アサギが現れる。

エマ「アサギ……」
アサギ「なぁに隠れんぼしてんだよ?」
エマ「別に」
アサギ「ツヨシが捜してるぞ?」
エマ「そ……」
アサギ「シブヤから出るんだろ?」
エマ「私は……出ない」
アサギ「なんで!?」
エマ「気が変わったの……ツヨシを頼むね」
アサギ「ふざけんな!」
エマ「もう一緒にはいられないんだ」
アサギ「だから、何でだよ!?」
エマ「私がここにいること、ツヨシには絶対言わないでね」
アサギ「それでいいのかよ……お前は本当にそれでいいのかよ!?」
エマ「……」


街角。ケンゴのもとにツヨシ、アサギ、リュウゴ、DJが駆けつける。

ケンゴ「おめぇら、遅ぇぞ! 他の連中はとっくにシブヤから出たってのによ!」
ツヨシ「ケンゴさん、エマは!?」
ケンゴ「エマ? ……もう時間がねぇ。行くぞ!」

駆け出すケンゴに、アサギ、リュウゴ、DJが続く。

ツヨシ「ちょっと待ってくれよ、ケンゴさん!」

ツヨシも彼らを追うが、ケンゴたちの前にイガヤ理事長が立ち塞がる。

ケンゴ「理事長……」
イガヤ「我が学園を崩壊させた君たちを許すわけにはいきません」

ツヨシの前にイガヤが進み出る。

イガヤ「特に君とエマの2人、君たちは処分させてもらいます」
ツヨシ「エマは俺が守る!」

イガヤの姿がピースに変わる。

ピース「朱ニ交ワレバ──赤クナル!」

強烈なピースのパンチ。ツヨシが数メートルも吹っ飛ばされる。
さらにツヨシを締め上げるピース。

ツヨシ「エマは……俺が、守る……!」

アサギの脳裏に、エマと交わした会話が甦る。

アサギ「ツヨシのこと……好きだったの?」
エマ「……」
アサギ「それとも、ツヨシのことも気が変わったのか!?」
エマ「そんなわけ……ない……」

アサギの方を振り向いたエマ。その顔は涙で溢れている。

エマ「好きだよ……」

アサギが鉄パイプを手にし、ピースに殴りかかる。

ツヨシ「ゴホ、ゴホッ……アサギ……」
アサギ「エマならKOYAにいる!」
ツヨシ「え……?」
アサギ「早く行け! あいつにはお前が必要なんだ!」

リュウゴとDJもアサギに加勢し、ピースに立ち向かう。

ツヨシ「悪ぃ……」

ツヨシが駆け去る。

ピース「仏ノ顔モ──三度マデダァ!」

ピースがリュウゴ、DJを次々に叩きのめす。
さらにその手に剣が現れ、アサギに切っ先を向ける。
だがそのピースを、ケンゴが羽交い絞めにする。

ケンゴ「教育者としての、あるまじき行為だぜ! 理事長!」


タトゥーショップ・KOYA。

ツヨシ「エマ!」

座り込んでいたエマが、だるそうに立ち上がる。

ツヨシ「もう俺から離れるな! 一緒にシブヤから出よう」
エマ「私にその資格はない……」
ツヨシ「資格? そんなもの必要ないさ!」
エマ「全部私のせいなの……」
ツヨシ「え……?」
エマ「思い出したの……このシブヤが作られたきっかけ」
ツヨシ「きっかけ? 『ある15歳が犯した凶悪事件がきっかけで、この教育システムは作られた』って聞いたけど」
エマ「その事件の犯人が……私なの!」

ナイフや銃を手に、警官たちを相手に暴れ回るエマの記憶……。

ツヨシ「そうだったのか……」
エマ「シブヤを出ても、きっと私には、ひどい現実しか待ってない!」
ツヨシ「そんなの、出てみないとわからないだろ? 現実から逃げたって何も始まらない」
エマ「……」
ツヨシ「辛い未来かもしれないけど、俺たちは……現実に立ち向かうしかないんだ」
エマ「私には……その勇気はない」
ツヨシ「何でだよ!?」
エマ「私だけ、みんなと違う!」
ツヨシ「……?」
エマ「マージできるのも、ちっともお腹が減らないのも、そう。きっと、ツヨシやみんなのような未来は……私にはない」


一方でケンゴたちは、必死にピースに立ち向かう。
だがピースの手にした剣が、ケンゴの胴に突き立てられる。

ケンゴ「ぐぅっ……」

DJ、リュウゴ、アサギも次々にピースに吹っ飛ばされる。


ツヨシ「ピースが現れたんだ。アサギたちを助けたら戻って来る」
エマ「……決めたの。私はこのシブヤに残る」
ツヨシ「俺は今でも諦めない」

天を指差すツヨシ。

ツヨシ「シブヤを出たら、エマと一緒に月まで行く」


ピース「親ノ心ォ! 子知ラズ!」

ピースが槍を振るいつつ、アサギを追い詰める。
アサギが鉄パイプを振るって必死に抵抗するが、その鉄パイプも叩き落される。
そこへケンゴが手負いの身で追いすがる。
取っ組み合いの末、ケンゴが渾身の力でピースを投げ飛ばす。

ケンゴ「はぁ、はぁ……」

倒れたピースがイガヤの姿に戻る。

ケンゴ「お前らは、俺の生徒だ……堂々とシブヤから出て来い……」

がっくりと膝を突くケンゴ。その姿が次第に揺らぐ。

ケンゴ「俺は一足先に行って来る……」

ケンゴの姿が消える。

アサギ「……」
リュウゴ「行くぞぉ!」
DJ「アサギ!」


決して越えることのできないボーダラインの踏み切りに、3人が駆けつける。
ふと、アサギが足を止めて後ろを振り返る。

DJ「大丈夫だよ」
リュウゴ「ツヨシならきっと間に合う」
アサギ「……うん」

リュウゴとDJが踏み切りを越える。2人の姿が消える。
アサギももう一度後ろを振り返るが、意を決して踏み切りへ駆け出す。
アサギの姿が消える。


決意の表情で、どこかの道を歩いているオオトモ。
歩きながら、レゲエの服装を脱ぎ捨てる。
だがその左胸に、次第に血が滲む。

オオトモ「現実の世界で、何者かが動いたか……?」

オオトモが左胸を押さえ、倒れる。

オオトモ「ゴホ、ゴホッ……エマ、すまない……私は君を……見守ること以外、何もできなかったようだ……」


アサギたちのいた場所に、ツヨシが戻って来る。

ツヨシ「アサギィ!」

アサギたちの姿はない。
代りに、壁に「先に行く」と書かれている。

ツヨシ「みんな先に出たんだな?」

倒れていたイガヤが目を覚まし、立ち上がる。

イガヤ「犬も歩けば、は……」

イガヤの姿がピースに変わる。

ピース「棒ニ当タル、ダ」

槍を振るいつつ、ピースがツヨシに襲い掛かる。


タトゥーショップ・KOYA。

テーブルに盛られているフルーツの籠。
エマがリンゴを手にし、恐る恐るかじりつく。
次第に表情が歪み、口にしたリンゴを苦しそうに吐き出す。
やりきれない思いをぶつけるように、リンゴを壁に叩き付ける。


一方のツヨシ。ピースに必死に抵抗するものの、その強さには到底歯が立たず、逃げるのが精一杯。
その逃走も限界で、次第にピースに追い詰められる。

ピース「立ツ鳥ハ跡ヲ濁サズ、ダ」

ピースの槍がツヨシを狙った瞬間、どこからか放たれた光球がピースを吹っ飛ばす。
そこに現れたのは、マージした姿のエマ。

ツヨシ「エマ……!」
エマ「ツヨシ!」

倒れそうになるツヨシを、エマが抱きとめる。

なおもピースが襲い来る。
エマとツヨシが2人がかりでピースに挑む。
ピースがツヨシを蹴り飛ばし、倒れたツヨシに剣を向ける。
すかさずシールドでそれを防ぐエマ。

続けざまにエマがソードでピースに切りかかるが、逆にピースの槍がエマの体に突き立てられる。

ツヨシ「エマ!?」

逆上したツヨシがピースに殴りかかるが、到底歯が立たず、逆に吹き飛ばされる。
迫り来るピース。その前にエマが立ち塞がる。
ソードを繰り出すエマ。だがピースの槍がエマのソードを切り裂き、エマ自身をも吹き飛ばす。

ツヨシ「エマ!?」

吹き飛ばされたエマを、咄嗟にツヨシが抱きとめる。
エマのマージが解除され、身を覆っていたエスコートが体から分離する。
空へ昇ってゆくエスコートにエマが手を伸ばすが、そのエスコートもピースにより切り裂かれてしまう。

ツヨシ「エマ……」

ツヨシが倒れた身で、必死に手を伸ばす。

ツヨシ「未来……取り戻そう! 俺たちの未来……」
エマ「たとえどんな未来でも……ツヨシとなら、立ち向かえる!」

エマも倒れたまま、手を伸ばす。
息を切らしつつ、2人が手を取り合い、立ち上がる。

次第にピースが迫り来る。

ツヨシ「俺たちは、リアルを生きる!!」

ツヨシとエマが、握り合った手と手を、握り拳に変える。
ピースが剣を振り下ろす。

2人「うおおぉぉ──っっ!!」

ツヨシとエマ、2人の渾身のパンチがピースの胴を貫く。

ピースの姿が、跡形もなく消滅する──


ボーダーラインの踏み切りの前に立つ、ツヨシとエマ。

ツヨシ「行こう。俺と一緒なら越えられる」

2人が手を取り合いつつ、踏切を越える。

2人の姿が消える。


現実世界の学園の教室。

ツヨシが目を覚ます。
周りを見回すが、他の席にいたはずの生徒たちは、1人もいない。
黒板には「欠席1名」。

ツヨシ「エマ!?」

教室を飛び出すツヨシ。
いつか現実に戻ったときに見た、「特別室」のドアが微かに開いている。
恐る恐るドアをくぐるツヨシ。

そこに横たわっていたのは──エマだった。

ツヨシ「エマ……やっぱりお前だったんだな。起きろよ、エマ」

エマは目を閉じたまま、微動だにしない。

ツヨシ「どうしたんだよ!? 何で起きないんだよ!? エマ、起きてくれよ! 頼むよ!」

「その子の意識は戻らない」

傍らから、苦しそうにオオトモが現れる。左胸は血で塗れている。

ツヨシ「おっさん!?」
オオトモ「私のミスで、植物状態にしてしまったんだ……シブヤという教育システムを作る過程でな」
ツヨシ「……植物状態? エマが!?」
オオトモ「だが、私は……その子の意識だけでも生かそうとした。だから……シブヤに解き放ったんだ」
ツヨシ「じゃあ……エマは……」
オオトモ「シブヤでしか生きられなかった。だがあの子は……お前との未来を選んだんだ」

オオトモが倒れる。

オオトモ「これがお前たちの選んだリアルなのか……それともお前たちは……このリアルをも越えられるのか……」

オオトモの目が閉じる。


エマの体から、次第に血が滲む……。


REBOOT


人の姿のない、閑散とした街。
風で紙屑がカサカサと飛び散る音だけが響く。

無人の街にエマがただ1人、立ち尽くしている。

足音。

エマが振り向くと、そこにはツヨシの姿が。

ツヨシ「エマ」
エマ「ツヨシ……!」

ツヨシとエマが駆け寄り、手を取り合う。


ツヨシが行くことを夢見ていた月が、青空に浮かんでいる……。


世界の終わりで、僕たちは始まる


(終)
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