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無敵看板娘 第185話「本日も営業中!」


―花見町病院―
真紀子は過労で倒れ、病院に担ぎ込まれた。……一週間が過ぎた。
真紀子は病室で看護師の女性と話をしていた。
「えぇっ? じゃあ今… 娘さんが一人でお店をやっているんですか?」
「ああ 「不可能だ」って止めたんだけどねぇ…」
「過労で倒れてしまうような仕事なのでしょう? 心配ですねぇ」
「いやあ それがどうやらちゃんやれてるみたいなんだよ」


「ちわ――鬼丸飯店でーすー 食器回収にあがりましたー!」
美輝は出前常連客の遠藤家に来ていた。家から若菜の母・真由美が出てきた。
「あら鬼丸さん!」
「毎度――」
「聞いたわよ! おカミさん倒れたんですってねぇ」
真紀子が倒れたことはすでに町中に知れ渡っているようだった。
「お店はどうなってるの? やれてるの?」
「仕事は全部私がやってるんですよ」
「え じゃあ… このラーメンも自分で作ったの?
 すごいじゃない! とても美味しかったわよ!」
「へへっ! あの鬼丸真紀子の娘っスよ!
 やるときゃやるんですって!」


 母さんが倒れてから
 一週間が経ちました
 病院で寝ている母さんを見た時はさすがにびっくりしましたが
 今ではすっかり立ち直り元気に仕事をしています
 私一人で店を開けるのかとさぞ心配でしょう
 大丈夫です
 私一人でもやれてます!
 昨日は30軒もの出前を無駄なくこなせたし
 その前は30人もの団体客をさばききりました
 ホントかな? と思ったでしょう
 ホントですよ 何をかくそう私は目覚めたのです

「目覚めた?」
病院のベッドの中、美輝からの手紙を読んでた真紀子は思わず声をあげた

 寝ている母さんを見たときに私に芽生えたのはショックだけではありませんでした
 私一人でも店を支えてみせる!!
 だから母さんはゆっくり体を休めて帰ってきて下さい
 大勢のお客さんと私の笑顔で
 迎えてあげます―――

「…いい娘さんを持って幸せですね…」
手紙を読み終えると、看護師の女性が涙をこぼしながら言った。
「まぁね…」
真紀子も満更ではなかったようだった。


ガラ
「いらっしゃ―――い!」
入ってきた客は若菜の父・佑介だった。
「おやー 若菜ちゃんのお父さん!」
「や ラーメン一丁!」
「あいよーっ!」
「お店繁盛してるね 安心したよ」
「そりゃ――そうですよ!
 母さんがいないからって店を閉めると慌てて退院するだろうし
 だからといって半端にお店を開けて赤字を出してもいい事は一つもない」
美輝は拳を突き出し、ぐっと握りこう続けた。
「そう! つまりもとから私一人で繁盛させるしか道はなかったんスよ
 すべては母さんを安心させる為にね!」
「美輝ちゃん こっちチャーハンきてないよ―――」
「あ はい ただいま〜〜〜」
美輝は慌てて答え、また佑介の方を向いた。
「…というワケでラーメンは少し待って下さい」
「頑張るんだよ おカミさんのためにも!」
佑介はぐっと親指を立てた手を美輝の方に向け激励の言葉を送った。
「合点!」
美輝もそれに答えた。

バタン
美輝は厨房に戻った。戻った先には……
「というワケでしっかり働けやお前等――!」
「「「納得いかーん!!」」」
厨房では明彦はチャーハンを炒め、めぐみは野菜を切り、勘九郎はスープを煮込んでいた。
「オイ太田 手が止まってるぞ電池切れか!?」
「ウルセ――こちとら不眠不休だ!」
そう、美輝は自分一人で店を運営してはいなかったのだ。
明彦、めぐみ、勘九郎の三人を強制労働させていた。
「コラ西山!もっとテキパキ動かんか!」
「鉄球が重くて動けないんだニャ!」
勘九郎の足には脱走防止用の鉄球がつけられている。
「「「つーか自分で作れ!!」」」
「私のラーメンが客に出せるシロモノかどうか試食してみるか?」
そう言って美輝は作ったラーメンを三人の前に出した。
「嘘です嘘です」
「なんか動いてるー!」

(くそ―― 一人で店を支えようとしていたアイツに感動して)
(協力しようとした俺達が馬鹿だったニャ!)

「母さん 安心して養生してね
 私一人でも店は繁盛しているよ…」
美輝は胸の前で手を合わせ、こうつぶやいた。
「あんな事ヌケヌケと言わせていいのか!?」
「鬼だ」「信じられない!」
明彦たちは臨戦態勢に入った。
「もう我慢できん! 今まで我慢してたのが不思議だ」
「あの暴君をギャフンと言わせてくれる!」
美輝もそれに答えるように構えた。
「よかろう 私の経営方針に異論を唱える奴はねじふせてくれる!」
「てめーのは経営じゃねえっ!!」
客席がざわめき始めた。
「いつものが始まったぞ!」
「待ってましたー!」
「やったれ美輝ちゃーん!!」

「おや 美輝の活躍を見たくてとっとと抜け出してみたら なかなかどうして盛況じゃないか」
真紀子は店内で美輝が暴れていることも知らずに感心していた。
「さてさて 中はどうなっているのやら」
真紀子が店内に入ろうとしたとき、美輝は真紀子の気配を察知した様だった。
(気配!!)
「母さん!? 帰ってきたのかい?」
美輝は慌てて店の入り口に駆け出した。
ガスのチューブがはずれ、ガスが漏れているとは知らずに……
ガラっと店の戸を開いた。
「母さん!」
「美輝! ちゃんと一人で―――」
真紀子がそう言った時だった。漏れていたガスが爆発したのだ。

ボン

と大きな音がして店は滅茶苦茶になった。
美輝と真紀子は何が起こったのか理解できず、固まっているようだった。
「違う! これは…えーと なんでもないから!」
「なんでもないわけあるか―――!」
美輝の言い訳に真紀子は即答した。
「説明しろやー!」
店の残骸の中、真紀子は美輝の襟首をつかみ、ガクガクと頭をシェイクしている。

結局 鬼丸飯店 「おカミさん退院後」に休業
後日 仮設「鬼丸飯店」

「…本来ならあの時点でクビだけどさ
 母さんの為に頑張ろうとした「心意気」だけは買ってやるよ
 でも今度ヘマしたらもう許さないよ!」
真紀子は美輝に念押しし、いつもどおり接客していた。
「そこんとこしっかり覚えときな 美輝!」

 鬼丸飯店は――

「ウィッス!」
美輝は元気に答えた。
「んじゃ 出前いってきまーす!」

 本日も営業中です!!

美輝が戸に手をかけた瞬間、あくまで仮設の店の壁がバタンと倒れてしまった。
「あ――っ!?」
「ドアは静かに開けろって言っただろうが! クビ!」
「うそーん!」




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