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時空警察ヴェッカーD-02の最終回 (後編)
PHASE−9.5
1992年の峯島家。
ヒロシとナツが、美衣たち3人を自宅から連れ出す。
しかし突如、虚空から黒服の3人の人物が出現する。
身構えるヒロシに、3人の中央の男、マントをまとったボスとおぼしき者が歩み出る。
男「何をしている……どきなさい。僕たちが処分してあげますから」
他の2人が武器を手にする。
ヒロシもクロノガンを抜きつつ、美衣たちをかばう。
男「あなたたちは3匹の虫ケラのために、人類が滅亡してもいいんですか?」
「虫ケラはあんたたちじゃない!」
男たちが振り向くと、クロノガンを構えたカナが立っている。
カナ「過去を塗り替えることほど、愚かなことはないはずよ!」
男「ハハッ、とんだ邪魔が入りましたね。まぁいい、慌てることはないでしょう。ゲームはすぐに終わっちゃ面白くないですからね」
不敵な笑いを残し、黒服の3人が虚空へ消える。
カナ「皆さん、大丈夫ですか?」
ヒロシ「……あぁ、こっちは。ところで君は?」
カナ「2002年担当の時空刑事カ……榊 明です」
実の両親を前に、カナは咄嗟に本名ではなく、メイの名を借りて偽名を名乗る。
カナ「あいつらは?」
ナツ「ズヴェーリア。影のヴェッカーとでも言えばいいかしら」
ヒロシ「説明は後だ。とにかくここを動こう。ナツ、出来る限り安全な場所を弾き出せ」
ナツ「ズヴェーリアのローレンツ・ホールをいち早くキャッチできる場所を探せばいいのね。わかったわ」
美衣の方をみやるカナ。
カナ (メイ……)
怯えきっている美衣の肩を、カナが優しく抱く。
カナ「大丈夫だよ。お姉ちゃんが絶対あなたを守ってあげるから。約束する。私ね、そのために来たの。あなたたちを守るために私、すべてを賭ける。だから……信じて」
美衣が頷く。
カナが美衣の両親の方へ向き直る。
カナ「安心して下さい。あなた方には指1本たりとも触れさせませんから」
美衣の父「何が起こったのかわからない……わからない! あなたたちを信用していいのか、それすら……」
美衣「パパ、大丈夫だよ。だってこのお姉ちゃん、優しい匂いがするもん……悪い人じゃない!」
ヒロシ「確認できました! ここは危ないので、次の場所へ移動しましょう。急いで、さぁ!」
一方、2002年の臨海公園。
メイを見つけたサキ、ハルが駆けつける。
サキ「これで納得いったかしら。処分、実行します」
サキがクロノガンを抜き、メイに向ける。
ハル「待って! もう少し……もう少し考えて!」
メイ「いいんだよハル。チーフはチーフとして、当然のことをするまでだもん」
ケント「メイ……」
メイ「覚悟できたから……」
メイが目を閉じる。
サキ「メイ……あなたはチーフの役割を誤解してる。チーフとして私が一番やらなくてはならないのは、メンバーをサポートしていくこと。困ったときに、手を差し伸べてあげること。いつでも……味方になってあげること」
メイ「……!?」
サキ「だから今、私がチーフとしてやらなければならないのは……メイ、あなたを守ることしかない!」
サキがクロノガンを下ろす。
サキ「メイ、あなたもカナのパートナーとして、一緒に戦ってきた相棒として、どんなに離れていても、やるべきことがあるはずよ!」
メイ「やるべきこと……?」
ハル「……想いに壁はない。時間も場所も、飛び越えられるはずよ」
ケント「そして……想ってくれる人がいるからこそ、強くなれる」
頷き合うメイたち。
メイ「1人で戦うことが、どれほど苦しいことか……カナ……私には祈ることしか出来ない」
1992年。
廃墟の片隅に逃れてきたカナたち。
ナツ「見て! D-02のところで波動変数に限界値が作られているの。DIXのやったこととは思えないわ。もしかして、罠?」
ヒロシ「でもこれで、ズヴェーリアも援軍を呼べない」
カナ「D-02……もしかしてアム? 罠じゃない、それは私の仲間が!」
美衣「お姉ちゃあん……」
美衣に呼ばれたカナが、しゃがんで美衣に視線を合わせる。
美衣「どこから来たの?」
カナ「うーんと遠いところから」
美衣「恐くないのぉ?」
カナ「……平気だよ。だって1人じゃないから」
美衣「……?」
カナ「あなたがそばにいるから。あなたが私に、勇気と力を与えてくれる」
ナツ「ローレンツ・ホール確認!」
ヒロシたちの方を振り向くカナ。
ヒロシ「君、君はこの一家を守ってくれ。ナツ、戦闘準備だ」
カナ「いえ、私が戦います。この手で歴史を守るために……じっとなんかしてられません!」
ヒロシ「……ナツ、警護に回れ」
ナツ「了解」
ナツが美衣たちの護衛につく。
ナツ「大丈夫、大丈夫ですから……あと3秒! 2、1……来る!」
ローレンツ・ホールが開き、虚空からあの黒服の3人──ズヴェーリアたちが出現する。
カナとヒロシがクロノガンを構え、黒服の2人も剣を抜く。
ヒロシがクロノガンを放つが、黒服男はそのビームを剣でカナ目掛けて跳ね返し、カナのクロノガンを撃ち落す。
さらに黒マントのズヴェーリアが手を構えると、目に見えない力でヒロシのクロノガンが砕け散ってしまう。
ズヴェーリアたちは圧倒的な戦闘力を持っているらしい。
2002年。
手を合わせてひたすら祈り続けるメイ。
サキが本部に常駐しているエリーに連絡をとる。
サキ「エリー、カナの様子は?」
エリー「確認できません。ただ、1992年にローレンツ・ホールが確認できます」
サキ「エリー……第3種装備を用意して、すぐにカナに送信して!」
ハル「第3種って……使用が限定されている特別装備じゃ!?」
ケント「チーフ、こればっかりは言い逃れできないんじゃないですか!」
サキ「カナが今、援護を必要とするなら……私は、迷わず使用を許可する。エリー、許可します!」
1992年。
次第にズヴェーリアに追い詰められるカナとヒロシ。
壁に叩きつけられたカナ。クロノクリスタルにエリーからの通信が響く。
エリー「第3種装備、トランスファーします」
カナ「第3種装備……!?」
エリー「チーフから使用許可が下りました。チーフからの伝言です。2002年のことは心配するな、1992年のことはカナに任せた、と。皆が信じています。あなたのことを」
アム「カナちゃあん、アムちゃん大変だったんだからぁ。いつもの3倍のスピードでヒルベルト空間に壁を作ったんだからぁ。だからぁ1992年のお菓子、絶対絶対絶ぇーっ対買ってきてにゃ!」
力を振り絞り、カナが立ち上がる。
クロノクリスタルが眩い光を放ち、カナの体が第3種装備──真紅のクロノスーツに包まれる。
反撃に転じたカナのクロノセイバーが、黒服の2人を次々に斬り捨てる。
黒マントのズヴェーリア自らがカナに挑む。
双方の剣が激しくぶつかり、火花が飛び散る。
ズヴェーリアの猛攻の前に、カナのクロノスーツのヘルメットのバイザーが砕け散る。
カナ「これ以上……私の大事な人を傷つけるのは許さない!」
自らヘルメットを脱ぎ捨て、素顔を晒すカナ。
カナ「許さない……!!」
渾身のカナの攻撃が、ズヴェーリアを吹き飛ばす。
とどめとばかり、カナがクロノセイバーを構える。
ヒロシ「やめろぉ!! 俺がやる……君は手を汚すな、人を殺すなぁっ!!」
カナ「私は……許せない!!」
カナのクロノセイバーが一閃。
ズヴェーリアが消滅する──
カナ「終わった……これで良かったんだよね……? メイ……約束、守ったよ……」
ヒロシ「大丈夫か?」
カナ「大丈夫です。でも私……時空犯罪者ですよね。勝手に時間移動して、そこで人を殺してしまった……逮捕……して下さい」
ヒロシが首を横に振る。
カナ「お願いです!」
ナツ「あなたの仲間が作ってくれたヒルベルト空間の壁のお陰で、DIXもこの事実を掌握していない」
ヒロシ「だから今回のことは、すべて私たち2人で実行したことにする」
ナツ「あなたが来なくても、私たちはそうしようと計画していたから……」
ヒロシ「カナ……」
カナ「……!?」
ヒロシ「お前にもっともっと未来を見てほしい……未来を作っていってほしい! 2002年の壁が崩壊しない内に戻りなさい。私たちは時空を彷徨いながら、お前をずっと見守っている……ナツ、いいか」
ナツ「ローレンツホール・オープン」
ローレンツ・ホールが開き、ヒロシとナツがそこへ向かう。
カナ「パパ……!」
ヒロシとナツが振り向く。
ヒロシ「私たちは、いつまでもお前も見守っている」
ナツ「カナ……」
ヒロシとナツが、ローレンツ・ホールの中へと姿を消す。
カナ「パパ……ママ……」
大粒の涙が零れ落ちる──
カナ「これで全部終わりましたから……」
美衣「お姉ちゃん……大丈夫? 痛い?」
カナ「大丈夫だよ。お姉ちゃん強いんだから!」
笑顔を見せるカナに、美衣も思わず笑みをこぼす。
カナが、メイから預かったクロノクリスタルを差し出す。
カナ「これ、あなたにあげるね」
美衣「いいの?」
カナ「だってこれ、あなたのだもん」
カナが美衣の首にクロノクリスタルをかける。
美衣「すごくきれい……」
カナ「これね、幸せの結晶なんだよ。この中には幸せがぎゅーって詰まってるの。素敵な未来がね、作れるような力も一緒に……」
美衣「これつけてたら、お姉ちゃんみたいになれる?」
カナ「うーん……どうだろ? でも、あなたが友達をいーっぱい作って、仲良くしようって思えば、なれるのかもしれない」
美衣「お姉ちゃん、私の最初の友達になってくれる?」
カナ「もちろん! 最初の、お友達だ……」
カナが声を振るわせつつ、美衣を抱きしめる。
美衣「やっぱりお姉ちゃん、優しい匂いがするね」
カナ「私そろそろ、おうちに帰らなきゃ」
美衣「今度遊びに来てね」
カナ「……うん!」
美衣の両親も、その顔にもう恐怖はなく、微笑んで2人のやりとりを見守っている。
カナ「素敵な未来が、やって来ますように……」
2002年。
D-02本部に現れたカナを、ヴェッカーの面々が迎える。
ハル「カナ、今日は学校のテストだったんでしょ。どうだった?」
カナ「……うん」
アム「この時代のテストじゃ、10秒で終わっちゃったでしょ〜?」
エリー「平均所要時間36分31秒です」
カナ (何も変わってない……?)
エリー「DIXからのレスポンスです」
サキ「司令官、2002年は今のところ異常ありません」
スクリーンに映っている司令官の姿は何と、ヒラの時空捜査官だったはずのケント。
ケント「わかった。サキはリサーチを続行してくれたまえ」
カナ「ケントが……本部の司令官?」
ハル「ケント、試験合格したじゃない。忘れたの?」
アム「忘れたのぉ?」
カナ「うん……そうだったよね」
カナ (変わってるんだ……!)
並木道を歩くカナ。
街頭のワゴンで売られている香水を見つけ、メイが好きだと言っていたスプレーを手にする。
美衣との別れ際のやりとりが胸に甦る。
(美衣『これつけてたら、お姉ちゃんみたいになれる?』)
(カナ『あなたが友達をいーっぱい作って、仲良くしようって思えば、なれるのかもしれない』)
(美衣『お姉ちゃん、私の最初の友達になってくれる?』)
(カナ『もちろん! 最初の、お友達だ……』)
(美衣『やっぱりお姉ちゃん、優しい匂いがするね』)
メイがふざけて、カナの顔に香水スプレーをかけたときのこと──
(メイ『私ねぇ、この香りすごい好きなんだ。なぁんか懐かしい香りが好きなんだよね』)
(カナ『好きだからって顔にかけるの?』)
(メイ『職務中にボーッとしている方が悪いの!』)
カナが1992年に旅立とうとしていたときのこと──
(カナ『私ね……あなたと一緒の時間、過ごせて良かった……自分じゃ持てなかった大事なもの、貰ったから…』)
(メイ『私もだよ……』)
カナが第1話冒頭と同じ、雑踏の中を歩く。
向こう側から歩いてくる少女たち──その1人は、メイ。
慌てて目をそらすカナ。あれはもはやカナの知っているメイではなく、新しい歴史の中に生きている峯島美衣である。
カナ、必死に目を合わせないように、平静を装う。
次第にカナと美衣の距離が狭まる。
カナの目が美衣の胸元へ。
幼い美衣に渡したクロノクリスタルが、紛れもなくそこにある。
カナ (つけてる……)
──カナと美衣がすれ違う。
カナ「駄目……振り向いちゃ……駄目だよね……」
自分に必死に言い聞かせつつ、声をかけたい気持ちを堪えて歩き去るカナ。
美衣が立ち止まり、振り返る。
美衣「今の優しい……香りは……!?」
カナの後姿を見送る美衣。
美衣が微笑み、再び友人たちと共に歩き出す。
カナの顔にも、笑みがこぼれる。
次第の距離が開いていく2人を、陽射しが優しく照らし続けている──
「我々の意識が未来を変える。
なぜなら、我々が未来をどう見るかは我々の意識次第だからだ。」
ユージン・ウィグナー博士
(Eugene Wigner 1902-1995)
(終)