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仮面天使ロゼッタの最終回


(じん)健一郎が初めて(じん)仮面ファラオンとして戦った仇敵・錠が数十年ぶりに現れた。
戦いの末、ファラオンは敗れ去った。あすかが目にしたものは、無残に串刺しになった父・健一郎の姿──

あすか「お父さぁ──ん!!」

最後の一撃を受けて健一郎が吹っ飛び、空の彼方へと消える。あすかの声が、むなしく空にこだまする。

あすか「お父さぁぁ──ん!!」


最終話
最期の日


後日、あすかの家の朝。

敦子「あすかちゃん、おはよう。あら、どうしたの?」
あすか「お父さん、もう3日も帰って来ないよね……」
敦子「まったく、しょうがないわね」

母・敦子は平然と、健一郎の分も含めて朝食の用意をしている。

敦子「若い頃にはよくあったのよ。1週間も連絡なしとか」
あすか「お母さんは、それで平気なんだ……?」

テレビのニュースが事故を伝えており、あすかがハッとする。

『40歳前後の中年男性とみられる死体が発見されました──』

あすか「お父さんは、お父さんは……」
敦子「そうだ! ねぇ、あすか。久しぶりに、我が家の特製カレーを作ろ。あれならお父さん大好きだし、いつでも温め直して食べられるから。ね?」
あすか「……そうだね」


通学路。あすかの目の前に、父らしき背広姿。

あすか「お父さん!」

──と思いきや、まったく別の男性。

男性「お父さんじゃないけど…… パパになら、なってあげてもいいよ。どう?」
あすか「結構です!」


健一郎の勤務先の会社の前。あすかがウロウロしているところを、安野部長が見かける。

安野「あなた、神くんのお嬢さんよね? あすかちゃんでしょ?」
あすか「は、はい……」

あすかが社内に招かれる。健一郎の机の上には、家族の写真がある。

安野「いつもあなたと奥さんの写真が飾ってあるから、すぐにわかったわ。それでお父様、具合どうなの?」
あすか「えっ?」
安野「あんまり長引くようだと、一度お見舞いにいかないとね」
あすか「……あ、大丈夫、だと思います」
安野「羨ましいわぁ、あなたのおうちが。私ね、神くんとは同期で入社したのよ。彼、昔とちっとも変ってないの。何やるにも一生懸命だし、何よりも家庭を大事にする。今時珍しいわぁ…… 素晴しいお父様よね」
あすか「……」

そこへ大文字部長がやって来る。

大文字「おやおや、珍しいお客様だなぁ!」
あすか「……?」
安野「大文字部長よ」
あすか「あ! 父がいつも、お世話になってます」
大文字「あすかちゃんだろ? 覚えてないかなぁ? 君が確か、このくらいのときかな、よく遊んであげたの。いやぁ、昔はよく神くんの家に呼ばれて、奥様の手料理をごちそうになったもんだ。楽しかったなぁ〜。いつも家族同様に迎えてくれてね。ま、今でも私は独身だがね。ハハハハハ!」
安野「笑い事じゃありませんでしょ?」
大文字「神くんに、早く元気になって出て来いって、伝えてほしいな。彼が発案した商品が今、大ヒット中なんだ。おかげでこっちは、大忙しさ」


社を出たあすかが、母に電話をかける。

あすか「もしもし。お母さん? お父さん、帰って来た? ──うぅん、なんでもない。──うん、わかったわかった。タマネギとニンジンね」


路傍で買い食いしている夏美とみどり。あすかが通りかかるが、あすかはそのまま気づかない様子で通り過ぎる。

みどり「あれ? あすかじゃない?」
夏美「あ、ホントだ。あすかぁ!」
あすか「……!」
夏美「やっぱり、あすかじゃん! あんた学校フケて、どこほっつき歩いてたのよぉ?」
あすか「……うん、別に」
みどり「……どうしたの?」

夏美「ねぇ! ちょっと、どうしたのよぉ?」
みどり「なぁに、鬱陶しい顔してんのぉ? こっちまで鬱陶しくなりそう!」
あすか「どうしたの、2人とも? なんか……」
夏美「違う?」
みどり「わかる?」
あすか「うん…… 嬉しそう」
2人「ピンポ〜ン!」

元気よく駆け出す2人。ようやくあすかが笑顔になり、追いかける。

あすか「何よ、いいことあったの? ねぇ! ──ちょっと待ってよぉ!」
みどり「実はね。夏美んとこ……」
夏美「はい。恥かしながら、オヤジ、戻ってまいりました!」
あすか「わぁ、そうなんだ」
夏美「でもね、もうカッコ悪いのなんのってさぁ。お母さんに土下座までしちゃってんだよ。土下座ってさ、日常生活の中で見たことある?」
みどり「ない、ない!」
あすか「よかったね、夏美」
みどり「うちもね、今夜家族で食事行くんだ。もしかしたら良先輩も呼ぶかもしれないんだけど、よかったら、あすかも来る?」
あすか「あ…… うぅん。うちも今日、お父さん、出張から帰って来んの。だから、ほら、カレー作って待ってなきゃ」
みどり「そっかぁ」
夏美「あすかのお父さん、幸せ者!」
みどり「でもいいよねぇ、あすかんち。出張くらいで労ってもらえるなんてさ。
夏美「そうよねぇ。あ! カレー、うまくできたらさ、少し残しといてよ。取りに行くから」
みどり「あ、私んとこも!」
2人「じゃね」「バイビー!」「カレー、絶対だかんね!」


あすかの家。敦子とあすかがカレーを作っている。

敦子「でもね。あすかが生まれたときは、お父さんにそっくりで、お父さんのおうちの人たちは大喜びしてたけど、お母さんはちょっとつまんなかったわ。だって、お母さんに似てるところが一つもなかったんだもの」
あすか「……」
敦子「でもねぇ、子供って変わるのよね。今じゃ、お母さんにそっくりの美人さんだって、言われるもんね。そりゃ、お父さんだってハンサムよ。お父さんに似ても、かわいらしい女の子だと思うわよ」

あすかは健一郎を想い、上の空。

(健一郎『人を蹴落として偉くなるより、人の痛み、悲しみが分かる人間になりなさい。私たちが特別な力を与えられているのは、人を守るためだ。傷つけるわけではない』)

家族3人で仲良くカレーを食べていたときのことを思い出し、涙がにじむ。

敦子「やぁねぇ、あすかちゃん。タマネギはね、切るちょっと前に冷蔵庫で冷しておくと、目にしみないのよ」

電話が鳴る。

敦子「きっと、お父さんよ! はぁい、今出ます! ──もしもし? もしもし、もしもし? お父さん? もしもし? ──河合さん? ごめんなさい。うん、もうすぐ帰って来ると思うんだけど……」

あすかが玄関へ駆け出す。

敦子「あ、あすか?」
あすか「お父さん、帰って来ないか…… 見て来る!」


あすかがあてもなく、夕暮れの町中をさまよう。幸せな家族連ればかりが目につく。


やがて雨が降り出す。そばの民家の軒下で、あすかが雨宿りしている。
途方にくれるあすかの背後の窓では、家族が幸せそうに食卓を囲んでいる。


あすかの家では、灯りもつけない室内で、台所でカレーが湯気を立てている。
敦子が、あすかの前での明るさとは一変、夫の無事を祈るように、手を合せ続けている。


やがて、雨がやむ。

ふと、あすかが気づくと、錠がこちらを見ている。その手にはファラオンの手裏剣が。

あすか「はっ……!?」

錠が頷き、静かに去る。とっさに、あすかが追う。


錠を見失った様子のあすか。暗がりの中から、再び錠が現れる。

錠「待ちかねたよ、ファラオンのお嬢さん」
あすか「あなたね!? お父さんをあんな目に遭わせたのは!」
錠「思った以上に力も衰えていたし、一思いに息の根を止めてやったよ」
あすか「許せない…… デュアトス!」
錠「ノアの方舟の大洪水。恐竜を絶滅させたといわれるマントルプリューム。地球には常に、自浄作用がある。今回はその役目を、我々デュアトスがしてやろうというのだ。許せないというのは、お前たちホルス一族の勝手な論理に過ぎん!」

あすかがアンクロスを構える。

錠「勝ち目はなくとも戦うのか?」
あすか「やってみなければ、わからないわ」
錠「教えてやろう…… お前が俺に勝てないわけを! お前には守りたいものがたくさんある。ファラオンもそうだ。だからこそ勝てないのだ。俺を見ろ。守りたいものもない、欲しいものもない、何もない! だからこそ、何だってできる」
あすか「人の心を持たないデュアトスにはわからないわ! 私には守りたいものがあるから戦う! そうでなきゃ、戦えないのよ! あなたには、負けないわ!」
錠「ファラオンでも勝てない、この俺にか!?」

あすか「ハザードフォ──ム!!」

アンクロスを掲げ、あすかが仮面天使ロゼッタに変身。

ロゼッタ「月の光を背に受けて、闇に蠢く悪を絶つ── 仮面天使ロゼッタ、ここに参上!!」

父・健一郎こと神仮面ファラオンと同じ名乗りを決めるロゼッタ。
錠もまた怪人態、青虎仮面ガルゼットに変身する。

ロゼッタのキックが炸裂。続いて連続キック、パンチが次々にガルゼットに決まる。
とどめの必殺剣・ガサールシェーントを振るって突進。すれ違い様に刃が一閃──

必殺技が決まったかと思いきや、ガサールシェーントの剣が真っ二つに折れる。

ガルゼット「もう、おしまいか? 残念だな」

再びロゼッタがキックを繰り出すが、今度はガルゼットはまったく動じず、逆にロゼッタを吹っ飛ばす。

ロゼッタ「あぁっ!?」

先ほどまでとは一転、ガルゼットのパンチとキックが次々にロゼッタに炸裂。ロゼッタは一気に劣勢に追い込まれる。

ロゼッタ「うぅっ…… お、お父さん……」

ガルゼットの攻撃が、嵐のようにロゼッタへ降り注ぐ。

(健一郎『あきらめるな! 人がそれを見捨てない限り、かなわぬ願いなどない!』)

ガルゼット「ホルスの一族の血もここまでだ!」

そのとき。空の彼方に光が浮かぶ。
光がみるみる大きくなり、火の玉と化し、地面へ落下。大音響とともに、もうもうと土煙があがる。

ガルゼット「何……!?」

土煙がやむ。火の玉が落下した跡からは、2本の脚が突き出している。

「花の色が、世の人の心を温めるように、人の愛はこの世を和ませ、温めるのだ…… たとえ愚かで救いがなくとも、そんな人間を、私は愛さずにいられない……」

地面に突き刺さっていた神仮面ファラオンが、すっくと立ち上がる。空の彼方へ吹っ飛ばされたファラオンが、奇蹟的に生還したのであった。

ファラオン「神仮面ファラオン、ここに見参!! 人間は、絶対に負けん!」

ファラオンのパンチが、ガルゼットへ炸裂する。
しかしガルゼットは稲妻に包まれ、最強の姿、魔神仮面デュアヌビスへと変身する。

デュアヌビス「魔神仮面デュアヌビス、推参!! 俺は負けん。デュアトスは滅びぬ!」

ファラオンが拳に力を込める。

ファラオン「今だ!」

デュアヌビス目がけてファラオンが突進。
右パンチを繰り出すデュアヌビス。ファラオンも左パンチを繰り出し、クロスカウンターとなる(※1)。

ファラオン (こいつを弾き飛ばして、右のゴッドパンチで勝負!) (※1)

ファラオンが右パンチ。だがだがデュアヌビスはそれをかわし、ファラオンの顔面にアッパーを食らわす(※1)。
痛烈にファラオンが吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

デュアヌビス「終わった…… 何もかも」(※1)

ロゼッタが傷ついた体を引きずり、ファラオンを抱き起す。

ロゼッタ「お父さん、お父さん!」
ファラオン「あすか……」

ロゼッタの手を、ファラオンが震える手で握り、空へ掲げる。ファラオンのエネルギーが光とともに、ロゼッタの体内へと流れ込む。
ファラオンの変身が解け、ボロボロの健一郎がその場に倒れる。

デュアヌビス「うぉおお──っ!」

勝ち誇るように咆哮するデュアヌビス。ファラオンの力を与えられたロゼッタが、夜空に飛翔。
稲妻がとどろき、ロゼッタの背から8枚の翼が伸びる。

ロゼッタ「ロゼッタ・エンジェルキ──ック!!」

空から天使のごとく舞い降りたロゼッタが、渾身のキック。最期の必殺技がデュアヌビスに炸裂。

デュアヌビス「うぉおおぉぉ──っっ!!」

絶叫とともに、デュアヌビスが大爆発。最強の敵は最期を遂げた。


ロゼッタの変身も解ける。倒れたまま動かない健一郎に、あすかが駆け寄る。

あすか「お父さん!? ねぇ、お父さぁん! お父さん! お父さん、お父さん! お父さん、起きてよぉ! お父さん…… いやぁ──っ! お父さん……!」


あすかの家。敦子はテーブルに突っ伏して眠っている。

玄関のドアが開き、敦子がその音で目覚める。

あすかが、雨でずぶ濡れのままで現れる。

あすか「……ただいま」
敦子「あすか……」

かける言葉が見つからない様子で、無言で立ち尽くす2人。

そしてあすかの背後から静かに、健一郎が現れる。

敦子「……!」

健一郎「ただいま…… ごめんね、敦子……」
敦子「……」

健一郎の頬目がけて、敦子の平手が飛ぶ。
そして敦子が涙で声を詰まらせ、健一郎の胸の中へ飛び込む。

健一郎に抱かれながら嗚咽する敦子を、あすかが静かに見つめる。


3人が食卓を囲み、カレーを食べる。

言葉はないものの、健一郎とあすかが視線をかわす。
黙々とカレーを食べる敦子。あすかが2人の様子を見比べ、微笑む。

戦いが終わり、神家に穏やかな時間が流れてゆく──


THE END



(※1)ファラオンとデュアヌビスの対決は、『あしたのジョー』のオマージュ。元ネタは「アニメ、漫画、特撮の最終回」「あ行」より『あしたのジョー(映画版)』をご覧ください。 inserted by FC2 system