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決着をつけるためセレクト島にやって来たイッキ達。
ロボロボ団のメダロットを片付け、遂にヘベレケ博士を追い詰めたと思った矢先、
突如彼らの基地が地面を突き破り、巨大な飛行船となって姿を現した。
ちょうど真上に居たイッキ、メタビー、アキハバラ博士の三人は必死で浮上する基地にしがみつく。
そこへメタビーとの決着を望むラストが立ちはだかった…。







「戦え!」
「うわっ」
ラストの腕が空を切る。

「イッキ君、メタビー君、この中へ」
進入用ハッチを開き、アキハバラが急かした。
「この飛行船、表面ペコペコする」
突風が吹き荒ぶ中で何とも頼りない外壁にしがみつきながらハッチへ向かうイッキ。

「とりあえずはここに入れば安全だ。
 いつまでもこれに乗っているわけにもいかん、脱出用具を探しに行こう」

「メタビーがまだ外に…
 博士、一人で行ってください」


「フユーンコンピュータ!パーツをよこせ」
『ぱーつヲオクリマス』
ラストの声に応じ、左腕パーツが瞬時に変化する。
「撃つの?」
答えの代わりとばかりに左腕の砲門から弾丸が発射された。

「メタビー!わっ」
ハッチから顔を出して呼びかけるイッキだが、威嚇射撃であっけなく姿を潜めた。
「お、おい、ちょっと待て」
「どうした、戦う気が無いのか?」
先程から抵抗の色を見せないメタビーにラストは攻撃の手を止め、問う。

「ふん、そうか。
 あの人工メダフォースメダロットの件以来、
 戦うのが虚しくなったか。

 それともあの侍と知り合ってから、
 自分のやり方に自身が無くなったか」

続けるラスト。

「下で私の部下達と戦っておいて、
 私とは戦えないとでも?」
メタビーは答えなかった。

「メタビーはロボロボ団のメダロット達がみんな襲ってくるから…」
「!?ヤツらと一緒にするな!」
なんとか代弁しようとするイッキに、ラストが激昂する。
「ひ」
目の前に撃ち込まれる弾丸に、またもハッチに姿を潜めるイッキ。

「今、ロボトル衛星は私を攻撃できない。
 ジャミングとかいうやつをかけて見づらくしてるんだとよ」
言い終わるや右腕でメタビーに殴りかかった。

「くはっ」
ダメージは大きい。だがメタビーは反撃しようともせず、逆にラストに問い掛ける。

「おまえら、ただ機械みたいに命令どおり働いて楽しいか」

「ヤツらと一緒にするなと」
ラストは再び銃口を向けた。
「言ってるだろうが」

「じゃあどこが違う。
 おまえはなんで戦う」
弾丸を防ぎつつも、メタビーはまた問う。


銃撃が止み、硝煙が風で流されていく。
ラストは答えた。

「私に下されている最大にして唯一の命令。
 それは、メタビー。お前を超えること。

 お前を倒し、
 私は自由になるのだ」


「「!?」」

「私は博士に育てられ…もちろん忠誠を誓った。
 命令が正しいかどうかも気にはならないが…」

「フン」
「何がおかしい」

「ロボロボ団にも少しはまともなのがいたかと思ってさあ!」
反撃は始まった。



通路を進みアキハバラが辿り着いた先には。
「あ、ヘベレケ!」

「? ラストではなくお前が戻ってきたか。
 そいつを捕まえろ」
応えて団員達はアキハバラを羽交い絞めにした。

「何でこんな大きな物が空に飛んでいるのか不思議だろ。
 フユーンストーンを使用する事を成功したのだよ。おまえはサイプラシウムとか名づけていたかな。
 メダロット社はメダル以外の遺跡出土物はゴミとしか考えていな…
 ?」
何かがぶつかったような音。ヘベレケが窓を振り返ると、

「うわっ」
一体のメダロットが張り付き、こちらを睨みつけている。
「セレクト防衛隊だ」
エアプテラの大軍がフユーンに取り付き、その頼りない外壁を次々と破壊していく。

「このビックリドッキリメカどもめ…」
唖然としたヘベレケの口からは読者層を完全に無視する言葉が洩れた。

「ちょっとやばいかもロボ」
「どうするロボ?」
さしものロボロボ団員も事態の深刻さに気付き、顔を見合わせる。
そして彼らの視線はそこに集まった…。
「…パラシュート…」

「さいならロボー―――」
「あ」
創設者のスズメから続く伝統を披露する団員たち。
刹那、大軍による攻撃に耐え切れなくなった要塞が大きく傾いた。

「痛!
 へたくそな操縦するなヘベレケ」
「私の腕のせいではないわい!」
床を転げる二人。残ったパラシュートも転げていく。

「「はっ」」
同時に残っている脱出用パラシュートに気付く。
素早くパラシュートを回収するアキハバラを、ヘベレケの背中のマジックハンドが吹っ飛ばした。


「おい」
ヘベレケが向き直り、アキハバラに問い掛ける。

「お前は、
 メダロットに人の様な自我を持たせるべきだと、
 本気で思っているのか?」

「ああ」

「あまい」
一蹴するヘベレケ。

「機械に自我を持たせるなら、
 彼らが人類に背を向けるかもしれんのだぞ。

 友人と敵対する事になったら…
 お前はどうする、アキハバラ」

「そのような事にはならないと、
 私はメダロットを、信じる!」

「信じる?実にお前らしい答えだ」
ヘベレケは嘲笑した。

「だが、それはただの驕りだよ」

アキハバラは沈黙するしか無かった。


「よく少年マンガに出てくる、「イイモン」の科学者の言葉だな」

機械を脱ぎ捨てながらヘベレケは続けた。
「あ、あ、あ、あ、厳密には少し違うな。
 メダロットはマンガのロボットのように一からお前が作った訳では無いからな」

詰め寄りながら捲くし立てる。
「で、
 いつ発表するのだ。

 彼らは何者なのか。

 何のために存在するのか」

「いや…」
返答に窮するアキハバラ。

「いや…できれば発表したくないか?」
 そうだよな。
 お前の理想の世界が根本から覆されてしまうからな」
ヘベレケは肩をすくめ、アキハバラのエゴを嘲った。


「まあよいわ。お前ら偽善者どもは好きにやってろ。
 だがお前とは違う考えの私の仲間たちは、着々と社会に紛れ込みつつあるぞ。
 メダロット社内にもな」
「何!」
「ふふふ」

一つ残ったパラシュートに手を掛ける。
「たとえばヘビの絵が入ったメダル。
 あれが何故ヘビメダルでなくヘ・ビーメダルと訳の分からん名前になったと思う?
 メダロット社内の私の同志が意図的に仕組んだのよ」
「ウ、ウソだ。そんなハズはない!
 発表時の書類の印刷ミスだと聞いているぞ」
「他にも、製品の名がちょっとかっこ悪かったりするのも、彼らの仕業だ」
禁句を連発しつつ、パラシュートを奪い合う二人。

「あ゙ー―――、お前はもう一個持ってるだろが!」
「これはイッキ君の分なの!」

その時
「「!?」」
天井に穴が開き、突風が流れ込む。落ちてきたのはメタビーとラストだった。
「やっと戻ったか私のしもべよ!
 そのカブトメダルを倒せ!」

「私のしもべ?
 それはどうかな」
満身創痍のメタビーが呟いた。

「何が言いたい?」
「ジィさん、何で基地の場所がオレ達にばれたのか不思議がってたよな」

「お、おい、
 ラストまさかお前…」
茫然とするヘベレケ。まさか。
その答えを待つ必要は無かった。

「私が、

 話しました」

「お前、
 そんな命令していないぞ。
 何故だ。
 何故そんな事…」
怒り、失望、困惑。ヘベレケは震える。

「成長した彼らが自我を持つのは、君が望むかどうかではない。
 必然なのだよ」

「なぜだー!」
ラストの反抗に、アキハバラの言葉に、吼えるヘベレケ。

「ジィさん、分からないのか。
 難しい事はともかく、オレにも何となくは…」
ラストに向き直り、

「分かるような気がするな!」
右腕の銃口が火を噴いた。

「フハハハ、その調子だメタビー」
銃撃を受け流し、メタビーの懐に一撃を喰らわせるラスト。
「戦い、そして私に敗れるがいい」

「いた!ここに落ちたのかメタビー」
操縦室に辿り着き、未だ健在なメタビーを見て安堵するイッキだが、依然として戦いの終わる気配は無い。

「これでどうだ!」
メタビーの掛け声とともに半壊した頭部の砲台から反応弾が発射される。
爆風がラストの姿を包み込んだ。
「やった!?」
「まだまだ!」
煙の中から飛び出すラスト。
「ウォオォ!」

死闘は苛烈さを増す中、イッキは天井の穴からこちらを覗き込む者に気付いた。
「セレクト防衛隊、とうとう中まで…」
「!」
気配に気付き咄嗟に身をかわそうとするも、
エアプテラのブレードがラストの胸部を浅く切り裂いた。
「ぐふっ」
「邪魔をするな」
ラストがよろめく。メタビーが叫ぶ。

「ジャマだ!」
襲撃者を押しのけ、ラストは左腕のねじれた機関砲を構えた。
「いかん!」
「伏せろイッキ君」

爆音と共に銃身が吹き飛ぶ。
「暴発した!?」

最後の銃弾はメタビーの足元を捉えていた。
「何、足元なんか撃ってんだよ
 ?」
それだけで充分だった。要塞を構成する頼りない鉄板が崩れるのは。
「!」
成す術無く落下するメタビー。

「そんなバカな」
「メタビー!」
「この穴も外に通じてるな。ひひひ、ざまぁみろ」

吹き込む突風が笛を鳴らす。

「勝った」

狼狽する二人を尻目に、ヘベレケに歩み寄るラスト。
「ヘベレケ博士、命令どおりメタビーを倒しました。
 これで命令は果たしました」
彼は穴の淵が上に向かって拉げている事には気づかなかった。

「オレは落ちてないぞ!
 続きだラスト
 !」
穴から身を乗り出し、ラストの背に叫ぶメタビーの言葉はなだれ込むエアプテラの集団にかき消された。
「おいオレは負けてないって」
「あいつらが外から開けた穴だったのか」

一斉にラストに襲い掛かるエアプテラ達。
「おわった…すべて…
 ははははは
 はは…」
狂ったように笑うラストに幾多の腕が斬りかかる。掴みかかる。
「あ゙」
「動くなメタビー」
そのままエアプテラ達はラストを抱え、揃って穴から脱出していく。

「このままでは落ちる。
 脱出するぞイッキ君」
「なんだよ離せ」

「トイレの方にパラシュートはある。ヘベレケ、お前も一緒に…」
へたり込むヘベレケの姿があった。
アキハバラはそれ以上何も言わなかった。
言えなかった。


「行くぞ」
「はい」


パラシュートを開き、降下していく三人。
「終わってないの!」
イッキに抱えられつつメタビーはまた不平をたれた。


「え?飛行船の中に、民間人?」
地上のトックリに通信が入った。
「攻撃やめて」
「分かりました、攻撃やめます」
命令に応え、エアプテラ達は既にコントロールを失ったフユーンを後にする。

「ふー―――やれやれ」
「離せよ、まだ勝負がついてないだろ」
空を漂いながら、今度こそ安堵するイッキ。
そこに、

「!?」
機能の停止したと思しきエアプテラが何体か二人を掠めて落ちていく。
「だからあいつと戦」「!?」
メタビーは気付いていない様だった。



「ふふふ…」
誰もいなくなった操縦室で、ヘベレケが薄く笑みを浮かべた。

「命令は果たした。

 自由になったのだろう。

 何故戻った?」

ヘベレケが振り向く。

「戻った……
 何故?……

 自分でも、何故か……分かりません」

ボロボロになったラストが呟いた。
穴の傍には機能の停止したエアプテラが転がっている。

「自身の行動に悩む…。
 実に人間的な存在だな」

ヘベレケはゆっくりと立ち上がった。

「自我を持つ。
 それがメダロットの当然の成り行きだ…。
 そんな事は私だって分かっている」

「だが、

 だからこそ問題なのだよ」

誰に向かって言うでもなく続ける。

「いつか人は彼らを脅威に感じるようになる。

 お前だって分かっているはずだろう。


 ただの機械でいる方が幸せかもしれんぞ。

 違うかねアキハバラ」



―――――波の打ち寄せる音が聞こえる。
砂と海水にまみれながらもパラシュートを脱ぎ捨てる二人。


そこへ、
「おー―――い」
アリカ、コウジ、カリン、そして彼らのメダロットがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
感動の…と言うほど大袈裟でもないが、友との無事の再会を喜ぶ子供達。

春はまだ遠い季節。寒さを忘れ、アキハバラは崩壊しながらいずこかへと飛んで行くフユーンを眺めていた。
ヘベレケの言葉が何度も頭の中に響く。


『それは正しさの証明にはならん』 彼は少数派で、自分は多数派だった。それだけだった。

『驕りだよ』 もはや自分は責任を逃れられる立場ではない。そんな事は分かっていた。

『「イイモン」の科学者の言葉だな』 彼の考えが「悪」であると両断できる筈も無かった。

『理想の世界が根本から覆されてしまうからな』 そうだ。いつかは「真実」が明らかになるのだろう。その時は…


幾つもの思いが渦巻く。

「私は……」
悔恨と罪悪感が口を開かせた時、

「博士ぇ」

「?」


波の打ち寄せる音が聞こえる。

目の前に、こちらを見上げるイッキとメタビーがいた。

ふと、繋がれている二人の手に気が付いた。

人とメダロットの手。
しっかりと、握り合っていた。



「何笑ってんですか」
「気持ち悪りィ」




〜END〜

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