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時空警察ヴェッカーD-02の最終回 (前編)


D-02本部に警報が鳴り響く。
エリーの操作するスクリーンの前に、サキ、ハル、アムが集合。
やがて学生服姿のままで、カナとメイもやって来る。

カナ「もう〜お弁当の時間だったのにぃ。呼ぶんだったら授業中にしてよぉ!」

ようやくD-02のヴェッカーが集合。
メイが菓子を齧りながら、アムが何やら手にしている端末機を覗き込む。

メイ「この数式、何?」
アム「量子波動をぉ、重力値へ転換させるための数式」
メイ「ふぅ〜ん」
サキ「みんな! 第1級エマージェンシーなのよ、もっと緊張しなさい!」
一同「……」
サキ「デビッド、全員揃いました」

カナがハルに囁く。

カナ「ね、ケントは?」
ハル「警視庁の方でも緊急招集がかかったみい」


警視庁の会議室。

司会役の刑事が、出席している刑事たちに紙をくばる。出席者の中にはケントや田中の姿も。

刑事「昨日15時8分、太田黒氏宅に、殺害予告が送りつけられた。お手伝いの女性が、手紙を受取ったそうだ」

出席者たちが紙を手にする。殺害予告状のコピーである。


太田黒へ
お前を明後日
七時に殺す。
覚悟していろ
必ず殺す。
待っていろ。
  峯島美衣


刑事「この手紙文の内容から、信憑性は高いものと思われる。同日・同刻に、付近の住民から……」

ケントが隣にいる田中に囁く。

ケント「太田黒って言えば政界の重鎮。しかも、警察上層部とも繋がってるのに……フフッ、随分大胆なこと考える奴ですよね、田中さん」

からかい口調のケントとは対照的に、田中はの目はなぜか真剣そのもの。


D-02本部。

サキ「このクラスの時空犯罪者は、初めてだわ……とにかく、動くしかないわね。メイ、カナ、2人は17歳の女子高生がいそうなところをあたって。アムは、全装備の起動チェックを。ハル、ケントに連絡して」
ハル「はい」


警視庁の会議室。

刑事「殺害予告時刻は、明日の19時。これは警察への挑戦状だ。ただちに被疑者を割り出し逮捕せよ。逆らった場合は……武器の使用を許可する。以上!」


D-02本部。

サキ「エリー、DIXからの追加情報を待って。送られてきたら、すぐに解析を。出動!」
一同「了解!」

カナ、メイ、ハルが出動する。
3人を見送ったサキが、再びスクリーンを振り返る。


CLASS : Apex
Dimension Criminal
峯 島 美 衣
Mineshima, Mie


PHASE−9


とある墓地。

田中刑事が水桶、線香、花束を抱え、ある墓の前にやって来る。
彼を追って来たケント。

ケント「こんなときに墓参りなんて……?」

ケントが田中のもとへやって来る。
まるで肉親のように丁寧に、田中が手を合わせるその墓には──「峯島」の名が彫られている。

ケント「峯島……? 峯島美衣って、田中さんが探してた!?」
田中「十年前、母親にすがり付いて泣いていた、女の子の名前だ……生きていたんだよ……! 生きて警察を怨んでいたんだ……」

かつて、変わり果てた姿で息絶えた母を、娘の美衣が目にした光景がフラッシュバックする。

田中「自分の両親を殺害した犯人ホシを見つけられずにいる警察を……あのとき、俺が事件を解決していたら……あの子は殺人を犯そうなんて考えなかったはずなんだ……俺が、彼女を犯罪者にしてしまったんだよ! 俺のせいだ……俺のせいなんだよ!」
ケント「田中さん! そんな、自分を責めないで下さい」
田中「いや……俺の責任なんだ。だからせめて……誰よりも早く彼女を、峯島美衣を見つけ出して自首させなければならないんだ! せめて彼女の命を……命だけは救わなければならないんだよ!」
ケント「でも……警察だって、詳細な情報は握ってないし……それに、最後に彼女を見たのは、十年も前でしょう? もし出会えたところで、彼女だってわかるはずがないじゃないですか」
田中「目だ……目を見ればわかる。あんな悲しい目、十年やそこらで変わるはずはない。それに、指輪もある」
ケント「指輪?」
田中「あぁ。遺体解剖のとき、母親がはめていた指輪だけがなくなっていた。恐らく彼女が持っているに違いない」

再び十年前の惨状のフラッシュバック。
美衣が「お母さん、お母さん」と泣きつく、変わり果てた母親の遺体の指には、指輪がはめられていた……。


街中。
カナとメイが「峯島美衣」についての聞き込みを続けているが、情報は得られない。
ふと、カナが考え込む。

カナ (いくらエイペックス・クラスだからって、即刻処分……?)

突然、メイがカナの顔にスプレーをかける。

カナ「わ!?」
メイ「ほら、ボーっとしてないで、次行くよ」
カナ「ちょっと、何したのよぉ?」
メイ「ん? これ」

メイが手にしているのは、街頭ワゴンで売られていた香水スプレー。

メイ「私ねぇ、この香り凄い好きなんだ。なぁんか懐かしい香りがするんだよね」
カナ「好きだからって顔にかけるの?」
メイ「職務中にボーっとしいている方が悪いの!」


田中とケントが街角で捜査中。
ケントが携帯電話をかけるとの名目で彼から離れ、クロノクリスタルを手にする。

ケント「アムはいるか? 実は、聞きたいことがあるんだ」

殺害予告を受け取ったという「太田黒家のお手伝い」と言えば、アムのことだ。


D-02本部。

アム「太田黒を殺害する、殺害犯行声明? んにゃ? そんなの、受取ってないにゃ」
ケント「やっぱり……それにしても、どうしてDIXからの緊急指令と、警視庁本部からの緊急指令が同じなんだ?」


警察病院のハルのもとへ、ケントからの通信が届く。

ケント「ハル、太田黒は今、警察病院の特別室にいる。どうにか、調査してもらえないか?」
ハル「わかったわ」


太田黒のいる警察病院特別室。
ドアの前から人々が離れた隙に、ハルがドアに耳を近づける。

太田黒「ははっ、こっちでも私の暗殺事件をでっち上げて、警視庁を動かしました。峯島美衣を見つけられるでしょう。DIXの方でも、彼女の新しい情報を入手できたでしょうか?」


街角。

ケント「太田黒がDIXと連絡をとってるだって!? どういうことだ!?」
田中「おい、終わったか」

ケントがすかさず携帯をかけているふりをする。

ケント「あ、またかけます、はい」
田中「マンションへ戻ろう」
ケント「はい」
田中「手掛かりをつかめる場所は、あそこ以外にないからな」
ケント「わかりました」


カナとメイも聞き込みを続ける。

カナ「ねぇねぇ、この名前の子知ってる?」
少女たち「知ってる?」「知らない」
カナ「そっか、ありがと」

カナ「こんなに多くの女子高生の中から、峯島美衣って名前と、年齢だけで探せるわけないよね〜まだDIXから詳細情報、来ないのかなぁ?」
メイ「……峯島美衣、か……」
カナ「もしかして、知ってる子だったりして?」
メイ「んー……なぁんか引っかかんのよねぇ……」


カナとメイが道路を横断する。
ふと、メイが途中で足を止める。カナは気付かずに歩き続ける。

メイ「峯島……美衣……」
カナ「ねぇメイ。……!?」

カナがメイの方を振り返ったとき、道路を走る車がメイに迫っている。
危機一髪、慌ててカナがメイを突き飛ばす。

カナ「ったくぅ、人のことボーっとするなって言ってたくせに、自分でもボーっとしてんじゃない! 私が助けてあげなかったら、今頃あなたは車にひかれてペッチャンコ!」

メイはなぜか、驚きも恐怖もなく、茫然自失の表情。

カナ「……大丈夫?」
メイ「峯島……美衣……」

何かに取り付かれたように、メイが歩き出す。
カナも慌てて後を追う。


やがて、郊外の公園でメイが足を止める。

メイ「滑り台……ブランコ……」

ブランコに1人の少女が乗っている。
そこへもう1人、別の少女がやって来る。

少女「ミーちゃぁん!」
メイ「みい……ちゃん……?」
カナ「あの子、友だち?」

少女2人が何か言い合っていたようだが、後から来た方の少女が怒り始める。

少女「もういい!」
カナ「はぁ……女同士ってさ、結構難しいもんなのよね。あれぐらいの頃からさぁ……」
少女「私、1人で帰る!」

後から来た方の少女が駆け去る。
ブランコの少女が慌てて後を追おうとし、つまづいて転び、泣き出す。
先の少女が泣き声を耳にし、振り向いてブランコの少女のもとへ駆け寄る。
カナがクスリと笑う。

少女「大丈夫? 一緒に行こ!」
カナ「私たちもああいう風に仲良くやっていきません? これから先もずーっと一緒に行動しなくちゃならないんだから、ね?」

メイは再び、茫然自失のまま、どこかへと歩き出す。


やがてメイがやってきたのは、とあるマンションの前。
カナも後を追ってやって来る。

メイ「ここだ……!」
カナ「……ここって?」

メイがマンション玄関に入ろうとしたとき、ちょうど玄関から駆け出してきた2人組と衝突。
……なんとその2人は、田中とケントであった。

田中「あ!? すいません!」

地面に散らばった書類を、田中が慌てて拾い集める。
ケントがカナの肘を引っ張り、「どうしてお前たちがこんなところに?」との仕草。

田中「すいません、すいません、大丈夫ですか?」

メイも書類拾いを手伝う。

田中「怪我はなかったですか? どうもありがとう」

顔を上げた田中。メイと目が合う──

田中「……君は!?」
メイ「……?」


D-02本部。

サキ、アム、エリーのもとにハルが駆けつけてくる。

ハル「チーフ、おかしなことになってるの! 太田黒がDIXと通信してるのよ!」

サキが見つめるスクリーン。DIXから送信された追加情報が表示されている。
十年前の、幼い峯島美衣の写真。
そして罪状は──


2002年4月1日
人類を滅亡させる
電磁波動砲の原理を発明


ハル「一体……どういうことなの!?」
エリー「本部から送られてきた、峯島美衣の7歳時のときのMRIデータを解析しました。これが、7歳児の骨格から推定される、現在の容貌です」

スクリーンに映し出された現在の「峯島美衣」の推定容貌、それはまぎれもなく、メイの顔……!


マンション前。

田中「君は……君は、峯島美衣ちゃんだよな!? そうだろ? 十年前、ここで両親を惨殺された、美衣ちゃん!」
カナ「……!」

メイの左手の薬指にはめられている指輪を、田中が見やる。

田中「その指輪、君のお母さんのだろ? そうだよな? 君のこと、ずっと探していたんだよ。この十年間、君と、君のご両親のことを忘れたことは一度もなかった!」
メイ「……」
田中「すまん……本当にすまないことをした。犯人を逮捕できなくて……警察も色々、手を尽したんだよ。できる限りのことは全てやった。でも何の証拠も出てこなかったんだよ!」
メイ「……」
田中「君のご両親のご遺体も、散々調べさせてもらったが、どうやって殺害されたかすらわからなかったんだよ。体から、一滴も残さず血を抜かれて、しかもどこにもその痕跡が残っていないなんて……今の科学じゃ、到底解明できない事件だったんだ! だから、君を……峯島美衣をずっと探していたんだ」
カナ「……嘘だ……メイが峯島美衣だなんて……人類を滅亡させる……?」

突如、メイが駆け出す。

田中「美衣ちゃん、待ってくれ!」

メイの後を追おうとする田中を、咄嗟にケントが押さえる。

田中「おい美衣ちゃん!? 健人、放せ!」
ケント「すいません、田中さん! 今メイを渡すわけにはいかないんです! 行かせてやって下さい! カナ、何ボーっとしてんだ! 早くメイを追いかけろ!」

カナが慌てて、メイを追って駆け出す。


街中をメイが駆け回る。


カナもメイを探し回る。

カナ「メイ……」


そして夜の臨海公園。

海を見つめるメイを、ようやくカナが見つけ出し、駆け寄る。

カナ「メイ……」
メイ「違う。メイじゃない……峯島美衣だ」
カナ「何言ってんの? メイが峯島美衣だなんて証拠ないじゃん! あの刑事が間違っただけだよ! 似てる指輪なんていっぱいあるし……」
メイ「もういい。思い出したから……自分の名前も……十年前のあの日のことも……やっぱ本当だったんだね。私のお父さんとお母さん、殺されたのって……夢なんだって思ったこともあった。でも妙にリアルでさぁ……だから確かめたかった。もし夢じゃなかったんだったら、救いたかった。2人をね……」
カナ「……」
メイ「本当はさ、カナと会う前に、何回も十年前の92年に行こうとしてたんだ。でも、どうしても行けなくてさぁ……結局、何もできなかったんだよね」

次第に声が涙声となる。

メイ「その上、私……じ、人類、滅亡させちゃうんだよね……人の幸せを奪うなんて……最低だ……! もう生きてない方がいいよね……」

カナの方を振り向くメイ。

メイ「ほらカナ。命令、実行しな」
カナ「……命令って何よ!」
メイ「『発見次第、峯島美衣を処分せよ』……」
カナ「そんな……できるわけないでしょ!?」
メイ「……わかった。だったら時空刑事として、私が」

メイがナイフを取り出し、自分の喉に突きつける。
慌ててカナが取り押さえる。

メイ「放して! 放して!」

もみ合いの末、勢い余ってメイの手にしたナイフがカナの足を裂く。
鮮血を目にし、メイが我に返る。

メイ「カナ……!?」
カナ「信じられないもん。メイが人類滅ぼそうとするなんて……絶対に信じられない! メイは気が強くて我がままですぐ怒るけど、ずっと優しかった……誰にだって……」
メイ「……」
カナ「そんな優しいメイが、人類滅ぼそうとか考えるはず、ないじゃない! 人の幸せ、奪おうとするはずない!」
メイ「……でも未来ではそうなんだよ……どっかで変わっちゃうのかもしれない……この記憶が戻ったことで、私は、人と……未来を怨むのかもしれない!」
カナ「だったら私が戻して来る! あなたの過去を……あなたの代りに」
メイ「カナ……?」
カナ「さっき刑事さん言ってたよね。メイの両親の事件は、今の科学じゃ解明できなかったって」
メイ「……?」
カナ「あなたの両親は、未来の何者かに殺された。そしてあなたの人生も歪められたんだよ。本当はメイが悲しい思いなんかする必要なかったのに……だから、あなたが行けないんだったら、私が行ってくる。私が行って、あなたの未来を……元通りにしてくる」
メイ「駄目……! 駄目! カナが時空犯罪者になっちゃう! そんなことさせらんないよ!」
カナ「元に戻すだけだよ……それがなんで犯罪なの? 私そんなおかしいこと、納得できないよ」
メイ「でもDIXは……」
カナ「それに……もし犯罪だとしても、今の私は、その方が正しいと思える! 信じられるから、メイ! あなたと、あなたの選ぶ未来を……」
メイ「カナ……」
カナ「……」
メイ「ありがとう……」
カナ「初めて聞いたよ。メイが『ありがとう』って言うの……」

涙ぐんだ目で、2人が見つめ合う。

カナ「クロノクリスタル、貸して」
メイ「え?」
カナ「だって、それがあると、あなたの居場所がすぐにばれちゃうから」

メイが自分のクロノクリスタルを外し、差し出す。
クスッと笑うカナ。

カナ「せっかくなんだから、かけてよ」

メイもクスリと笑い、自分のクロノクリスタルをカナの首にかける。
カナとメイが抱き合い、2人の目から涙が次々に流れ落ちる。

カナ「私ね、あなたと一緒の時間、過ごせて良かった……自分じゃ持ってなかった大事なもの、もらったから……」
メイ「私もだよ……」


D-02本部。警報が鳴り響く。

サキ「エリー、何が起こったの!?」
エリー「クロノライナーが出動しています。乗員はカナ刑事です」

決意に満ちた目つきのカナが、クロノライナーのコクピットに座している。

サキ「どこへ向かってるの!?」
エリー「まだ確定できません」
ハル「チーフ、どうするつもり?」
サキ「黙って!」
エリー「確認できました。向かっている先は、1992年です」
サキ「……!」
エリー「先ほどまで、カナ刑事は峯島美衣と一緒だったようです。しかし、クロノライナーにはカナ刑事しか乗っていません」
サキ「……メイは、携帯持ってたわよね。エリー、携帯から現在位置を出して!」
エリー「了解」
サキ「ハル、行くわよ」

サキがクロノガンを握り締める。

サキ「アム、エリー、2人はここに残ってて」


臨海公園に1人で佇むメイに、ケントが駆け寄る。

ケント「こんなとこにいたのか……カナは?」


1992年。

カナが峯島家のマンション前へ。
玄関から、当時のメイ=峯島美衣とおぼしき少女、そして両親らしき男女が駆け出す。
そしてその3人のもとへ駆けつける男女2人組。明らかに服装は未来のものだ。

カナ「あいつらがメイの手から幸せを奪ったんだ……許さない! 絶対に私がメイたちを守ってみせる!」

決意に満ちた目でカナが足を踏み出そうとしたとき、その2人組の顔を目にして愕然とする。


2002年の臨海公園。

メイ「十年前に起きた、1992年のこと……」
ケント「俺が知ってるのは、1992年にはとても優秀な時空刑事が赴任していたことだけだ。彼らは数多くのヴェッカーの中でも、トップに位置する2人だった」


1992年。

美衣たちのもとへ駆けつけた男女の服装は、時空刑事の制服・ヴェックフォーム。
そしてその顔は、かつてトップクラスの時空刑事と言われたヒロシ・ゴドーとナツ・ゴドー、即ちカナの実の両親──!


カナ「嘘……パパとママが……!?」


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