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女神異聞録ペルソナ(上田信舟)
最終話 約束

(はじめに)
本来雑誌掲載時は第41話「再生」にて大人の事情により最後の決戦を描かれることなく終わりましたが、単行本8巻では描き下ろしで最終話まで描かれているので、その流れで記載します。

(最終回に至るまでのあらすじ)
ゲーム「女神異聞録ペルソナ」のセベク編に準拠している物語ゆえ、漫画オリジナルの部分を語る。
もう一つの御影町に到着して以降、主人公・藤堂尚也(とうどうなおや)の前に時折立ちはだかる尚也そっくりの少年。彼は自分を死んだはずの尚也の双子の兄・和也だと言い、尚也に対し敵意を隠そうともしない。
何とか退けるも、神取鷹久はコンパクトを手にし、現実世界に「デヴァ・ユガ」を出現させる。尚也達はそれを追って次元をワープするも、アキの手により雪の女王の力で氷の城と化した聖エルミン学園に飛ばされる。
学園に残っていたゆきの・アヤセと合流し塔の守護者と「夜の女王」を倒した尚也達の前に、仮面をつけた少年が現れる。ゆきの・アヤセを残し、デヴァ・ユガへとワープする尚也達7人。
デヴァ・ユガにて神取を倒し、麻希もこれまで飛ばされていた世界も園村麻希の想像の産物であることを聞かされ、尚也達は麻希を救うため再びもう一つの御影町にワープする。
しかしそんな尚也の前に、再び和也が立ちふさがってくる。神取に協力していたのも「尚也を殺したいから」だという。忘却界に引きずり込まれた尚也は、和也が死んだ時の記憶を思い出すも、その時に和也が、和也を死なせたと思い込んだ尚也自身の尚也への敵意だということを知る。
「和也」の手により斬り裂かれる尚也。しかしアキが現れ、「和也」を再び忘却界に沈めようとする。尚也はその時、自分から目を反らさないことを誓い「和也」を受け入れることに。
気がつくとそこはアラヤの岩戸だった。もう一人の尚也と出会い、ペルソナ「ヴィシュヌ」を手にする尚也。さらに奥深くで本来の園村麻希の人格と出会い、コンパクトを託されることとなる2人。
麻希の最悪の人格「パンドラ」との最終決戦のため、アヴィディア界と化した聖エルミン学園に戻る尚也達。そこにはデヴァ・システムから消失した核と、「パンドラ」がいた。
業魔を召喚し、猛攻を仕掛けてくるパンドラ。尚也達は防戦一方になるが、麻希は単身パンドラの方へ歩み寄ろうとする。その言葉を信じ、麻希を援護する仲間たち。しかしパンドラは麻希を取り込んでしまう。

(本文)
 麻希を取り込んだパンドラの魔力により、もう一つの御影町は消滅し始めて無になっていく。
パンドラ(あははは…これで何もかも終わりだよ!)
 南条達を守っていたマカラカーンの障壁も破られつつある。
パンドラ(さあ、みんな、一緒に…)
 しかしその時、衝撃波がパンドラを撃つ。
パンドラ(!)
南条「藤堂!」
尚也「絶対にやらせない」
 ペルソナ・ヴィシュヌを発動させる尚也。
尚也「それでおまえを傷つけたって、俺は…」
パンドラ(勝てるとでも思ってるの?)
 パンドラが不敵に微笑むや否や、すさまじい魔力が巻き起こる。
バンドラ(バタフライストーム)
 マカラカーンの障壁が破られていく。
マーク「!」
尚也「防護壁が…」
 ついにマカラカーンの障壁も破れる。
パンドラ(さようなら)
 追い撃ちをかけるように、
パンドラ(マハジオダイン!)
 電撃の魔力が尚也達を直撃する。パンドラはほくそえむも、次の瞬間には驚きの表情に変わる。
マーク「―――まったく……防御アップ(カジャ)系なきゃアウトだったぜ」
ブラウン「そーそ!壁あるうちにかけといてよかったっスね〜」
南条「―――やはり「備えあれば憂いなし」だな。山岡がよく言っていたものだ」
エリー「またNikeに助けられるなんて…」
南条「何事も基本が大切ということか」
尚也「……」
玲司「―――ちっ、それでもけっこうこたえやがるぜ…」
 皆ダメージは負ってもそれでも立ち上がる姿を見て、
パンドラ(―――無駄よ、私には勝てないわ)
 さらに魔力が尚也達を直撃する。
パンドラ(…お願い、もう諦めて…)
 しかしそれでも立ち上がり、パンドラに対峙する尚也達。
パンドラ(…もう、嫌よ。どうして諦めてくれないの…!?)
麻希(わかるでしょう?私と一つになった今のあなたになら、どうしてだかわかるはずよ。―――ね…?)
 パンドラの意識に流れ込んでいく、麻希が経験したこれまでの事件の全て。
 それとともにパンドラの動きも止まる。
南条「―――ど…どうしたんだ」
尚也「パンドラの様子が…」
 それとともにパンドラの中から光がふき出す。
尚也「…!」
 気付くとそこには麻希と少女の姿に戻ったパンドラが対峙していた。
麻希「…ごめんね」
 麻希、パンドラに手を差し出す。
麻希「一緒にがんばろう?」
 パンドラ、涙ぐむも、
パンドラ(ありがとう…)
 そうして麻希の中に戻っていくパンドラ。尚也達は呆然としてその光景を見つめるも、麻希は微笑む。
尚也「園村…」
 その時地震が起こる。
尚也「…!?」
 ふと見ると、空も崩れようとしていた。
マーク「な…なんだあ!?」
南条「…!この世界が終わるんだ」
マーク「ああ!?」
南条「パンドラが消えてここを支える力が失われたんだ。アヴィディア界が崩壊するぞ…!」
ブラウン「ええ〜!じゃ、おれ様たちここでおだぶつってこと!?」
エリー「そんな…」
 麻希、凛とした声で言い放つ。
麻希「大丈夫、私が絶対なんとかするから」
マーク「園村」
ブラウン「マキちゃん…」
麻希「…みんな、今までありがとう。さようなら」
マーク「―――な…」
麻希「私は影(シャドウ)だもの。みんなとは一緒に行けないから…」
マーク「ま、待てよ園村。そんなの…」
 ふと気付くとマークの体が消えていく。
エリー「Maki…!」
 エリー、玲司、南条、ブラウンの体も消えていった。
麻希「本当に、ありがとう…」
尚也「…園村」
麻希「…尚也君、泣かないで…」
 ふと見ると尚也は泣いていた。
尚也「…もう会えない」
麻希「…ううん、だって私は…」
尚也「俺は、―――麻希じゃなくて、園村、おまえが…」
麻希「…ありがとう。―――時々…ううん、私のこと、忘れないでね…」
 麻希、尚也の頬にキスをする。
麻希「大好きよ」
 そして、尚也の体も消えていく。
麻希「―――…良かった。ね?ちゃんとできたでしょ」
 そう言って振り向くと、そこには尚也達にペルソナを与えた仮面の男・フィレモンが立っていた。
麻希「私、泣かずに見送れたよ」
フィレモン「そうだな」
 仮面を外すフィレモン(残念ながら顔は明かされないが)。
フィレモン「―――「園村麻希」…私はあなたを誇りに思う」
 麻希の頬をなでるフィレモン。その手をとり笑顔を見せる麻希。

 そして、時は流れて1年後。
 通学路を一人行く尚也。
ブラウン「なーおりん!ウィーッス!」
尚也「オス、上杉」
 一緒に校門をくぐるブラウンと尚也。

一年以上も前のことだ
―――街はおおむね元の姿を取り戻し
俺たちは日常に戻った
神取の失踪(とされた)をも含め、事件はセベク・スキャンダルとよばれ一時期世を賑わせたが
真相は明かされぬまま、やがて半ば忘れられた
「本物の」園村は昏睡状態のまま元のICUで発見された―…

 回想、セベク・スキャンダルからしばらくたったある日の聖エルミン学園の教室。
ゆきの「園村はまだこれそうもないのかい?」
マーク「だめだ、まだ気がつかねえ…」
ゆきの「そうかい…」
マーク「あいつ…俺らや街をなんとかするために、力を使い切っちまったんだよ…」
南条「―――やむを得んだろう」
マーク「何ィ!?」
南条「自らの行動の責任は取らねばならぬ」
マーク「なんだよ、その言い方ァ」
南条「しかし…園村は自分の都合のよいように現実を書き換えることすらできたはずだ。だが、そうはしなかったようだな。その勇気には、多少の敬意を払うにやぶさかではないがな」
マーク「ジジーかよてめえは〜」

 3年の教室に入る尚也とブラウン。
ブラウン「おっはよ―――ッス!!世界のアイドルおれ様参上〜」
アヤセ「おっす、上杉、藤堂〜」
尚也「おはよう」
マーク「朝からうるせーぞ、ウンコったれ〜」
ブラウン「シットはみにくいぞ、まーくん〜」
 麻希とエリーが現れる。
麻希「おはよう、上杉君、藤堂君!」
ブラウン「おハヨ〜マキちゃん!今日もかわいーねー」
尚也「おはよう、園村、桐島」
 麻希、笑顔で応える。

―――園村は長い昏睡から覚め、3年に入ってから学校に復帰した
桐島らの助力もあってかなんとか卒業もできるようだ
だけど―…

 物思いにふける尚也に、ブラウンが馴れ馴れしく話しかけてくる。
ブラウン「なんだよなおりん、つまんなそーなカオしてさ〜」
尚也「おい…」
ブラウン「ところでおれ様、急に思い出したんだけどさ、なおりん確か“あの賭け(注)”マークにかけてたよねえ?おれ様喰い放題おごられ権アリー!?」
 尚也、怒りながらブラウンに言う。
尚也「ねえよ、なんだ今頃、時効だろ、時効!」
 相変わらず強気な相手にはめっぽう弱いブラウン、
ブラウン「…は…はい〜〜!!」
尚也「あれ、ホントにいいの?」
 尚也、うって変わって笑顔である。
ブラウン「……!!ひどいっス、なおりん〜!!」
 ゆきの・アヤセ、そんな光景を呆れ顔で見ている。
麻希「あれ?藤堂君、ピアスかえた?」
尚也「うん…」
麻希「そういえば藤堂君って、なんでピアスあけたの?」
尚也「…なんで?」
麻希「ううん、別に?ほら、中学前からあけちゃうのって珍しいなと思って…」
尚也「似合うから」
麻希「またー!も〜〜」
 そこに千里(麻希の親友)がやってくる。
千里「麻希!!」
麻希「あっ、千里!どうかしたのー?」
尚也「―――…」
 すっかり明るくなった麻希を見ていても、何故か尚也はセベク・スキャンダルで共に事件を乗り越えた「麻希」の姿を思う。
麻希「―――尚也君!」
 一瞬、「麻希」の姿が見えた気がした。
尚也「園村―…!?」
 しかし気付くと現在の麻希がそこにいた。
麻希「千里たちがね、卒業式の日遊園地行こうって!尚也君も行くでしょ?」
尚也「う…うん」
 麻希、尚也の手をとる。
麻希「良かった!じゃ、早く行こ!予行練習始まっちゃうよ―――」
 尚也、微笑むも、麻希に手をひかれ教室を出る。
 無人となった教室。ふと黒板を見ると、氷の城からデヴァ・ユガに向かうとき、ゆきの達への言伝として書いた文字がおぼろげに残っていた。

(女神異聞録ペルソナ・完)

(注)物語の発端となった「ペルソナ様遊び」で何か起こりそうとするブラウンか、何も起こらないというマークのどちらに賭けるかというもの。

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