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キャプテン翼 最終話

ひとりきりの出発(たびたち)の巻



中沢家に1本の電話が入る。
早苗「はい、中沢です」
翼「あ・・・早苗ちゃん、おれ・・・」
早苗「翼くん・・・
    ・・・えっ?
    あ・・・明日ブラジルに・・・!?
    な・・・なんで急に・・・明日はみんなの・・・南葛高校の合格発表の日
よ」
翼「うん、それはちょっと気がかりだけど・・・でも、きっとみんな大丈夫だよ。
サッカーと同じくらい勉強もみんな頑張ってたから」
早苗「そんな、翼くん・・・それに卒業式だってまだ・・・・・・」

翼「うん・・・
  おれ、今まで恵まれすぎてたと思うんだ。すばらしい仲間に恵まれ、小さい頃か
ら何不自由なく最高の環境の中で大好きなサッカーにこうやって打ち込めてきた。そ
して今度は小さい頃からの夢をかなえた。サッカーの国ブラジルへ行けることになっ
た。
  ―――でも、ブラジルへ行ったらもうみんなはいない。これからはすべて、自分
ひとりでやらなくちゃいけないんだ。だからこの日本もひとりで旅立っていきたいん
だ」
早苗「ひとりでって、なんで・・・」
翼「みんなに見送られたらきっと、なんかすぐまた日本に帰ってきたくなっちゃう気
がして・・・」
早苗「えっ」
翼「自信がないわけじゃないけど・・・本当は不安なんだ。
早苗「翼くん・・・」

翼「でも大丈夫。ブラジルへ行ってもおれは張り切ってサッカーをするだけだから・
・・心配しないで。
  ただ、やっぱりきみだけにはサヨナラを言っておこうと思って・・・
  おれも若林くんと同様プロになれるまでは日本には帰ってこないつもりでいるん
だ」
早苗「翼くん」
翼「・・・・・・
  じゃ、元気で。みんなによろしく。


  サヨナラ」

早苗「つば・・・」
無常にも、電話は切れた。


翼、旅立ちの日―――――

父「外はすっかり春だな」
母「翼、本当にいいの?荷物それだけで」
翼「うん。別におれは観光でブラジルに行くわけじゃないからね。必要なものがあれ
ばむこうで買うよ」

父「バスの時間にはまだ早いんじゃないか、翼?」
翼「うん、今日が最後だから、南葛の町を軽くランニングしてから行くよ」
父「そうか」

翼「それじゃ、父さん、母さん、
  行ってきます」
父「ああ」
母「気をつけてね」


母「とうとう行っちゃいましたね」
父「ああ、でも翼の小さい頃からの夢だったからな」
母「わたしたちはそれをそっと見守ることしかできないんですね」
父「ああ」
母「でも、お父さん、本当に内緒にしておいていいんですか?」
父「えっ?」
母「翼に弟ができるってこと」
父「ハハ・・・いいんだ。翼が帰ってきたら3人でびっくりさせてやろう」
母「そうですね」
父「でも、なんで弟なんだ?また男の子生むつもりなのか?」
母「そ・・・
  もうひとりサッカー選手を育てるのです、わたしは・・・」
父「こりゃまいったな。それじゃまた新しいサッカーボール買わないと。ハハハ・・
・」


少年サッカー場に通りかかる翼。
翼「南葛とのみんなとの出会いはここだったな」


永遠のライバル・若林の屋敷の前で足を止める。若林の姿はないが、愛犬ジョンが顔
を出す。
翼「ジョン、元気か?おれもお前のご主人様と同じで、外国に行ってサッカーのプロ
選手になるんだぞ。
  元気でな、ジョン、長生きしろよ」
その場を去る翼に、元気に吠え返すジョン。


南葛市総合運動場。グラウンドで南葛SCのメンバーが練習をしている。
少年A「おれがプラティニだ」
少年B「おれはマラドーナだぞ!みろ、このドリブル!!」
少年C「じゃあおれは大空翼だ!!」
少年D「バカ、大空翼はおれだぞ!!」
少年C「何言ってんだ、おれだよ!!」
城山監督「こらこら、そんなことでケンカするやつがあるか!」

翼(城山監督、お世話になりました)
小学6年の頃、翼はこの南葛SCのメンバーであり、この城山監督の元でプレイをし
ていたのだ。


ガケの上を走る翼。下には岬太郎の父、岬一郎の姿がある。


石崎「あ〜〜〜っ、やだな、見たくねェな、発表。きっとおれだけ落ちてるよ」
来生「何言ってんだよ石崎、ここまで来て。ホラ、いくぞ」
石崎の手を引く来生と、まわりの南葛中サッカー部の仲間たち。

ゆかり「アラみんな、早苗と一緒じゃなかったの?」
「いや、違うけど」
ゆかり「おかしいわね、わたしはてっきりみんなと一緒だと・・・」

浦辺「おい、お前ら!!」
石崎「なんだ、浦辺だちじゃねえか!」
そこにライバル校だった、大友中の浦辺反次、岸田猛、中山正男、西尾浩二が現れ
る。
来生「お前たちもここ受けたのか」
浦辺「なんだ、受けちゃ悪いのかよ。
    さァ石崎、根性きめてみんなで発表を見に行こうぜ!」
石崎「ああ、そ・・・そうだな」


「ナイスシュート、日向!」
東邦学園のグラウンドに華麗にシュートを決める日向の姿がある。
片桐(翼のいなくなった日本サッカーはこの日向小次郎が中心となる)

日向(誰にも負けない!翼のいない高校3年間、日本一はおれたちのものだ!!)


三杉淳と、青葉弥生。
弥生「おめでとう淳、医大付属合格」
三杉「うん」
   (ボクはスポーツがしたくてもできない人や、ボクのようにハンデを背負って
いる人の少しでも役に立てるよう医者になるんだ)


日向を熱血指導した、吉良耕三、北詰誠。


ふらの高校に合格した、松山光、藤沢美子。


正夫「いくぞ、和夫!」
和夫「兄ちゃん、スピード出しすぎて足の骨折らないようにね!!」
秋田の山でスキーを楽しむ、立花兄弟。
正夫「わかってるよ、これもサッカーの訓練!足腰を鍛えるためさ!!」
和夫「ヒャッホー!!」


早田「早田誠です!」
中西「中西太一です!!」
立浪高校に合格した二人。
「まだ入学式は先だけど一緒に練習させてください!」


佐野「合格おめでとうございます、次藤さん」
次藤「当然タイ、がっははは」
国見高校に合格した次藤洋、来年度比良戸中サッカー部キャプテンになるであろう、
佐野満。
次藤「よし、見とれよ、佐野!高校の優勝旗は必ずワシはこの九州に持ち帰るタ
イ!!お前も今年は中学の全国優勝旗持ってこいタイ!!」
部員「はい!!」


南葛中と大友中の練習試合。
新田「翼さんたちのいない南葛なんて目じゃないぜ!!でも安心しろ。
    優勝旗はまた静岡に、大友中のこの新田瞬さまが持って帰るぜ!!」
あざやかに南葛中の選手を抜く新田。
南葛メンバー「ふざけるな!新人戦では負けたけど夏の予選はそうはいかない
ぞ!!」
メンバー一同「そうだ!!」

そして人知れず、その様子を見守る翼。

担任であり、サッカー部の顧問でもあった古尾谷先生に目をやる。
翼(がんばれ、後輩たち・・・
  古尾谷先生、お世話になりました)


翼(そろそろ時間だ、いこう)
バス停に向かって走り出す翼。
だが、突如足を止める。


石崎「な・・・ない!!」
浦辺「お・・・おれもない」
来生「本当にないのか、石崎!」
岸田「浦辺!」
石崎「おれたち二人だけ・・・」
浦辺「不合格・・・」

ゆかり「ねぇ、向こうに補欠入学者の発表があるわよ」
全員「えっ」

石崎・浦辺「あ・・・あった!!
       補欠の1番と2番だ!!」
石崎「合格者の中でふたり、合格しても入学しないやつがいればおれたち入れるわけ
だよな」
浦辺「うん、そうだな」

石崎・浦辺「やった!やったぜ!!」
補欠ながらも合格し、飛び上がる石崎と浦辺。

浦辺「おーい、誰か合格しても入学辞退するやついるかァ」
石崎「だれも入学辞退しなかったらお前らのうちから辞退してもらうからな」
井沢「そ・・・そんな・・・」
南葛高校の校庭は笑い声に包まれた。


少年A「日本からそんなすごいやつが来るの?」
ロベルト「そうだ、みんなも見習うんだぞ」
少年B「でも日本人なんでしょ。本当にサッカーうまいの?信じられないなァ」
少年C「バカ、ロベルトが言うんだから間違いないよ」

ロベルト(待ってるぞ、翼・・・)
ブラジルで、再び翼にサッカーを教える決意を決めた、恩師、ロベルト・本郷。


バス停。
翼の前に、早苗がいる。
早苗「ゴメンね、やっぱり来ちゃった」
翼「いや」
早苗「これ、荷物にならなかったら持っていって」
紙袋を手渡す早苗。
早苗「サッカーのスパイクなの。やっぱり翼くんにはこれかなって思って。
    それにブラジルのサッカーシューズはあまり出来が良くないって聞いたか
ら」
翼「ありがとう、使わせてもらうよ」
紙袋を受け取る翼。

バスの音が鳴り響く。

足元にあった、翼がここまで持ってきたサッカーボールを早苗に手渡す。

翼「じゃあ、行ってくるね」
早苗「うん」
振り返り、停車したバスに向かって走り出す翼。

早苗「翼くん・・・
    夢を・・・


    夢をかなえてね!!」
早苗の目には涙が浮かんでいる。

再度振り返り、敬礼をおくる翼。
早苗の背後に、仲間たちの姿がよぎった。

「翼、しっかりな!」
「がんばってこいよ、翼!!」
「ブラジルのやつらに負けるなよ!!」
「お前なら大丈夫だ、翼!!」
「翼!日本代表としてがんばってこい!!」
「世界一のサッカー選手になれよ!!」
「おれたちも応援してるぜ!!」

みんなからのメッセージを、心でしっかり受け止めた翼は、そっと涙を流す。

早苗に、皆に別れを告げ、バスに乗っていった。


『ロサンゼルス経由、サンパウロ行きはまもなく・・・』


空―――翼を広げて
松山千春/詩


たどり着けば いつも あふれる陽射し
私なりの愛が 輝いていた
涙流すときが ほほえむ時が
通りすぎて見れば 全てやさしい
大空高く 私の夢が
翼を広げて 舞い上がる

何を求めながら 何をたよりに
長く続く道を 歩き続けた
風にゆれる心 雨に流され
だけど どんな時も 明日を信じて

大空高く 私の夢が
翼を広げて 舞い上がる

大空高く 私の夢が
翼を広げて 舞い上がる



遠く離れたブラジルの空の下、10番のゼッケンを付けてグラウンドを駆ける翼の姿
があった。

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