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kanonの最終話


目覚まし時計「朝、朝だよ。朝ご飯食べて学校行くよ」

名雪を起こしに行く

祐一「名雪、朝だぞ」

いつものことながら、大量の目覚ましが鳴っていても起きない

祐一「名雪。起きろ、名雪」

名雪「うにゅぅ・・・」

1階に下りる

名雪「はぁ、春休みの夢見てたよ」

祐一「気が早すぎる。まだ2月だぞ」

秋子「おはようございます」

祐一「おはようございます」

名雪「おはよう。わぁ、新作のジャムだね?」

秋子「ええ。早速試してね」

名雪「うん」

遅刻しそうなので

祐一「何で走ってるんだろうな、俺達?」

名雪「だって、お母さんのジャム凄く美味しかったんだよ」

腕時計を見て

名雪「ほら祐一、頑張らないと間に合わないよ」

祐一「くそ」


                              夢の果ての追復曲〜kanon〜

祐一「間に合った・・・」

名雪「よかったね」

祐一「だいたいだな、遅れそうな時くらい我慢しろ。秋子さんのジャムはいつでも食べられるんだから」

名雪「あ・・・そうだよね。お母さんのジャムはいつだって食べられるんだよね」

祐一「今度、あのジャムを食べてあげろよ」

名雪「うぅ・・・祐一食べて」

祐一「俺はジャムアレルギーなんだ」

名雪「そんなの初めて聞いたよ」

北川「よう、何の話だ?」

祐一「秋子さんの特製ジャムについて語り合ってたんだ」

香里「えっ、あのジャムまだあったの?」

祐一「お前も食ったことあるのか?」

香里「前に名雪の家に遊びに行った時に」

祐一「そうか」

北川「何、何?ジャムって何の事だ?」

祐一「世の中には知らない方が幸せな事がある」

香里もうなずく

北川「はぁ?」

香里「そうだ、相沢君。あのね」

祐一「ん?」

外に出てきた

栞「祐一さん?」

祐一「ん?やっぱりここに来たか」

栞「はい、今日から学業再開です」

祐一「休んでいればいいのに。どうせもう一回一年生確定なんだろ?」

栞「そんなこと言う人嫌いです」

振り返ると栞がいた

栞「お久しぶりです」

祐一「ああ。よかったな、栞。学校に出られるようになって」

栞「祐一さん」

祐一「また百花屋でパーティしようぜ。病気が治ったお祝いにさ」

栞「こんな時、こんな時は泣いてもいいんですよね?」

祐一「ああ」

栞「祐一さん!私本当は死にたくなかったんです。お別れなんて嫌です!一人ぼっちなんて嫌です!」

祐一「泣きたい時には泣いたっていいんだ。ずっと我慢してたんだから」

栞「はい・・・はい・・・」

踊り場で

佐祐里「さあ、どうぞ」

祐一、舞「いただきます」

佐祐里の広げた弁当を食べることに

祐一「でもよかったよ。二人とも卒業前に退院できて」

佐祐里「はい。お医者様もびっくりなさっていました。こんなに治りが早いのは奇跡だって。ね、舞?」

舞「うん」

祐一「奇跡?」

佐祐里「でも受験には間に合わなかったから二人とも浪人ですけど。ね、舞?」

舞「うん」

祐一「舞も大学に行くのか?」

眼鏡をかける舞

舞「佐祐里と同じ学校で、動物さんを診るお医者さんの勉強をする」

祐一「そうやって眼鏡かけて読書してると頭良さそうに見えるんだけどさ、お前って勉強ダメダメだろ?大丈夫なのか?」

読んでいた本で殴る

祐一「痛てぇ!」

佐祐里「あはは・・・舞はそんなに成績悪くないですよ」

祐一「そうなのか?」

佐祐里「そうだ、祐一さん。探してたお友達は見つかったんですか?」

祐一「え?」

佐祐里「月宮あゆさん」

祐一「あ、ああ。もう会えないって言ってたから。多分、どっかに引っ越したんだろ?」

舞もこのことは気になっているようだ

帰路につく祐一

秋子「祐一さん」

一瞬あゆに見えた

祐一「あ、秋子さん」

秋子「誰かと間違えた?」

祐一「あ、いえ。あいつが”祐一さん”なんて呼ぶわけないのに」

喫茶店に入る

祐一「でも本当に良かったです。事故の後遺症もなくて」

秋子「先生方も驚かれていました。あんまり回復が早いから、まるで奇跡のようだって・・・祐一さん。あゆちゃんがどこにいるか分からないかしら?私もずっと気になってるの。名雪も心配してるし、何だか何をしてても落ち着かなくて」

祐一「秋子さん。俺思い出したんです」

秋子「え?」

祐一「7年前にあった事。冬休みの最後の日に俺の友達が木から落ちて病院に運ばれた。俺は事情だけを聞かれてその場から帰された。駅前でボーっとしてる所に名雪が来た。名雪は事故の事は知らなかった。俺が名雪に八つ当たりして親と電車に。後の事はよく覚えてません。久しぶりに会っても秋子さんは俺に気を使って事故の事は言わなかった。いつか木が切られた話をしたのは俺が覚えているか確かめるため。そうでしょう?同じような事故を起こさないためにあの木は切られたんですね?木から落ちた子の名前は月宮あゆ。あゆはもうこの世には・・・」

秋子「え?それは違うわ。祐一さん、誤解してる。だって、木から落ちた女の子は亡くなったわけじゃなくて」

病院に直行する。確かにあゆは目を覚まさないが死んでいるわけではない

卒業式の日

佐祐里「祐一さん」

祐一「やっと見つけた。この学校人が多くて。卒業おめでとう。これ、細やかな気持ち」

佐祐里「わぁ、ありがとうございます」

舞が後ろから殴りかかる

祐一「お、舞いたのか?」

不満そうな顔をする

祐一「冗談だよ、忘れてないって。ほら」

佐祐里「よかったね、舞」

機嫌が直る

佐祐里「これから皆で2次会なんですよ。祐一さんもいらっしゃいませんか?」

祐一「ちょっと寄りたいところがあるから後から行く。代わりに北川でも誘ってやってくれ」

舞「あの子の所?」

祐一「ああ」

佐祐里「毎日通ってらっしゃるそうですね?」

祐一「ああ、誰かが話しかけてやった方がいいらしいんだ」

佐祐里「あゆさんのご家族の方とは?」

祐一「週末には顔を合わせてる。早く目を覚ましてくれるといいんだけどな。じゃ、後で顔出すから」

佐祐里「はい、それでは」

祐一が行った後

佐祐里「7年間も眠り続けてるんだってね。事故の後。佐祐里達も今度お見舞いに行こうね?」

舞「うん」

あゆの病室

祐一「あゆ。今日な、うちの学校の卒業式だったんだ。舞もお前の事気にしてたぞ。覚えてるだろ?夜中に学校で会ったよな?」

あゆ(ナレーション)「夢・・・夢を見ている。大好きな人がそばにいる夢。その人は僕に話しかける。色んな話を聞かせてくれる。7年ぶりに会ったいとこの事。人間になった子狐の話。毎日学校の裏庭を訪れる不思議な少女。お化けと戦う女の子。そして、夕暮れの町で再開した幼馴染。夢・・・夢を見ている。大好きな人のそばにいる夢。繰り返される当たり前の毎日。そんな夢の欠片が何度も何度も訪れて、心を少しづつ満たしてゆく。空から降る雪の欠片が町を白く染め変えていくように」

病院の庭で

栞「祐一さん、例えばですよ。例えば今、自分が誰かの夢の中にいるって考えたこと無いですか?」

祐一「何だ、それ?」

栞「ですから例え話ですよ。夢を見ている誰かは夢の中で一つだけ願いを叶える事が出来るんです」

祐一「あ・・・」

栞「夢の世界で暮らし始めた頃はただ泣いている事しか出来なかった。でも、ずっとずっと夢の中で待つことを止めなかった。そして小さなきっかけがあった。願い事は長い長い時間を待ち続けたその子に与えられたプレゼントみたいなものなんです。だから、どんな願いでも叶える事が出来た。病気の女の子を治す事も、事故にあった人を救う事も。怪我をした友達を治す事も」

祐一「願い事は一つじゃないのか?」

栞「その子が何を願ったのかは分かりません。でももしかしたら、その子の大好きな誰かにずっと笑っていて欲しい。そんな風に願ったんじゃないでしょうか?そのためには周りの人達には皆幸せでなければならないでしょう?」

祐一「何故そんな風に思えるんだ?」

栞「分かりません。ただ、病気が治ってからずっとそんな気がしてて」

教会から出てきた

祐一「夢の中・・・」

?「奇跡って起こせる?」

祐一「!」

再びあゆの病室。名雪があゆの髪を梳いていた

名雪「はい、出来た。あゆちゃん、赤いカチューシャしてたしてたのにね。それじゃ私、先に帰ってる」

祐一「ああ。いつも悪いな。忙しいのに」

名雪「別に祐一のためじゃないもん。あゆちゃんのためだもん」

病室を出る名雪

名雪「祐一」

祐一「ん?」

名雪「私、今なら信じられる。奇跡はあるんだよ。ファイトだよ。じゃあね」

再びあゆに話しかける

祐一「名雪は推薦で陸上の強い大学に行くそうだ。香里は頭良いから、多分志望校に合格すると思う。舞も何とか合格ラインに届くらしい。栞は美術部の共同制作でこの間何かの賞を取ったって喜んでいた」

あゆのベッドの前で手をついて

祐一「あゆ、俺の声聞こえてるよな?あゆ?」

誰かが来た

祐一「どうぞ」

来たのは舞だった

祐一「今日は佐祐里さんと一緒じゃないのか?」

舞「祐一。きっとこの子は今でも待ち続けている、祐一を。迎えに行ってあげて。私の時のように」

祐一「迎えに?」

舞「そう、祐一にしか出来ない。約束を果たせるのは約束をしたその人だけだから」

祐一「あゆはどこで俺を待ってるんだ?」

心当たりのあるところへ行ってみた

あゆ(ナレーション)「流れる風景が好きだった」

図書館で勉強している香里

あゆ(ナレーション)「冬、雪の舞う町。新しい足跡を残しながら、商店街を駆け抜ける事が好きだった」

考え事をしている舞

あゆ(ナレーション)「春、雪解けの町。木々の幹に残る小さな雪の塊を、手ですくい取る事が好きだった」

今言ったことを真琴がしていた

あゆ(ナレーション)「夏、雪の冷たさを忘れた町。傾けた傘の隙間から、霞む街並みを見る事が好きだった」

香里と栞の買い物に付き合わされる北川

あゆ(ナレーション)「秋、雪の到来を告げる町。見上げた雲から舞い落ちる小さな白い結晶を、掌で受け止めることが好きだった。そして季節は冬、雪の季節。町が白一色に覆われる季節。流れる風景が好きだった」

走り回ってるあゆがいた

あゆ(ナレーション)「だけど雪に凍り付く水たまりの様に、僕の時間は止まっていた。この四角い部屋の中で、季節の無い時間の中で、僕はずっと一人ぼっちだった。繰り返し繰り返し、夢の中で同じ風景を眺めながら、明けない夜に身を委ねながら。だけど、ゆっくりと夜が白み始めていた」

叢の中にボロボロの紙袋があった。そして中身はあゆのカチューシャだった。祐一が泣き出す

あゆ「大切な人にもらったものだから。このカチューシャだって、祐一君がくれたんだよ。僕にこれをプレゼントしてくれた日の事覚えてる?」

祐一「俺はプレゼントをやってない。あゆに渡してなんかいない。」

あゆ「もらっていいの?後で返せって言われても返さないからね」

祐一「俺は現実より幻を選んだ。悲しい現実を心の奥に押し込めて、安らいでいることの出来る幻を受け入れた。弱い心が潰れないように。思い出を傷つけないために」

7年前。ベンチに座って祐一を待っていたあゆ

あゆ「遅いよ、祐一君」

祐一「悪い。今度は本当に遅かったよな?」

あゆ「そうだよ!僕、もう待ちくたびれちゃったよ」

祐一「心配したか?もう来ないんじゃないかって?」

あゆ「ううん、だって約束したもん」

祐一「あ、あゆ。これ」

あゆ「何?」

祐一「言ったろ。渡したいものがあるって」

あゆ「わぁ・・・」

祐一「あゆ。さあ、行こう」

あゆ「うん!」

そして時間は過ぎ

あゆ「ふぅ・・・遅いよ。よいしょっと」

あゆ(ナレーション)「何だか悲しくなってきた」

祐一が息を切らせて来た

あゆ(ナレーション)「あの人が目の前に立っていた」

祐一「よう、不審人物」

あゆ「遅いよ!遅すぎるよ!」

祐一「悪い、ちょっと遅れた」

あゆ「それに、僕は不審人物じゃないよ!」

祐一「何言ってんだ。どっから見ても不審な人だぞ?」

あゆ「どこが?」

祐一「全部」

あゆ「うぐぅ!そんな事無いもん!」

祐一「どうしたんだ?新手のイメチェンか?」

あゆ「笑わない?」

祐一「笑わない」

あゆ「本当に笑わない?」

祐一「どんな事があっても決して笑わないと約束する」

あゆ「凄く嘘っぽいけど・・・でも、約束だよ」

祐一「俺はこう見えても約束は守る方だ」

あゆ「床屋さんに行って髪の毛切ってくださいって言ったんだよ。そうしたら」

帽子をとると、イメージが変わるほどショートになっていた

あゆ「いっぱい切られた」

あゆ(ナレーション)「全く遠慮なしに、あの人が大笑いしていた」

あゆ「うぐぅ、笑わないっていったのに!」

祐一「そんな髪型だとますます男の子みたいだな。その歳で床屋に行くからだ」

あゆ「だって、床屋さんしか行ったことないもん」

祐一「今度、名雪に美容院紹介してもらえ」

あゆ「うん、そうする」

祐一「さあ、行こうぜ。秋子さんがたい焼きを作ってくれるそうだ」

あゆ「本当?」

祐一「栞や舞や香里や佐祐里さん達も集まってるぞ。皆、俺達を待ってるんだ」

あゆ「それじゃ急がなくちゃね」

祐一「おう」

あゆを車椅子に乗せる

あゆ「たい焼き、僕も作ってみたいんだ」

あゆ(ナレーション)「止まっていた思い出がゆっくりと流れ始める。たった一つの奇跡の欠片を抱きしめながら」

あゆ「ねえ、祐一君」

祐一「ん?」

あゆ「僕、また元気に走れるようになるかな?」

祐一「当たり前だろう。土の上だって、草の上だって、雪の上だって。また元気に走れるようになるさ」

あゆ「うん、そうだよね。クスッ」

あゆ(ナレーション)「どれくらい時間がかかるかは分からないけど、でも、時間はたくさんあるのだから」

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