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REBUS(岩佐あきらこ)
最終話 想い

(始めに)
漫画版「REBUS」はゲーム版のラクリマルートを元にしてますが、微妙に違う部分があり(例えばトキサルートの登場人物が出てこないなど)、またラクリマ編17章で終わりのため、その後の展開はゲーム版をプレイしてお楽しみ下さい。

(登場人物)
ラクリマ…主人公。神官戦士であったが後に異端審問官に任命される。信仰厚く真面目ではあるが時にそれゆえに盲目的になることも。
クーン…ラクリマに好意を抱く騎士見習い。純粋で生真面目な性格。
トロイ…ラクリマの仲間の文法士。皮肉屋で口は悪いが物事を客観的に見ている。
エレ…シノン伯の娘。ワガママで気が強いがラクリマたちとの旅の最中でその心にも変化が生じる。
バンドール(カイナス)…反乱軍アクエルドの参謀。正体はラクリマの父・カイナスであり、ある目的のために名を偽りアクエルドに加担していた。
ラグルゼット…アクエルドの総司令で過激派の文法士。
サン=サラディアート…アクエルドの党首でハーフエルフ。自分が君臨する新世界を作ろうと画策している。
モナ…サンの双子の妹でハーフエルフ。兄とは違い人間たちを信じようとする心優しい性格。ラクリマに「無」のオリジナルを託す。
カリス…異端審問官で、アクエルドに幹部として潜入していた。
バクステール(名前だけの登場)…ラクリマの元恋人で異端審問官。ラクリマたちと行動を別にし、サンを「死」のオリジナルを用いて倒すのだが…

(本文)
 ラクリマとバンドールの最後の戦いが始まろうとしていた。
 片や異端を裁く為に異端審問官となった娘、片やある目的のために異端となることを自ら選んだ父。2人は剣を構え対峙する。

クーン(戦いが始まってしまう…どうすればあの二人の争いを止められるんだ…!?)
トロイ「クーン、戦うことに集中しろ!!こうなっちまった以上もう遅い!!」
クーン「だけど…」
トロイ「相手は元異端審問官なんだぞ!余裕かまして戦える相手じゃねえ!!」
エレ「トロイ!何か策はないの!?方程式は解けたんじゃなくって!?」
トロイ(まったく策士失格だな…今、俺らにできることはラクリマを守ることだけか…)

バンドール「行け…!」
 バンドールは幻獣・ファイナスを想造してくる。ラクリマ、クーン、トロイはそれに対し剣やカルティアを構え応戦し始める。ラクリマはカルティアを取り出し、法術を放つ!
ラクリマ「流星岩(メテオ)!!」
 クーンの剣がファイナスを倒す。しかしバンドールはカルティアを無言で取り出す。
バンドール「………」
 再び幻獣が想造される。
トロイ(チッ、さすがだぜ。倒してもすぐ次々に幻獣を想造してくる。いつまでも幻獣を相手にしてても埒があかねぇ…やっぱ親父さんを倒すしかねぇのか!?)
ラクリマ(バンドールが使うのは幻獣の中でも最強のファイナス…全てを相手にしていてはこちらの体力が消耗してしまう)
 ラクリマは隙をつき、術者であるバンドールの元に駆ける。
トロイ「……!!」
 ラクリマの真意を悟ったトロイ、叫ぶ。
トロイ「ラクリマは中央突破する気だ!クーンとエレはラクリマをフォローしろ!幻獣どもは俺がどうにか抑える!!」
エレ「わかったわ!!」
 ラクリマを阻止しようとする幻獣たちがクーンの剣、エレの法術により退けられていく。
クーン「!!」
 クーンが気が付くと、バンドールに肉薄したラクリマがバンドールと鍔迫り合いを始めていた。ラクリマたちも戦いの最中で成長したが、元神官戦士で異端審問官でもあるバンドールの前に劣勢となる。
クーン「ラクリマ…!!」
 クーンが法術を放つ。元々カルティアの扱いには不得手なため弱い風程度しか放てなかったが、バンドールの武器を叩き落す。
 その隙を逃さずラクリマはバンドールの左腕を斬りつけ、顔を狙うがその剣は頬を掠め、壁に突き刺さる。バンドールの剣が地面に落ちる。
バンドール「…………ラクリマ…強くなったな…」
 バンドールが戦意を喪失したことで幻獣たちも消えていく。
ラクリマ「…何か言い残すことはありますか?」
バンドール「不正が不正によって裁かれるくらいなら不正が行われているほうがいい……私の言葉を憶えていてくれて嬉しかった…」
ラクリマ(忘れるわけがありません…お父様が残してくれた言葉なのよ…)
バンドール「ラクリマ、揺らいではいけない。今、目の前にいる異端者を倒せ……!!さぁ、私を斬り信念を貫くのだ!!」
 ラクリマ、剣を抜き放つ。
クーン「…ラ…」
ラクリマ「お父様!!覚悟!!」
クーン「ラクリマ、駄目だよ!!」
 ラクリマとバンドールの前に割って入るクーン。
クーン「自分の父親を斬ったりしたら…絶対に後悔するよ!!」
ラクリマ「そこをどいて…どきなさいクーン!!」
クーン「ラクリマは本当にお父さんを憎んでいるわけじゃないだろ!?」
ラクリマ「それは関係ないわ!!私は悪を斬らねばならないのよ!!」
クーン「確かにラクリマのお父さんは罪を犯したかもしれない………でも子が親を手にかけることが正しいとは思えないよ!!」
ラクリマ「私は非常な女よ…どかなければあなたも斬ります!!」
エレ「そんなことできないクセに!!」
 エレもクーンの横に並び、ラクリマを止めようとする。
エレ「前にアタシを叱った時にアンタは命や人の想いの大切さを教えようとしたじゃない!!あの時の言葉は嘘だったの!?」
ラクリマ「嘘ではないわ…でも異端者を罰することは私の使命なのよ」
エレ「本当に大切な人を失ってまで使命を守ることが大切なわけ!?お父様を倒して一番悲しむのはラクリマじゃなくって!?」
ラクリマ「それが私の宿命よ…なんであれ不正は許されないわ…」
クーン「ラクリマがお父さんを斬ったら…僕は君を許せないよ…」
エレ「アタシもよ…」
ラクリマ「……では二人は私に不正を犯せというの…?」
トロイ「いや3人だ。俺もクーンとエレの肩を持つぜ…」
 トロイもいつもの斜に構えた態度もどこへやら、真剣な表情でラクリマを止める。
ラクリマ「トロイ…でも誰かが不正を問わなければこの世界は救われないわ…」
トロイ「まぁ聞けよ。例の言葉には続きがあるんだぜ?ガキの頃よく説教されたもんさ…不正が不正によって裁かれるくらいなら、不正が行われているほうがいい…愛なき想いで不正を正しても、人の想いは救うことができない…」
ラクリマ「愛なき想いで…」
トロイ「おめぇが親父さんを斬って…人の想いが救われるとは思えねぇぜ…」
エレ「やめようよラクリマ…悲しいのはアタシ…嫌だもの…」
クーン「ラクリマ…剣をしまってくれよ…」
 仲間たちの真摯な想いがラクリマのかたくなな心を動かし、剣は手から地に落ちる。
バンドール「ラクリマ…良い仲間を持ったな…」
 優しき父の表情を見せるバンドール…いや、カイナス(ここからは「カイナス」という表記にします)。ラクリマの頬を涙が伝う。
ラクリマ「…………お父様……!!」
 カイナスの胸に飛び込み、泣き出すラクリマ…

 そして数刻の後。
トロイ「…こっちはこれで一件落着だな」
クーン「これからどうする?あと残っている幹部は頭首と総司令だけど…」
トロイ「頭首はバクが倒しに行ったんだろ?となると総司令か…」
カイナス「その事で頼みがある…ラクリマ、聞いてくれるか?」
ラクリマ「はい」
カイナス「ペンタグラムの大聖堂へ行ってほしい。あそこには「天」のオリジナルがある」
ラクリマ「それは…「地」の対になるものですか?」
カイナス「そうだ。ペンタグラムには反乱軍に加担していた内通者がいる。もし天が想造されたらどんな影響があるかわからない――…おそらくエデンの落下と同等以上の悲劇が起こるだろう。それを未然に防いでほしい…」
 カイナスは立ち上がる。
ラクリマ「わかりました…お父様はこれからどうなさるのですか?」
カイナス「私は自らのけじめをつけにいく」
 カイナスはラクリマたちに背を向ける。
ラクリマ「! お父様、待って…!」
 カイナスは振り向き、こう告げる。
カイナス「心配するな。後から私もペンタグラムへ行く。大聖堂で落ち合おう」
 その表情には「必ず戻ってくる」という事を確信させる物があった。

 文法院の廻廊。カリスとモナが歩いている。
カリス「どういうことなの?まだサラディアートの魔力を感じるって…」
モナ「私にもわかりません。ただあちらの方から――…遠くから兄様と同じ魔力を感じるのです…」
カリス「そんな…彼はバクステールが命を賭けて倒したのよ?それが…」
 カリスたちとラクリマたちが鉢合わせする。
カリス「ラクリマ!!」
ラクリマ「カリス殿!!それにあなたは…」
カリス「ラクリマ…父親との決着はついたの?」
ラクリマ「はい。みんなのおかげでよい形で終わりました」
カリス「そう…」
ラクリマ「カリス殿は何故ここに?」
カリス「ええ…そのことなんだけど、頭首サラディアートを倒しにきたのだけれど…まだ決着がついていないようなの。そのために今からモナの向かう所へ行くつもりです」
モナ「兄様と同じ魔力の波動をあちらの方から感じるのです。それが兄様本人かどうかはわからないけれど…このまま放ってはおけません」
 モナが指差したのは遥か西、ペンタグラムの方であった。
クーン「あっちって…西…?もしかしてペンタグラムの方じゃ…」
トロイ「だとしたらヤバくないか!?あそこにある「天」のオリジナルを使われちまうかもしれねえ!!」
ラクリマ「ならばなおのこと早くペンタグラムへ向かいましょう!!」
モナ「私も同行します…!!今度こそ兄様を止めなければ…」
カリス「私も行くわ……異端審問官として私には最後まで見届ける義務があります」
ラクリマ「ええ…!是非力を貸してください」

 文法院・ラストルーム
 ラグルゼットとカイナス。昔からの宿敵同士にして仮初の同盟者であった2人が今、対峙していた。
ラグルゼット「バンドールか…」
カイナス「今の私は参謀のバンドールではなく、異端審問官のカイナスだ…夢の終焉を告げにきた」
ラグルゼット「…そうか、休戦は終わりということか…生きる答えを見つけたらしいな」
カイナス「自分の愛しているものが何か、十数年かかって気がついた…」
ラグルゼット「――私は研究者として生き…夢を叶えたかった。…それだけだ。…だがその結果がこれだ…生きるということは残酷なものだな…」
カイナス「迷い…苦しみあがきながらも、自分の信じる道を進んだ…人らしく生きた証だ。…我々はよくやったさ」
ラグルゼット「そうだな…」
 政敵同士の感傷的な会話は終わり、ラグルゼットはカルティアを取り出す。
ラグルゼット「――では、十数年来の勝負をつけよう。我が宿敵にして、我が友よ――…」

 一方、ペンタグラムへと向かうラクリマたち。
ラクリマ「………そう、バクが…」
カリス「彼…最後まであなたの事を気にしていました。あなたに謝っていました」
ラクリマ「彼は…彼の求める真実を見つけることができたのかしら…」
カリス「……そう願いたいわね…」
ラクリマ「モナさん…私は結局「無」のオリジナルを使わなかったわ」
モナ「あなたがそう決めたのならそれでいいのです。使わないのも一つの選択…あれはあなたに託したものだから…」
 ラクリマが「無」のオリジナルを使うときはもう少し先の話ではある。その事をまだ彼女は知る由もないが…
トロイ「ラクリマ!見えてきたぜ、ペンタグラム大聖堂だ…!!」

 大聖堂の地下室。サラディアートが一人膝を抱え物思いに耽っている。
 バクステールが「死」のオリジナルで倒したのはサラディアートの分身に過ぎなかった。
サラディアート(これで終わりだ…もうすぐ終わるんだ。ずっと昔――…何も知らない頃は幸せだった……)
 彼の脳裏にはまだ幼い頃、モナと過ごしていた日々の記憶が浮かぶ。
サラディアート(帰ろう、モナ。あの頃へ…僕達が幸せに暮らせる二人だけの世界へ…)

 一方ラクリマたち。ついにペンタグラム大聖堂の前に到着する。
ラクリマ「いよいよこれが最後なのね…」
トロイ「来る所まで来たって感じだな…」
ラクリマ「クーン」
クーン「なんだい?ラクリマ」
ラクリマ「あの時の返事…全てが終わってから伝えるわ」
クーン「あの時って――」
 ふと回想してしまう、ノルディアへの旅の直前にラクリマに思いを吐露した時の記憶。クーンは真っ赤になってしまう。
カリス(…若いわねぇ…)
トロイ(緊張感に欠ける奴…)
ラクリマ「だから…生きて帰りましょう。誰一人欠けることなく、みんなで…!!」
エレ「もちろんよ!!」
トロイ「俺はまだ死ぬ気はしねえしよ」
クーン「全力を尽くそう。今までしてきたように…!!」
ラクリマ「さあ、行きましょう…!!」
 そしてラクリマたちは決戦の場所へと向かっていく。

(完)

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