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これまでのあらすじ

金髪の天才、ラインハルト・フォン・ローエングラムは、ゴールデンバウム王朝の後宮に入れられた
姉・アンネローゼを取り戻すため、自らが宇宙を掴むため、親友ジークフリード・キルヒアイス
と共に大宇宙へ飛び出し、数多くの敵と戦ってきた。
キルヒアイスや多くの部下を失いながらも激しい戦いを勝ち抜き、ラインハルトはついに全宇宙の
ほとんどを統一し、ローエングラム王朝銀河帝国の初代皇帝となったのである。

一方、専制政治に反対するヤン・ウェンリーとその一党はあえてラインハルトに抵抗し、
宇宙に民主主義の種を蒔くべくイゼルローン共和政府を樹立する。ヤンがテロに斃れた後は、後継者
ユリアン・ミンツの指導の下、民主共和制の火を守っていった。

そしてついに、シヴァ星域で両勢力は激突する。兵力で圧倒的に劣る共和政府だったが、命を懸けて自らの
理想を示したことにより、ラインハルトとの講和に持ち込むことに成功するのだった。

和平交渉のため惑星ハイネセンに赴いたユリアンとその仲間達。ラインハルトと会見したユリアンは、
そのまま仲間達と共に帝国首都フェザーンに行く事になった。ついに、宇宙が平和になる時が来たのだ。

だが、ラインハルトはすでに死病にとりつかれていた。彼の命はまさに尽きようとしていたのである・・・・。



銀河英雄伝説最終話 ”夢、見果てたり”

「宇宙暦800年、新帝国暦3年7月8日、ようやく治安の回復が見られる惑星ハイネセンにおいて、
”ルビンスキーの火祭り”に巻き込まれて負傷、入院していた人物のひとりが、身分証明書の偽造を
発見されて憲兵隊の尋問を受けることになった。」

憲兵「卿の名は?」
男「シューマッハ、レオポルド・シューマッハ」
憲兵「!?」

「それは、前王朝の幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世誘拐の実行犯として、重要手配されている国事犯の
名であった。」

ノートパソコンで検索する憲兵。

「照合の結果、本人に間違いないことがわかると病室は本格的な取調べの場となったが、シューマッハ自身
が供述を拒否しなかったので、拷問も自白剤も使用されなかった。」
「その取調べの中でシューマッハは、今年に入ってエルウィン・ヨーゼフ2世の死体とされた物は、別人
の死体だと語った。」

憲兵「どういうことだ?」
シューマッハ「エルウィン・ヨーゼフ2世は行方不明になったんだ。昨年の3月に、ランズベルク伯の手
から逃げ出してね。その後はどうしているのか見当もつかないな・・・・・」
憲兵「ではあの死体は!?」
シューマッハ「精神の均衡を失ったランズベルク伯が、死体収容所から同年齢の少年の遺体を盗み出して、
それをカイザーの物として扱っていたんだ。ランズベルク伯が所持していた幼帝の死の記録は、すべて
彼の妄想が生んだ創作に過ぎない。もっとも、帝国の治安当局が完全に信じるほどの出来だ。彼の生涯
最高の創作物だったのだ。」
憲兵「・・・・・・」

シューマッハの語りはさらに続く。

シューマッハ「それともうひとつ。地球教の残党は、まだカイザーの命を狙うことをあきらめてはいない。
俺がルビンスキーの線から聞いた話では、最後の実働集団がフェザーンに進入したということだ。」
憲兵「!」

緊張を高める憲兵隊。

シューマッハ「人数は30人に満たないはずで、もう他の組織は壊滅している。そいつらを処理すれば
地球教が再起することは無いだろう。」

憲兵のひとりが報告に赴いたようだ。

憲兵「今後どのように身を処すつもりか?」
シューマッハ「別に何も無い。できれば、フェザーンのアッシニボイヤ渓谷で元の部下達とやっていた
農場に戻りたい。それだけだ・・・・・。」

「後日のことになるが、シューマッハの希望は達成されなかった。2ヵ月後、恩赦によって釈放された
彼はフェザーンに帰ったが、アッシニボイヤ渓谷の集団農場はすでに解体されて、彼の元部下達も四散
していた。」
「一時彼は、シュトライト中将の推挙で帝国軍准将となるが、宇宙海賊との戦闘中行方不明となる。」

場面変わって、パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥が何やら報告書を読んでいる。

「シューマッハのもたらした情報は、フェザーンに向けて航行中のオーベルシュタイン元帥に伝えられた。」

報告書を読んで深刻な顔をするオーベルシュタイン。

さらに場面変わってラインハルトの旗艦ブリュンヒルト。病床のラインハルトとユリアンが
語り合っている。

「フェザーンへ向かうブリュンヒルトの艦内で、ユリアンは、しばしばカイザー・ラインハルトと面談す
る機会を得た。ラインハルトは、ヤン・ウェンリーの逸話を聞くことを好んだ。」

ユリアンの話を受けて、ラインハルトが笑っている。

「無論この間にも、今後の政治について真剣な討議がなされた。イゼルローン要塞を帝国軍に引き渡すこ
と、ハイネセンを含むバーラト星系を自治領として内政自治権を与えること、この2点については完全な
合意を見た。」
「だが、憲法の制定と議会の開設については、ラインハルトは慎重だった。」

ラインハルト「立憲政治とやらの利点については考慮するが、確約はできない。」
ユリアン「・・・・・・」
ラインハルト「余と卿とですべてのことを決めてしまっては、後の世代の人間がやるべきことが
無くなってしまう。そうなれば、余計なことをしてくれたと恨まれるだろう・・・」

にっこりと微笑むユリアン。

「冗談めかしてはいるが、カイザー・ラインハルトは民主主義の存続を無制限、あるいは無原則に認める
つもりは無いのだということを、ユリアンは理解した。」
「ラインハルトは病に衰弱したといっても。為政者としての冷静な現実感覚を失ってはおらず、むしろユ
リアンらに、辛辣な試練を与えようとしているのだ。戦争に耐えて生き残った価値観が、平和の中で
腐食しないか見届けてやるというのである。」


「7月18日。カイザー・ラインハルトの一行はフェザーンに到着した。」
「そのままカイザー・ラインハルトは、后妃と皇子が待つヴェルゼーデ仮皇宮に向かった。それはかつて
のゴールデンバウム王朝の高等弁務官の邸宅だったが、柊館(シュテッヒパルムシュロス)の炎上の後、
仮の皇宮に定められていた。」

ラインハルトの乗った車が館に入っていく。

「一方、ユリアンらも仮皇宮から徒歩で十分ほどの、ホテル”ベルンカステル”に投宿したが、周辺を
帝国軍陸戦兵に警備されることとなった。」

アッテンボロー「ま、あのぐらいは多めに見てやるさ。」
ポプラン「おや? 万事に好戦的なアッテンボロー提督にしてはお珍しいことで?」
アッテンボロー「喧嘩をするには、時と相手を選ばなくてはな。帝国に議会ができるなら、そっちで暴れ
たほうが面白いだろう。ところで、この一件が済んだら、お前さんどうするんだ?」
ポプラン「そうだなあ、宇宙海賊も悪くないなあ。とにかく俺はもうヤン・ウェンリーの下で、服従心と
忍耐心を使い果たした。これから先、死ぬまで誰にも頭を下げる気はないし、誰の家につながれるのも
御免被りたいね。」

それを聞いてうなずくユリアン。

アッテンボロー「そういや聞いたかユリアン?。トリューニヒトのこと。」
ユリアン「ええ・・・・」

「それは、ルビンスキーの死とドミニクの告白によって明らかになった事実であったが、”ヨブ・トリュー
ニヒトが目指していたのも帝国に立憲体制を敷くであった”という。」
「動機も理念も大きく異なるが、目指すところが同じであったということに、ユリアンは戦慄すら覚えて
いた。」

「7月25日。それまで小康状態にあったラインハルトの容態が急激に悪化した。体温は40℃を下らず、
しばしば意識を失い、脱水症状に陥った。」
「ヒルダとアンネローゼは、病人の看護と乳児の世話を交代で行った。どちらかひとりであれば過労で
倒れていたことは疑いない。」

「翌26日。さらに容態は悪化し、1時50分に呼吸が一時停止した。」

心臓マッサージを受けるラインハルト。

「これは20秒後には回復し、13時には意識も戻った。」

安堵する医師団と皇妃ヒルダ、そして大公妃アンネローゼ。

フェザーンに雨が降り出した。不吉な予感を感じさせる天気に、フェザーン市民も不安を隠せない。

市民1「どうだい、7月だというのにこの気温は?」
市民2「奇妙な天気だ。カイザーは太陽の光まで、あの世に持っていってしまうんじゃないか?」

雨が降り注ぐ中、何台もの車が館に入ってきた。

「16時20分。それまで軍務に従事していた帝国軍の将帥たちが招集された。
オーベルシュタイン、ミッターマイヤー両元帥をはじめ、ミュラー、ビッテンフェルト、ワーレン、
アイゼナッハ、メックリンガー、ケスラーの6名の上級大将が、待機所にあてられた談話室に招じ入れら
れた。」
「5分後。オーベルシュタインのみが所要と称して退出している。」

雷が轟く中、椅子についた将帥たちは一言もしゃべらない・・・・・・・・。

ケスラー「全宇宙を征服なさった覇王が、地上に足止めされ病室に閉じ込められている。おいたわしい
限りだ・・・・・・。」
ビッテンフェルト「医師どもは何をしているのだ! 役立たずの極潰しどもが、手をつかねて陛下の
お苦しみを放置したりすれば、ただではおかんぞ!!」

激昂するビッテンフェルトにワーレンが反発する。

ワーレン「貴様ひとり喚くな! いつも貴様が逆上する物だから、他の者が迷惑するではないか!
俺達は貴様の鎮静剤ではないぞ!」
ビッテンフェルト「何だと〜!!」

怒って立ち上がったビッテンフェルトに対してワーレンも立ち上がる。
一触即発かと思われたその時、アイゼナッハがグラスの中身を2人にぶちまけた!

ビッテンフェルト「どわっ!?」
ワーレン「ぬう!?」

水を被って冷静さを取り戻した2人を、ミッターマイヤー元帥がたしなめる。

ミッターマイヤー「カイザーご自身が心身の苦痛に耐えていらっしゃる。我々が7人がかりで耐えられん
はずが無かろう。”情けない臣下を持ったものだ”とカイザーがお嘆きになるぞ。」

一方病室のラインハルトは・・・・

「この時、意識を回復したラインハルトはヒルダにいくつかの遺言を残していた。」

ラインハルト「6名の上級大将に帝国元帥の地位を与えること。ただし、それは余の死後、摂政となった
カイザーリンの名で行うように・・・・・。」

「18時30時。ミッターマイヤー元帥のみが呼び出され、諸将は不吉な予感に緊張を強いられた。」
「だが、ミッターマイヤーが呼ばれた理由は、一同が想像したものではなかった。」

ヒルダ「嵐の中を恐縮ですけどミッターマイヤー元帥。ここへ、奥様とお子様をお連れくださいまし。」
ミッターマイヤー「よろしいのですか? 私の妻子などを連れて参っても?」
ヒルダ「カイザーがそうお望みなのです。どうか急いでください」
ミッターマイヤー「直ちに・・・・」

礼をして下がるミッターマイヤー。

「同時刻ベルンカステルホテルにもカイザーの使者が訪れていた。」

使者として来たのはシュトライト中将だった。ユリアンに敬礼した後、用件を伝える。

シュトライト「カイザーが卿らを、”仮皇宮にお呼びせよ”とおおせになりました。悪天候の中、恐縮で
すがお越しください。」

仲間たちを振り返り、返事をするユリアン。

ユリアン「危ないのですか?」
シュトライト「!? どうかお急ぎを・・・・・」

一瞬顔をゆがめるシュトライト。驚きながらもうなずいたユリアンは、仲間達とともに仮皇宮に赴いた。

ユリアン(ヤン提督。僕はあなたの代理として、この時代に冠絶した巨大な個性の終焉を確かめます。
提督が来世においでなら、どうか僕の目を通して歴史の重大な瞬間を確認してください。)

仮皇宮に着いた一行の前を、アンネローゼが通り過ぎる。

シュトライト「グリューネワルト大公妃殿下であらせられます。」
ユリアン(あの人が! あの人がいたからこそローエングラム王朝が誕生し、ラインハルトという巨星
が宇宙に輝きえたのか・・・・・)

ラインハルトの病室に入ったアンネローゼ。そこでは皇太子アレクを抱いたヒルダと、横たわるライン
ハルトが待っていた。

ラインハルト「夢を見ていました・・・・姉上・・・・・・。」

「アンネローゼは、ラインハルトの瞳に、今まで見たことの無い穏やかな、柔らかな光がたゆたっている
のを見て取った。それはアンネローゼに弟の死を確信させた。ラインハルトは、常に満たされない心を埋
めるべく自らの身を焼きながら戦ってきたのではなかったか? 
ラインハルトの柔和さは、彼の心身が焼き尽くされた白い灰の暖かさであるようだった。」

アンネローゼ「まだ、夢を見たり無い・・・・・・ラインハルト?」

その問いにゆっくりと首を振るラインハルト

ラインハルト「いえ、もう十分に見ました・・・・。誰も見たことの無い夢を、十分すぎるほど」
アンネローゼ「・・・・・・・」

「アンネローゼは、自分自身の胸が張り裂ける音を聞いたように思った。ラインハルトの烈気と鋭気が
和らげられたとき彼は死ぬ。剣は剣以外に存在する意義を持たない。彼女はそのことを知っていた。」

弱弱しい口調でラインハルトが語る。

ラインハルト「姉上、いろいろとありがとうございました。」

目を閉じて首を振るだけのアンネロ−ゼ。

「感謝の言葉などアンネローゼは聞きたくなかった。若くして世を捨てた姉など無視して、星星の海に
巨大な翼を広げていってほしかった。」
「キルヒアイスの死後、それだけがアンネローゼの願いであり、彼女と現世を繋ぐ細い糸であったのに・・・・」

ラインハルト「姉上・・・・これを・・・・」

ゆっくりと何かを取り出すラインハルト。いつも首から提げていたペンダントだ。キルヒアイスの
髪の毛が入った・・・・・・・・。

ラインハルト「もう私には必要がなくなりました、姉上に差し上げます。そして・・・・・
キルヒアイスもお返しします。ずっとお借りしっぱなしで申しわけありませんでした・・・・・。」

そのままゆっくりと目を閉じるラインハルト。周囲の人々は覚悟するが・・・・。

医師「昏睡されただけです。」

安堵する一同。だが、最後の時が近づいているのは誰の目にも明らかだった・・・・。そして・・・

「19時。風雨の中で急報がもたらされた。市外の液体水素タンクが自爆テロで爆破され、犯人の遺体か
ら地球教徒であることが判明したというのである。」

治安維持の指揮を執るのは、憲兵総監のケスラーである。

ケスラー「うろたえるな! 火災や爆破事件を起こして陽動するのは、地球教どもの常套手段だ。ヤツ
ラの狙いは、カイザーご一家以外には無い。仮皇宮の守りのみ心がけよ!」
憲兵「ハッ!!」
ケスラー「少官が現場に出て、直接指揮いたしたく思いますので失礼いたします。」

他の将帥に敬礼し、談話室を出るケスラー。

「19時50分。一度軍務省に戻っていたオーベルシュタイン元帥が、再び仮皇宮に戻ってきた。」

オーベルシュタイン「地球教徒の最後の残党が、カイザーの命を絶つべくまもなくここへ進入して
くるだろう。」

顔を見合わせる将帥たち。なぜ、そんなことが解る?

メックリンガー「なぜ、地球教徒がそのような暴挙に出るのだ? いま少し待てば、彼らの手を必要と
せず事態は変わるのに・・・。」
オーベルシュタイン「私がヤツラを誘き寄せたのだ。」
メックリンガー「軍務尚書が・・・・・・?」
オーベルシュタイン「情報を流したのだ。陛下のご病状が回復に向かい、ご健康になられた暁には、
地球教の信仰の対象たる地球そのものを破壊なさるであろうと。それを阻止ためにヤツラは軽挙にででき
たのだ。」

動揺する将帥たち。

メックリンガー「卿はカイザーの御身を囮にしたというのか! いかに手段を選ぶ余裕が無いとはいえ、
それが臣下たる者のなすことか!」
オーベルシュタイン「カイザーはもはやご逝去を免れん。だが、ローエングラム王朝は続く。王朝の将来
に備え、地球教の狂信者どもを根絶する。そのために、陛下にご協力いただいただけの事だ。」
ビッテンフェルト「ぬううう〜」

激昂し殴りかかろうとするビッテンフェルトを止めたのはミュラーだった。

ミュラー「とにかく! 地球教徒どもを掃滅するほうが先です!指揮系統が分散しては、かえって狂信者
どもの術中に陥るかもしれません。われわれもケスラー総監の指示を受けて行動しましょう!」

しぶしぶながらうなずく将帥たち。

「こうして20時から22時にかけて、仮皇宮の内外では無言のうちに死闘が繰り広げられた。」

進入を図ろうとした地球教徒が衛兵に見つかり射殺された! 

一方、招かれたユリアンたちは・・・・・

ユリアン「ハッ! 銃声だ!」
ポプラン「始まったな・・・」
アッテンボロー「行くか?」
ユリアン「ええ!」

立ち上がる一同。カリンを部屋に残し、廊下に出る。

用心しながら廊下を進む3人。

ユリアン「僕たちは、地球教徒に感謝しなくてはならないのかもしれない。地球教徒に対する共通の憎悪
によって、銀河帝国と民主主義は共存の道を見出すことができるのだとしたら・・・・」

ポプラン「カイザーを、守るために、フェザーンで、地球教徒と、戦う」
アッテンボロー「何だあ?」
ポプラン「いくつかの文章を、文節ごとに分解して、バラバラに組み合わせる言葉遊びがあるだろう?
アレを思い出すぜ。こんな場所でこんなことをするなんて、つい50日前には想像もしなかった。生きて
いると退屈しないでいいな。」

その言葉にユリアンも微笑む。と・・・・

アッテンボロー「おい、あれを!」

アッテンボローが指差す先には血を流して斃れている人が。

ポプラン「地球教徒だ・・・・。」
ユリアン「撃たれてここまで逃げてきたようですね・・・」
アッテンボロー「銃を借りておくか。武器が無いとどうにもならん。」

と、その時!! 部屋の電気が消え銃声が。廊下の向こう側でブラスターの光が見える。

銃を持って走ってくる地球教徒をアッテンボローが撃ち殺した。その死体から、自分とユリアンの分の
武器をいただいたポプラン。

ポプラン「武器はそろったが・・・・」

突然、館が揺れ動いた!!

ユリアン「!!?」
ポプラン「!?」
アッテンボロー「爆発か!!?」
ユリアン「こっちです!!」

爆発音のしたほうに走っていく3人。

館の出口から4人の地球教徒が出てきた。その上の部屋は、煙をふいている。

地球教徒「やった!やったぞお! ついにカイザーを仕留めたぞ!!」

嵐の中逃げてゆく地球教徒。と、その背中をブラスターが撃ち抜いた!!
ユリアンだ!!

ユリアン「どこへ行くつもりだ?! 地球教徒!」

答えずに反撃する地球教徒。すばやく身を伏せるユリアン。そのまま反撃し、さらに2人倒す。

残ったひとりが逃げようとするが、アッテンボローとポプランに阻まれる。

地球教徒「ううう・・・・・・」

ユリアン「殺す前にぜひ聞きたいことがある。総大主教、総大主教はどこにいる!」
地球教徒「総大主教? フフフフフハハハハハハ! 総大主教なら、ほれそこに転がっている。」

指差した方向には地球教徒の死体が・・・。

死体をひっくり返したポプランが見た物は、奇妙な老人の顔だった。その顔に触って皮をはいで見ると、
なんと下から出てきたのは似ても似つかない若い男の顔!

ユリアン「!?」
ポプラン「こいつが総大主教だとお!」
地球教徒「その男は自分が総大主教だと思い込んでいた。白痴だが一種の暗記機械でな。」
アッテンボロー「どういうことだ!」
地球教徒「本物の総大主教は、地球で巨大な岩盤の下に埋もれている。百万年もたてば化石になって発掘
されるかも知れんな。」

顔を見合わせるユリアンたち。

地球教徒「総大主教の死は、信者どもには伏せてあった。その男が身代わりを務めていたのだ。
だが、もはや信者と言っても今日ここを襲撃した20名が最後だがな・・・・。」
ユリアン「思い出したぞ! 貴様はド・ヴィリエ大主教!」
ド・ヴィリエ「!?」
ユリアン「貴様こそ、ヤン提督の仇だ!!」

ブラスターをぶっ放すユリアン! 胸を撃たれ、おびただしい血を吐くド・ヴィリエ。

ド・ヴィリエ「私を殺すとは愚かな・・・・グハッ・・・・ ローエングラム王朝を倒そうとする者は、
我らだけではない・・・・。私ならば・・・その情報を・・・・」
ユリアン「勘違いしないでほしいな。僕は、ローエングラム王朝の将来に何の責任も無い。僕が貴様を
殺すのは、ヤン・ウェンリーの仇だからだ! そう言ったのが聞こえなかったのか!!」

ユリアンの言葉に愕然とするド・ヴィリエ。

ユリアン「それに、パトリチェフ少将の仇! ブルームハルト中佐の仇! 他のたくさんの人たちの
仇だ!!」

次々にブラスターをぶち込むユリアン。すでにド・ヴィリエは絶命している。

ユリアン「ハァ、ハァ、貴様ひとりの命で償えるものか!!!」

息を荒げるユリアンの肩を叩くアッテンボロー。

アッテンボロー「主演俳優ひとりで張り切らんでくれ。俺達の出番が無かったじゃないか。」

と、遠くから近づいてくる声が。憲兵達だ。

憲兵「動くな!」

と、そこに現れたのはワーレン上級大将。ド・ヴィリエの死体を見て驚いたようだ。

ワーレン「卿らが?」
ユリアン「ええ、地球教の大主教です。それより、ラインハルト陛下はご無事ですか?」

少し困惑したようにワーレンは答える。

ワーレン「爆破されたのは陛下の御病室ではない。連中はそう思い込んでいたようだ・・・・」
ユリアン「それでは!」
ワーレン「陛下はご無事だ。だが・・・・・」

窓を見上げるワーレン。その部屋では、オーベルシュタイン元帥が手当てを受けていた。彼は、爆弾で
脇腹を吹き飛ばされていたのである。

医師「緊急の手術が必要です。至急に軍病院へお運びしろ!」
オーベルシュタイン「無用だ。」

あくまで冷静にしゃべるオーベルシュタイン。

オーベルシュタイン「助からん者を助けるふりをするのは、偽善であるだけでなく技術と労力の浪費だ。」
医師「・・・・・・・」
オーベルシュタイン「ラーべナルトに伝えて貰いたい。私の遺言状は、デスクの3番目の引き出しに入っ
ているから、遺漏無く執行すること。それと、犬にはちゃんと鶏肉をやってくれ。もう、先が長くないか
ら好きなようにさせてやるように。それだけだ・・・・・。」

首をかしげる医師と将兵たち。ラーベナルトとは?

オーベルシュタイン「ラーベナルトは我が家の執事だ・・・・。」

「30秒後、その死が確認された。事実としては、オーベルシュタインがカイザーの身代わりになったので
あるが、それがすべてを計算した上での殉死であったのか、単なる計算違いであったのかについては、彼
を知る者の意見は2つに分かれる。しかも、一方の意見を主張した者も、完全な自身を持ち得なかったの
である。」
「いづれにしても、人々はオーベルシュタインの死にいつまでも関心を持っていられなかった。」

「22時15分。ミッターマイヤーが妻子を伴って仮皇宮へ戻ってきた。途中、道路の灌水に阻まれて
立ち往生していたのである。」

ラインハルトの病室に入るミッターマイヤー。隣には養子・フェリックスを抱いた妻・エヴァンジェリン
がいる。

ラインハルト「よく来てくださった・・・・・。フラウ・ミッターマイヤー。」

フェリックスを抱いたまま、ラインハルトの近く、ヒルダの隣の席に座るエヴァ。

ラインハルト「帝国の支配権などより、親として我が子アレクサンデル・ジークフリードに、対等の友人
をひとり残してやりたいと思ってな・・・・・。勝手な願いだが、承知していただけるだろうか?」
ミッターマイヤー「フェリックス。プリンツ・アレク殿下に、いやカイザーアレク陛下に忠誠を誓約しな
さい。」

重臣や将帥たちが見守る中、フェリックスはアレクと握手を交わした。気にいったのか、さらに掴もうと
する。

ミッターマイヤー「これは、ご無礼を。」

あわてて手を離させようとするミッターマイヤーだったが、フェリックスが泣き出してしまった。しかも、
つられる様にアレクまで泣きはじめる。

ミッターマイヤー「こ、これは・・・・。」
ラインハルト「よい、ミッターマイヤー。」

ふたりの子供は、しっかりと手を握り合っている。

ラインハルト「よい子だな、フェリックス。これからもアレクと仲良くしてやってくれ・・・・。

その言葉を残しベットに横たわるラインハルト。ミッターマイヤー一家は、一礼をして病室から
退出した。

ラインハルト「軍務尚書が見えぬようだが、あの男はどこに居る?」

顔を見合わせる将帥たち。

ラインハルトの額を拭きながら皇妃ヒルダが答える。

ヒルダ「軍務尚書は、やむをえない理由で座をはずしております。」
ラインハルト「ああ、そうか。あの男のやることは、いつももっともな理由があるのだったな・・。」

ヒルダの手を掴み、語りかけるラインハルト

ラインハルト「カイザーリン。あなたなら余より賢明に宇宙を統治してゆけるだろう。立憲体制に移行す
るならそれもよし。いずれにしても生ある者の中で、もっとも強大で強大な者が宇宙を支配すればよいの
だ。もしアレクサンデル・ジークフリードがその力量を持たぬなら、ローエングラム王朝など、あえて存
続させる必要は無い。」

アレクが微笑んだようだ。

ラインハルト「すべて、あなたの思う通りにやってくれれば、それ以上望むことは無い・・・・・。」

ヒルダの手を離し、目を閉じるラインハルト。呼吸が少しづつ弱まっていくようだ・・・・。

ヒルダが、ハンカチをラインハルトの口に当てる。彼は何か言っているようだ。口元に耳を近づけるヒル
ダ。

ラインハルト「宇宙を・・・・・手に入れたら・・・・・みんなで・・・・・・・」

ラインハルトの言葉は途絶えた。そして、命も・・・・・。

「それは、新帝国暦3年、宇宙暦801年7月26日23時29分のことである。ラインハルト・フォン
ローエングラムは25歳。その治世は、わずかに2年余りであった・・・・」

泣き出したアレクを抱きながら、ヒルダは毅然として宣言する。

ヒルダ「カイザーは、病死なさったのではありません。命数を使い果たして亡くなったのです。病に倒れ
たのではありません。どうかそのことを皆さん、忘れないでいただきとう存じます・・・・・」

そう宣言するヒルダの頬を、一筋の涙が伝う・・・・・。 声を抑えて嗚咽するアンネローゼ。

一方、ミュラーからラインハルトの死を聞かされたユリアンとカリンは・・・・。

ユリアン「星が落ちたよ、カリン・・・・」
ミュラー「ラインハルト陛下の国葬の後に、ご長男・アレク大公殿下が即位なさいます。つきましては、
惑星ハイネセンを含むバーラト星系に内政自治権を認める件について、ラインハルト陛下と帝国政府の名
誉にかけて、これを履行いたします。一方、イゼルローン要塞を帝国軍に引き渡す件については・・・」
ユリアン「どうぞ、ご心配ないよう願います。私達イゼルローン共和政府の名誉にかけて、かならず
御生前のカイザーとの約束は、果たさせていただきます。」

さらに言葉を続けるユリアン。

ユリアン「それから、思想や立場に関わりなく、この時代に生きた者として、カイザーラインハルト陛下
のご逝去にお悔やみを申し上げます。ヤン・ウェンリーも、同じ思いでおりましょう。」
ミュラー「かたじけない。カイザーリンによくお伝えしておきます。」

敬礼して部屋を出て行くミュラー。

カリン「はあ〜、ねえユリアン。とにかくバーラト星系は民主主義の手に残るのね?」
ユリアン「そう・・・・・」
カリン「たったそれだけなのね、考えてみると・・・・」
ユリアン「そう、たったこれだけ。たったこれだけのことが実現するのに、500年の歳月と数千億の
人命が必要だったんだ。銀河連邦の末期、市民達が政治への関心を失わなかったら・・・・」

ソファについてなおも語るユリアン。

ユリアン「独裁者に、無制限の権力を与えることが如何に危険か、彼らが気づいていたら・・・・
そして、市民の権利より国家の利益が優先されるような政治体制が、どれほど多くの人を不幸にするか、
過去の歴史から学び得ていたら、これほどの犠牲を払わずに済んだんだ。政治は、それを軽んじる者に
必ず復讐するんだ。」

ユリアンの言葉にうなずきながらカリンが尋ねる。

カリン「ユリアン、あんたは政治指導者にはならないの? ハイネセン臨時政府の代表になるとか、そう
いうことはないの?」
ユリアン「僕の予定表にはないね。」
カリン「あんたの予定は・・・・それじゃあどうなってるの?」
ユリアン「軍人になって専制主義の帝国と戦う。そして、その任務が終わったら・・・・」
カリン「終わったら?」
ユリアン(歴史家になり、ヤン提督の事績を記録して、後世に残したい。後世の人々に、より多くの判断
と考察の機会を与えるのが、この時代に生きた我々の義務じゃないだろうか?)

その時、髪を拭きながらポプランが部屋に入ってきた。

ポプラン「よう、ユリアン。いつフェザーンを出発することになりそうだ?」
ユリアン「そうですね。なんやかやで、2週間というところでしょうか。」
ポプラン「そうか。じゃ、それでお別れだな。俺はフェザーンに残るよ。」
ユリアン「ポプラン中佐!」

驚いて立ち上がるユリアンとカリン。

ポプラン「いや、何も言うなユリアン。そう決めたんだ。まあ、どうせフェザーンに永住することもない
だろうが。」

「それがポプランらしい、それしか他にないこの時代への決別の仕方なのだと、ユリアンは理解した。」

ユリアン「わかりました。盛大にお別れパーティーをやりましょうね。」

ユリアンとカリンの肩に手を置きながら、ポプランが語りかける。

ポプラン「いいか、早死にするんじゃないぞ。何十年かたって、お互いに老人になったら再会しよう。
そして、俺達を置いてきぼりして死んじまったヤツラの悪口を言い合おうぜ。」
ユリアン「素敵ですね。」

ユリアンとカリンを強引にくっつけ、ポプランは部屋を出て行った。あくまでも明るく、彼らしく・・・

ゆっくりと、お互いの瞳を見つめあうユリアンとカリン・・・・・。

ユリアン「さあ、アッテンボロー提督といろいろ話し合って、予定を立てなきゃ。」
カリン「うん・・・・・・・」

腕を組んで部屋を出て行くふたり・・・。

一方、我が子フェリックスを抱いたミッターマイヤーは、満天の星空の中、一人で佇んでいた。

ミッターマイヤー「夜が明ければ忙しくなる。多忙なほうが良い。この喪失感を埋めるにはな・・・・」

いつかラインハルトに言われた「卿は死ぬな」という言葉を思い出す。

悲しみを堪えるミッターマイヤーにフェリックスが・・・・・。

フェリックス「ふぁ〜た〜、ふぁ〜た〜」

ファーター(お父さん)。確かにそう言ったのだ。

「ミッターマイヤーは、カイザーの心がこの幼児の中に入り込んで、生まれて初めての言葉を発しさせた
ように思えた。無論、それは錯覚に過ぎないが、そう信じたかった・・・・・。」

フェリックスを抱き上げ、肩に乗せるるミッターマイヤー

ミッターマイヤー「見えるか?フェリックス、あの星々が。いつかお前もあの星々の世界に旅立つのだろ
うか? その時、お前は一人で行くのか?それとも・・・・・」

その時、後ろから声をかけてきたのは・・・

エヴァ「あなた。ウォルフ。」
ミッターマイヤー「フェリックスがしゃべった。俺のことをファーターと呼んでくれたよ。」
エヴァ「あら、まあまあ。いらっしゃい」

フェリックスを抱きかかえるエヴァ。星々を見上げる3人。その時、フェリックスが、空の星を取らんと
するように手を伸ばした。

ミッターマイヤー(お前もか・・・・フェリックス・・・・・)

「それはいつの時代、どこの世界でも、数限りなく繰り返されてきた動作であったかもしれない。人は、
常に手の届き得ぬものを追い続ける。その憧憬を一身に表したのではなかろうか?」

エヴァ「中へ入りましょう、あなた。」

うなずくミッターマイヤー。3人は、ゆっくりと館に入ってゆく・・・。


”・・・・・伝説が終わり、歴史が始まる。”






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