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幻想大陸(げんそうたいりく)
ACT.FINAL 過去、現在、そして未来−カイ、ジェンド、そして十六夜−(後編)

(最終話に至るまでのあらすじ)
邪神竜の復活による魔物たちの活性化のため「幻想大陸」と呼ばれる地、オッツ・キイムにて、それぞれの目的のため旅を続ける3人の若者達がいた。
1人は天真爛漫な少年・十六夜。魔物とも仲良くできる性格のためか邪神竜と出会い「みんなで仲良くしよう」と説得するため、そして故郷を探すため旅を続けている。
もう1人は記憶を失ったダークエルフ・ジェンド。種族を滅ぼした邪神竜を倒すため旅をしているが、十六夜たちとのふれあいでその冷酷な心に変化がおきつつある。
最後の1人は元騎士の青年・カイ。いつもおちゃらけた性格で3人のムードメーカー的存在だが、旅を続ける目的などは語ろうとしない。
そんな彼らは旅を続け、とある小さな村にたどり着く。そこで十六夜たちはかつて旅の途中で出会った少年・ジオと再会する。しかしジオは、かつてこの村で盗みを働いた事があり、その後改心して真面目に働いたお金でその分を返そうとしたが信じてもらえず追われていた。
十六夜たちは村人を説得しようとするが、その言葉も虚しくジオは捕まってしまう。
翌朝。村を立ち去ろうとした時に十六夜は「もう一度村の人たちのところに行きたい」とカイたちに提案する。かくして3人はジオが捕まっている村の中央広場に向かうのだが…

(本文)
 村の中央広場。大きな木の枝にジオが縛られ、吊るされている。
 それを取り囲んでいる村人達。

くそガキめ、盗みで楽して儲けようなんてしやがって…!
厳罰を与えさらし者にしてやるんだ!
あさはかな理屈で許しを乞うガキの言い分を信じるとでも思ってるのかウソツキめ!

十六夜「……!」
 十六夜、涙目になりながら、
十六夜「…ひどい…なぜそこまでするの…」
 村人達の人垣をかきわけジオの元に駆け寄る十六夜。
村人A「!」
村人B「お前ら昨日の…!」
 十六夜、ジオに手を伸ばそうとする。
十六夜「苦しかったでしょ」
ジオ「…十六夜…みなさん…」
村人C「戻ってきたって事はこのガキが改心したって証拠を持ってきたんだろーな!?」
 十六夜、飛び跳ねてジオに手を伸ばそうとしながら、
十六夜「…ないよっ…そんなのっ…証拠なんてっ…」
村人D「ない?ないのに来たのか」
村人E「だったら口出しすんなよっ」
 十六夜、樹に登ろうとしながら、
十六夜「僕、信じてるもん、信じてる…」
村人F「さっきから何してんだ」
 しかし十六夜、樹から滑り落ちる。十六夜の目に涙が浮かび、大声で泣き出す。
村人A「わ!?」
村人B「なんだ?」
村人C「いきなり泣き出したゾ」
村人D「一体何しに来たんだ!?」
 その刹那、ジェンドがジオを吊るしているロープを剣で斬る。そしてジオを受け止めるカイ。
カイ「わっ、大丈夫かっ…?…とっ」
カイ、ジオを縛っていたロープを解く。ジオのそばに駆け寄る十六夜。
十六夜「わーん、ジオー、よかった―――ごめんねー、僕背がひくいカラとどかなくって…」
ジオ「ありがと…う」
カイ「すぐ手当てしねーと」
ジェンド「十六夜の奇怪な行動はジオを助けるためと理解するのに時間かかったゾ…(でもあの動きじゃ助けられねーよ)」
 村人達が人垣の輪を詰め、十六夜たちに迫ってくる。
村人E「なんのまねだお前ら」
村人F「どうしてもガキを助けたいらしーな」
村人G「やっぱりお前たちは盗っ人の仲間だったんだ」
 ジオ、十六夜たちを庇う。
ジオ「ちっ…違います!この人たちは何の関係もありませんっ、旅で言葉をかわした程度の…」
村人H「フンッ、関係ねー奴がここまでするか?」
 十六夜、ふとジオの手を見る。その手はボロボロに汚れていた。
十六夜「…ジオ、こんな手になるまでがんばったのにね…なぜみんな、わかってくれないんだろ…」
カイ「?」
村人A「はー?何言ってんだ」
村人B「やっぱりこいつらもしばりあげよーぜ」
 殺気立つ村人達。ジェンドも剣の柄に手をかける。
??「まった!!」
 そんな一触即発の雰囲気をカイの凛とした声が打ち破る。カイ、ジオの手をとり、
カイ「そうだよ!ジオが働いた証拠はこの両手だ!」
 村人達はあっけにとられるが、
村人C「なんだよ、悪にそまった手がなんだってんだ」
村人D「汚ー手だ」
カイ「…そうだよ、…ジオの手は汚い…」
 たちまち巻き起こる村人たちの嘲笑。ジオはただ耐えている。
村人E「やーい、お前仲間にも汚いなんていわれてやがる!」
村人F「なんだよそのマメはっ」
村人G「ガキのくせにガサガサだし」
村人H「悪人にピッタリの手だ」
カイ「―――そうだ。一生懸命働かないとここまで手は汚くならねー」
 そのカイの言葉に、村人たちの嘲笑がピタリと止む。
カイ「水仕事をしたり重い荷物を運んだり、がんばって働かないとここまで手はボロボロにならない。それは村人のお前らが一番よく知っているコトだろ。なのに、なぜジオの苦労がお前らにはわからず、子供の十六夜には理解できたと思う?」
??「…もう、これまでじゃな」
 人垣を割って村の長老がやってくる。
村人C「ちょっ…長老!」
長老「…そーなんじゃ。わしらは坊やのよーな気持ちを忘れ、この少年をハナから疑い、罰することしか頭になかった。情けないコトじゃ」
 村人たち、一同にうつむき、ばつの悪そうな表情を浮かべる。しかし1人の村の親父が、
村の親父「だっ…だけどコイツは盗みをしたんだ!曲がった根性が簡単に直るはずがない!」
 そういいながらジオの襟首を掴む。
ジオ「ぐっ」
カイ「おっ、おい」
 村の親父、ジオを見て、
村の親父「おい、お前…!どんな仕事した?」
ジオ「え?」
 ジオ、村の親父の目を真っ直ぐに見る。
ジオ「畑…耕したり…農具や野菜を隣町に運んだり…」
村の親父「わしも初めて畑を耕したとき…30年ほど前カナ…クワが重くての…手や腰が数日痛くてたまらんかったよ…お前…いい手してるナ」
 村の親父、ジオの襟首を離して優しく微笑み、村人たちの方を振り向き、
村の親父「いいか!みんな!こいつはもう悪いことはしねー、俺が保障する!誰か因縁つけてみろ!この俺がブン殴ってやる!」
 村人たちから沸き起こる歓声。
ジェンド「でも最後まで因縁つけてたのはあのオヤジだ…もごっ」
カイ「ジェンド…」
 カイ、ジェンドが余計なツッコミをしようとするのを口を塞いで止める。
 一方村人たちはジオの周りに駆け寄り、暖かい言葉をかける。
村の親父「やりすぎちまったナ、悪い…おわびに昔のお前の盗みは水に流そう」
ジオ「わ」
村人D「スゴイてのひら…大変だったんだね」
村の子供「あの……ゴメンなさい。きのう…キズ大丈夫…?」
ジェンド「フン、あんなのキズのうちに入らん」
長老「お前さんらはあの子を…まったくの他人を心から信じ帰ってきたんじゃの…わしは何よりそれがうれしいぞ」

長老はジオが改心したっつー証拠がほしかったんじゃない…
俺らがジオをどれだけ信じてるか確かめたかったんだ
まったく人の悪いジーサンだ

長老「誰かこの子のキズの手当てを。ゆっくり休むがいい。そうじゃ旅人さんや、ワシの家で温かいスープでも」
カイ「長老さんの家へ?」
十六夜「わーい、すーぷすーぷ」
 気がつけばもう夕暮れになっていた。村人たちはそれぞれの家に戻っていく。 そんな光景をカイと長老が見ながら語り合う。
長老「すまなかったのう。この村の人間も本当は優しい者ばかりなんじゃ。じゃが、この荒れた世の中が人々の心を濁らせてしまった…しかし、あの子…十六夜といったかの…あの子は…何かが違うのう…」
カイ「…俺、故郷で騎士だったんです。自分を、家族を、そして国を守るため魔物と戦う毎日でした。―――だけど、戦いながらもつねに友人の言葉が気にかかってました」
 魔物とも心を通わせる青年(「レヴァリアース」のザード)とカイの会話。
ザード「魔物が滅んだ世界が平和なのではない。人間と魔物が共存する世界が本当の平和…」
カイ「その友人が邪神竜に殺されたと知った時、俺は城を抜け旅に出てました。人間同士でさえ争いが絶えないのに、友人の言った言葉は本当に可能なのか…その答えを知りたくて。その答えをあいつ…十六夜が知っているような気がするんです」

 長老の家にて。
カイ「おまたせ―あれ?十六夜は?」
ジェンド「さっさとメシ食って中庭で遊んでるぜ」
村人D「ささっ、スープでも」
カイ「十六…ゲ、動物ばかりか魔物まで」
 見ると十六夜の周りには、動物だけでなく魔物さえ心を通わせて集まっていた。十六夜が無邪気に笑っている。
カイ「よっ、十六夜」
十六夜「あっ、カイー」
カイ「まぁーったく、お前は何でも仲良しにすんだナー」
 十六夜、魔物に遊ばれてるようにもみえるが楽しそうである。
カイ「ジェンドだって十六夜とあって変わったもんナ。最初は乱暴者でとんでもない奴だったカラなー。あ、今でもそーか」
十六夜「ふにー?」
 その時、どこからともなく岩がカイめがけて投げられる。
村人D「―どーしたんだいジェンドさん?」
ジェンド「なんだかムカついただけだ」
 その一方でカイと十六夜。
カイ「お前はそーやってみんなに…魔物やジェンドに優しさをあたえていってんだナー」
十六夜「?そーなの?」
カイ「そう…お前は気がついてないだろーケドさ…」
 十六夜、にっこりと微笑みながら、
十六夜「ふーん?でも本当にジェンド達優しくなったのなら、それはもともとジェンドたちがもっていたものじゃないの?僕はきっかけにしかすぎないんじゃないの?」
 その言葉にカイははっ、とさせられる。
十六夜「…?どーしたのカイ?」
カイ「いや…今のセリフ…ジェンドにも聞かせてやりたいな…なんて…」
十六夜「あれー、カイ泣いてるー?岩が重いのー?」
カイ「わっ…わー、これは涙じゃなくヨダレなんだっ」
十六夜「目からヨダレ?」

 そして翌朝。再び旅立とうとする十六夜たちを村人たちが総出で見送りに来ていた。
十六夜「ジオはこの村に残るコトにしたんだね」 
ジオ「ん…この村で恩返ししたいし…それに…」
村の親父「おうさっ、ジオはワシらの子になってもらうっ、子供がいなくてさびしかったんだよっ」
ジェンド「どこがさびしーツラだ」
カイ「しっ、ジェンド」
十六夜「それじゃあっ」
 十六夜たち、立ち去ろうとするがジオが呼び止める。
ジオ「十六夜…!…あのっ……ありがとう…また…逢えるよね」
 十六夜、満面の笑顔で応える。
十六夜「うんっ、きっとまた逢えるよっ」
 ジオ、涙ぐみながら懸命に手を振る。
ジオ「ぜったいだよ――、ぜったい――っ」
 十六夜たちは再び旅路へと戻ってゆく。その姿を見つめながら長老は思う。

…何かが変わるかもしれんのう…
魔物によって混乱し幻想大陸と呼ばれる地…
この、オッツ・キイムも何かが…

 そして果て無い旅路を歩いていく3人の姿。

幻想大陸・完

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