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ぴたテン最終話
Lesson 47 夢の終わり方


朝が嫌いだった―――


「……! 雪だ……!」

湖太郎は受験した中学・城大学附属中学に合格発表を見に行った。
そしてその帰り道……

「あっ…美紗さん…!」
「湖太郎君…」
雪の降る中、小太郎と美紗は出会った。
「どうだったっスか? 今日の試験 すべり止めの…」
「美紗さん! それより…!!」
湖太郎は城大附属中に合格したことを美紗に告げた。
湖太郎も美紗も笑みが浮かんでいた。

湖太郎が、ふと切り出した。
「今度は…美紗さんの番だね」
美紗は少し驚いた顔をした。
「そ…そうっスね!湖太郎君が無事に合格したっス!幸せっスね!」
「美紗さん… 何度も言うけど美紗さんの幸せが僕の幸せだよ」
そして、湖太郎は自分の正直な想いを美紗に告げた。

「好きだ…」

二人は雪の降る中抱きしめあった。
「美紗さん… 1回だけっていう天使の力… 使ってくれるかな……」
湖太郎は決心したようだった。

「僕の身体を天使の姿が見えないようにしてほしい」

美紗は想像すらしていなかったのだろうか、目を見開いていた。
そんな美紗を、湖太郎は悲しげな瞳で見つめ、こう続けた。
「人間は…天使が見えちゃいけないんだ…」
湖太郎は少し俯いた。
「美紗さんが昨日わがまま言う僕の背中を押してくれて…
 …ちょっとだけわかったんだ」
俯いた顔を上げ、湖太郎は続けた。
「壁にぶつかって…辛くて苦しくて逃げて……
 でも最後は自分の足で立ち上がって…強くなる…
 それを人間は繰り返していかなきゃいけなくて……」


「僕はここで生きていくから」


湖太郎は悲しげで困ったような微笑を浮かべた。
「……だから僕が歩き出そうとする時に…僕の背中を押してくれるとうれしいな」
湖太郎は自分より背の高い美紗を見上げた。
「美紗さん…もし…このままずっと…天使を見ることができたら僕は…」
美紗を見上げた目が、また俯く。
「美紗さんが側に居ようと居まいと…辛くて苦しいとき
 きっと美紗さんを頼ってしまう 「天使」の力をあてにしてしまう
 前世のあの子みたいに… 追いすがろうとするかもしれない だから…
 …美紗さん…」
「………」
美紗は困った顔をして湖太郎を見つめていたが、淋しげな笑顔を浮かべ、答えた。
「今の小太郎君…良い目をしてるっス 昨日とは別人みたいっス」
「美紗さんのおかげだよ」
「てひひ…」
「ははは…」
「天使は見返りを求めず……人の幸せのために背中を押す………か……」
美紗は目を伏せた。
「湖太郎君がずっと「天使」が見えたら
 私もどうしても「湖太郎君」という見返りを求めちゃうっスね…」
美紗は少しふざけた感じで両手で頭を押さえ困った顔をした。
「だから私…ダメ天使っス…とほほ……」
「でも そうやって美紗さんが僕を愛してくれたから
 …僕は美紗さんを好きになったんだ」
湖太郎は微笑んでいた。美紗は辛そうな顔をしていた。

「僕は幸せだよ」

湖太郎がそういうと、美紗は湖太郎の頭に両手を伸ばし、天使の力を使った。
ぱっ、と光り輝いた。


僕は朝が嫌いだった
僕は1人で生きているつもりで…
そんな自分が嫌いだったと思う
でも
ある日 突然
「天使」が現れて
僕の「殻」をぶっ壊した

今まで隠れてたいろいろな僕を引っぱり出した…
こんなにたくさんの「自分」がいたなんて…
想像も…
…しなかった…


パシッ
美紗が消えた。
「美紗さん…」
湖太郎は閉じていた目を開いた。その目には、涙が浮かんでいた。
「…美紗さん………」
湖太郎は目を閉じ、微笑んだ。
「…ちょっとだけ見えたよ…
 まっ白な…天使になった美紗さん」

「…おめでとう…おめでとう…美紗さん…」



―卒業式―
「湖太郎ちゃん!」
小星が湖太郎を引き止める。
「は――……終わったねー卒業式」
「何だか実感わかねーなぁ」
「そうだね…みんな進路も決まって…」
湖太郎が天と小星に相槌を打っていると、
「おおおおお…
 進路の話はするなあ―――――!!」
大が現れた。
「大ちゃん……」
「残念だったね…国立……」
「言うなあ――!」
湖太郎と小星が慰め(?)るも、大はまだ咆哮を続けた。
「大ちゃんも湖太郎ちゃんと同じ学校かあ…
 テンちゃんの御崎中も近いし…卒業してもまた遊ぼうね」
「そうだね」
「植松 随分さっぱりしたよなー髪型も変えてさ
 一時はどうなるかと思ったのに」
天が不思議そうな顔で小星を見て言う。
「テンちゃんは小星ちゃんに告白とかしないの?」
「バカ大声で言うなよ!おれは度胸ねえからダメだよ」
天は慌てて答えた。
「そうだ湖太郎 おまえ今日誕生日だったよな」
「うん」

――さくら草
湖太郎の脳裏に、紫亜のことが浮かんだ。
湖太郎は少し俯いた。
「紫亜さん美紗さんも居なくなっちゃったなー
「2人ともつれねーよなぁ 何も言わずにいきなり…だし
 な 湖太郎」

――紫亜さん…

天使が歩き出す人を手助けするものなら…
きっと悪魔は…
立ち止まった人を受け入れるものなのかもな…

2人ともお母さんみたいだ…って思ったことあったけど
…もしかして…
もしかして…

「お―――い」
湖太郎ははっとし、天たちに目を向けた。
「湖太郎!行くぞー」
「湖太郎ちゃーん」
「置いて行くぞ樋口!」

そうだ…
僕は…まだ…
歩き出すんだ…
…新しい所へ…

ふっ
その時、湖太郎は自分の近くに何かの気配を感じた。
「……!」
湖太郎は驚いて後ろを振り返ったが、そこには何もない。
「お――い どうしたんだ」
「早くー!」

僕は……
歩いてく…
時につまづきながら……でも…

「うん…行こう!」

歩いていく…

僕に恋した天使と―――…


Fin

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