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仮面ライダークウガの最終回


EPISODE.49 雄介


3ヶ月後


警視庁
09:11 a.m.


一条が、クウガとグロンギの戦いの資料写真を眺めている。
未確認生命体対策班は解散したらしく、机の上に段ボールの山が築かれている。

望見「お茶入りました!」
一条「ありがと……」
杉田「あぁ、ありがと」
桜井「サンキュ!」
杉田「見始めると終わらないんだよな」
桜井「つい見てしまいますけどねぇ……」

杉田がお茶をすすり、溜め息をつく。

杉田「長い戦いだったな……」
桜井「第0号を含めて、48体ですもんね」
望見「もし……五代さんじゃない人が4号になってたら、どうなってたのかなぁ……」
杉田「あぁ?」
望見「いえ……五代さんじゃなかったら、最後まで戦えなかったと思って」
桜井「そうだね……いつでも笑顔で頑張れる五代さんだったから、最後の最後まで……」
杉田「『なんでだよ』って言うくらい、いい奴だったもんな……」

本部長が現れる。

本部長「確かに、彼ほどの男はそうはいないだろう。だが……君たちも本当に良く頑張ってくれた! それは誇りにしていいと、私は思っている」

本部長がサムズアップを決める。
一条たちが思わず吹き出しつつ、サムズアップを返す。

一同「ありがとうございます!」
本部長「それにしても……彼は今頃……どこで、何をしているんだろうなぁ?」


窓の外を見上げる一同。
一面の青空が広がっている。



文京区内 ポレポレ
09:30 a.m.


クウガのマークの入ったエプロンをつけたおやっさん。
店に奈々が入ってくる。

奈々「おはようございます!」
おやっさん「おっそいぞ〜」
奈々「すんません! ……何してんの? おっちゃん」
おやっさん「ん? 夏目実加ロンから手紙が来てさ。希望の高校に受かって、フルート続けて、頑張ってますって」
奈々「へぇ……」

送られてきた手紙の中には、制服姿の実加が笑顔でサムズアップを決めている写真。
おやっさんが返事の便箋にプリクラを貼っている。

おやっさん「これ俺のね、プリクラ」
奈々「ねねね、それより、今日遅くなったん、めっちゃ嬉しいニュース聞きとうない?」
おやっさん「ん?」
奈々「これっ!」

奈々が差し出したのは、芝居の台本。

おやっさん「受かったのか……オーディション!」
奈々「うん!」
おやっさん「何だこいつ〜! やったじゃないか、えぇ!?」
奈々「受ける時、前に五代さんが言うてたこと思い出してん。『奈々ちゃんの笑顔で、たっくさんの人が笑顔になるって思ったら、やったるでぇって気になるんじゃない』って」
おやっさん「そっかぁ……!」


市川市内
10:33 a.m.


公園。
榎田ひかりの1人息子の冴が、サッカーで遊んでいる。

ひかり「長野に帰るんだってぇ!?」
一条「それで一言、ご挨拶をと思いまして」
ひかり「お疲れ様でした」
一条「……お疲れ様でした。色々と、無理を聞いて頂いて……」
冴「お母さーん!」

冴がボールを蹴る。
一条が胸でトラップし、蹴り返す。
そのボールを受けた冴が笑顔でサムズアップを決め、一条もサムズアップを返す。
またサッカーを続ける冴を、ひかりが見つめる。

ひかり「最近はまぁまぁかな……早起きした時は一緒にホットケーキ焼いたりして。だいぶ上手くなったしね。明日はディズニーランド行くんだ」

一条が微笑んで冴を見つめる。

ひかり「五代くん、何であんなにすぐ冒険に行っちゃったんだろ。……何か、未確認とは関係なく、普通の時の2人のコンビ見てみたかったな……」


一面の青空。


青空の下、どこかの海岸。

砂浜が広がり、波が打ち寄せている。


ポレポレ
11:02 a.m.

おやっさん「え……『五代雄介ブレンド』が飲みたいの?」

カウンターに掛けたジャンが頷く。

ジャン「でも、五代さんいなくちゃ無理だし……」
おやっさん「いや……」
奈々「ジャンさんの髪の毛、さっぱりしてていい感じですね!」
ジャン「そぉ? 実は……明日……ディスニーランドに行くんですよぉ!」
奈々「えぇ〜! いいなぁ〜」

ポレポレのドアが開く。

おやっさん「いらっしゃい!」

現れたのは、雄介の恩師・神崎先生。

おやっさん「おや、先生」
神崎「こんにちは。ごぶさたしてます」
奈々「こんにちは!」
おやっさん「どうも……どうぞどうぞ! 今日は……?」
神崎「えぇ。実は……以前こちらに寄ったときに、五代が『五代雄介ブレンド』を出してくれましてね。どういうわけか、ふとそれが飲みたくなりましてね」
おやっさん「はぁ……」
神崎「確か……タマサブロウさんという人が作った、オリジナルブレンドが元になっているって?」
ジャン「え? 本当ですか? それ、初めて聞きました」
おやっさん「飲みたいんなら……できるよ?」
ジャン「え? もしかしてその……タマサブロウさんっていう人、ここへ呼べるんですか?」
おやっさん「そうね。呼びますか?」
ジャン「うん!」
神崎「はい!」
おやっさん「おぉい、タマサブロウさん!」

おやっさんが2階への階段を昇る。

「はぁい〜」

階段から降りてきたのは……おやっさん自身。

おやっさん「飾 玉三郎です……」

奈々が溜め息をつく。
ジャンと神埼が、目を点にしておやっさん=飾玉三郎を見つめる。


関東医大病院
00:06 p.m.


椿と一条が、雄介の体を写したレントゲン写真を見つめる。
クウガの秘石「アマダム」の力で、雄介の体内組織は強化され、変貌している。

椿「あいつ……凄すぎるよな……恐らく、『凄まじき戦士』になったあいつの体は……これ以上に変わってたはずだ……それでも、みんなの笑顔のために……戦ってくれた……」
一条「……」
椿「未確認たちが、自分の笑顔のためだけにあんなことをしたお陰で……あいつは、自分の笑顔を消さなければならなくなった……」

沈黙の後、椿がカーテンを開け、窓を開ける。
まばゆい日の光とそよ風が差しこむ。

椿「まぁただ、世の中救いがなくなったわけじゃないかもな」

椿が懐から封筒を出し、一条に渡す。

椿「蝶野からだ」
一条「蝶野?」
椿「あぁ」

一条が手紙を読み始める。

椿「こいつも一緒に入ってた」

椿の手には、蝶野のナイフが。

椿「……きっぱり別れたってことだろ? 他人のことなんてどうでもいいと思っていた自分とな。確かに……他人のことなんて考えない方が楽かもしれない。だが、そんな奴らがいたから五代はああなった」
一条「……」

椿「なぁ。五代は今……笑顔でいると思うか?」


海岸の砂浜を、1人の青年が歩いている。
立ち止まり、砂の上に鞄を下ろす。


ポレポレ
00:15 p.m.


ジャン「五代さん、どうしてあんな急に行ったのかな」
おやっさん「あいつ……青空が好きでね。よく言ってました……『青空を見てると、みんなが笑顔になれるような気がする』って……」
ジャン「……なんか、わかる気がします」
神崎「確かに……広く澄んだ青空を見ると、小さな悩みなんか忘れてしまいますよね……」
おやっさん「あいつの親父さん……世界中回って、戦争の写真、撮ってたでしょ? だから、人が笑顔を忘れてしまった時、どれほど多くの悲しみを生むかって知ってたんでしょうねぇ……雄介は、みのりの手紙に『いつかみんなが笑顔になれる日のために』って、いつもそう書いてたそうで……そういうのって忘れないんですよね、不思議と」
ジャン「だから五代さん、『みんな笑顔になるように』って、2000の技を身につけようとしたんですね」
神崎「五代の一番最初の技……ご存知ですよね?」

おやっさんが大きく頷く。
キョトンとする奈々とジャンが、答えに気づく。

奈々・ジャン「笑顔!!」


豊島区内 わかば保育園
01:24 p.m.


みのり「一条さん……兄が、本当にお世話になりました!」
一条「五代君には、辛い思いばかりさせてしまって……」
みのり「そんなことないですよ!」
一条「え?」
みのり「兄は……信じてやったんですから。いつか……みんなが笑顔になる日が来るって」

グランドで無邪気に遊ぶ子供たちを、みのりが見つめる。

みのり「でも……今度は暫く帰って来ない気がします」

1人の園児が駆け寄ってくる。

園児「ねぇ先生、4号どこ行っちゃったのぉ? ねぇ」
みのり「どこだろうねぇ」
園児「やっぱり、いい奴だったんだよね?」
みのり「そうだね……でもね、4号は本当はいちゃいけないって、先生は思ってるの」
園児「どうしてぇ? 0号を倒してくれたのに」
みのり「ん……でも、4号なんていなくてもいい世の中が、一番いいと思うんだ」

産休だった恵子先生が、赤ん坊を抱いて現れる。
たちまち子供たちが駆け寄る。

子供たち「恵子先生──っ!」
恵子「みんな元気ぃ?」
子供たち「赤ちゃん、見してぇ」「赤ちゃん、大きくなるのかなぁ」「なるよぉ」「かわいい〜」「名前、何ていうの?」
恵子「雄太郎くん」
みのり「かわいいねぇ」
園児「雄太郎くん、おまもりだよ」

園児の1人が、手作りのおまもりを赤ん坊に差し出す。
おまもりには、サムズアップのイラストが。


海岸。

青年が砂浜に置いた鞄に、手作りのおまもりが下げられている。


ポレポレ
01:59 p.m.


奈々が窓の外を見つめている。

おやっさん「どした……?」
奈々「青空……!」

おやっさん、神崎、ジャンも窓の外の空を見上げる。

奈々「五代さんも見てはるかな……」


城南大学 考古学研究室
02:47 p.m.


桜子が、古代文字の解読結果を一条に読んで聞かせている。

桜子「『心清き戦士の泉枯れ果てし時、我、崩れ去らん』……『聖なる泉』が枯れ果てて、五代君が『凄まじき戦士』になると、ゴウラムはそれを感じ取って、自動的に砂になってしまうメカニズムがあるようなんです」
一条「砂に……?」
桜子「えぇ。『凄まじき力』が悪用されないための、安全装置みたいなものでしょうか」
一条「なるほど……」
桜子「でも……ゴウラムは今も、科警研にちゃんとありますよね? ……ってことは五代君、体は黒の4本角になって『凄まじき力』を手に入れたけど、いつものあの優しさはあのままで、なくならなかったってことですよね?」
一条「……そう言えば、五代は幻影で見た『凄まじき戦士』のことを、『全身が黒かった』と言ってましたが……実際には、目はいつものように赤い目でした……」
桜子「……五代君、みんなの笑顔を守りたいっていう、優しい気持ちを力にして『凄まじい戦士』になったんですよ。……憎しみの力でしかなれなかったはずの、『凄まじき戦士』に……」

机を立ち、窓を見つめる桜子。
ふと、一条の方を振り返って笑顔を見せる。

桜子「伝説を塗り替えちゃったんですね! 憎しみの力に任せるのは簡単だったはずだけど……五代君は優しさで……心の力で最後の最後まで頑張って……頑張れば、願いは叶えられるんですね」

一条が頷く。
2人が窓の外の青空を見つめる。

桜子「今度は私たちが頑張らなきゃ……多分、すごく大変なことだと思うけど……心の力で……五代君、絶対、笑顔を取り戻して帰ってきますよね!」
一条「五代は信じていますからね……世界中のみんなの笑顔を」


青空目掛け、拳が突き出される。

海岸の砂浜に寝転がっている青年。その自分の拳を見つめる。


ざわめき声。
海辺で、外国人の子供たち数人が言い争っている。

青年がそれに気づき、慌てて鞄を広い、子供たちのほうへ駆け出す。


青空にボールが舞う。

子供たちにジャグリングを披露する青年──五代雄介。

争っていた子供たちの顔に、次第に笑顔が浮かぶ。


雄介「オッケィ……! アディオス!」
子供たち「チャオ!」

子供たちに手を振り、雄介が去ってゆく。


異国の地。雄介がただ1人、冒険を続けている。

世界中の人々、みんなの笑顔のために。

そして……自分自身の笑顔のために──。



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