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●前回のあらすじ

ローマの大軍に包囲されたシチリア島・シラクサ市。
スパルタ人・ダミッポスの恋人クラウディアは、ローマ人であるためシラクサを牛耳るエピキュデス将軍
に囚われてしまう。
彼女を救うため名乗りを上げたダミッポスは、自らが考案した”光の兵器”を持ってローマ艦隊に損害を
与え、その手柄で見事クラウディアを開放させることに成功する。
そして、ローマとシラクサの戦いは持久戦へと持ち込まれた・・・・



○最終話



「ローマ軍により陸海の道を封鎖されたシラクサ市では、20万人とも言われる人口に見合うだけの
物資の蓄えはあったものの」「日が経つにつれ」「やはり市民たちの焦燥感は高まっていた」

 (無気力に過ごし、あるいはケンカに興じるシラクサ市民たち)
 (アルキメデスの屋敷に逗留しているダミッポスとクラウディアも焦燥感から逃れられない)

クラウディア「もうだめ……わたし……ここにはいられない!」
ダミッポス「どうしたんだ……大丈夫だよ」
クラウディア「たまに外に出てもみんな………ローマ人のわたしをすごい目でにらむし……」
「ずっとこの屋敷にいたらアルキメデス先生にもご迷惑だわ!」
ダミッポス「そんなこと………!」
クラウディア「わたし………レオンティニに行きたい! 家族のことが心配なのよ」
「何とかこの町をぬけ出して……」
ダミッポス「…………今は無理だよ 勝手に城壁を越えようとすれば市内とローマ軍の両方から狙い射ちに
される」「むしろ市内の結束を守るために城壁の守備兵の方が容赦しないはずだ」
クラウディア「…………海は?」
ダミッポス「海はずっとローマ艦隊がにらんでるだろ」
クラウディア「でもローマ船はアルキメデス先生の機械のおかげで一定の距離より近くにはいないはずよ!」
「手漕ぎの舟で城壁の真下を岸にそって移動してけば……!」
ダミッポス「さめだ!危険すぎる!城壁から射たれるよ!」

 (意見がかみ合わない二人。しばし沈黙する)

クラウディア「…………ごめんね……いろいろ言っちゃって」
ダミッポス「クラウディア!」

 (あきらめたようにその場を去っていくクラウディア)

 (その夜のアルキメデス邸。クラウディアと召使が脱出の準備をしている)
 (アルキメデス邸の女中頭もいっしょだ)

召使「お嬢様準備できました」
女中頭「何とか手漕ぎの舟を掘割のすみに用意できたけど……本当に行くの?」
クラウディア「はい!いつまでもご好意に甘えてしまってほんとに申し訳ありませんでした」
女中頭「いえ……あなたたちが逗留して下さった間、アルキメデス先生生き生きとしてとても
楽しそうでしたわ こちらこそどうもありがとう」
クラウディア「……今日までの事、心から感謝してます どうか先生にもよろしく」
女中頭「…………やっぱりだめよ!あなたたちだけじゃ危ないわ!」
召使「なあに年はとってもけっこう力ありますから」
クラウディア「わたしと交代交代で漕いでいこうと思うんです」
?「無理だよ」

 (ふとかかる声に振り向くクラウディア)

クラウディア「ダミッポス………」

 (そこには支度を整えたダミッポスが)

ダミッポス「話になんないよ、ケガした老人と女でなんてさ 城壁をぬけるまでの距離わかってんのか?」
「悪いけどあんた おれと替わってもらうぜ」
召使「ダミッポスさん……」

 (召使から荷物を受け取るダミッポス)

ダミッポス「それにだ……うまく城壁をぬけてもレオンティニまでの道中に問題がある。付近にはローマと
カルタゴ両軍の陣営があるんだ。ローマ軍にならともかくカルタゴ軍に捕まった場合はギリシア人のおれが
いたほうがいい」
女中頭「そう…そうだわ!」
ダミッポス「そゆこと」「もしカルタゴ軍に捕まったらギリシア人のおれが彼女を『妻』ということで守る」
クラウディア「もし………ローマ軍に捕まったら………」「ローマ人のわたしがあなたを『夫』として
守るわ……!」
女中頭「その作戦ね!」

 (笑みを浮かべ顔を見つめ合わせるダミッポスとクラウディア)
 (そこへアルキメデスがやってきた)

クラウディア「先生……」
アルキメデス「なんじゃみんなそろって」
ダミッポス「先生 実はおれたちちょっと旅に出ることになったんです」
アルキメデス「ほう?近くかね?」
ダミッポス「そうですね シチリア島内ですから」
アルキメデス「そうか………気をつけてな」

 (言い残しその場を去ろうとするアルキメデス。だがふと振り返り)

アルキメデス「ひょっとして新婚か?」
ダミッポス「ええ!? んーーーーー…………まあそのようなもんで……」

 (アルキメデスの思わぬ言葉に頬を赤らめるダミッポスとクラウディア)

アルキメデス「はっはっは!照れんでもよいダメッピくん!」
女中頭「先生 こちらダミッポスさん」
アルキメデス「ああ?ダミ……?」
ダミッポス「いいですって……」
アルキメデス「またいつでも遊びにきなさい」
ダミッポス・クラウディア「「はい!ありがとうございます!」」
アルキメデス「んん」

 (その場を去っていくアルキメデス。そして・・・)

ダミッポス「じゃ……」



 (夜の城壁。闇に乗じボートでシラクサ脱出を図るダミッポスとクラウディア)

クラウディア「なんだか町を裏切るみたい……」
ダミッポス「町が先にきみを裏切った」
クラウディア「……………………ごめんね……結局まきこんじゃって……」
ダミッポス「いいよ体がなまってた所だし………城壁が海岸線から離れる場所まで行けば少し楽になる」
クラウディア「……故郷を捨てたくて捨てるとは限らない……なのに……いつかわたし あなたに……」
ダミッポス「何の話?」
クラウディア「…………でもわたしは……今でもこの町が好き」

 (城壁のほうを振り返るクラウディア。その時・・・)

   ヒュッ

クラウディア「あっ」

 (飛んできた矢がクラウディアの背中を貫いた・・・・)

ダミッポス「クラウディア!」
守備兵「逃げるのか!!この裏切りものめ!!」

 (城壁から響く守備兵の怒号)

  ヒュン ヒュン(次々と打ち込まれる矢。ボートを漕いで逃げるダミッポス)

ダミッポス「くそォ!! クラウディア!!」

 (うつ伏せで倒れているクラウディア)

クラウディア「う……す……すごい……突きぬけてる……これも………アルキメデス先生の………は…
…発明……?」
ダミッポス「しゃべるな!ただの矢だ!手当てすりゃ大丈夫……!」

ダミッポス(こういうのは………たしか無理に引きぬいちゃまずいんだよな………こうなったら!)

 (意を決しボートを漕いでいくダミッポス。行く先はローマ艦隊だ)

ダミッポス「おーーーーい!!もしもーーーし!もしもーーーーーーー!」

ダンダンダンダン(オールで船体を叩くダミッポス)

ローマ兵「何だ!きさま!!」
ダミッポス「ケガ人なんだ!!医者をたのむ!」
ローマ兵「気は確かか!ここは戦場だぞ!!」「きさまシラクサ人だな!?そっちは女か!」
ダミッポス「すーーーーー…………」

 (息を吸い整えるダミッポス)

ダミッポス「ごちゃごちゃ言ってる場合か!!いいかよく聞け!!」「この人はローマ貴族・クラウディヌス
=マグヌス様のご令嬢だ!!」「今までシラクサで人質になっていたのをやっとの思いで脱出してきたんじゃ
ないか!!」
「この矢を見ろ!シラクサの矢だ!! すぐに手を貸さないとマルケルス将軍にすべて報告するぞ!!」
ローマ兵「………………」
ダミッポス「そう言やマルケルス将軍も同じクラウディウス氏族だったよな!」

 (当時のローマでは氏族が同じ者は助け合う義務があった)

ローマ兵「ま まて!わかった! だがこの船には医者はいない!」
ダミッポス「じゃあ医者のいる所へ案内してくれ!早く!!」

 (ローマ軍の陣地へ案内されるダミッポスとクラウディア)
 (治療を受けているクラウディアの呻き声が響いている)

クラウディア「うっあああっ・・・・・・・う・・・・・・」
ダミッポス「…………」
ローマ兵「女はともかくおまえはローマ人じゃないな?」
ダミッポス「ああ……」
ローマ兵「こい!いろいろ聞きたい事がある!」
ダミッポス「…………」
ローマ兵「心配するな!軍医の腕は確かだ!」

 (別室で取調べを受けるダミッポス)

ローマ兵「ふむ………スパルタ出身で名はダミッポス……変わった名だな。で?何でギリシア人のおまえまで
シラクサを脱出せにゃならん?」
ダミッポス「おれは彼女の夫だ……」
ローマ兵「だがなぜ今ごろになってだ?」
ダミッポス「その事で聞きたいんだ!」
ローマ兵「いや質問してるのはこっち………」

 ガタ(突然声を張り上げ立ち上がるダミッポス)

ダミッポス「彼女の家族がレオンティニに収容されていたはずだ! レオンティニのローマ人たちは皆解放
されたのか!?」
ローマ兵「………………………」

 (他の兵士と見詰め合うローマ兵)

ローマ兵「気の毒だが……レオンティニにいたローマ人は全員殺されて一ヶ所に埋められていた」
ダミッポス「!! そんな・・・・・・・・」

 (ショックを受けるダミッポス。そこへ軍医がやってくる)

軍医「その男ちょっといいか」

 (ダミッポスの肩に手を置く軍医)

軍医「手は尽くしたがもうだめだ……行ってやれ」
ダミッポス「え…………?」

 (ベッドに横たわるクラウディアの側に行くダミッポス)

ダミッポス「クラウディア………大丈夫そうだね まだ痛む……?」
クラウディア「ううん……」「ねえ………どうだった?」
ダミッポス「ん?なにが」
クラウディア「レオンティニのこと……聞いたんでしょ……?」
ダミッポス「ん……ああ! マルケルス将軍があっという間に攻め落としてさ!捕まってたローマ人を
全員開放したんだって!」「だ だから今はレオンティニにみんな無事でいるよ!」
クラウディア「……………………」

 (ダミッポスの言葉を聞くクラウディア。その顔はやがて悲痛なものに変化していく・・・)

ダミッポス「クラウディア……!」

 (眼を閉じるクラウディア)

クラウディア「そう……よかった………」

 (眼を開き弱弱しく手を伸ばすクラウディア。その手をとるダミッポス)

クラウディア「ありがとう………ダミッポス………フフ………へんな名前………」

 (再び眼を閉じるクラウディア。それが開くことはもはや無い・・・・)

ダミッポス「クラウディア・・・・・・おいまてよ!クラウディア!!ク・・・・・」

 (クラウディアにすがりつくダミッポス)

ダミッポス「そんなァ………まいったな笑ってるよ…………」

 (クラウディアを指差すダミッポス。痛々しげにその様子を見ているローマ兵たち)
 (クラウディアの亡骸を抱き、離さないダミッポス)

 (時は流れ夜が明ける)
 (部屋で一人たたずむダミッポス)

ローマ兵「こい!スパルタ人 マルケルス将軍がお会いになる」

 (ローマ軍の司令官であるマルケルス将軍と対面するダミッポス)

マルケルス「おまえの妻は気の毒だったな………」
ダミッポス「……………………」
マルケルス「単刀直入に聞こう。シラクサの備えについてだ。正直言って非常に手を焼いておる」
「これまでに知られていない守りの盲点・手薄な箇所・何でもいい教えてくれ」

 (返事をしないダミッポス)

副官「こらなぜ黙ってる!返事をせんか!!」
マルケルス「シラクサにとっておまえはよそ者で妻はローマ人……しかも妻の家族まで殺されている」
「この上あの町に義理立てする必要があるのか?」
ダミッポス「………彼女………シラクサを愛してたんだ……」
副官「いいかげんにしろきさまァ!!」
マルケルス「今はよくてもやがてシラクサの物資は底をつく……しかしカルタゴは動こうとせん。
待たされた分ローマ兵たちは見返りを欲するだろう………先へ行くほど町は悲惨だぞ。
早めに片づけた方が双方のためとは思わんかね?」
ダミッポス「………………………………一ヶ所……」

 (長い沈黙いの後、しゃべり始めるダミッポス)

副官「んっ!」
マルケルス「どこだ」
ダミッポス「話すには条件がある……」
マルケルス「なに?」
ダミッポス「シラクサが落ちても………一般の市民には手を出さないほしい」
マルケルス「さて……どうしたものか……」
ダミッポス「市民の大部分は戦闘に参加していない。戦ったのはおもに機械だ……そうだろ?」
副官「そんな理屈があるか!その機械どもを操っていたのは誰だ!」
ダミッポス「ごく少数のカルタゴ派がカルタゴ兵の力を借り市全体を乗っ取ったんだ。市民はそいつらに
のせられたにすぎん」
マルケルス「ずいぶん勝手な言い分だがまあよかろう。非戦闘員の命まで奪うつもりはない。ただ一人を
除いてはな!」
ダミッポス「!」

 (さっきまでとうって変わって激しい口調となるマルケルス)

マルケルス「アルキメデス!かの者だけはただですますわけにはゆかん!ヤツの発明した機械により
どれだけ多くのローマ兵たちが命を落としたことか!」
ダミッポス「ま……まってくれ。アルキメデスは………! 彼はもう七十半ばの老人だぞ!?」
マルケルス「関係ない」
ダミッポス「だいぶボケがきてる!今だって町を囲んでるのがローマかカルタゴかもわかってないんだ!」
副官「信じられるか!」
ダミッポス「本当だよ!! それに彼が発明した数々の機械だって、もともとは王のヒエロンU世に頼まれて
対カルタゴを想定して作られたモノなんだ!」
マルケルス「そんな理由で同胞を亡くした多くのローマ兵たちを納得させろと言うのか!!」

 (激昂のあまり椅子から立ち上がるマルケルス)

ダミッポス「納得させてくれよ!!司令官だろ!?」「アルキメデスは数学者で発明家で技術者だが指導者
じゃない! 戦場の作法なんかそのまま押しつけてどうすんだよ!!」
副官「きさ………ま……!」
ダミッポス「あんたはあのハンニバルと互角に戦った将軍で!過去には敵軍の王を自らの手で討ち取った
ほどの勇者だろう!? 『ローマの剣』とまで呼ばれた男が今さらそうまでしてボケ老人一人の首が
欲しいのか!!」
「恥ずかしくないのか!!がっかりさせんじゃねえよ!!」

 (凄まじい勢いで熱弁を振るうダミッポス)

副官「だっだっだまれきさまァ!!たたっ殺してやる!!」
マルケルス「やめろ!!もういい!!わかった!!」

 (怒りのあまり剣を抜こうとする副官だが、マルケルスの声に止められる)

マルケルス「ふーーーーー……………ペラペラとよう舌の回るヤツだ……きさま本当にスパルタ人か?」
ダミッポス「…………」

 (お互いに息をつくダミッポスとマルケルス)

マルケルス「よかろう市民とアルキメデスの助命承知した」
副官「しょ……将軍……」
マルケルス「承知した………と言ったぞ? それとも『ローマの剣』の言葉が信用できんか。ガセなら両方とも
なしだ」
ダミッポス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 (長い沈黙の後、ゆっくりとしゃべりだすダミッポス)

ダミッポス「北門のそばに……………『不吉の塔』と呼ばれる場所がある………」



 クラウディア(平気よ 誰もいないもん。兵隊たちは近よりたがらない)

 (クラウディアの在りし日を思い出すダミッポス)

クラウディア(ほら!わたしの特等席!)

ダミッポス「そこのわきの城壁………木々で見えにくいが……」

クラウディア(種あかしをするとねほら………下のガケからなんとなく足場があって………敵にすぐ攻め
こまれちゃうかららしいの………)

ダミッポス「……………………………………」

 (眼を伏せるダミッポス。その脳裏に浮かぶのは・・・・・)

クラウディア(ありがとう……いろいろ………)
      (でもわたしは・・・・・・今でもこの町が好き)

マルケルス「わかった………北門のそばだな?」「塔の調査・測量および市域北側に布陣の準備」
副官「はっ!」

 (マルケルスの命を受けた副官が出て行く)

ダミッポス「もう……いいかい………?」

 (空ろな表情でつぶやくように言うダミッポス。そのまま出て行こうとする)

マルケルス「しかし………アルキメデスの頭脳がもう曇ってしまったとはな………あの機械どもには正直
たまげたよ」「『巨大な起重機』『回転する刃』『エウリュアロス』………そうそう船を火事にした
『光の兵器』というのもあったな」
ダミッポス「『光の兵器』はおれだよ………」
マルケルス「なに………!?」

 (マルケルスの部屋から出て行くダミッポス)




ダミッポス(彼女の町を・・・・・・裏切った・・・・・・・・)




「夜陰にまぎれて北門そばにある塔を占拠したローマ軍は、それを足がかりに北門を破り、夜明けには
エピポライ台地を制圧した」
「つづけて外市…………」
「島状の内市はすぐには落ちなかったが、やがて市側に内応者が現れ、その手引きで海からローマ軍が突入」
「シラクサは陥落した」

 (陥落したシラクサからボートで逃げ出すエピキュデス。頭を抱えている)

エピキュデス「くっそう!くそ!くそ! ひっ!」

 (彼を狙い放たれたシラクサ守備兵の矢がボートに刺さる)

守備兵「逃げるのか!!この裏切り者め!!」
エピキュデス「うるせえばかやろう!!」

「乱入したローマ兵たちは金品の略奪を繰り返したものの」
「マルケルスの命に従い市民には手を出さなかった」
「ーーーーーのはずであったのだが…………」


 (地面に円を描きなにやら思索にふけるアルキメデス)

アルキメデス「……はて、この計算は前にもしたような………いやあ違うな!初めてのはずじゃ!」
「球の体積とォ 円柱の体積が…………おお………!?」

 (なにやら発見したらしいアルキメデス。興奮して声を上げる)

アルキメデス「そうか!そうかそうか!!わかった!見つけたぞ!!」「お おい!誰か!!
ダメッピくん!!ダメッピくん!!」

 (しかし誰も来ない。周りを見るアルキメデス)
 (屋敷にはローマ兵が押し入り、金品を略奪している。それを見て泣いている女中たち)

アルキメデス「……………………」

 (さらに探し回るアルキメデス)

アルキメデス「ダメッピくん」

 (屋敷中を歩き回るアルキメデス)

アルキメデス「ダメッピ……はて……ダメッピ?そんな名じゃったか?」

 (歩きながらぶつぶつ独り言をつぶやくアルキメデス)

アルキメデス「ダメ………ダミ………ダミッポス………そうじゃダミッポスじゃ!」
「そうそうダミッポス………彼はたしか………教え子の中でも特に優秀な生徒じゃった………うむ……」
「わしの話をよく聞き授業でもよく発言をした………討論をさせれば他の生徒は誰もかなわなかったな」
「課外実験なども進んで手伝ってくれた………」
「そうじゃダミッポス………他の生徒たちへの説明は彼に頼もう!わしは要所要所をチェックすればよいの
じゃ」「ふんふん………それがよい………ふんふん………」
「きょう彼は………? どこぞに出かけたんじゃったかのォ…………」

 (言いながら歩いていくアルキメデス。と・・・)

アルキメデス「!こっこら!!ばかもん!!」

 (怒り出すアルキメデス。彼の描いた図形をローマ兵が踏んでいた)

アルキメデス「どこに立っておるのじゃ!!わしの図形を………!さっさと足をどけんかこの
大ばか者が!!」
ローマ兵「な…………なんだと!!じじい!?」
アルキメデス「なんじゃ!!」


「紀元前212年 数学者アルキメデス」
「激昂したローマ兵に殺害される 75歳」




ダミッポス(先生………結局おれのせいなのか………)

 (アルキメデスの殺害現場にたたずむダミッポス)

マルケルス「すまぬ………まさかこのようなことになろうとは………」
ダミッポス「マルケルス将軍………」
マルケルス「こちらの……指示の不徹底のせいだ。アルキメデスの財産はすべて返却し、遺族にも出来る
だけの補償はするつもりだ」
ダミッポス「………先生自身にも多少の予見はあったようだ………自分で設置した機械あまりみたがら
なかったし」
マルケルス「………おまえはこれからどうする」
ダミッポス「ま……この町には住めないな。おれは裏切り者だから」
マルケルス「何ならローマへ来んか。おまえほど口が達者なら何かと重宝がられるだろう」
ダミッポス「……冗談じゃない。この町であんたの軍に囲まれ次はローマでハンニバルに囲まれるわけか?」
マルケルス「ハンニバルは倒す!」
ダミッポス「………おれはスパルタに帰ろうと思う……あんな場所でも故郷だからな」
マルケルス「だがそのスパルタもいずれローマの属州だぞ」
ダミッポス「ふ……あんたらはすげえよ でももっと……ほかにやる事ァないのか?」

 (そう言い残し、マルケルスの前から去っていくダミッポス)


「4年後 マルケルス ハンニバルの誘導作戦にかかり戦死」
「10年後 ハンニバル ローマ軍に大敗」
「翌紀元前201年 ローマ・カルタゴ間での和議成立」


「やがてすべての目撃者は死に絶え三千年が経過した・・・・・・・・・・」



 (ボロボロに風化したエウリュアロス要塞跡。そこには在りし日の栄光の面影は無い・・・・・・・・・)


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