戻る TOPへ

浪漫倶楽部(ろまんくらぶ)
第34話(最終回) 「丘の上の精霊」

(最終回に至るまでのあらすじ)
主人公・火鳥たちの通う夢ヶ丘中学校は丘の上に建っている。その為か昔からこの丘には不思議な出来事が数多く起こっていた。そんな不思議な出来事…「不思議事件」を解明する為、部長・綾小路が設立したのが「浪漫倶楽部」である。
ある時、火鳥は丘神石の精霊と出会うが、火鳥たちとの出会いによりその精霊は丘神石に戻れなくなってしまう。それと共に霊的土地(パワースポット)の封印が解け、不思議な事件が起きるようになる。
火鳥によって「コロン」と名づけられたその精霊は浪漫倶楽部の仲間となり、後に起きた「ボロ傘事件」がきっかけとなって本来の明るさを取り戻したクラスメイト・月夜も仲間に加わって、4人で不思議事件を解決していた。
(筆者注:このくだりを読み「浪漫倶楽部」に興味を持った方で良いですから、第1話「丘の上の学校」と第2話「雨のロンド」(実際この2つの話がオープニングみたいなものですし)のテキストの執筆をお願いします。)
そんな火鳥達の前に、コロンによく似た格好をした女の人が現れる。
彼女は自分を「過去の世界から来た石の精霊」だと言い、火鳥達と出会ってコロンの力が不完全になり(幼児化はその兆し)、霊的土地の力がものすごい勢いであふれ出し、結果としてコロン自身の寿命を縮めているのだと火鳥に告げる。
そして、コロンが生き延びる為の方法として「人間と別れること」をも告げられることとなる。密かに火鳥達の後をつけていたコロンも、そんな2人のやりとりを聞いていたのであった…

(登場人物紹介)
火鳥…物語の主人公。妖精などの特別な存在が見える「第2の瞳(セカンド・サイト)」の持ち主。明朗快活で感受性が強い。
コロン…丘神石を封じていた精霊。火鳥達との出会いで感情を持つ事となる。天真爛漫で感情豊か。
部長…本名は綾小路宇土で、「浪漫倶楽部」の部長。突飛な行動のためしばしば有名人になるが、根は心優しい。
月夜…火鳥のクラスメイト。「ボロ傘事件」がきっかけとなって浪漫倶楽部の一員となる。心優しく感受性が豊か。

(本文)
 ずぶぬれになって部室に戻ってきたコロンを見て、
月夜「コロンちゃん!」
部長「びしょ濡れじゃないか…」
月夜「一体…どこに行ってたの?」
 コロン、答えない。
月夜「コロンちゃん!?ど…どうしたの?コロンちゃん!?」
 そこに、火鳥が部室に戻って来る。
部長「火鳥くんっ!!」
火鳥「…コロン!?」
 コロン、火鳥に駆け寄り、しがみついてくる。
火鳥「コロン…まさか、聞いてたのか?」
 コロンは答えず、より強くしがみついてくる。火鳥、コロンの頭をなでながら、
火鳥「大丈夫…コロンはいつまでも、オレ達浪漫倶楽部の仲間だよ」
 コロン、笑顔を浮かべ火鳥の元に飛び込んでくる。
コロン「火鳥ィ〜〜!!」
火鳥「そう…オレ達は、例え離れ離れになっても仲間だよ」
 その言葉に全員が驚く。
コロン「…え!?」
火鳥「コロン!裏山の丘神石に帰って…石の精霊に戻るんだ!!」
コロン「!?」
 コロン、いやいやをするように、
コロン「いやっ!火鳥といる!!やだ…いやだ!いやら〜〜〜っ!!」
 火鳥、コロンを突き放すように、
火鳥「コロン―――…お前は石の精霊…人間じゃないんだ!オレ達人間とずっと一緒に暮らすなんて…無理なんだよっ!!」
部長「火鳥くん?」
月夜「突然…何を言い出すのっ!?」
コロン「火鳥―――…コロンのこと…邪魔に…なったの?」
 無言で頷く火鳥、そして部室をとび出していくコロン。
部長「コロンちゃん…」
 部長、普段では決して見せないような怒りの剣幕で、火鳥の胸倉を掴む。
部長「火鳥くん!一体…何を考えているのだ!!」
月夜「部長っ!!」
 しかし、火鳥が涙を流している事に気づく。
部長「火鳥く…ん?一体―――…何があったのだ?」

 所変わって校舎の外。コロンが空ろな表情で彷徨っている。
??「ここはあなたのいる場所ではないわ…」
 過去の石の精霊(以下、「石の精霊」とする)が姿を現す。
石の精霊「さあ、人間たちと別れて石の精霊が本来いるべき場所…丘神石に戻りましょう」
 石の精霊が差し出した手を、コロンはとる。

 再び部室にて。
月夜「そんな!?私達といることで…コロンちゃんは自分の寿命を縮ませてたの?」
火鳥「…うん、オレ達と別れて完全な石の精霊に戻れば…コロンは、あと何十年かは生きていられるんだ。オレは…どんなに嫌われてもいい。コロンには少しでも長く…生きてもらいたい。だってコロンは…オレにとってかけがえのない大切な仲間だから」
月夜「―――…火鳥くん」
 その時、地震が起こる。
月夜「きゃあ!?地震っ!?」
部長「今までとはケタ違いなのだ!!」
 しかし火鳥、部室から出て行こうとする。
火鳥「逃げてください…」
部長「!?」
火鳥「過去から来た石の精霊が言ってました…力(エネルギー)がなくなると霊的土地(パワースポット)に支えられていた裏山が崩れ去るって…」
部長「なっ!?だったらここも危ないかもしれないのだ!!」
 部長、火鳥の腕をとる。
部長「火鳥くん!とにかく一度…学校の外に避難するのだ!!」
火鳥「オレは―――…裏山に行きます」
部長「えっ!?」
火鳥「コロンを…見送ってあげたいんです。今のオレにできるのは…最後まで見守ってあげることくらいだから。独りぼっちで石の精霊に戻るんじゃあ…コロン…きっと淋しいだろうから…」
月夜「…火鳥くん」
部長「だったら…私達も行くのだ!!」
 その声に、火鳥は部長たちのほうを振り返る。
火鳥「え…!?」
部長「一人で見送りに行くなんて…水臭いじゃないか」
月夜「コロンちゃんは…私達にとってもかけがえのない大切な仲間よ」
 2人の目には迷いはなかった。
火鳥「部長…月夜ちゃん……」
 再び地震が起こり始める。
部長「さあ…急ごうみんなっ!!」
火鳥・月夜「はいっ!!」

 舞台は変わって裏山。石の精霊はコロンを連れて丘神石へと向かっている。どうやら火鳥達が追ってきたのに気づいたらしく、
石の精霊「人間達がお前を追ってきている…急ごう!」
コロン「え…?」
石の精霊「早くお前が完全な石の精霊に戻らなければこの裏山が崩れて…あの人間達を巻きこんでしまうぞ!!」
コロン「う………うん」
 一方、地割れすら始めた裏山を必死に走る火鳥たち。
火鳥(コロン……!!)
 再び石の精霊たちに視点。
石の精霊「これでよかったのだ―――…すべてが元通り…丘神石の精霊のあたりまえに戻るだけだ」
 回想、火鳥たちとの最初の出会いの頃。
火鳥(そ、そうだよ!!毎日オレ達と一緒に今日みたいに不思議な事件を解決してみないか?)
石の精霊「お前が元に戻れば丘神石の封印の力も戻る!私達…石の精霊は人間の感情を持ってはいけないのだ!!」
 再び火鳥達との出会いの頃の回想。
火鳥(まんまるくってコロコロしてるからコロン!!キミの名前だよ、どーかな?)
石の精霊「……」
 そして、火鳥たちはついに石の精霊たちに追いつこうとしていた。
火鳥(コロンっ!!)
石の精霊「大丈夫…人間たちと二度と逢わなければすべて忘れられる!!」
 その声に、火鳥たちもコロンも足を止める。
コロン(二度と…逢わない!?)
 3度、火鳥たちとの出会いの頃の回想。
火鳥(キミは石なんかじゃない。オレ達の仲間だろ…)
 足を止めたコロンをいぶかしむ石の精霊。
石の精霊「…どうした?」
コロン「あたしは―――…感情を持たない石の精霊……それがあたりまえなのかもしれない。でもね……あたし“淋しい”よぉ、火鳥ィ…!!」
 それを聞いた火鳥、声だけでもコロンに届けとばかりに叫ぶ。
火鳥「コローーン!!」
 その声にコロン、振り向く。
コロン「火鳥ィィィィーーっ!!」
 コロン、火鳥の元に走ってくる。2人の再会を見つめる石の精霊。
石の精霊「…どうして?どうしてそこまで人間と一緒にいたいのだ…!?私には…わからない…」
 膝をつく石の精霊、そして丘神石が目映く光りだすと共にあれほど激しかった地鳴りも止まる。
火鳥(地震が…止まった!?)
月夜「私達…助かったの?」
 部長、何かに気付いたらしく、
部長「ああっ!!丘神石が…浮かんでいる!!」
 よく見ると、いつの間にか夜になっていた空に、丘神石と石の精霊が浮かんでいる。
月夜「ひょっとして…丘神石が私達を助けてくれたの?」
 その時、石の精霊の体が光りだし、光の玉が火鳥たちの方にやってくる。
部長「こ…この光は一体…?」
月夜「…待って!何か…映ってる。これは…丘神石と昔のコロンちゃん、それに―――…もう一人?」
 光の玉の中の映像が段々鮮明になってくる。
部長「この格好…もしかして!丘神石を生み出した…祈祷師さんではっ!?」
火鳥「じゃあ…これは、過去の映像(ビジョン)っ!!」
 過去の映像から声もまた聞こえてくる。丘神石の上で一人佇む過去の石の精霊に対して、
祈祷師「石の精霊よ!あなたはいつの日か…霊的土地の力の消滅と共に役目を終えて消えてしまうでしょう。けれど…一つだけあなたが生き続けることができる道があるのです。」
祈祷師「普通の人間には見えないあなたを見つけてくれる人間が現れて、その人間と感情のないあなたが…深い心の絆で結びあうことができれば、あなたは真の感情という名の無限の力を得て…霊的土地の力なしに一人の精霊として生き続けることができるでしょう」
 火鳥とコロン、顔を見合わせる。
火鳥「え…!?」
火鳥(過去から来たコロンが言っていた話と…違うっ!?)
石の精霊「―――…そう。私はお前達に嘘を教えた」
 石の精霊の声が聞こえると共に、光もまた消える。
石の精霊「どうしても…未来の自分を完全な石の精霊に戻したかったのだ。なぜなら…この丘の霊的土地を封印することだけが、石の精霊(わたし)が生きた…唯一の証となるから」
石の精霊「せめて最後まで役目を立派に果たして…石の精霊が孤独に役目を果たしてきた…長い長い年月が無意味でなかった事を証明したかった!丘神石が私を未来(ここ)に送ったのも、私と同じ理由のはずだ」
 その時、どこからともなく声が聞こえる。
??「それは違うぞ…石の精霊よ」
火鳥「丘神石が…しゃべった!?」
丘神石「50年前の過去よりあなたを未来へ送ったのは…自分が遠い将来―――…こんなにもあたたかい人間達と、素敵な感情を共有できる事を…どうしても教えたかったからなのだ」
石の精霊「!?」
 石の精霊、火鳥たちのほうを振り向く。

丘神石(わたし)とともに…100年間封印の役目のためだけに石の精霊は生きていた
特に50年前のあなたは丘神石が知る100年の歳月の中で…もっとも孤独な時間を送った石の精霊だった
そんなあなたに未来の自分が報われることを知ってもらいたい…
それが…丘神石がただの石に戻る前にできる、せめてもの恩返しだと思ったのだ

丘神石「未来の自分がこうして最後に人間と…深い心の絆で結ばれることを知ってもらい、あなたの孤独な役目の日々に…ぬくもりを与えたかったのだ」
石の精霊「―――…よくわからない。わからないけど…なぜだろう?胸のあたりが…とてもあたたかい!!」
 それと共に石の精霊の姿も消えていく。
部長「きっ…消えたのだ!!」
丘神石「案ずる事はない―――…丘神石の最後の力で…彼女のいた50年前の世界へ戻したのだ。さあ…霊的土地の力も、今まさに尽きようとしている」
 空に浮かんだ丘神石が崩れ始めていく。
火鳥(丘神石が…崩れていく!!)
丘神石「急いで学校(ふもと)の丘まで避難しなさい」
 それと共に再び地震も起き始める。
部長「また…地震が始まったのだ〜〜〜!!」
丘神石「裏山が完全に崩れ去ってしまう前に…早く…」
 コロン、別れを惜しむように涙ぐみながら叫ぶ。
コロン「あう〜〜〜っ!丘神石ィー!」
丘神石「さらばだ…石の精霊よ…これからは自分自身のために…その素敵な人間達と末永く暮らしなさい」
 空に浮かんだ丘神石、崩れ去っていく。それとともに裏山も崩れ去っていく…
 
翌日…一夜にしてなくなってしまった裏山のことで街中は大騒ぎだった

 放課後の校内、部室前の渡り廊下にて。火鳥、月夜、コロンの3人が今回の事件を振り返っている。
月夜「いいお天気…なんだか昨日のことが夢みたいね」
コロン「あう!!」
 火鳥、何とはなしに呟く。
火鳥「―――…あの、過去に帰っていった石の精霊はこれからまた50年間も…独りぼっちですごく淋しいだろうね…」
コロン「ううん…そんなことないと思う…」
 コロン、火鳥と月夜の腕をとって引き寄せ、
コロン「だって…50年後には大好きな火鳥たちと出会えるってわかったんだもん!きっと…今から楽しみな気持ちで胸いっぱいに違いないよっ!」
 火鳥と月夜、お互いに微笑みあう。
火鳥「…そっか!!」
月夜「でも…霊的土地がなくなっちゃったってことは…もう…不思議事件は起こらないのよね…浪漫倶楽部も淋しくなっちゃうわね!」
コロン「あう〜〜!さみしいのだーっ!!」
火鳥「それは…どうかなぁ」
月夜「えっ?」
 その言葉の後、ものすごい足音と共に部長がやってくる。
部長「みんな!不思議事件なのだ!!」
月夜「ほ…本当ですか部長っ!?」
部長「体育館裏で空飛ぶネコが現れたそうなのだ。霊的土地はなくなってしまっても、我々に休む暇はないのだ!なぜならこの世の中にはまだまだ…我々の知らない不思議が、いーっぱいあるからなのだぁ!!」
火鳥「そして…それを解明するのが…オレ達浪漫倶楽部なんですよね!!」
部長「その通〜〜〜りっ!さぁみんな…体育館裏へ急行なのだぁ―――!」
コロン「あう〜!!」
 火鳥、コロン、部長、月夜の4人は体育館裏へと走り出していく。

そして…いつも通り、ボク達の素敵な毎日が始まるっ!!

(fin)

inserted by FC2 system