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MINDマインド ASSASSINアサシンの最終回


【解説】
本作品は週刊少年ジャンプに連載されていましたが、連載終了時点でも完結せず、その後も増刊号などに何度か掲載されました。ここでは連載終了時の最終話を一旦の最終回として紹介します。


#27 医者


梅雨時期、雨の朝。


主人公、奥森かずいが自宅に構える個人診療所、奥森医院。

かずいが朝食のテーブルで新聞に目を通していると、前回の事件以来居候しているFBI捜査官・ケネス久我山がネクタイを締めながら現れる。

久我山「あ お早うございます 奥森さん 毎朝早いですね」
かずい「久我山さんこそ……もう お仕事いかれるんですか」
久我山「ええ」
かずい「大変ですね 雨もかなりひどい降りですよ 明日の朝まではやまないみたいですし……」
久我山「いえいえ これこそ日本のツユって感じでしょ 私こーゆう日本の風情は大好きなんです」
かずい「はぁ…… お仕事の方 大丈夫ですか? なんだか思ったより複雑になってしまったのでは……」
久我山「そんな事ありませんよ どちらにせよ あれは大きな事件でしたからね 黒幕もああなったことですし 我々も ここぞとばかり徹底的に調べてます」

背広の上着を着込んだ久我山が、玄関へ向かう。

久我山「それじゃ私はそろそろ」
かずい「あ 朝食は……」
久我山「電車の待ち時間にでも 軽くパンとコーヒーで済ませますよ 奥森さんこそ あんな事件の後で大変でしょうけど お仕事がんばってください じゃ」

FBIとは思えない爽やかな笑顔を残し、久我山が出勤する。

かずい「なんだか心強い人ですね…… さてと…… 彼が出かけたということは…… そろそろ出て来ますね……」

ドアを開け、同居人の少年・虎弥太が現れる。

かずい「お早うございます 虎弥太 あれ 今日はめずらしく洋服に着が……」

虎弥太が恨めしそうな目で、かずいを見上げている。

かずい「今日はなんですか?」
虎弥太「別に」

虎弥太が食卓につく。

かずい「食欲もないですね どうしたんですか きのうは あんなに元気だったのに あ 分かりました また怖い夢を見たんですね? この前 たしかバルタン星人にむりやりピーマンを食べさせられる夢を……」
虎弥太「見てない
かずい「そ……そうですか……」

虎弥太が食卓を去る。

かずい「変ですね……別にどこも具合悪そうではないのに…… (反抗期でしょうか……)」


朝も過ぎ、診療時間。
待合室は1人の患者もいない。
診察室で、かずいが窓の外の雨を見上げる。

かずい「この雨では さすがに患者さんも減りますか……」

診察室のドアが開く。

かずい「虎弥太!?」
虎弥太「ちょっといい?」

虎弥太が椅子に就く。同居人である2人が、まるで医師と患者のように向かい合う。

かずい「さて…… どうしましたか?」

虎弥太が左右を見回す。

かずい「そんなに心配しなくても 誰もいませんよ」

虎弥太「あのね ぼくの記憶壊してほしいんだけど」

一瞬、かずいが言葉を失う。

かずい「な…… なんですか突然……」
虎弥太「本当だよ わけは言えないんだけどさ とにかく まずいんだよ」
かずい「わけは言えないって…… それじゃ 壊しようがないじゃないですか」
虎弥太「見ちゃったんだ ぼく」
かずい「見ちゃったって……?」
虎弥太「かずいの秘密」

かずいの口があんぐりと開く。

虎弥太「でも壊せないなら いいや」
かずい「ちょっ…… ちょっと待って下さい 虎弥太 なんですか ボクの秘密って
虎弥太「かずいも色々つらいね」
かずい「え?」
虎弥太「なんでもない」

虎弥太が診察室を去る。

かずい「もしかしてボクには…… Mindマインド Assassinアサシンだったという以外にも まだ秘密があったんですか……」


自宅の一室。
虎弥太が押入れを開けて座り込み、1枚の写真を眺めている。

虎弥太「うーん…… うーん」

いつの間にか、背後にかずいが立っている。

虎弥太「ギャァァァ──ッ

悲鳴が耳にキーンと響いたかずいが、両手で耳を押さえる。

かずい「な……なんて声を出すんですか……この子は……」
虎弥太「だって……殺し屋みたいに近寄るんだもん」

かずい「……で ボクの秘密って もしかして その写真に関係あるんですか?」
虎弥太「知らない」
かずい「……わりには しっかり後ろに隠してますね」
虎弥太「だって…… かずいが これを今までだまってたって事は 知られたくなかったって事でしょ?」
かずい「そりゃ人間 誰しも人に知られたくない事の 一つや二つは必ずあります でも今の時点でボクが虎弥太に知られたくないものは その押入には入っていませんよ」

沈黙が続く。

虎弥太「きれーな人だね」
かずい「?」
虎弥太「この人」

虎弥太が封筒を差し出す。無数に貼られたセロテープを剥がした跡がある。

虎弥太「こんな いっぱいセロテープでとめて大切にとってあったから とっても大事な写真なんでしょ」

かずい「!! う…… そ……それ 中……見てしまいましたか……」

紅顔するかずい。

かずい「その写真……大切も何も…… ボクが大学生の頃…… いいかげんピアスを指摘されるのがいやになって……隠すために髪をのばした事がありまして…… つまり……」

虎弥太の手にした写真は、肩まで髪を伸ばした美しい……女性?

かずい「……ボクなんです…… もっとも 声を出さなければ十人中十人に 女性とまちがわれていたので……この後すぐ切りましたけど クラスの連中がおもしろがって 何枚も写真を撮ったものですから 今でもこんなことが…… ん」

うつむく虎弥太。

虎弥太「ぼく……それ かずいの好きだった人かと思った…… でも ぼく かずいに好きな人いたって……それがこの人だって平気だけど……こんな風にしまってあったから 失恋しちゃったのかと思った 本当は すぐ誰なのか聞きたかったけど……」

かずいを見上げる虎弥太。

虎弥太「もし この人と別れた原因が ぼくだったら かずいの事 ぼくが傷つけちゃったことになるでしょ? だからそんなの聞けなかったし……なのにかずいは何もなかったみたいにぼくにやさしいし……本当はすごく悲しかったかもしれないのに……」

再び虎弥太が写真を見つめ、うつむく。

虎弥太「でも ぼくはかずいの事 なぐさめてあげられない いつもそばにいるのに 何も出来ないんだもん……」


夜。

かずいがそっと、虎弥太の部屋のドアを開ける。
虎弥太はすでにベッドで眠っている。

かずい「でもね 虎弥太…… キミの笑顔や何気ないひと言でボクは いつも救われているんです 何も出来ないなんて言いながら 精一杯気を遣ってくれますね…… この世の中の どこを探したってボクのしている事を知りながら あんなにあたたかくボクの帰りを待っていてくれる人はいません」

ずれている虎弥太の毛布を、かずいが優しく整える。

かずい「ボクが こんな力を使いながらも やさしい気持ちを失わずにいられるのは 虎弥太のおかげなんです」

優しさに満ちた視線で、かずいが虎弥太の寝顔を見つめる……


翌朝。雨が上がっている。

久我山「それじゃ 行ってきます」

奥森医院を出た久我山が、空を見上げて微笑む。

久我山「梅雨晴れか……」


奥森医院内の食卓。

虎弥太が現れる。
昨日とは一変、いつもの如くパジャマ姿のまま、だらしなく眠そうな目をこすっている。

かずい「お早うございます 虎弥太」
虎弥太「おはよう……」
かずい「あいかわらず 久我山さんが出かけると出てきますね」
虎弥太「だって朝マラソンするって言うんだもん……」


奥森医院の診察が始まる。

かずい「次の方──」


患者「あの……外に……精神と記憶の相談って……」


奥 森 医 院
診療科目
内科・小児科・放射線科
※精神 記憶に関する相談うけたまわります
診療時間
AM9:00〜12:00 PM3:00〜7:00
土曜・PM5:00迄
日曜・祭日・木曜午後休診


(終)
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