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三つ目がとおるの最終回
巨大怪植物スーパーボルボックを従えて街を荒らし回る三つ目の少女モエギに、額の眼を開放した写楽保介が挑む。
モエギ「久しぶりだな……写楽!」
写楽「モエギ……」
明日への誓い
和登「写楽くん!」
犬持・ヒゲオヤジ「保介!」
写楽の友人・オサムとタカシは、三つ目となった写楽の姿を見るのは初めてである。
オサム「あ、あれが写楽くんだなんて……」
タカシ「信じられないよな……」
和登「でも……あれも写楽くんなのよ」
モエギ「憶えてるだか、写楽? オラが持ち去ったボルボックの種を……オラ、そのたった一つの種を持って、旅を続けただ。そんなオラを拾ってくれたのが、秘密組織デビルコンツェルンだった……オラは組織の命令で、世界中の三つ目族の遺跡を調査しただ。そしてメキシコのピラミッドに三つ目族の遺産、生体強化細胞が眠ることを突き止めただ。その細胞によって誕生したのが、このスーパーボルボックなんだ!」
犬持「な、何ということだ……三つ目族の遺産がとうとう悪の手に!」
写楽「ハッハッハッハ! 上出来だぜ、モエギ! こいつさえあれば、人間を滅ぼし三つ目王国を作るなんざぁ、わけもないぜ!」
和登「しゃ、写楽くん!?」
ヒゲオヤジ「何てことを言いやがんでぇ、あのバカ!」
犬持「保介……」
写楽「ただし! やたらに人間を殺すな! 復活した三つ目王国での労働力がなくなっちまうからな。ハッハッハッハ!」
モエギ「変わらないだな、三つ目」
写楽「!?」
モエギ「写楽……おめぇがそんなバカげた考えを持つ限り、おめぇもオラの敵だ!」
写楽「何ぃ!?」
和登「写楽くんが……敵!?」
写楽「モエギ! 僕がお前の敵とはどういう意味だ! お前、三つ目族の誇りをなくししまったのか!?」
モエギ「三つ目族の誇りなんてオラにはねぇだ。今のオラにあるのは、ボルボックの心……!」
写楽「ボルボックの心……?」
モエギ「二つ目も三つ目も関係ねぇ。自分勝手な理由で地球を汚した人間ども、今こそ思い知るがいい!」
モエギがスーパーボルボック内部に吸収される。
街中を荒らし回っていた無数の触手がボルボック本体に引き込まれ、激しい光を放ち始める。
まるで地震のように地面が激しく隆起する。
写楽たち「うわぁぁ──っ!!」
タカシ「オサムぅーっ!」
やがて激しい光と共に、スーパーボルボックが忽然と消える。
あとに残ったのは巨大な穴。スーパーボルボックは地面へもぐり、どこかへと去ったらしい。
デビルコンツェルン本部要塞の人工島。
文福「ききき、消えた!? スーパーボルボックが消えちまった!? モエギの奴ぁ一体何考えてやがんだ、まったくもう! おい、早く探し出せ!」
兵士「で、ですがしかし……」
文福「しかしもカカシもあるか! 全力で探し出すんだ!」
ケツァル「あの小娘……!」
スーパーボルボックの暴挙で廃墟同然となった街中。
写楽「凄いパワーを持ったもんだぜ。スーパーボルボックか……あいつを手懐けさえすれば!」
和登が瓦礫の陰から立ち上がる。
写楽「わ、和登さん!」
和登「良かった……無事だったのね」
よろける和登に、慌てて写楽が駆け寄る。
写楽「和登さん!? 大丈夫か、しっかりしろ」
和登「僕なら平気だよ……君の無事な姿を見て、ほっとしただけだから……」
写楽「和登さん……」
オサムとタカシもどうやら無事のようである。
写楽「オサム、タカシ! ……はっ、父さん、おっちゃん……父さぁ──ん!! おっちゃぁ──ん!!」
和登「ヒゲオヤシさ──ん! 犬持教授──!」
ヒゲオヤジ「和登さーん、ここだ、ここだぁ!」
和登「ヒゲオヤジさん、犬持教授! ……犬持教授!?」
ヒゲオヤジは無事だが、犬持教授は大怪我を負っている。
犬持「ほ、保介……許してくれ、わしゃ、研究などやめればよかったのに……」
ヒゲオヤジ「犬持の大将、しっかりしろい!」
写楽「父さん……」
犬持「保介……すまん、お前を辛い目に合せてしまって……保介、すまん……許してくれ……」
写楽「父さん……」
ヒゲオヤジ「何ぃ謝ることがあるんでぇ大将! 保介の野郎に謝る必要なんてありゃしねぇ!」
写楽「おっちゃん……」
ヒゲオヤジ「来るな……来るな、来るな、来るな、来るな保介ぇ!! お前には犬持の大将を父親と呼ぶ資格なんざぁねぇ! 三つ目王国だとぉ!? 人間をこき使うだとぉ!? ふざけるんじゃねぇい!!」
写楽が犬持たちに歩み寄ろうとする。
ヒゲオヤジ「来るんじゃねぇってのがわかんねぇのかぁっ!!」
写楽「……」
ヒゲオヤジ「何とか言ってみろ、このスットコドッコイ!」
犬持「す……すまん、保介……保介、保介……逃げなさい、保介……!」
ヒゲオヤジ「大将、大将……! 保介、お前まだそんなとこにいやがんのか! とっとと消えちまいやがれ!」
何も言い返せず、写楽が背を向けて走り去る。
和登「しゃ、写楽くん!? 待って、写楽くん!」
ヒゲオヤジ「和登さん、追うこたぁねぇ!」
和登「そ、そんな……ひどい……ひどすぎます! 写楽くん、三つ目族の王国を作ろうなんて、本気で思ってやしないわ! なぜ信じてあげないんです……ヒゲオヤジさんは、写楽くんの気持ちがわからないんですか!? 僕は……僕は写楽くんを信じます! さよなら!」
和登も写楽を追って走り去る。
オサム・タカシ「和登さん……」
ヒゲオヤジ「信じてるよ……信じてるけど、あいつの本当の気持ちがわからないんだよ!」
デビルコンツェルン本部要塞。
文福「くそぉ〜! 一体どこへ消えちまったんだ、スーパーボルボックは……モエギの奴、何を考えていやがるんだぁ〜! 探せ探せ探せ! 徹底的に探し出せぃ!」
突然、要塞が大きく揺れる。
ケツァル「おぉ!?」
文福「な、何だぁ!?」
壁面をぶち破り、無数の触手が現れ、兵士達を襲い始める。
文福「スーパーボルボック!?」
港で海を見つめる写楽。
ヒゲオヤジに言われた言葉が胸に蘇る。
(ヒゲオヤジ『お前には犬持の大将を父親と呼ぶ資格なんざぁねぇ! とっとと消えちまえ!』)
和登「写楽くん」
振り返ると、和登が立っている。
写楽「和登さん……」
和登「(写楽くん……) 僕は君を信じてるよ。だって、僕は君の恋人だろ?」
写楽が照れ臭そうに笑い、決意を固めたように天を仰ぐ。
写楽「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク! いでよ、魔弾球──!!」
魔弾球が出現。写楽が乗り込む。
和登「待って、写楽くん! 僕も行く!」
和登も魔弾球に飛び乗る。
和登「さぁ、行こ! スーパーボルボックを倒しにさぁ!」
写楽「……ちぇっ、しょうがねぇなぁ。行くぜ、魔弾球!」
デビルコンツェルン本部要塞。
スーパーボルボックの前に、もはや要塞は崩壊寸前である。
ケツァル「おぉぉ!?」
文福「たたたた、助けけてくれぇ──っ!!」
デビルコンツェルン本部要塞の傍らにスーパーボルボック本体が出現する。
写楽たちもようやく到着する。
和登「あれは!?」
写楽「よし、急ごう」
既に瓦礫の山となった要塞島に、2人が降り立つ。
和登「何なの? この島……」
スーパーボルボックのもとにモエギが現れる。
モエギ「デビルコンツェルンの本部要塞……天と地を汚したくせに、そ知らぬ顔で暮している人間ども、ボルボックの怒りを知るといいだ!」
写楽「モエギ……お前!」
モエギ「忘れたか、写楽? 三つ目族の滅びたわけを! 同じだ……同じことの繰り返しだ」
写楽たちとモエギが対峙している一方、瓦礫の山の中から、ケツァルがふらふらと姿を現す。
モエギ「写楽、おめぇも三つ目王国とか作って、同じ過ちを繰り返そうとする……オラ前にも言ったど! 自然と仲良くする他、おめぇら人間の助かる道はねぇって! だのに、だのに……人間は地球に住む資格なんかねぇ!」
和登「だからって、人間を皆殺しにするなんて! みんなが……みんながみんな悪人とは限らないわ!」
モエギ「和登さん……もう、時間がねぇだ」
写楽「モエギ、お前本気なのか!?」
モエギ「本気だども!! オラ、地球を死なすわけにはいかねぇ!!」
ボルボックの触手が振り上げられる。
写楽「魔弾球──!」
触手が振り下ろされる寸前、写楽は和登と共に魔弾球に乗って飛び去る。
写楽「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク……いでよ、赤いコンドル!!」
写楽の手に赤いコンドルが出現。
襲い来る触手を切り裂きつつ、写楽が突進。モエギ目掛けて赤いコンドルを投げつける。
が、触手群がそれを受け止め、逆に写楽目掛けて投げ返す。
慌てて写楽が手で受け止めようとするが、赤いコンドルが猛スピードで飛び去り、写楽の手が摩擦で裂ける。
写楽「がぁ──っ!」
和登「写楽くん!?」
写楽「大丈夫……」
写楽の注意がそれた隙をつき、触手が魔弾球を捕らえ、地面に叩きつける。
写楽・和登「わぁぁ──っっ!!」
写楽たちが外へ放り出される。
すかさず触手が写楽を締め上げる。
和登「写楽くん!? ……なぜ? なぜなの? なぜ同じ三つ目族同士、同じ人間が戦わなくちゃならないのよぉ──っ!!」」
写楽「ぐわぁぁ──っっ!!」
和登「しゃ、写楽くん!?」
悠然と写楽を見下ろすモエギ。
その額を、ケツァルのライフルの照準が狙う……
銃声。
モエギ「あ……!?」
がっくりと膝をつくモエギ。
モエギ「なぜ……なぜだ……? オラ、間違ってねぇだ……なのに……オラ、死ぬだか……?」
モエギの身体が崩れ落ちる。
和登「モ、モエギちゃん!?」
ケツァル「あばよ、小娘……うぅっ!」
ケツァツもそのまま力尽きる。
モエギが死んだためか、写楽を締め付けていた触手がほどける。
和登「写楽くん! 写楽くん……大丈夫?」
写楽「こんなの……かすり傷さ……それより、モエギは……」
無数の触手が、モエギをいたわるように彼女を取り囲み、そしてスーパーボルボックの中へと取り込む。
写楽「モ、モエギ……?」
和登「モエギちゃんが、スーパーボルボックに……」
スーパーボルボックが光を放ち、ゆっくりと宙に浮かび上がる。
立ち上がり、スーパーボルボック目掛けて駆け寄る写楽。
和登「写楽くん!?」
ボルボック「まだ戦うつもりか……」
写楽「え……!?」
ボルボック「写楽よ……それほどまでにして三つ目族の王国を手にしたいのか……再び、あの過ちを繰り返すというのか……ならば私も戦う……愛する地球を守るために……そこに棲む友を守るために……人間を……人間を滅ぼす……」
写楽「ふ、ふざけるなぁ!」
ボルボック「守るべき愛する者がないお前は……永遠に私に勝てない……」
写楽「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇ──っ!!」
ボルボック「私には勝てぬ……」
写楽「魔弾球!!」
写楽が魔弾球に飛び乗り、スーパーボルボック目掛けて突進する。
ボルボック「守るべき者がないお前は……」
写楽の胸に、仲間達の言葉がよぎる。
(ヒゲオヤジ『三つ目族の王国だと!? 人間をこき使うだとぉ!? ふざけるんじゃねぇい!!』)
(犬持『保介、許せ……三つ目族の研究なんてやめればよかったんだ……』)
(オサム『写楽くーん!』)
(タカシ『写楽ー!』)
ボルボック「お前は私には勝てぬ……勝てぬ……勝てぬ……!」
(和登『僕は君を信じてるよ。だって僕は君の恋人なんだろ?』)
写楽「……和登さん!」
写楽を乗せた魔弾球が、ボルボックに突き刺さる。
和登「写楽くん!」
そのまま魔弾球がボルボック中心部を目指して突進する。
写楽「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク……我と共に来たり……我と共に……滅ぶべしぃぃ──っっ!!」
写楽が額の第三の目にありったけの念力を込める。
スーパーボルボックが赤熱化し始める。
和登「写楽くん……!」
写楽「僕は負けない……和登さん……父さん……おっちゃん……みんな……! みんな僕が……僕が……僕が守る!!」
スーパーボルボック内部から、写楽が外へ放り出され、地面に叩きつけられる。
和登「写楽くん!? 写楽くん! 写楽くん、しっかりしてよ、写楽くん……写楽くん!」
写楽「守る……守るんだ……みんなを……友達を……僕が……僕が……」
気を失いかけている写楽がうわ言を続ける。
和登「写楽くん……君……」
写楽「地球を滅ぼさないために……ぼ、僕は……お前の力なんか借りない……地球は……人間は……そこまで、バカじゃ……ない、さ……」
和登「写楽くん!」
うわ言を続ける写楽を抱いたまま、和登がスーパーボルボック目掛けて叫ぶ。
和登「お願──い!! あと百年……いえ、50年待って!! 確かに人間は愚かかもしれない、でも皆と力を合せて……僕たちがやれなくても、僕たちの子供が必ず! だから……だからあと少し時間をちょうだい! お願ぁい!!」
やがて、スーパーボルボックがゆっくりと降りてくる。
ボルボック「信じよう……お前を……写楽の言葉を……私は再び眠ることにしよう……花の種となり、地球と同化する……」
スーパーボルボック全体から、黄金色に光る粉が無数に舞い散る。
風に運ばれ、光る粉は犬持たちのもとにも届いている。
雲名「な、何だこれは……?」
オサム「綺麗だな……」
タカシ「うん……」
犬持「俊さん……?」
ヒゲオヤジ「あぁ……」
ヒゲオヤジが光る粉を手に取る。
ヒゲオヤジ「こ、こりゃあ種ですぜ! あン時と同じだ。ボルボックの種だ!」
犬持「種……?」
海の彼方でスーパーボルボックが種を振りまく様に、雲名警部が驚く。
雲名「み、見ろ! 水平線が光っておるぞ!」
犬持「雲名警部!」
雲名「お〜、犬持教授!」
ヒゲオヤジ「ありゃぁ、ヘッポコじゃねぇか!」
雲名「何ぃ〜、だからその呼び方はやめろって言っとるだろうが!」
犬持「保介、ありがとう……」
種となって消えてゆくボルボックを、和登が見つめる。
和登 (ありがとう……ボルボック……モエギちゃん……)
写楽「和登さん」
和登が声に振り向くと、写楽が意識を取り戻している。
ふらふらと立ち上がる写楽に、慌てて和登が駆け寄り、抱きとめる。
写楽「大丈夫だ、和登さん……ただちょっと、疲れただけさ」
ふと、写楽が何かに気づいたように、照れ臭そうに微笑む。
和登「ん……?」
写楽「持ってんだろ……絆創膏」
和登「え? えぇ」
写楽「貼ってくれよ」
和登「……!?」
写楽「貼れったら……」
スーパーボルボックの脅威が去り、街に平和が戻る。
草木の茂る通学路を、額の眼を絆創膏で塞いだ写楽と和登が駆ける。
(スーパーボルボックの声)
約束の時が来たなら
私は全世界に花を咲かそう……
その時、地球を飾る美しい花が咲くか
それとも、お前たちを滅ぼす花が咲くのか
私にもわからない
だが……
和登「行こう、写楽くん」
写楽「うん! ねぇねぇ、しりとりしながら行こうか?」
和登「うん、いいよ。じゃ、僕からね」
写楽「うん!」
和登「地球!」
写楽「う……海!」
だが……忘れるな……
それはお前たち次第だということを……
(終)