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涼宮ハルヒの憂鬱の最終回



-初めに-

本作は'06年TV放送版と、そのDVDとで収録順が異なります(DVD版が本来の順番で、放送版はそれを製作上の意図により変更した)。
ここでは、後者での最終回にあたる「サムデイ イン ザ レイン」を紹介致します。
因みに、話数は'06年放送版が9話、同じくDVD版が14話で、それに14話分の新作エピソードを加えて放送された'09年版(及びそのBD-BOX)では28話(最終回)です。
※又、事情により本編中の台詞・シーンは一部省略(自主規制)しております。



曇り空。
道を行く生徒達。

キョン(モノローグ)「文化祭や、その後にやって来たゴタゴタも終了し、早、冬の足音が山風と共に聞こえてくる今は、もうそろそろ12月。
創立以来の古さを誇る旧館…この部室棟は、その壁の薄さの所為もあって、屋内にいながら妙に寒々しい日の事である」



サムデイ イン ザ レイン





SOS団部室。
キョンと古泉はカードゲームに興じ、長門は読書、みくるは編み物をしながら、それぞれが静かに時間を過ごす。その時…

キョン「(!?)」

キョン(モノローグ)「毎度色んな事に巻き込まれてきたSOS団。と言うより、専ら俺だったが。しかしそんな事態が毎日毎日律儀に訪れる訳はなく、大体、毎日の様にあれやこれやの非日常爆弾が炸裂していたら、俺の身が保たず、心の方はもっと保たない」

みくるが淹れたお茶をすすり…

キョン「…はぁ…」

一息ついて、ハルヒのいない団長席を見つめるキョン。

キョン(モノローグ)「しかし…ハルヒがいないとほんと、静かでいいなぁ」

ロッカーの上のダンボールには、野球大会で使ったバット、ボール、グローブが山積みにされている。

キョン(モノローグ)「でも少し、静か過ぎるか」

短冊が飾られた、枯れた笹。
黒板には、孤島への旅行の記念写真。
移動黒板やハンガーにかけられた、みくるのコートとマフラー、そして彼女用のコスプレ衣装の数々。
コンピ研とのゲーム対決で勝った時に貰った、テーブルの上のノートPC4台。

キョン(モノローグ)「よく考えたら、ハルヒや朝比奈さん達と出会って、もう半年経つのか…」

サイコロを振る。

キョン(モノローグ)「色々やらかしてきたもんだ。ハルヒが原因な物もあれば、そうでない物も含めてなぁ…ま、大抵はこうして俺達がまったりと時を過ごしている最中に、あいつが突然飛び込んできて始ま…」
ハルヒ「みんなー! 聞いて! 朗報よ!!」

キョンが心の中で噂していると、案の定、携帯片手にハルヒが部室に入ってくる。

キョン(モノローグ)「またか…こいつの言う朗報とやらが、俺達…特に、俺と朝比奈さんにとって朗らかな報告となった事など、実際殆どないのだが」

ハルヒは扉を閉め、団長席に向かう。

キョン「今度は何だよ」
ハルヒ「部室に暖房器具を設置する手筈が整ったわ!」

カバンを置いて席に着く。

みくる「あ、はいはい」

お茶の用意をするみくる。

ハルヒ「映画撮った時にスポンサーになってくれた電器屋さんが、提供してくれるって。去年の売れ残りを倉庫に仕舞ったっきり忘れちゃってて、処分に困ってる電気ストーブでよければってさっき電話があったの」
キョン(モノローグ)「ハルヒにわざわざ電話して、そんな申し出をする程暇で、親切な電器屋はないだろうから、どうせこいつがゴリ押しでねじ込んだのだろう」
ハルヒ「だからキョン、あんたこれから店に行って貰ってきてちょうだい」
キョン「俺が? 今から?」
ハルヒ「そ! あんたが今から」
キョン「お前…」

淹れたお茶をハルヒに差し出すみくる。ハルヒはそれを一気飲みする。

キョン「俺が毎日往復してる山道をもう一回降りて、しかも電車で2駅かかる電器店まで行ってから、おまけに荷物抱えてまたここまで戻って来いって言うのか!」
ハルヒ「そうよ! だって急がないと、おっちゃんの気が変わっちゃうかも知れないじゃない。いーからさっさと行ってきなさい! どうせ暇なんでしょ!?」
キョン「(この部屋にいる時点で、暇でない奴などいない様な気がするが…)お前は暇じゃねえのか?」
ハルヒ「あたしはこれからしないといけない事があるから。えへっ」

みくるの方を向いて笑ってみせるハルヒ。しかしみくるは、よく分からない様な表情を浮かべている。

みくる「…?」
ハルヒ「古泉くんは副団長で、あんたはヒラの団員なんだから、階級の低い方がキリキリ働くのは何処の組織だって同じよ。勿論SOS団もそのルールを採用してるわ」
キョン(モノローグ)「まあいいか。今回ばかりは、ハルヒもマシな用件を取り付けてきた。丁度部室に暖房器具が欲しいと思っていた所だ。朝比奈さんや長門に行かせる位なら、俺が行くさ」
キョン「分かった分かった」
古泉「どうそ、お気をつけて」
みくる「あ、私も行きましょうか」
ハルヒ「みくるちゃんはいいの。ここにいなさい。雑用係はキョンの使命みたいなものなのよ」
みくる「はぁ……」

部屋を出ようとするキョン。すると…

みくる「待って!」

みくるはキョンを呼び止め、彼の首に自分のマフラーを巻いてあげる。

みくる「今日は冷えますから」
キョン「…どうも」
ハルヒ「はーやーく!! 行きなさいよ!!」
キョン「…」

やれやれ、といった表情でキョンは部室を去り、例の電気店に向かう。
ハルヒは彼がいなくなったことを確認し…

ハルヒ「…さ、邪魔者は消えたわ」
みくる「え?」
ハルヒ「みくるちゃん、写真取りたいからポーズとってくれる?」
みくる「えー!? 何の写真ですかぁ!?」
ハルヒ「決まってるでしょ? 文化祭で上映した『朝比奈ミクルの冒険』をDVDにするからそのジャケット撮影よ!」

古泉はカードデッキを片付けている。長門は読書中。

みくる「えー!? あれ本当に作るつもりなんですか? 諦めてくれたんじゃ…」
ハルヒ「あん時はキョンが五月蝿かったから…今なら反対する奴もいないしね〜」
古泉「…うん」

一方その頃、キョンは…

キョン(モノローグ)「最初にこの坂道を登って登校した時はうんざりさせられたが、半年以上通っていると、すっかり慣れちまった。ハイキングコースみたいな登下校にも、そして、SOS団にもな」

少々立ち止まり、そしてまた歩き出す。

キョン(モノローグ)「今頃、俺のいない部室で、ハルヒは何をやってんだろ…暇だからとかなんとか言って、朝比奈さんをオモチャにしてなければいいんだが…」

部室。ハルヒはみくるにジャケット撮影を迫っている。

ハルヒ「古泉くん、レフ板係お願いね」
古泉「分かりました」
ハルヒ「みくるちゃん。ボーッとしてないでポーズをとりなさい! ほらほら!」
みくる「は…はーい…」
ハルヒ「…もっと媚びる様に笑って!」

ダメ出ししながら撮影するハルヒ。レフ板を持ってみくるの背後に立つ古泉。

ハルヒ「もっと物欲しそうに !…そんなんじゃ男子ユーザーを満足させられないわよ!」
みくる「ひょえー…」

坂を下るキョン。

ハルヒ「そろそろ衣装チェンジしましょ! 次はコレ!」

ハルヒは移動黒板にかかっていたバニーガール衣装を取り出し、そしてうさ耳バンドを被ってみせる。

みくる「えー!?」
ハルヒ「いーからいーから!」

着替えを強要するハルヒに対し、みくる必死に抵抗する。

ハルヒ「…離しなさいよ!」
みくる「…ぅわあぁぁぁ! 自分でやります〜!」

古泉はお茶片手に部室を出る。

ハルヒ「…! いいの! あたしが手伝った方が早いでしょ!?」

無理矢理みくるを着替えさせるハルヒを尻目に、長門は席を立ち、本棚から次に読む本を探す。
お茶を飲み干す古泉。

古泉「……もう冷たくなってる」

駅で切符を買うキョン。

みくるは無理矢理バニー衣装に着替えさせられ、ハルヒに撮られている。

みくる「え〜、寒いです…それに恥ずかしいですよぉ…」
ハルヒ「みくるちゃん、あなたはもっと自信を持つべきよ。何と言ってもこのあたしが選んだ学校一のマスコットキャラなんだから! ね、古泉くん」
古泉「全く、その通りかと」
ハルヒ「んじゃ次、コレ着て」

ハルヒはナース衣装をハンガーから外し、みくるに見せる。

みくる「え? また?」
ハルヒ「…!」
みくる「の〜! だ・だ・だ・だから自分で…」
ハルヒ「あーもう…」

再び長門は席を立ち、別の本を探す。

ハルヒ「今日中に全て撮り終えないといけないんだから、急ぐわよ!」

駅。電車を待つキョン。

ナース姿のみくるを撮影し、それが終わると今度はカエルの着ぐるみの被り物を取り出すハルヒ。

ハルヒ「はい次、コレ!」
みくる「あの〜、このナース服もそれも、映画の中で着たりしてないんですけど〜…ほんとにコレ、ジャケットの撮影なんですかぁ?」
ハルヒ「うん、そうよ。でも今アイデアが閃いたわ。この分だと写真集だって作れそうね…どう? 古泉くん、このアイデア」
古泉「誠に結構なアイデアかと」
みくる「ひえ〜…」
ハルヒ「いえ、待って。どうせDVDにするなら、特典としてオマケ映像を付けるべきよね? どう? 古泉くん、このアイデア」
古泉「非常によいアイデアかと」
みくる「ひえ〜…」

駅。相変わらず電車を待つキョン。周りには学校帰りの女学生が集まっている。

アナウンス「間もなく、電車が、到着致します」

部室外で、みくるの着替えが終わるまで待つ古泉。

ハルヒ「ほ…後ろ向いて! ほいっと!」
みくる「んぐぐぐぐ…」
古泉「…どうやら、一雨来そうですね」
ハルヒ「あ、コレ被って!」

電車内。キョンはつり革に掴まっている。

女生徒A「ふ〜、可笑しかった」
女生徒B「そうなの?」
女生徒A「びっくりするって。ふふふ…」
女生徒B「あはは…」

部室。ハルヒは着ぐるみ姿のみくるを撮影。

みくる「う〜…」
ハルヒ「ほら脱いで脱いで! 」

みくるの被り物を取るハルヒ。

みくる「ぅわあっ!? え〜?まだやるんですかぁ?」
ハルヒ「動かないでね〜」
みくる「ほえぇぇぇぇぇ!」

長門は本を戻し、次の本を手に取る。
鼻歌混じりでみくるを着替えさせるハルヒ。

ハルヒ「わははは、た〜のし〜!」

一方、キョンは大森電器店で例のストーブを受け取っていた。
ストーブを地面に下ろし、腰を叩く店長・大森栄二郎。

大森「これが、約束のストーブだよ。持って帰れるかい」
キョン「ええ、まあ。何とか」
大森「あの可愛い娘さん達は、元気かな?」
キョン「一人が元気ありすぎて困ってますよ。CMの効果はありました?」
大森「正直言って、余り変わってないねえ」
キョン「(そりゃそうだろうな。高校の文化祭映画本編中のCMじゃあ、余りに局地的過ぎる。よくスポンサーになってくれたものだ)」
大森「ところで、あの元気のいい娘さんが電話で言ってたんだが、映画の続編を作るって本当かい」
キョン「あいつがそうなるって言ったら、そうなるんでしょうね」
大森「次もスポンサーになるよう頼まれてしまったよ…はははは…このストーブは、次のスポンサー料の前渡しだと思ってくれ」
キョン「(そういうカラクリだったのか…)じゃあコレで」

ストーブを持ち上げ、抱えるキョン。

キョン「ありがとうございます」
大森「ああ、気をつけて」

お互い同時に礼をして別れるキョンと大森店長。

今は長門しかいない部室。
隣からの演劇部員の声が静かな部屋に響く中、黙々と読書する長門。

「アメンボ 赤いな あいうえお」
「浮き藻に 小エビも 泳いでる」
「柿の木 栗の木 かきくけこ」
「キツツキ コツコツ 枯れ欅」
「ささげに 酢をかけ さしすせそ」
「す!」
「その魚 浅瀬で 刺しました」
「立ちましょ ラッパで たちつてと…うわぁ!」
「声出してけ! 声!」
「トテトテ タッタと 飛び立った」
「なめくじ のろのろ なにぬねの」
「なにぬねのー!」
「んー…あなたが…犯人です!」
「んっ、赤の方、14番を選ばれた。んー、まあいいでしょう。さあ、この後どういった展開になるのでしょうか。次の問題どうぞー」
「凄いわ…あの子が出てきただけでステージの空気が変わった! それにしてもあの子、今までと全然違う…さっきまでとはまるで別人だわ…なんて…恐ろしい子!」
「タンメンセットー! チャーハンセットー! 天ザルセットー!」
「青年エース! 中年エース! 定年エース! 留年エース! 来年エース! 残念エース! やっぱ好きやねんエース!」
「なぜベストを尽さないのか! どーんと来ーい!」
「お前らのやったことは、マルっとゴリっとすべてお見通しだ!」
「見た目は子供! 中身は微妙! ご町内の強い味方! その名は! 名探偵! …ユキ…」
「えーい、控え控え控えーい! この紋所が目に入らぬか!」
「私は…フランスの…女王ーなのですから!」
「変なところに当たるな!」
「まだまだ甘いな」
「〜(歌)」

電車内。帰る途中のキョン。

部室。長門は引き続き読書中。
隣から、漫才が聞こえてくる。

「どうもー、北海アイスキャンディーズでーす」
「…ボン」
「ユキちゃーん 今日も相変わらずセクスィーだねぇ」
「どこ見てんねんドスケベ、警察呼ぶぞ?」
「いきなりボディブローかい? 満員電車の中で痴漢に間違われたような気分だよぉ」
「ところで もう冬やねえ」
「そう! 冬だねぇ 冬と言えば…」
「プロ野球オフシーズン」
「クールなとこ突いてくるねぇ、ユキちゃん。WBCもまっつぁおだよー」
「戦力外になった選手が出てくるのが楽しいねん」
「しかもなんてイン・ザ・ダークな楽しみ方! いやあの…ほらさぁ? もうすぐクリスマスじゃなーい?」
「鍋、食べたくなってきたなあ」
「そう! 冬と言えば、鍋 !」
「あんた、鍋には何入れる?」
「ねぇ? そうだなぁ…白菜に、鶏、豚、白ネギ、納豆、豆腐…えーと…ユキちゃんは?」
「ヒグマ」
「ぬわぁ! ユキちゃん狩人だったんだ! マタギも泣いて逃げ出すよ !」
「でも、いっつもヒグマの気持ちになってかわいそうになって食べられへん」
「だったら最初から鍋に入れるなって話しもあるよねぇ?」
「ほなこれからヒグマの役やるわ」
「え? ユキちゃんが?」
「せやからあんた鍋の役やって」
「期待を込めてぇ! 漫才史上最も…」

キョンは帰り道で、谷口と国木田に会う。

谷口「よおキョン、何やってんだこんな所で」
キョン「見て分からないのか? 荷物運びだ」
谷口「は、ご苦労なこった。どうせまた涼宮の命令だろ」
キョン「(どうやら半年もあれば、クラスメイトが俺の立場を正しく認識するのに十分な様だった…)」
国木田「これから学校に戻るの? 本当にご苦労様だね」
キョン「全くだ」
谷口「じゃあな」
キョン「おう」
国木田「また明日」
キョン「うん」

二人を見送った後…

キョン「…っと…ちぇっ、降ってきやがった…」

雨が降ってきた。

キョン(モノローグ)「天気予報じゃ降水確率10%(パー)って言ってやがったのに、当てにならん気象予報士だ。本降りにならん事を祈ろう」

廊下を歩くハルヒ・みくる・古泉。
みくるは例の映画に登場した時のウェイトレス姿。

古泉「おや? 雨の様ですね」
みくる「キョン君大丈夫かなぁ…」

帰り道のキョン。

キョン(モノローグ)「今程あの部屋が恋しいと思った事はない。一刻も早く、朝比奈さんの淹れてくれるお茶にありついて、心と身体をあっためたいぜ」

部室に鶴屋さんが入ってくる。

鶴屋さん「やっほー! みくるいる?…ってあれ? 長門っちだけ? 明日の掃除当番代わって欲しくてさ〜。それを頼みに来たんだけど、みくるは?」

長門は窓の外の本校舎を指差す。

鶴屋さん「おー、そっちの方にいんのかい。あんがと!」

そう言って部室を出る鶴屋さん。

ようやく学校に戻ってきたキョン。校門の傍で立ち止まって、ストーブを持ち直す。

「北高ー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! 北高ー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! 声出してー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! 北高ー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! 」

ランニング中の女子部員(※どの部活かは不明)。
誰もいない教室で撮影を続けるハルヒ達。そこに鶴屋さんが乱入。みくるの肩を組んでツーショット写真を撮って貰う。

相変わらず読書中の長門。

昇降口。

キョン「…っと……やれやれ…はぁ…」

キョンはストーブを降ろし、吐息で手を暖める。
すると、そこに鶴屋さんが来る。

鶴屋さん「あれれ? キョン君お使いだったのかい?」
キョン「鶴屋さん」
鶴屋さん「道理で…」
キョン「? 何がです?」
鶴屋さん「んふふ、何でもないっさ〜、ご苦労さん。ん〜、濡れてるねえ。…ん、しょっと」

鶴屋さんはコートのポケットからハンカチを取り出し、キョンの頭に被せる。

キョン「あ…どうも」
鶴屋さん「じゃあねー! ハンカチなら、コレと一緒に後でみくるに渡しといて。えへっ」

ハンカチをマフラー共々みくるに渡す様に頼み、背を向けたまま手を振って別れる鶴屋さん。

キョン(モノローグ)「相変わらず、挙動のよく読めない人だ…さばけた感じのいい先輩だが」

キョンは頭上のハンカチを手に取り、見つめる。

そして部室に到着。ストーブを床に置き、ドアを開ける。

キョン「あれ、長門…お前だけか」

長門はキョンの方を見るも、すぐまた読書を続ける。
キョンは室内までストーブを運び、一旦床に降ろし、マフラーを脱ぐ。

キョン「……ハルヒ達は?」

お互い無言のまま。

一方、体育館では…
みくるが体操着姿で跳び箱をする様子が撮影されている。

みくる「とぉーっ…」

しかし跳びきれず、箱の上にどすっ、と尻餅をつく。

ハルヒ「そう! そこは尻餅をつくべきところよ! 中々分かってるじゃない!」

次はチアリーダー姿のみくるがバトントワリングをする様子。

みくる「んー…ほっ」

みくるは慣れない手つきでバトンをまわし、そして頭上に放り投げて両手を上に上げる。
すると…バトンが先から真っ直ぐに頭に落ちる。頭を抱えて泣き出すみくる。

みくる「…あ痛っ! ふに〜…」
ハルヒ「惚れ惚れする位のドジっ子っぷりねー! ひょっとしてワザとやってない? 古泉くん、ちょっとコレ持ってて」

古泉にデジカムを渡し、ハルヒはみくるからバトンを借りて手本を見せる。

ハルヒ「こうするのよ、こう! 」

回して、投げて、受け取るの全てが綺麗に決まる。

部室。

キョン(モノローグ)「三人が今何処で何をしているのか、少しは気懸かりだが、流石に嵩張る荷物を持っての坂道昇りは堪えたぜ」

キョンは椅子に座り、吐息で手を暖め、こすり合わせる。

キョン(モノローグ)「しかも同じ道を下校時に、また降りないといけないときた日には尚更だ」

ストーブをダンボールから出し、コンセントを差し、電源を入れる。
しばらくするとパイプが赤くなり、発熱する。

キョン「来い来い来い来い来い」

暖を取るキョン。

キョン(モノローグ)「はー、手が冷てー」

長門は依然読書中。
十分に暖まったのか、椅子に戻るキョン。

キョン「…はぁ…」

机の上に散らばったキョンのカードデッキ。
椅子にもたれていたキョンだったが、しばらくすると睡魔に襲われカードの上に突っ伏す。

キョン「…疲れた……」

視界が徐々にぼやけていき、そのまま眠りにつく。
長門はキョンが寝ている間も読書を続けていたが、やがて本を閉じて席を立つ。

外は雨が降り続いている。

部室に戻ってきたハルヒは、突然目を覚ましたキョンに驚く。

ハルヒ「!?…」
キョン「…」
ハルヒ「あ……」
キョン「…お前だけか…」
ハルヒ「何よ、悪いの?」
キョン「…悪くはないが…お前、俺の顔にいたずら書きとかしてないだろうな?」
ハルヒ「しないわよ、そんな幼稚な事」
キョン「他の三人は?」
ハルヒ「先に帰ったわ。あんた中々起きそうになかったから」
キョン「で、お前は帰らずに残ってたのか」
ハルヒ「しょうがないでしょ!? あんた寝てるし、部室に鍵かけて帰らないとダメだし。それに、雨も降ってるし!」

窓の外を指差すハルヒ。

ハルヒ「…返しなさい!」
キョン「…?」
ハルヒ「カーディガン!」
キョン「ああ…ああ」

ハルヒに言われて、キョンは自分がカーディガンを羽織っている事に気付く。
脱ごうとすると、その下にもう一枚カーディガンがある。

ハルヒ「…!」

ハルヒはキョンから上のカーディガンを脱ぎ取り、羽織る。キョンも二枚目を脱ぐ。

ハルヒ「…ふん!」

キョン(モノローグ)「一枚はハルヒの物で間違いない。だが…このもう一枚は誰のだ? ……って待てよ、という事は、朝比奈さんが俺が寝ている横で着替えをしてたのか…クソぉ! どうしてほんとに寝ちまったんだ! 寝たふりをしておけば…!」

ハルヒはダウンジャケットのボタンをかけながら…

ハルヒ「さ、とっくに下校時間だし、あたし達も帰るわよ」

席を立ち、カーディガンを椅子にかけるキョン。

キョン「ああ…でも参ったなぁ。俺傘持ってきてないぜ」

傘を差し出すハルヒ。

ハルヒ「一本あれば十分でしょ!?」
キョン「おお!?」

ハルヒは照れ臭そうにキョンから目線を逸らして傘を突き出したまま。

帰り道、相合傘の二人。

ハルヒ「…もう、もっとこっちに寄せなさいよ。あたしが濡れるじゃないの」
キョン「十分寄せてるだろ? …あ! この傘お前のじゃねえな? 『職員用』って書いてあるぞ」
ハルヒ「学校の備品だもん。生徒が使って悪い事なんかないでしょ。それとも何? 濡れて帰りたいってんなら、入れてあげないわよ! 」
キョン「おお!?」

ハルヒはキョンから傘を奪う。

ハルヒ「えへっ」
キョン「(…全く、折角ストーブを貰ってきてやったってのに、労りの言葉もなしか。この団長様は…)…待てよ!」

走って追いかけるキョン。
ハルヒは振り返って笑い、"あっかんべー"をして見せる。


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