戻る TOPへ

機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争の最終回


森林公園。森の中のザクの残骸。

機外でバーニィが、コクピットの中のアルとトランシーバーで連絡を取りつつ、修理状況を調べている。

バーニィ「アル、聞こえるか?」
アル「聞こえるよ」
バーニィ「今、スイッチを入れるからな」
アル「うん」
バーニィ「モニターに変化はないか?」
アル「まるでなし」
バーニィ「……今度はどうだ?」
アル「表示が出た! D14が点滅してる」
バーニィ「右側のモニターはどうだ?」
アル「Aの15が光ってる」
バーニィ「そうか……」
アル「直せるの?」
バーニィ「もちろん!」
アル「ガンダムやっつけられる?」
バーニィ「楽勝っ!!」


ポケットの中の戦争


バーニィ「必要なのは工具、ザクのパーツ、武器。この3つだ。工具は買えばいい」
アル「パーツは?」
バーニィ「盗む」
アル「泥棒すんの!?」
バーニィ「ジムの残骸がコロニー中に転がってる。使える部品を、その中から探す」
アル「宝探しみたいだね」
バーニィ「連邦に捕まる危険だってあんだぞ?」
アル「覚悟の上!」
バーニィ「よくぞ言った! では、武器を入手しに参ろうぞ!」


2人を乗せた車が町を目指す。

バーニィ「武器を積んだトレーラーが2台残っている。ミーシャの置き土産ってわけだ」


サイクロプス隊の基地跡。
トレーラーがレッカー車で運ばれて行ってしまう。

アル「連邦兵が持って行ってるよ?」
バーニィ「まだ1台残ってる。駐車場だ。少し急ぐぞ」


駐車場。
ジープに乗った連邦兵2人が、管理人に掛け合っている。

管理人「あのトレーラーが3日ほど駐車してますがね。ま、調べたければどうぞ。あぁ、傷は付けんようにして下さい。預かりもんなんだから」
連邦兵「わかった、わかった」

ジープの横をすり抜け、バーニィの車は駐車場へ。
連邦兵が当のトレーラーへと近づいて行く。

連邦兵たち「ナンバープレートはレンタカーのものだな」「パーキングメーターを調べてみろ」
バーニィ「クッ……!」
アル「バーニィ、僕にいい考えがある」

連邦兵たち「3日前から駐車しっぱなしになってる」「よぉし、中を見てみるか」

突然、激しい打撲音。
兵たちが振り向くと、アルが連邦兵たちのジープを鉄パイプで殴りつけている。

アル「連邦軍はこのコロニーから出てけぇ!!」
連邦兵たち「坊主、何すんだ!?」「やめないか!」
アル「出てけぇ──っ!!」
連邦兵たち「やめろ!」「こらっ!」「やめるんだ!」

兵たちがアルの方へ行った隙に、バーニィはトレーラーへ。

アル「父さんを返せぇ!!」
連邦兵「な、何のことだ!?」
アル「お前たちが父さんを殺したんだ!」
連邦兵「え!?」
アル「連邦軍が基地なんか造るから!」

アルが泣き真似をして、目を袖で拭う。

アル「……戦争が起こって、父さんが……うぅっ……父さんを返してよぉ……」
連邦兵「……なぁ坊や。気持ちはわかるがな、悪いのはジオン軍なんだ。だからもう二度とこんなことしちゃ、駄目だよ」

兵たちがトレーラーの方へ引き返そうとするが……既にトレーラーの姿は無い。

連邦兵たち「あ!?」


森の中。 トレーラー奪回に成功したバーニィたちが、入手した武器を眺める。

アル「ヒートホーク1丁に、ハンドグレネード12発。大収穫だね!」
バーニィ「よくやったぞ、アル。このトレーラーを捨ててから、新しい車を手に入れよう」


街中。新しい車に乗ったバーニィとアルが食事中。

バーニィ「……」
アル「バーニィ……」
バーニィ「ん?」
アル「何考えてるの?」
バーニィ「……武器が足りないんだ。飛び道具がないと、ガンダムに近づく前にやられちまう」
アル「盗めない?」
バーニィ「そいつは難しいな。何かいい手がありゃあなぁ……ん?」

折りしも時はクリスマス間近。サンタクロースを象った巨大なアドバルーンが空を舞っている。

バーニィ「あれだ……!」
アル「いい考えが浮かんだの!?」
バーニィ「あぁ、凄いのがな」
アル「聞かせて!」


バーニィが街角の公衆電話で、電話帳を調べる。

バーニィ「こいつだ!」


その夜、とある倉庫街。

「ぐわっ!?」

倉庫裏で、バーニィの鉄パイプを食らった警備員が倒れる。

アル「……殺さなかった?」
バーニィ「気絶しただけだ」

警備員から盗んだ鍵で、2人が倉庫に潜入。
中にはアドバルーンなどの箱が大量に積まれている。
目当ての荷物を車に積み込み、2人は逃走。

バーニィ「この発炎筒と風船を使って罠を仕掛けるんだ。場所は、連邦基地のそばの森がいいと思う」
アル「どうして?」
バーニィ「あそこなら、他人を巻き込む心配がないだろ?」
アル「そうかぁ! で、次はどうするの?」
バーニィ「ガンダムを誘い込んで、不意打ちをかける! そうすりゃあ、ヒートホークでも勝てる。ふふ、楽勝だな、こりゃ」


翌日。
クリスマスソングの流れる街角。車の中のバーニィとアル。

バーニィ「情けない顔すんなよ。明日、親父さんが帰ってくんだろ?」
アル「だってぇ、一緒に戦えないなんて……本当に手伝えること、もう無いのぉ?」
バーニィ「戦いの方は、俺1人で充分だよ。明日のお前の任務は、これだ」

バーニィがノートほどの大きさの紙包みと、1枚のディスクを差し出す。

バーニィ「この包みを届けて欲しいんだ」
アル「どこに届けるの?」
バーニィ「ディスクに指示が入っている。作戦が失敗したら……俺が死んだら、そのディスクを見て、俺の命令通りに行動しろ。大事な仕事だ。頼んだぞ」
アル「バーニィが……死んだら?」
バーニィ「万が一のときの用心だ! ま、使う必要は無いだろうがな。明日の2時、ガンダムやっつけて……このコロニーを守って見せるさ!」


夜。
バーニィが車でアルを家まで送り届ける。

バーニィ「いいクリスマスをな、アル」
アル「バーニィもね」
バーニィ「おやすみ」
アル「……バーニィ、死なないよね!? 勝てるよね!?」
バーニィ「……もちろんさ! 任せとけって! ほら!」

アルの肩をポンと叩いて送り出すバーニィ。

アル「おやすみ、バーニィ……」

アルが家へ駆けてゆく。
バーニィがアルの家の隣、クリスの家を見やる。
クリスの家。父親がクリスからのマフラーを贈られ、微笑んでいる。

アルの自室。クリスマスツリーの前で、アルが必死に祈りを捧げている。

アル「神様、お願いを叶えて下さい……もう二度といたずらしないと誓います。本当です、約束します! カエル殺して遊ぶの、やめます。ヘビやトカゲを女の子の机に入れたりしません。だから……だからお願いです! バーニィをお守り下さい。このコロニーの……皆の命をお救い下さい。アーメン……」


翌日、空港。
アルと母親のミチコが父の帰りを待っている。
アルが時計を見上げる。

アル (もうすぐ出撃の時間だ……バーニィ……)

やがて、父のイームズが現れる。

イームズ「おぉい、アル、母さん! いやぁ、待たせて悪かったな」


森の中。 ザクのコクピットに乗り込んだバーニィが、操縦桿を握り、決意を固める。


アルたちを乗せたバスが空港を発つ。アルは、両親の会話など上の空。

イームズ「船のすぐ近くで戦闘が起きてね」
ミチコ「まぁ……」
イームズ「ジオンの船が沈んでいくのが窓から見えた。こちらも危ないところだったよ……連邦軍に降伏したジオン艦には、核ミサイルを積んでいたものもいたらしい」
アル「え!?」
ミチコ「まぁ、核兵器を積んでいたなんて……!?」
イームズ「連邦軍の調査によれば、リーアの方へ進路を取っていたらしいが、なんでまた中立のこのコロニーに……?」

バーニィが決死の覚悟でガンダムに挑むのは、ジオンによるコロニーへの核攻撃を中止させるため。
核を積んだジオン船が降伏した以上、バーニィにはもう戦う必要はない……!

バスが駅に停車。アルが駆け出す。

イームズ「アル、どうしたんだ!?」
ミチコ「アル、降りるのはここじゃないわ!」

アル (もう戦う必要はないんだ! バーニィを止めなきゃ!)


連邦基地に警報が響く。

スチュアート「何だ!?」
連邦兵「ザク接近中。あと3分で、当基地に接触します」

クリスがアレックスの格納庫へ走る。

スチュアート「アレックスの残弾状況は?」
連邦兵「右腕に500発だけ残っています」「リーア空軍より連絡。支援行動を断るとのことです」
スチュアート「むぅ……マッケンジー中尉、出撃だ!」
クリス「……了解」


連邦基地へと近づいていくバーニィのザクのもとへ、クリスの乗ったアレックスが現れる。

バーニィ「来たな!」

ザクが森の方へと進路を変える。

バーニィ「どうした、追って来ないのか!?」

アレックスがザクを追う。

バーニィ「よぉし、いい子だ」

連邦兵「両機とも斜面に向かっています」
スチュアート「マッケンジー中尉、引き返せ! 平地で戦う方が有利だ!」
クリス「斜面は無人地帯です」
スチュアート「何だと?」
クリス「森で戦います」
スチュアート「中尉、引き返せ!」


アルがバーニィを追う。

アル「バーニィ──!」


森の中、時限装置が作動。
バーニィの仕掛けた発煙筒の煙が周囲に満ち、その中でザクがアレックスを待ち構える。

アル「バーニィ──!」

煙で視界の悪くなった森の中、突如、木々の間から巨大な影が飛び出す。
アレックスが右腕のガトリング砲を放つ。たちまち影が破裂する。
バーニィが盗み出したアドバルーンである。

アル「バーニィ、逃げるんだぁ──!」

方々の木から次々に飛び出す影。
アレックスが片っ端から撃ちまくるが、どれもこれもアドバルーンである。

クリス「これは!?」

隙をつき、ザクがヒートホークでアレックスに斬りかかる。
しかし、それより早くアレックスのガトリングがザクの胸を貫く。
ザクのコクピット内に飛び散った機械片が、バーニィの頭を抉り、鮮血が飛び散る。

バーニィ「ぐはぁっ!」

しかしザクも渾身の力でアレックスの右腕を斬り落とし、横腹を薙ぎ払う。
アレックスのコクピット内、機械片が飛び散ってクリスの右腕を裂く。

クリス「うぅっ!」

ガトリングを失ったアレックスが、ビームサーベルを抜く。
ザクのヒートホーク、アレックスのビームサーベルの鍔迫り合い。

アル「やめてぇ──っ!! バーニィ──! バーニィ──!! もう戦わなくていいんだ!!」

いつしか戦場は森の下、市街地へ近づいている。
コクピットの中、深手を負ったバーニィ、クリスともに大きく息を切らす。
ザクのヒートホークに熱が迸る。
アレックスのビームサーベルに光の刃が伸びる。

アル「バーニィ──!」

突進する2体。

激突。

ザクのヒートホークがアレックスの首を切り落とす。
そしてアレックスのビームサーベルは──ザクのコクピットを確実に貫く。


アル「あぁっ……!?」


大爆発──


戦闘跡。

活動を停止したアレックスのもとへ、連邦兵たちが駆けつけている。
ザクは既に原形を留めていない……

「マッケンジー中尉は?」「生きてます、気を失ってるだけです」
「ザクに乗ってた奴は?」「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチよりひでぇよ」

木にもたれかかって放心状態のアルに、兵の1人が声をかける。

連邦兵「坊や、大丈夫か? こんなとこで何してたんだ?」

我に返るアル。
その視界に、アレックスのコクピットから、パイロットが運び出される様子が映る。それは……

アル「あぁっ……?」
連邦兵「おい、大丈夫か?」

アレックスのパイロットはクリス。アルはそれを初めて知る。

「おい、ストレッチャーを急いでくれ」

文字通り死闘を繰り広げた2人。
それは、アルが兄同然に慕っていたバーニィと、姉同然に慕っていたクリスだった……

連邦兵「おい、大丈夫か? おい!? 坊や、しっかりしろ! おい!」


バーニィからアルに託されたメッセージの中──

アル、いいかい? よく聞いてくれ。
この包みの中には、俺の証言を収めたテープや、証拠の品が入っている。
このコロニーが核ミサイルの標的になったわけを、知る限り喋った。
もし俺が死んだら、これを警察に届けてくれ。
大人が本当だと信じてくれたら、このコロニーは救われると思う。

俺が直接、警察に自首しようかとも思ったんだが、何て言うか、そうするのは逃げるみたいに思えて……
ここで戦うのをやめるのと、自分が自分でなくなるような……
連邦が憎いとか、隊長たちの仇を討ちたいとかいうんじゃないんだ。
うまく言えないけど、あいつと……ガンダムと戦ってみたくなったんだ。
俺が兵士だからなのか、理由は自分でもよくわからない。

アル……俺は多分死ぬだろうが、そのことで、連邦軍の兵士や、ガンダムのパイロットを怨んだりしないでくれ。
彼らだって、俺と同じで、自分がやるべきだと思ったことをやってるだけなんだ。
無理かもしれないけど、他人を怨んだり、自分のことを責めたりしないでくれ。
これは俺の……最後の頼みだ。

もし、運良く生き延びて、戦争が終わったらさ、必ずこのコロニーに帰ってくるよ。
逢いに来る……約束だ!

これでお別れだ!
じゃあな、アル。元気で暮らせよ! クリスによろしくな!


「アル、アル?」

アルが自室のベッドで目を覚ます。目の前には母ミチコが。

ミチコ「どうしたの? うなされてたわよ」
アル「……夢、見てたんだ。何時なの? 今」
ミチコ「8時半くらい」

ミチコがカーテンを開ける。眩しい朝日の光が差し込む。

ミチコ「うーん、今日はいいお天気よ! 神様が新学期を祝ってるみたい」


台所。
父イームズがパジャマ姿のまま、水を滴らせながらやって来る。

イームズ「母さん、ちょっと……タオルが見つからんよ」
ミチコ「お父さんたら、台所を水浸しにする気!?」
イームズ「あぁ、ちょっと貸してくれ」

イームズがミチコのエプロンで顔を拭く。

ミチコ「父さん、ちょっと!? ……あぁん、もう困ったわねぇ」

ミチコ「アル、そろそろ出なきゃ、遅刻するわよ」
アル「うん……」

ミチコ「ハンカチは持った?」
アル「持ったよ! 行ってきまぁす!」

アルが家を出る。

イームズ「大人になったのかな……落ち着きが出てきたんじゃないか?」


アルが登校しようとする途中、隣の家のクリスがアルを呼び止める。

クリス「アルゥ!」

クリスの腕に巻かれた包帯が痛々しい。
彼女の両親は、旅荷物をまとめている。

クリス「間に合って良かったわ。私ね、地球に転任することになったの」
アル「……行っちゃうの?」
クリス「うん……ちゃんと会って、お別れを言いたかったの。急な知らせで、驚かせちゃった?」
アル「……」
クリス「バーニィにも挨拶をしておきたかったんだけど、アルから伝えてくれる? 私が『よろしく』って言ってたって」

アルが微かに震えつつ、顔を伏せ、帽子のつばで目を隠す。

アル「うん……バーニィもさ、きっと……きっと残念がると思うな……」
クリス「アル……」

アルが顔を上げる。目が涙で滲んでいる。
そんなアルに、クリスは頬に優しくキスする。

クリス「さよなら、アル」
アル「さよなら、クリス……」


戦争で破壊された学校跡。
グランドに生徒たちが集まり、校長が演説を行なっている。
チェイとテルコットは退屈そう。

校長「長く苦しかった戦争も遂に終わり、平和の日々が訪れました。しかしこのコロニーにも、戦争は深い傷跡を残していきました。私たちは校舎を失っただけでなく、幾人もの親や、兄弟、友人を失ったのです。この平和は、まことに多くの犠牲の上に勝ち取られたものです。君たちにはそのことを忘れないでほしいと思います……」

次第にアルが、涙を堪えきれなくなる。

ドロシー「アル……? どっか痛いの?」
アル「うぅっ……」

肩を振るわせつつ、アルが涙を拭う。

ドロシー「先生呼んでくるから、待ってて!」

校長「そして君たちが大人になったとき、二度と戦争が起こらないように平和な世界を築くために、真剣に努力してほしい。それが残された者の務めであり、義務なのです」

チェイ「アル、泣くなよぉ。戦争はまたすぐ始まるって。今度はさ、もっともっと派手で、楽しくってでっかい奴だぜ、きっと」
テルコット「そうだよ。そしたらさぁ、薬莢なんかじゃなく、実弾も拾えるしさぁ、ひょっとすると、軍隊のレーション食えるかもしんないぜぇ!」

ドロシーがアルのもとへ、先生を連れて来る。

アルが周囲の目もはばからず、泣き続ける。


世界に平和が訪れた。束の間の平和が──


(終)
inserted by FC2 system