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機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人の最終回


木星圏。コロニー・レーザー「シンヴァツ」をめぐる、トビアたちと木星帝国の戦い。
トビアのクロスボーン・ガンダムX1フルクロスが、新総統カリストのMS(モビルスーツ)ディキトゥスの手足を斬り落とす。

カリスト「あああああああ あああああ あああ

ディキトゥスが飛び去る。

エウロペ「う? う? う? 逃・げ・た? やった? 総統を…… 退けさせた?のか? はあ はあ はあ う う う」

『シンヴァツ再発射まで…… あと10分』

エウロペ「い いけない! 止めなきゃ! トビア! ! トビア?」

トビアが涙をあふれさせている。


第15話|歩いてゆく彼方


エウロペ「トビア……」

涙を流し続けるトビアに。エウロペが心の中で、両腕をそっと彼の肩に回す。
だが、辛そうにその腕を引っ込める。

エウロペ「…… 辛いのか? トビア」
トビア「はいっ!」
エウロペ「消えた…… 多くの命がか?」
トビア「はい!」
エウロペ「そうなると知っていた…… 自分がか?」
トビア「はい!」

スズキ「敵機が接近してくる! エウロペ女史! トビアくん!」
エウロペ「う (だけど それでも)」
トビア「行き……ます」

エウロペ (それでもおまえは── 行くのだろう?)

スズキ「よし! 行け! 私はここで浮き砲台として 敵の注意を可能な限り引きつける!」
トビア「スズキさん?」

スズキの乗るガンダムF90はすでに、両脚を失っている。

スズキ「ふ ふふ 正直 スラスターをほとんどやられて 向きも満足に変えられん! 2人で行け! 行ってコロニー・レーザーにとどめを刺してこい」
トビア「だけど!」
スズキ「おいしいとこは 若いのに譲るのも先輩の務めだ!」
トビア「わ わかりましたっ! でも 『生き残れ!』と言ったのはあなたですからね! やられたら承知しませんよ! スズキさん!」
スズキ「ほ! 上等だ」

トビアのX1とエウロペのMSアンヘル・ディオナが、コロニー・レーザー内部へ向かう。

スズキ「ふふふ さてと! それでは そろそろ…… おっぱじめるとしようかいっ!

エウロペ (トビア…… 私はね…… きっとずっと 許されたくてここまで来たんだよ…… 総統を止められなかったこと “(ゼウス)(いかずち)”計画を知らせられずにいたこと 知らせることで失われるたくさんの命のこと やりたくてできなかったこと たくさんのことを 一番大切なものを失った時から──ずっとずっと)

X1らがコロニー・レーザー内部へ突入。2機の攻撃で、内部が次々に砕け散る。

エウロペ (さっきね 私 黙ってあなたのことを 心で抱こうとしたよ トビア…… 『もういいよ』って──“(ごう)”は私が全て背負うからって── 私が誰かに言って欲しかった言葉と一緒に でも── できなかったんだ あなたはそんなことを 望んでいなかったから あなたの背中はカーティスに似ていた……)


木星兵たち「だめです! ミラーの破壊が止まりません」「なんだと? それでは? ビームが収束しないっ 自爆するぞ!

『シンヴァツ発射まで あと3分』


コロニーのミラーを破壊した段階で すでに勝敗は決したといえる──
だが──

もはやそれは ただの私闘だった


片手片脚を失ったまま、カリストのMSディキトゥスがコロニー・レーザー内部に飛び込んで来る。

カリスト「トビア・アロナクスゥゥ! 貴様だけは……

『シンヴァツ発射まで あと2分』

カリスト「うおおおお


外で孤軍奮闘していた、スズキのF90が被弾。

スズキ「

しかしF90を狙った敵機が、別のビームに貫かれる。

スズキ「なに」

F90のもとにローズマリーのMS、アラナ・アビジョが飛来。

ローズマリー「へ! よかったよ ひとりぐらいは生き残ってたかい」
スズキ「ローズマリー女史か!

おおおおお


木星兵「総統! 総統! 聞こえますか! どこにいます? 総統?」「もう……“シンヴァツ”を止めることはできません 爆発します!」


ディキトゥスの執拗な攻撃が、X1に降り注ぐ。

カリスト「答えろ! トビア・アロナクス! この戦いに貴様に……貴様ら7人にどんな大義があった! 何故 我らの美しい計画を台無しにするゥゥ
トビア「脱出します! かまわないで
エウロペ「し しかし!」
カリスト「答えろオォ! すべて…… 正しかった! 我らは…… 正しい歴史を紡いでいたのだぞ クラックス・ドゥガチ総統の地球侵攻も! シンヴァツによる連邦粛清も! いや!

ディオナが攻撃の余波を浴び、コクピット内のエウロペを火花が襲う。

エウロペ「ああああ
トビア「エウロペさ……
カリスト「正しくなければならなかったのだ! 正しければ! 正しければ!

エウロペ (正しければ…… 許される……から? 独裁者の妄想の傀儡になったことも? 姉の恋人を死に至らしめたことも? 姉を弄んだことも? 弟を死なせたことも?)

カリスト「それを 貴様はあっ── 貴様はあっ!
トビア「く!

エウロペ (カリスト── おまえは 私と同じ……だね……)

カリスト「何故 黙っている!! トビア・アロナクス!

エウロペ (過去のために 未来を紡ごうとした)

カリスト「どうした 何か言えよ! 弟を殺した時みたいにっ!

エウロペ (でもね トビアは違うんだよ 誰かに許されることも…… 自分を許すことも望んではいない それでも…… ただ進んでゆくんだ 鋼の心で風のように 傷ついても血を流しても ただ ずっと── それが── トビアが見つけた)

カリスト「いってみろってんだよォ

X1のブラスターが真っ二つに切り裂かれる。

カリスト「ああああ

X1の右肩のIフィールド・ユニットが切り落される。
とっさにX1がそのユニットを手にしてナックルガードとし、渾身のパンチを繰り出す。

エウロペ (“生きる”ということの 答えだから きっと)

ディキトゥスの振り降ろしたビームアックス、X1の鉄拳が激突。
X1の手にしたユニットがひしゃげ、砕け散る。
ほくそ笑むカリスト。
だが砕けたユニットの中から、X1の拳のかまえたブランド・マーカーの刃が飛び出す。

カリスト (な)

X1の最後の一撃が炸裂。

ディキトゥスが大爆発──。


爆風に煽られ、吹き飛ばされるX1。その手を咄嗟に、エウロペのディオナがつかむ。
しかし、トビアのいるX1のコクピット内にも、すでに無数の火花が飛び散っている。

トビア「だめだ! エウロペさん 脱出して! クロスボーン・ガンダムはもう動か……ないっ 2機は…… 無理だっ! 手を…… 離してっ
エウロペ「ありがとう…… トビア でも でも…… 私ももう…… 無理みたいだ……から (だから……)」

ディオナがX1を、コロニー・レーザーの外を目掛けて放り投げる。

トビア「ああああ? エウロペさん!?

エウロペ (ああ…… 苦しいな…… 私…… 何をしていたんだっけ? もう…… よくわからないや……)

かすむ視界の中、トビアのX1が次第にエウロペから遠ざかって行く。

エウロペ (ああ…… そうか カーティスがゆくんだ)


(約束が──ある)


トビア「エウロペさああん ああああ

コロニー・レーザー内部が一斉に火を噴き、エウロペのディオナが、そしてトビアのX1が炎の中へ掻き消えてゆく。


木星兵たち「ああああ コロニー・レーザーが……」「“シンヴァツ”が…… も もうだめだ……」

それとともに、レジスタンス軍が接近して来る。

「全機即時 戦闘を中止せよ! 繰り返す 戦闘を中止せよ! 我らは木星レジスタンス軍 指揮系統は我らが掌握した」


ローズマリー「……どうやら終わったみたいだぜ…… おっさん…… おっさん?」
スズキ「うう う どうして…… 私は生きているのだ!」

F90のコクピット内で、スズキが大粒の涙をこぼす。

スズキ「私は…… 死んでもよかったのだ! ヨン…… ユリシーズ…… ドレック…… 多くの若者が散ってしまったというのに…… 何故…… この一番年寄りだけが…… また 生き延びてしまったのだ 生きていねばならんのだ」

ローズマリー「……人間 生きたいだけ生きられる奴も 死にたい時に死ねる奴も 滅多にいやしないんだよ! 生きていこうぜ 今までもそうしてきたように どうせ それしかないんだ」
スズキ「うん うん そうだ そうだよな それしかないのだな」



微々たる戦力しか持たないレジスタンス軍であったが行動は迅速だった
そして総統とコロニー・レーザーを失った木星軍に もはや戦う意志はなかった──

生存率は限りなく0に近いと言われた作戦は
ミノル・スズキ ローズマリー・ラズベリー2名の生還者を残して 終結した

未帰還数── 5


そして 全てが終わる頃 地球圏へ到達したコロニー・レーザーは
地球から──100万km近く離れた所を通過していった
レーザーは真空の宇宙では光を発しない

命中すれば地球に死と混乱を撒き散らす業火は──
誰に知られることもなく──彼方へと消えていった
まるで何事もなかったかのように 宇宙は静寂だった……


連邦軍は例によって事件を隠蔽したが
事件に関係した人々の足跡をたどることはできる

軍に服役したミノル・スズキ大尉は ローズマリーと共に木星の査察官に任命された
遊撃作戦の参加者である2人は レジスタンスには英雄として
また 残党勢力には“鬼神”として睨みをきかせている

ローズマリーは“神の雷計画の真実”と題した書籍を発表──
しかし これが何というか
彼女がいかに今回の事件を正確に把握をバクロしているようなもので
出版停止にすらならず むしろ事件の伝説化に一役買っている



ローズマリー「ほほほほ 売れたからいいのよ〜」


トビアたちに助力した地球連邦軍のハリソン大尉が、ブラックロー運送で働いている。

ハリソン「あの〜 部長……」
ヨナ「今度は何?」
ハリソン「すみません 伝票の切り方がわからなくて……」
ヨナ「いい加減に覚えなよ」



ハリソン・マディン(元)大尉は 結局色々と
連邦軍から追い出され 今は民間企業に籍を置く身である

だが彼の尽力もあって 連邦上層部は確かに事の子細を正確に把握しており
かねてより計画していた 月の遷都を加速度的に推し進めている
それはたぶん どこのコロニーからもレーザーで狙われない位置に築かれるはずである


虎の子のMSを失ったブラックロー運送の海賊業は開店休業状態



ブラックロー運送の面々が、大きく伸びをしつつコロニーの空を見上げる。

オンモ「んん〜っ! しばらくまじめに働くか──っ!
ジェラド「ですかね (しばらくって……)」


トゥインクの操作するPCの画面。
宇宙空間に、X1の残骸が漂っている。



「クロスボーン・ガンダム」は── これが目撃された最後の記録となった

そして──


テテニス・ドゥガチは 翌年 木星へ帰還した

すでにクラックス・ドゥガチの構成した政治団体は完全に解体されていたが
その資産の一部は財団として残された 彼女はそこの当主となった
その手腕で いつ倒れてもおかしくない小さな国である木星を
経済の面でよく支えている

トビア・アロナクスとベルナデット・ブリエットの名は歴史に残されていない

だが──



木星圏コロニー。

護衛の面々に囲まれた、ベルナデット・ブリエットこと本名テテニス・ドゥガチ。
飼い猫のブラックローが、何かに気づいて彼女の腕から飛び出す。

テテニス「あら ブラックロー」

物陰にいた青年が、ブラックローを抱き上げる。
クスリと笑うテテニス。

テテニス「あら!」

護衛「なんだ! 怪しい奴!?」
テテニス「いいんですよ! 珍しいですね? 木星ではその子をヒョウだと思って びっくりする人の方が多いんですけど ネコ── お好きですか」
青年「ええ── 世界で2番目に……」
テテニス「え……」

かつてトビアが言ったのと同じセリフ。
しかし青年の風貌はトビアと異なり、浅黒い肌、黒髪、サングラス。

テテニス「あ あなた? あなたは?」
青年「実は 姫様にお願いがあって待っていたのです 私を姫様の下で働かせてもらえないでしょうか? いきなり怪しい奴とはお思いでしょうが 実は数年前 海賊軍討伐に出て事故に遭い 以前の記憶が曖昧なのです 今でもどこにも受け入れてもらえずにいましたが…… 姫様が広いお心で 多くの者を雇い入れていると聞きました…… ですから」
テテニス「目を……」

青年がサングラスを外す。
その素顔は読者には見えないが、テテニスが顔を見て呆然となる。

テテニス「あ あ あ  あなたは…… 目が 目が……」
青年「お気づかいなく── おかげで色々なものが かえってよく見えますよ 普通は人には見えないものまで あなたの後ろで泣いている 消えてしまったはずの小さな── 女の子のことも」
テテニス「あ」

しばし見つめ合う2人。

テテニス「あ…… ! ……ア! ……」
青年「大丈夫…… わたしは わたしのままだから── たとえ…… 何があっても」

テテニスが涙を拭い、微笑む。

テテニス「あなたを…… あなたを雇います! でも あなたはどこへも…… 行きませんね? そばにいて…… 共に歩いてくれると誓いますね?」

青年「そのために── は来ました 遠くに消えた少女にさえ いつか追いついて── 肩をならべてゆけるはずだから歩き続けます たとえそれが どれほどの彼方でも──」



たぶん テテニス・ドゥガチのそばに常に寄り添う一人の青年の姿があったことは

記録するに足る出来事であると思う



機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人 ── おわり
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