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地獄少女 二籠ふたこもりの最終回


一目連「悪魔の子と呼ばれた少年がいた。彼の周りで人が消えていく。彼は、何もしていないのに」
骨女「本当は、街の連中が地獄通信を使って怨みを晴らしていた。連中は、人が消えた事件をすべて紅林拓真のせいにしようとした」

輪入道「だが、悪事はそう上手くは進まねぇ。若い刑事が悪巧みに気づいた。すると……」

一目連「その後、刑事は連中に捕まって殺されそうになっていた拓真と妹を救出した。これで事実を白日のもとに晒せばすべては終わる……」
骨女「……はずだった。ところが……」

輪入道「刑事が……流された」


あいぞめ


兄を地獄へ流されてしまった飯合蛍が、紅林拓真と共に夜道をとぼとぼと歩く。

ふと蛍が道端で足を止め、抱えていたノートパソコンを開く。

拓真「……お姉ちゃん?」
蛍「ごめんね、拓真くん……でも、もう……どうしようもないの……こうするしか……ないのよ」
拓真「……!?」
蛍「あなたに、消えてもらうしか……でも、あなたをひとりぼっちにはしないわ。私も、すぐに行くから……」


紅林拓真|

送信


蛍「ごめんなさい……」
拓真「や……やめて! お姉ちゃん!?」

送信ボタンが押される。


一瞬にして周囲の景色が夕暮れの里となる。
大樹のもとに佇む閻魔あい、そして輪入道たち三藁。

困惑する拓真を、あいがちらりと見やる。

あい「いいのね?」
蛍「この子がいる限り……終わらないの」
あい「その子のせいなの?」
蛍「そうよ!」

あいの脳裏に、かつて六道郷で自分が理不尽な迫害を受けたときの光景がよぎる。

蛍「この子がいなくなれば……怨みの連鎖は止まる」
あい「そうかしら?」
蛍「止まるわ! 藁人形をちょうだい!」
一目連「お嬢……」
拓真「あ……」
あい「一目連」
一目連「いいのかよ、お嬢!? その子は……」

あいが一目連をキッと睨みつける。
一目連の姿が消え、藁人形となってあいの手に収まる。
何も言えず様子を見守るしかない輪入道、骨女。

あい「あなたが本当に怨みを晴らしたいと思うなら……」
蛍「聞かなくてもわかってる! 私も地獄へ堕ちるんでしょう!」

あいの言葉を遮って蛍が藁人形をひったくり、拓真を見やる。

蛍「すぐに追いかけるからね……」

赤い糸が解かれる。空高く消えて行く藁人形。


一目連「怨み……聞き届けたり……」


あいたちの姿が消え、周囲がもとの景色に戻る。
がっくりと路傍に座り込む蛍。


夜空から静かに雪が降り始める。


冥府へと続く三途の川。無数の灯篭が流れる。

あいが漕ぐ舟の上、拓真が泣きじゃくっている。
一緒に船に乗っているきくりが、拓真に飴玉を差し出す。

きくり「飴ちゃん、食べる? 美味しいよ」
あい「よしなさい」

依然、泣きじゃくっている拓真。

きくり「可愛そうにね。な〜んにもしてないのに」

あいは無言で櫂を漕ぎ続ける。

きくり「こういうの、前にもあったよね。な〜んにもしてないのに」

無言のあいを、拓真が泣きながら見やる。

拓真「助けて……」

あいの脳裏に再びよぎる光景。
四百年前の六道郷。拓真と同様、何もしていないのに周囲から迫害された自分。

櫂を漕ぐ手が止まる。


あい「でも……」


湖のほとりに佇む蛍。

蛍「拓真くん……今行くね……」

涙を流しつつ、湖の中へと歩いて行く。


蛍たちの乗っていた車のもとに、三藁が佇む。

輪入道「お嬢の気持ちを想うと、やりきれねぇなぁ……」
骨女「これも……運命って奴なのかい?」
一目連「だとしたら、残酷すぎるよ……」
輪入道「あの子……今頃はもう……」

きくり「流せなかったよ」

光が漏れ、車の中にきくりが姿を現す。

一目連「きくり!?」
骨女「流せなかったって、それはどういうことだい!?」
輪入道「おい、まさか!?」
きくり「あいは、舟を戻しちゃったの」
一目連「舟を? 本当か!?」
輪入道「それで、お嬢は!?」
骨女「お嬢はどこなんだい!?」
きくり「知〜らない」


拓真が気がつく。

そこは三途の川ではなく、もとの道路脇の湖のそば。
周りを見渡すと、雪の降る中、あいが長襦袢姿で倒れている。

拓真が歩み寄り、肩に手をかける。

あい「痛い……」
拓真「え……?」

慌てて手を引っ込める拓真。
あいがどこかを指差し、弱々しい口調で言う。

あい「早く……」
拓真「……何があるの?」
あい「行って……」
拓真「でも……」
あい「私はいい……早く……」
拓真「う……うん」

腑に落ちないまま、拓真がその方向へ歩き出す。

拓真「こっちに何が……? あ」

何かにつまづく。そこには蛍の持っていたパソコンのケースが転がっている。

拓真「あ、これ……お姉ちゃん!?」

慌てて湖の中へ歩き出す拓真。

拓真「お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃあん!!」

対岸に蛍が打ち上げられている。

拓真「あ……わぁ……わああぁぁ──っっ!! お姉ちゃん!? お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

あいが息を切らしつつ、ふらふらと立ち上がる。足は素足、顔も体も傷だらけになっている。


一方の三藁たち。輪入道がきくりを捕まえる。

きくり「こらぁ! 離せ、ハゲ──!」
輪入道「さぁ言うんだ!」
一目連「お嬢はどこだ!? どうなったんだ!?」
きくり「知らないってばぁ!」
骨女「知らないわけないだろ!」
一目連「言え! きくり!」
きくり「離せ──っ! あ」

不意にきくりの体から力が抜け、顔ががくんと垂れ下がる。

輪入道「ん?」

次の瞬間、きくりの額が割れ、第三の目が金色に輝く。

きくり「聞キタイカ?」

その声は紛れもなく、あいを監視していた人面蜘蛛の声。
きくりの体が宙に浮かび、一瞬で虚空に蜘蛛の巣が張られる。

一目連「お前は……!」
輪入道「そういうわけかい……地獄のお偉いさんよぉ! お嬢はどうなったんだ!?」
きくり「あいハ、紅林拓真ヲ現世二戻シタ」
三藁「!?」
きくり「掟ニ沿ワヌ以上、あい、ソシテあいノ愛スル者タチノ魂モ、永遠ニ闇ノ中ヲ彷徨ウコトニナル」
一目連「お、おい……ちょっと待てよ!」
骨女「あの子ひとりくらい、いいじゃないか!?」
一目連「お嬢はずっと、四百年の間、仕事を続けてきたんだぞ!」
輪入道「心を殺して、理不尽な怨みにもきっちりと応えてきたんだぜ!」
骨女「どれほど長かったか……どれほど辛かったか……だけどお嬢は頑張ってきたんだよぉ!」
輪入道「まだ足りねぇのかい!? 何人の怨みを晴らしたら、お嬢を解放してくれるんだい!?」
一目連「解放してくれよ! もう充分だろぉ!?」
きくり「地獄少女ノ仕事ハ終ワッタ。あいヲ現世ニ戻ス」
骨女「……それじゃ!?」
一目連「お嬢を、解放してくれるのか!?」
輪入道「違う……そういうことじゃねぇ。待ってくれ……そいつはねぇ、そいつはねぇよぉ!!」
一目連「……輪入道?」
骨女「どういうことなんだい?」
輪入道「今、お嬢を現世に戻したら……お嬢の体には、四百年の歳月が一気に……」
骨女「まさか……!?」
一目連「そんな……嘘だろ!?」

きくり目掛けて一目連が飛び掛る。
だがきくりの三眼が光を放ち、一目連が跳ね返され、地面に叩き付けられてしまう。

一目連「うわぁっ!?」
骨女「一目連!?」
きくり「見守ッテヤレ。あいヲ……」

きくりの姿が消える。

呆然と空を見つめる三藁の背後、木の下にきくりが倒れており、木の枝から人面蜘蛛がぶら下がる。


2台の車がやってくる。
車内には、拓真に罪を擦りつけていた露木泰嗣や蓮江美鈴ら、自警団員たち。蛍たちの乗っていた車を見つける。

露木「あいつのだな」
団員「誰もいないですね」
美鈴「刑事を流してまだ間もないわ。そう遠くへは行ってないはずよ」

後ろの座席では美鈴の夫・蓮江保晴が胸をかきむしっている。

露木「お前たちはこの辺りを探してくれ! 俺たちは先へ行ってみる!」
団員「わかりました」

団員2人を残し、露木や美鈴たちの車が走り去る。

輪入道「まだ終わっちゃいねぇってことか……」


いつしか止んでいた雪が、再び降り始める。


動かない蛍のそばで泣きじゃくる拓真。
傍らで息を切らすあいが、やるせない視線で見つめている。

不意に拓真が決意に満ちた目を見開き、歩き出す。

あい「どこへ行くの……やめなさい!」
拓真「ずっと我慢してきたんだ。人を怨んじゃいけないから……お父さんがいつもそう言ってたから。でも……」
あい「……」
拓真「もう、我慢しない」

拓真が駆け出す。

あい「待ちなさい! ……あ」

あいが拓真を追おうとするも、よろよろと膝をつく。

あい「う……はぁ、はぁ……拓真……」

駆け去っていく拓真の姿を捉える自警団員。


露木が車中で携帯電話を受ける。

露木「拓真がいた? どこだ!? ……わかった。気づかれないように追いかけろ」
美鈴「いたの?」
露木「自分の家に向かっているらしい」
美鈴「行きましょう!」

蓮江が胸をかきむしり続ける。
そこには蛍の兄・飯合誠一を地獄に流した証の刻印が浮かび上がっている。

美鈴「あなた、何やってるの!? いい加減にしなさい!」
蓮江「消えないんだ……印が消えないんだよ……」
美鈴「あなた……?」
露木「気の弱い奴め」


雪の降る中、あいが息を切らしつつ拓真を追い、裸足のままふらふらと車道を歩く。
足がもつれ、路上に倒れこむ。


空を舞う輪入道の牛車。一目連と骨女を乗せて空からあいを捜す。

輪入道「おぉ、いたぞ!」


あいがガードレールで体を支えつつ、必死に立ち上がる。

三藁「お嬢!」

あいを囲む三藁。

一目連「何やってんだよ、そんな体で!?」
骨女「どこへ行こうって言うのさ!?」
あい「どいて……」
一目連「え?」
あい「どいて下さい……」
一目連「お嬢……?」
あい「すみません……通して下さい……」

あいが三藁を掻き分け、よろよろと去って行く。

一目連「どういうことだ?」
骨女「どういうことなんだい……輪入道?」
輪入道「消えちまったのか……」
2人「え!?」
輪入道「お嬢には……もう俺たちがわからねぇんだ」
骨女「わからない?」
一目連「わからないって、どういうことだよ!?」
骨女「そうだよ! まるで記憶が……あ」
一目連「まさか……?」
輪入道「これが俺たちへの地獄の沙汰だ。糸は断ち切られた。あとは……ただじっとお嬢を見守ることしかできねぇ……」
骨女「そんな……」
一目連「お嬢……」

三藁たちが呆然とあいの後ろ姿を見つめる。

それを見守るように、木の枝から人面蜘蛛がぶら下がっている。


住宅地へ帰って来た拓真。
蓮江の家目掛け、抱えているポリタンクから灯油を壁、地面、塀へとぶちまける。

露木「拓真ぁっ!!」

露木たち自警団が駆けつけてくる。手には木刀や鉄パイプなどが握られている。

蓮江「家を燃やすつもりなの!?」
団員「なんて奴だ!」

じわじわと詰め寄る露木たち。
拓真は彼らにも灯油を浴びせると、ポリタンクを投げ捨て、ライターの火を灯す。

露木「こいつ!?」
美鈴「や、やめなさい! そんなことしたら、どうなるかわかってるの!?」
拓真「わかってるよ! 地獄へ堕ちるんだ!」
団員「やっぱりお前は悪魔の子だ!」
拓真「みんなそうじゃないか! みんな、自分のために……みんな悪魔だぁ!」
露木「拓真、まぁ落ち着け……あぁ、そうだ……その通りだ。みんな悪い」

露木が穏やかな口調で語りかけつつ、木刀を捨て、愛想笑いを浮かべて近寄る。

露木「俺たちも悪かった。謝るよ」
拓真「来るな!」
露木「もう何もしないから……誓うよ」
拓真「来るな!」

隙をついて団員の1人が拓真の後ろに回り、腕をおさえる。

団員「よし!」
美鈴「ライター、ライターを消して!」

ライターを奪おうとする団員の手に、拓真が噛み付く。

団員「痛っ! こいつぅ!」

カッとなった団員が拓真に平手打ちを放つが、その弾みでライターが飛び、地面に撒かれた灯油が引火。
たちまち家が炎に包まれる。

美鈴「あぁ──っ!?」
団員「この野郎!」

団員が拓真を殴り飛ばす。
赤々と燃え上がった炎を背後にし、武器を手にした露木たちが拓真を睨みつける。

露木「このガキ……さっさと殺しときゃ良かった!」
美鈴「許さない……!」
露木「死ねぇっ!!」

一斉に武器が振り上げられる。


あい「やめて……!」


息を切らし、弱々しく立っているあいの姿。

拓真「地獄少女……」
露木「お前、どうして!?」
団員「誰かが呼んだのか!?」「この中の誰かを流すのか!?」
あい「この子を……殺してはいけない……」
拓真「あ……」
あい「目を……覚ましなさい……」

あいがふらふらと拓真に歩み寄る。


近くの家の屋根の上。三藁が様子を見守っている。

一目連「お嬢……」

あいの痛々しい様子を見て入られない様子で、骨女が目を逸らしてしまう。

輪入道「馬鹿野郎、しっかり見ろ!」
骨女「だって……」
輪入道「見るんだ……!」


あいが息を切らしつつ、拓真へ手を差し伸べる。

拓真「閻魔あい……」
あい「さぁ……行きましょう……」

拓真が手を握り返す。あいが微かに笑みを浮かべる。

手を取り合って立ち去ってゆく、あいと拓真。露木たちが呆然と後姿を見送る。
だがその1人がふらふらと、2人へ近づいてゆく。

あいが息遣いに気づき、振り返る。
四百年前、自分目掛けて鍬が振り下ろされる光景が脳裏をよぎる。

そこにいたのは四百年前と同様、あい目掛けて武器を振り下ろす蓮江保晴の姿。

鈍い音が響く。

拓真「あ……!?」

あいが倒れる。

蓮江「はぁ、はぁ……地獄へなんか、堕ちてたまるかぁ……!」
拓真「あ、あい!?」

それを合図にしたように露木が駆け出し、拓真を蹴り飛ばす。
美鈴や団員一同も走り出し、倒れたあいを次々に殴り出す。

輪入道「あぁっ!?」
骨女「お嬢!?」

咄嗟に駆け出そうとする一目連。だが、何かに気づいて立ち止まる。

地面に倒れ伏したあいが、尚も団員たちに殴られ続ける。
だがその血塗られた視線は、しっかりと三藁へ注がれている。

輪入道「今、お嬢は答を出そうとしている……」

三藁のいる家のそばにそびえる鉄塔。きくりが上に腰掛け、様子を見守っている。


拓真「やめて……」

狂気にとりつかれたかのように、あいを殴り続ける団員たち。

拓真「やめて……やめてええぇぇ──っっ!!」

必死の絶叫で、団員たちが我に返る。
あいに駆け寄る拓真。

拓真「起きて……起きて……」

ぴくりとも動かないあいの手を、拓真が握る。

拓真「お願い……起きてよ……ねぇ……」

泣きじゃくる拓真。言葉を失った露木たちが呆然と拓真たちを見下ろす。

拓真「どうして……どうして、こんなこと……どうしてこんなひどいことをぉ!?」

あいが微かに動き、拓真を見上げる。

あい「これで……終わり……」
拓真「え……?」

あい「これで……」

真っ赤に血塗られた瞳が閉じ、涙が滲む。

拓真「あ……」

拓真が声をかけようとした瞬間、あいの体が光に包まれ、無数の桜の花びらと化す。
そして一陣の風と共に、花吹雪となって宙へと舞い上がる。

鉄塔の上からそれを見守るきくり。一筋の涙が頬を伝う。


空を見上げる拓真。
舞い上がった花吹雪が、雪の降る夜空の彼方へと飛び去り、次第に見えなくなっていく。

拓真「あい……」


三途の川を行く地獄流しの木船。

櫂を漕ぐあいの姿は無く、きくりが1人で腰掛けている。

大樹の根に囚われていた人骨たちが光と化し、冥府へ通じる鳥居の向こうへと消えてゆく。

きくり「終わったよ」

話しかける先には、あいの好きだったサクランボが置かれている。

きくり「これが、あいの選んだ答だったんだね。お疲れ様……」


輪入道「その後、あの刑事が録音していた会話がマスコミに公開されて、紅林拓真の無実は証明された」
骨女「でも、あの子に罪を被せようとした連中は、早々に町を出て行って行方知れず……」
一目連「もちろん、地獄通信のことをまともに扱う報道もなかった。新興住宅地で起きた集団狂気事件……それでお終い」
輪入道「ま……そんなもんだろう」


永遠の黄昏に包まれた、あいの自宅。

空になった部屋を三藁が見つめる。障子の外では相変らず、あいの祖母が糸車を紡いでいる。

一目連「こんなに殺風景だったっけ?」
骨女「こうして待ってても、お嬢はもう、帰って来ないんだね……」
輪入道「あぁ……」

糸車の音がやむ。

祖母「あんたたち……」
三藁「!?」

祖母「あいがね……ありがとう、って言ってたよ……」


「ありがとう……」


昼時の都会の街中。


雑踏の行き交う中、歩道に三藁が佇む。

輪入道「ありがとう、か……」
骨女「らしくもないね……」
一目連「まったくだ……」


輪入道「じゃ……行くぜ」
骨女「私も、浮世巡りと洒落こむか……」
一目連「それを言うなら『地獄巡り』さ……」


微笑をかわし、輪入道が、骨女が、一目連が、それぞれ別の方向へと、どこへともなく去って行く……。


満開の桜に彩られた並木道。

桜の花びらが舞う中、笑顔の拓真が駆ける。
病院の中庭のベンチに、父・紅林栄一が掛けている。

拓真「お父さん、退院おめでとう!」
紅林「ありがとう、拓真」
拓真「今日はお見舞いした?」
紅林「いや、これからだ」


病室のベッドで眠り続ける蛍。
見舞いに訪れた拓真が、その手を握る。

拓真「早く良くなってね……」


松葉杖の父に肩を貸しつつ、拓真が父と共に廊下を歩く。

紅林「すまなかったなぁ……」
拓真「うぅん、大丈夫だよ」
紅林「寂しくなかったか?」
拓真「うぅん。それより大丈夫? 痛くない?」
紅林「あぁ、大丈夫だ」
拓真「ねぇ、今日どうする? ごはん」
紅林「どうしようかなぁ……ステーキなんかどうだ?」
拓真「あ! いいね」


幸せそうに談笑しつつ歩く親子を、花束を抱えた1人の女子学生がすれ違う。

携帯が鳴る。
女子学生が携帯を取り出す。


その画面に表示された文面は──


受け取りました。

地獄少女


(終)
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