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地獄少女の最終回 (漫画版)


【前回までのあらすじ】 5年ぶりに故郷の町・ラブリーヒルズに戻って来た紅林拓真少年は、誤解により周囲から「悪魔の子」と噂され始める。住民たちは地獄通信で憎い相手を次々に地獄に流し始め、すべての罪を「悪魔の子の仕業」として拓真に擦りつける。飯合誠一刑事と妹の蛍が拓真の無実を突き止め、すべてが解決に向かうかと思われたが、誠一もまた住民の1人により地獄に流されてしまう。




34







路傍で蛍が呆然としたまま、携帯を手にする。

拓真「蛍……さん……?」
蛍「こうするしかないのよ…… ……でも…… あなたをひとりぼっちにはしないわ わたしも すぐにいくから ごめんなさい……」

拓真 (蛍さん……!?)


紅林 拓真

送信


地獄少女・閻魔あいが現れる。

拓真 (地獄少女──……)

あい「……いいのね?」
蛍「……この子がいるかぎり おわらないの……」
あい「その子のせいなの?」
蛍「そうよ」

あいの脳裏に、生前の自分が理不尽な迫害を受けたときの光景がよぎる。

(「おまえのせいだ」「おまえのせいで村は……!!」)

蛍「この子がいなくならないと…… この町の怨みの連鎖は止まらないの」

(「こいつさえいなくなれば この村はたすかるんだ」)

輪入道「お嬢……」
あい「あなたがホントに怨みを晴らしたいなら……」
蛍「きかなくてもわかってる わたしも地獄におちるんでしょ?」

あいの差し出す藁人形を蛍が受け取る。

蛍「……すぐにおいかけるからね……」

赤い糸が解かれる。


「怨み 聞き届けたり」


蛍の目の前から、拓真の姿が消え去る。


冥府へと続く三途の川。

あいが漕ぐ舟の上。膝を抱えた拓真と、きくり。

きくり「かわいそう なにもしてないのにね── こういうの まえにもあったよね なんにもしてないのに……」
拓真「(なにもわるいことなんてしてないのに どうして地獄に──……) たすけてよ…… 地獄少女…… たすけて……!!」

あいは無言で櫂を漕ぐ。
拓真と同様、何もしていないのに周囲から迫害されたかつての自分の姿が、拓真とだぶる。

(「たすけて…… おねがい……!!」)

櫂を漕ぐ手が止まる。

あい (わたしと同じ……)

きくり「……あい……?」


蛍が瞳に涙をためつつ、湖の中へと歩いて行く。

蛍「拓真くん…… いま いくね……」


蛍たちの乗っていた車のもとに、三藁が佇む。

輪入道「同じような目にあった子を 地獄に流すことになるとは……」
骨女「これも 運命ってやつなのかい?」
一目連「だとしたら ざんこくすぎるぜ……」
輪入道「あの子…… いまごろはもう……」

きくり「流せなかったよ」

突如、きくりが姿を現す。

一目連「きくり……!!」
骨女「流せなかったっ……って……」
輪入道「おい……まさか……」
きくり「あいは舟をもどしちゃったの」
輪入道「それで…… それでお嬢は!?」
きくり「知ーらないっ」

お嬢は どこにいったんだ……!!


拓真が気がつく。
そこは三途の川ではなく、もとの道路脇の湖のそば。

拓真「……ここ…… 地獄……? ちがう……ここは…… ラブリーヒルズの湖だ……!! 地獄におちたはずじゃ……」

あいが長襦袢姿で倒れている。

拓真「地獄少女……!? 地獄少女……どうして……!?」
あい「……はやく…… はやくいって……」
拓真「えっ……? (いったい なにが──……)」

あいが震える手で指差す先。湖面に蛍が浮かんでいる。

拓真「蛍…… さん……?」

(蛍「わたしも すぐにいくから」)

拓真「そんな…… 蛍さん……!! うわああああ


一方の三藁たち。輪入道がきくりを捕まえる。

きくり「はなせ ハゲ〜!!!」
輪入道「さぁ いうんだ!」
一目連「お嬢はどこだ!? どうなった!?」
きくり「知らないってば──」

不意にきくりの体から力が抜け、顔ががくんと垂れ下がる。

輪入道「おい……きくり!? どうしたんだ!?」

次の瞬間、きくりの額が割れ、第三の目が金色に輝く。
きくりの体が宙に浮かび、一瞬で虚空にクモの巣が張られる。

きくり「ききたいか?

一目連「おまえ……地獄のクモだったのか……」
輪入道「きくりを通じてすべて見ていたのか 地獄のおえらいさんよ……!」
きくり「あいは 紅林拓真を現世に戻した あの日の約束をやぶったのだ」


村人に殺されたおまえの怨念は
村を……多くの命を焼きつくした

おまえは地獄へ下ることさえもゆるされない……
現世にとどまり おまえの罪の深さを
身をもって知るために 地獄へ流しつづけるのだ……

もし あらがえば おまえと両親の魂は
永遠にさまようことになるだろう……

いまより おまえは地獄少女……

閻魔あい だ


きくり「約束をやぶった以上…… あいと両親は永遠に地獄をさまようことになる」
一目連「おっ……おい ちょっと待てよ!! お嬢はずっと 四百年の間 仕事をつづけてきたんだぞ!! 心を殺して…… 理不尽な怨みにもこたえてきたんだ」
骨女「どれほど長かったか……どれほどつらかったか…… だけどお嬢はがんばってきたんだよ」
輪入道「しかも 四百年もずっとやってきて たった一回のあやまちじゃないか」
一目連「もう解放してやれよ ……もうじゅうぶんだろ!!」
きくり「地獄少女の仕事はおわりだ…… あいは現世にもどす」
一目連「それじゃ……」
骨女「お嬢を解放してくれるのかい!?」
輪入道「待ってくれ…… そいつはねぇ…… そいつはねぇよ!!」
一目連「輪入道……?」
輪入道「いま お嬢を現世にもどしたら…… お嬢の体には四百年の歳月が一気に……!!」
骨女「そんな……!!」


拓真に罪を擦りつけた住民たちがやって来て、蛍たちの乗っていた車を見つける。

「あの刑事の車だな」
「ガキどもの死体がない…… どこかへにげたはずだ!!」
「みんなで手わけしてさがすんだ!!」


動かない蛍のそばに寄り添う拓真。

拓真「……ゆるさない…… ずっとガマンしてたんだ ……人を怨んじゃいけないから…… お父さんがいつも言ってたから…… でも…… もうガマンしない……!!」
あい「あっ…… 待ちなさい……!!」

拓真が駆け出す。
あいが拓真を追おうとするも、よろよろと膝をつく。

あい「ダッ…… ダメ……!!」


住民の1人が携帯電話を受ける。

「なに!? 悪魔の子が見つかった!? 町にむかってるんだな!?」

飯合誠一を地獄に流した住民の1人が、胸の地獄流しの刻印をかきむしり続ける。

「おい…… なにやってんだ」
「ちくしょう…… 消えない…… イヤだ…… 地獄へいくなんてイヤだ……!!」


あいが息を切らしつつ、裸足のままふらふらと車道を歩く。
その様子を三藁たちが見つける。

三藁「お嬢!!
一目連「なにやってんだい こんな体で…… どこにいこうっていうのさ!!」
あい「……どいて…… どいてください…… すみません…… 通してください……」
一目連「お嬢……!?」
輪入道「まさか…… 記憶が消えちまったのか……? お嬢にはもう オレたちがわからねぇんだ……」
骨女「そんな……!!」
輪入道「これがオレたちへの地獄の沙汰だ…… 糸は断ち切られた あとは ただじっと……お嬢を見守ることしかできねぇ……」


住宅地へ帰って来た拓真。
抱えているポリタンクから、家目掛けて灯油をぶちまける。

住民たちが武器を抱え、駆けつけてくる。

「なにやってるんだ!!」「こいつ……オレのうちを燃やす気か!?」

拓真は彼らにも灯油を浴びせると、ライターの火を灯す。

住民たち「ひっ……」
拓真「ゆるさない…… ぜったいに…… (蛍さんと刑事さんのかたきをとるんだ) 復讐してやる……」
住民たち「悪魔…… やっぱりおまえは悪魔だ!!」
拓真「みんなそうじゃないか!! みんな……自分のためだけに……みんな悪魔だ!!
住民たち「このガキ……」「さっさと殺してりゃよかった……!!」

一斉に武器が振り上げられる。

あい「やめて……!! その子を…… 殺してはいけない…… 目を…… さましなさい……!!」

息を切らし、弱々しく立っているあいの姿。

彼方から三藁が様子を見守っている。
あいの痛々しい様子を見て入られない様子で、骨女が目を覆ってしまう。

骨女「お嬢……」
輪入道「バカ野郎 ちゃんと見ろ」
骨女「だって……!!」
輪入道「お嬢はいま…… 自分の身をもってしめそうとしているんだ こたえを……」

拓真「地獄少女……!!」
住民たち「地獄少女だ……」「悪魔の子がよびだしやがったんだ……」「この中のだれを流すんだ……!?」

誠一を地獄に流した男が、武器を振り上げる。

「おまえがすべての現況なんだ……!! うわああああっ

その姿に、あい目掛けて鍬が振り下ろされた四百年前の光景がだぶる。
鈍い音が響く。

拓真「地獄少女……!?」

あいが倒れる。

「うっ……」「うわ……」「うわああああっ

それを合図にしたように住民一同が、倒れたあいを次々に殴り出す。
狂気にとりつかれたかのように、あいを殴り続ける。

拓真「やめて…… やめっ…… ……っ やめろぉぉぉ

必死の絶叫で、一同が我に返る。

拓真「どうして こんなひどいこと……!! 地獄少女は…… ただ ぼくをたすけようとして……!!」

倒れているあいを抱き上げる拓真。あいが優しげに、彼の顔を撫でる。

あい「……ケガは…… ない……?」
拓真「……どうして…… ……どうしてここまでして ぼくのことを……」
あい「……あなたは…… わたしに似てるから…… わたしと同じ運命を…… たどらせたくなかった…… つらくて悲しくて…… おわりのないくるしみから……」

あいの瞳に涙が溜まる。

あい「たすけたかった…… どうしても…… たすけたかったの……」

あいの瞳が閉じ、その体が無数の桜の花びらと化す。
そして風と共に、花吹雪となって宙へと舞い上がる。

拓真「地獄少女……!!」

骨女「ああ……」
一目連「お嬢……!!」

骨女が思わず、飛び散っていく花吹雪に手を伸ばす。
無数の花びらの中に、あいの姿が浮かび上がる。

今まで決して見せたことのない、あいの笑顔。


あい「ありがとう……


三途の川。

大樹の根に囚われていたあいの両親の亡骸も、無数の花びらと化し、冥府へ通じる鳥居の向こうへと消えてゆく。
川面の上の地獄流しの木船。きくりが1人で腰掛けている。

きくり「……おわったよ…… これが あいのこたえだったんだね…… おつかれさま……」


その後……
あの刑事の録音していた会話が マスコミに公開され
紅林拓真の無実は証明された

ところが あの子に罪を着せようとした連中は
早々に町をでて 行方不明……

もちろん 地獄通信のことをあつかう報道などはなく

「新興住宅地でおきた 集団失踪事件」

──それで おしまい──……


昼時の都会の街中。

骨女「ありがとう……か らしくもないね」

輪入道「じゃ……いこうか」
骨女「アタシも 浮き世めぐりとしゃれこむか」
一目連「それを言うなら 地獄めぐりさ」

微笑をかわし、輪入道が、骨女が、一目連が、それぞれ別の方向へと、どこへともなく去って行く……。


(こっちこそ ありがとう お嬢──)


満開の桜に彩られた病院。

拓真が、父の入院している病室を見舞う。

拓真「お父さん あした ついに退院だね」
紅林「ああ……」

病室のベッドで眠り続ける蛍を、拓真が父と共に見舞う。

拓真「蛍さんも…… はやくよくなってね……」


……最後に 地獄少女は笑ってた

地獄少女の四百年にわたる怨みは晴れたのか
地獄少女は どうなってしまったのか
いまはもう たしかめるすべはないけれど……

ぼくにはまだ
どこかにいるような気がしてならない──


廊下を歩く親子を、花束を抱えた1人の女子学生がすれ違う。

携帯が鳴る。
女子学生が携帯を取り出す。


その画面に表示された文面は──


受けとりました

地獄少女


★★ おわり ★★
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