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遂に降りて来た月のマザー。イサナガミの記憶からメタビーの事を知った彼女は、おみくじ町へと向かう。
一方メダロット社は最早マザーの制御が不可能であると判断し、事態の収拾の準備を始めた。
そしてイッキとメタビーは…




「残念だが…こうなってはもう仕方がないだろう」
書類を眺めながら鮟倉は呟いた。
重役たちが見守る中、テレビには「事態の収拾」のための会見の様子が映し出されている。

「はい、例の昆虫マニアのホームページの内容も捏造である疑いがあります」

「よって昆虫の言葉の内容自体がウソであろう、と?

 宇宙がどうのとか、殖える使命がどうの、とか?」

「事実、私どもが行った月面の調査におきましても…

 月のマザーは発見されませんでした」
表情を変えずに、眼鏡の男は淡々と答を返した。

「あなた方の社会へ与えた影響は?!」
記者の一人が声を荒げる。

「私どもも莫大な出資がムダになっております。
 私どもも被害者なのですよ」



――――――街を闊歩する巨大なメダロットに群がる無数の虫たち。
だが彼女がひとたび雄叫びをあげると、それらはたちまち散り散りに吹き飛ばされた。
「くそゥ」
虫たちのうちの一匹が小さく声をあげた。



――――――何処かの軍用施設にて、彼らもまた「事態の収拾」の準備を行っていた。

「これが動きまわる地震源か?」
モニターに地図と座標が浮かび上がる。

「大きな電磁波を発しています」
パネルを弄りながら職員が呟いた。

「上から命令がおり次第、
 目標点に地震観測用ミサイルを撃ち込むことになっている」
「もしたいした地震じゃなかったら大問題だな」
職員の一人が茶化してみせた。

「ただ上からの命令に従っていれば良い。
 我々はいらぬことは考えんで良いのだ」

「「は!」」



そして今…

マザーの力なのか、メダロッチを無視して暴れるブラスとエレクトロン。
必死で止めさせようとするイッキ達だが

「「!!」」

突如、二人はあらぬ方向へ駆け出した。
「ちょっと、どこ行くんだよぉ!」
アリカの呼びかけにも答えず走っていく二人。
タマオとアリカも二人を追い走り出した。
「まって」
「どこ行くんだよ」

「行っちゃったよ…」
呆然とするイッキとメタビー。
その後ろで、轟音と共に煙が上がった。

「何が起きた!?」
「なんかふっ飛んだ?」
二人の姿が巨大な影に包まれる。

「ギャ」
巨大な体躯が降り立った衝撃でメタビーが吹っ飛んだ。

「降って来た…。
 でかい」
規格外れのメダロットを見上げ、イッキは素直な感想を述べる。
「痛…

 月の…マザーか」
身体を持ち上げ、メタビーが呟いた。


『メタビー。
 この星のレアメダルのうちの一つ』
巨大な顔は何の表情も浮かべず、二人を見下ろした。

『私の言うことはきかないであろう他人の子を教育しに来た。
 この星のレアメダルを一匹ずつこわしてまわるより良かろう」


圧倒的な威圧感の前に、気圧されまいとイッキが声をあげた。
「おい!
 使命とかゆうヤツに従うつもりか?!」

『さわがしいサルの子だ。
 ひととおりの話は知っているようだな。

 ならば話ははやい』

何の慈悲も無く、彼女は言い放った。

『そう、私は使命に従う』

彼女は続けた。

『地球人には想像もつかないほど遠い昔、

 我々は…メダロットは宇宙に放たれたのだ』

土煙が舞う中で、小さな影が動いた。だがイッキは気付かない。


『降り、

 目覚め、

 そして殖えよ』


イッキの後ろで、また小さな影がいくつか動いた。だがイッキは気付かない。

「ヒトんちにズカズカあがりこんで自分の気持ち良いように模様替え。
 いわゆる「侵略」ってやつだろ」
「そんなことして良いと思ってんのか!」
二人が声を荒げる。

『良いか、だと?

 何を言い出すかと思えば』

呆れたように彼女は呟いた。


『私は普通なことをしようとしているだけだ。

 同じ物を奪いあう相手を排除する。

 自分と相容れない相手を排除する』

 
「なんでそんなことを?
 キリがないじゃないかよ」
メタビーは問い掛けた。

『ジャマなのだ』

簡潔に、彼女は言い切った。

『ツル状植物の一部は、大木をのぼり日光を得たところで大木を絞め殺す。

 ある種のサルは、ヘビを見つけ次第殺してしまう。

 カビは、同種同士で群れを作り他種とまざりあうことはない。

 ライオンは、ハイエナを見つけると食べるわけでもなく殺す』

「なんで地球のことにくわしいの」
『衛星テレビがタダで見られる所に住んでいたのだよ』

律儀にメタビーの疑問に答えつつも彼女は続ける。

『命はみな、殺し合いながら生きているのだ。

 そうするために存在しているともいえよう。


 おまえ達だってそうだろう。

 知らぬとは言わせないぞ。

 たとえば姿形。

 持っている物。

 思っていること。

 太古から続けているだろう?

 同じ物なら奪いあい、

 違えば攻撃しあう。


 侵食は生命体共通の使命。

 命の本質と言っても良い』

「コンニャロ、わけのわからないこと言いやがって」
メタビーが構えた。
『バカなまねはよせメタビー。
 並のメダルならあやつれるのだよ。
 君の友人達のメダロットを走り去らせたようにね』
「!!」
周りを取り囲む気配にイッキが気付く。
無数のメダロット達がこちらを見つめていた。

『さがっていなさい、子供達』
「操られているメダロット達!?」
「気付かなかったのか、さっきから集まっていたぞ」
今更のように驚くイッキにメタビーが声を掛けた。

『力技はムリ。
 説得もできない…』
「どうすればいいんだ」
がくりと肩を落とすメタビー。


――――――どうすればいいんだ

記憶の中に浮かぶあの姿。あの声。あの言葉。
彼女は言った。

『おまえはひとつ大きな間違いをしているよ』

イサナガミは、そう言った。


「!

 何も出来やしないってことか?!」

『海の主か。

 出来そこないのマザーモドキも、死の前にまともなことを言ったな』

「バアサンが死んだ、そうかやっぱり…

 …おまえが殺したのか」
愕然とするメタビー。



「ま゙」

「?」
「?」

突然奇声をあげたイッキに二人が唖然とする。

『阿呆の頭には無理のある話であったか?』
マザーが哀れみの言葉を掛けた。
「たぶんメタビーにはね」
「ま゙」


「同じだからきらいだとか、

 違うからきらいだとか、

 同じだから楽しいこともあればさ、

 違うから楽しいこともあるだろ」


迷いを振り切りたいかのように、イッキは大声で続けた。

「やっつけあわなくても一緒にいられるさ」


『バカにはかなわぬな』

彼女は呆れ返るだけだった。


「そうか。

 バアサンが言いたかったのは、何も出来ないってことじゃない。

 何もしなくていいってことだ」

何かを悟ったようなメタビーの言葉。

『何を言い出す?』

「こいつを倒したら、こいつの言ってることが正しくなっちゃう」


――――――何処かの軍用施設にて、「準備」はほぼ完了しつつあった。
座標データが入力され、ミサイルが砲台に充填される。
そして…


「両方とも相手をほうっておけってこと。

 簡単さ。一緒にやっていけるさ」


『おまえ達は真実から目をそむけているだけだよ』


「「違う!」」

『…』

「「オレ達はうまくやってみせる!」」

いつの間にか二人の声は重なっていた。

「「オレ達はもうおまえらとは違う!」」

繋がれた二人の手。
マザーはじっと二人を見つめていた。


モニターの前の職員の一人が声をあげた。
「目標近くに未確認物体出現。
 いや、何か小さな物がたくさん…」


『!』

大量のメダロット達が、マザーを守る為にミサイルに飛びつく。
軌道の変わったミサイルは誰も居なくなった民家に突っ込んだ。

「あああああ…」

煙の中で蠢くメダロット達を見てイッキが声にならない叫びをあげる。
そこへ二発目のミサイルが飛来した。
どうにか左腕で受け止めるマザー。だが、

「あ!!」

更なる追撃の一発はその巨大な頭部へ深々と突き刺さった。

『∋#Ж◇Щ≪%ЮЁ▽』

絶叫するマザーに幾多ものミサイルが突き刺さる。
彼女の巨体はそのまま倒れこんだ。

土煙が舞う中で、彼女の眼はしっかりとイッキとメタビーを見つめていた。
死にゆく中で彼女は言った。二人に向かって、はっきりと。


『ふふふ、

 これが真実なのだよ…』




《オレは何も言い返せなかった。

 何が起こったのかはわかっていたけど言い返せなかった。


 その日の夜のうちに自然災害なんとかの人達がやって来て、月のマザーの死体をこっそり持って返った。

 地震のデータはうまく取れなかったとか、
 世界中の人工衛星もみんななぜかうまく撮れなかったとかテレビで言っていた。

 で、そのうち雑誌やテレビは虫の話もマザーの話も取り上げなくなっていった…》




――――――そして二週間後…

いつものように公園に来ているイッキ達。

「んー―――」

他の皆は楽しそうに遊んでいる中、イッキは一人ベンチに腰掛け物思いに耽っていた。

何の気無くあたりを見回すと、一匹のカマキリに気付いた。

そのカマキリはじっとこちらを見つめているようにも思えた。

そして、



『まぁ良かろう』



「!!」
絶句するイッキ。
構わずカマキリは羽を広げる。

「え?あ、ちょっとまってよぉ」

そのままカマキリは飛んでいってしまった。

「おーいみんな!」


《それ以後、しゃべる虫は現れなかった…》



「よ」
あっけらかんとした様子でヒカルが挨拶する。

「あら、戻って来た」
「どこ行ってたんだよぉ」

「イッキ君、してほしいことがあったらなんでも言ってね」
「?」
「明日海に行こうよ。メタビーがどうしても行きたいって」
「おー」



《これでやっと本当にいつもの日々が戻って来た…》



――――――波の打ち寄せる音が聞こえる。

「メタビー、パラソルたてるの手伝えよ」


波打ち際にいるメタビーをイッキが呼んだ。


《 うまくやっていけると思う 》


メタビーは一枚の紙を波に乗せ、イッキ達のもとへ向かった。

巨大なクジラと一緒に泳ぐメタビーの絵は、波に乗ってどこまでも流されていった。


《 うまくやっていこうと思う 》




〜END〜

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