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機動戦士クロスボーン・ガンダムの最終回


最終話
人と継ぐ者との合間に


木星帝国総帥クラックス・ドゥガチを乗せた超巨大モビルアーマー・ディビニダドが、降下ポッドで宇宙から地球を目指す。
トビア・アロナクスのクロスボーン・ガンダムX3が、ポッドに追いつく。


ドゥガチ「ふ──う ふ──う ふ──う! 邪魔をするな わしの邪魔を そこを……どけっ! 小僧おっ!」
トビア「クラックス・ドゥガチ! あんたもう……本当に人間じゃなくなっちまったのか? 本当に別の惑星から来た怪物と変わらないってのか? ベルナデットの父親じゃないっていうのかっ!
ドゥガチ「邪魔だと言っているぅぅう!

トビア「どうする!? どうやって戦う? おそらくこいつ自身が全身にいくつもの核融合炉を持つ 動く核爆弾だっ! 一度に誘爆したらどれほどの放射能をまき散らすかしれない! どうする!?


トビアたちを追い、キンケドゥ・ナウのクロスボーン・ガンダムX1も大気圏へ向かう。

キンケドゥ「だめだ! 遅れだしている!」

トビアが出撃間際にベラ・ロナに言った台詞……

(キンケドゥさんはこのぼくが必ず守ります)

キンケドゥ「……何が ぼくが守りますだ! まったく! これじゃあべこべじゃないか! 大バカやろう!」


大気圏を突破し、X3とディビニダドが海面へ着水する。

トビア「うわあああ!
ドゥガチ「うお・お? 何い?

X3の振るうムラマサ・ブラスターが、ディビニダドのボディパーツを破壊することなく切り離してゆく。

ドゥガチ「きさま!?
トビア「あんたの機体は危険すぎる! まずはバラバラに切り離させてもらう!
ドゥガチ「なめるな──っ!

ディビニダドの放つビームをX3がかわす。

トビア「戦える! ドゥガチ自身は戦いのプロじゃない 俺でも……勝てるかもしれないっ!


同じ頃──
宇宙での戦いは 決着がつきつつあった

連邦消滅まで動くまいとドゥガチの読んでいた各スペースコロニーの戦力の参入が
計算されていたミリタリー・バランスを容易にくずしていた

もはや この戦いの終結も時間の問題であろうと思われた

ただ──

地球に落とされたひとつの悪意のゆくえ以外は──


トビア「もう……やめろ! ドゥガチ! 何故そうまでして地球を滅ぼそうとする!!
ドゥガチ「きさま! きさまごときに何がわかるっ! わしは……わしはたったひとりで 木星圏を大きくしてきたのだぞ! たった……ひとりでだ! 何もない世界を! 吸う空気でさえ作り出さねばならぬ世界を! 70ゆうよ年をかけて 人の住処に変えてきたのだぞ!」
トビア「!? 何? 何だって?」
ドゥガチ「それを……地球連邦は 地球の周りでぬくぬくとしていた連中は何をしてくれたっ 水を切りつめ 喰い物を切りつめ 欲しいときには何もよこさなかったくせにっ! ようやくどうにか木星圏が自立できるようになって “国”と言えるほどの力を持てるようになると 奴らはわしに政略結婚を申し出おった!」
トビア「何? ? ベルナデットの母さんの話か??」
ドゥガチ「くくく ヨワイ80歳に手の届く老人に 地球の良家の娘をくれてやるからと これで地球とは親類だから仲良くしましょうと言いおった…… しっぽをふれと言われたのだぞ! わかるか? この屈辱が?

トビア「だけど? だけどベルナデットはその人との間の子なんだろう? あんたの子……だろう???
ドゥガチ「さあ? 医者はそうだと保証しておったがな あるいはあやつが卑しい女であれば あやつだけ憎んでおればそれですんだのかもしれん だが あれは優しい女だったのだ 優しさを! 豊かな土地で育った者にしかない自然な心の余裕を見せつけられるたびに わしがどれだけわし自身をどれだけみじめに思ったか! それはわしの造ってきた世界を! わしのすべてを否定されるに等しかったのだ きさまにわかるか? だから……わしは滅ぼすのだよ わしを否定しようとするすべてを! そして…… 世界のすべてを木星と同じにしてやるのだよ

トビア「それじゃ……それが? そ それが? たったそれだけのことで こんな戦争を 起したのか!?
ドゥガチ「そうだとも! 真の人類の未来? 地球不要論!? そんなものは言葉の飾りだっ! わしが真に願ってやまぬものは唯ひとつ! 紅蓮の炎に焼かれて消える 地球そのものだ──っ

ディビニダドの両脇から無数の核ミサイルが出現する。

トビア「うわあああ

核ミサイルが発射されようというとき、X3のムラマサ・ブラスターが一閃。
すべてのミサイルの弾頭が切り落とされる。

ドゥガチ「なあにいいいっ!? 弾頭だけを? 切り落としただとぉう?

トビア「安心したよっ! ドゥガチっ! あんた……まだ人間だっ ニュータイプでも新しい人類でも……異星からの侵略者でもない! 心のゆがんだだけのただの人間だっ!
ドゥガチ「若造のいうことかああっ

ディビニダドの放つビームがムラマサ・ブラスターに命中。
ブラスターが砕け散る。

トビア「しまっ……

ディビニダドの頭部が展開する。その中に覗くのは──

トビア「大型メガ粒子砲!?」

意を決したトビア。

トビア「うわああああ」

X3がその巨大な砲門の中に突っ込む。

トビア (もう……武器がない! だけど……)
ドゥガチ「何?」
トビア「あ……Iフィールド全開……脱……出っ!

X3の両手のIフィールド発生装置が作動、Iフィールドが展開する。
背中からコアファイターが分離。
ディビニダドの放つメガ粒子砲が、Iフィールドに遮られて暴発。
凄まじい暴発にX3が、そしてディビニダドが砕け散る。

ドゥガチ「ぐおおおおっ!?!?

トビアを乗せて脱出したコアファイターも、その爆風で吹き飛ばされる。

トビア「わあああ!?
キンケドゥ「トビア──っ!!

咄嗟に追いついたキンケドゥのX1が、コアファイターを受け止める。

ボロボロになったディビニダトのコクピットが露出し、炎に包まれている。

ドゥガチ「ふはははは…… ち……地球が燃えるぞ…… すべてが消えてゆく ふ ふはは…… あはははは……」
キンケドゥ「クラックス・ドゥガチ! たとえ幻でも…… あなたにそれを見せるわけには いかないっ!」

X1がスクリュー・ウェッブを放つ。
ディビニダドのコクピットが砕け散る──。


トビア「終わったよ……ベルナデット 結局 すべては“人間”の生み出したものだったよ 争いも憎しみも…… 悲しくてつらいことだけど……それで良かったのかもしれないとぼくは思っている きっとそれは“新しい時代”を迎える前に“人”が“人間”のまま まだできることが やらなきゃならないことが残されているっていう意味だと思うから たとえ…… それが あと何千年…… 何万年かかろうと……きっと」


草原。
クロスボーン一同が見守る中、補給艦館長オンモの指示でX1の整備が行なわれている。

オンモ「オーライ オーライ」

キンケドゥの顔を覆っていたマスクを、ベラが剥がす。
傷跡の残った素顔が現れる。

ベラ「うん! よし!」

X1の上に、トビアとベルナデットがよじ登っている。

トビア「キンケドゥさーん 本当にこれ もらっちゃっていいんですかー」
キンケドゥ「ああ!」
トビア「もう かえしませんよおー!」
キンケドゥ「これからどうするんだ! トビア!」
トビア「ははは どうもこうも もう戸籍も死亡あつかいになってるだろうし もうできることといったら宇宙海賊ぐらいしかありませんよ みんなともう一度宇宙へ出ます そしてもう一度確かめてみます…… 人が人として宇宙とつき合ってゆけるかを……」

空を見上げ、思いを馳せるトビア。


トビア「キンケドゥさんはどうするんですか?」
キンケドゥ「俺か? そうだな……俺は」

草原に腰を下ろすキンケドゥ。傍らにはベラが。

キンケドゥ「山道を歩いて 雨露をすすって 好きな女を抱いて…… もう一度じっくり考えてみるさ…… もともと人間が何だったのかを そのための時間はいくらでもあるから」

2人が見詰め合う。

ベラ「おかえりなさい……シーブック」
キンケドゥ「おかえり セシリー」

キンケドゥに抱きつくベラ。

照れ臭そうに2人を見守るトビア。


クロスボーン・バンガードの皆が見守る中、トビアとキンケドゥが握手を交わす。


その日

2つの名前をとりもどした男と女は……
地球の緑の中へと消えていった


少年と少女の記録は残されてはいない
ただ──

クロスボーン・ガンダムの名が
わずかに民間の間に伝承として語られるのみである


機動戦士クロスボーン・ガンダム──おわり
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