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ベターマンの最終回


超人同盟・魔門麦人に奪われた火乃紀を救うため、蛍汰たちはニューロノイドで太平洋上のモーディワープ本部へ乗り込む。だが八七木と楓は、楓の発症したアルジャーノンにより自滅。蛍汰は覚醒人1号を駆り、苦戦しつつも最下層で火乃紀を発見。ベターマン・ネブラが魔門を倒して火乃紀を救えたかに見えたが、ベターマンもまた、ベターマンの宿敵たる謎の怪物カンケルの前に敗れ去る。
一方で麻御は本部の一室で代表者オフィサーと遭遇。人類を脅かす謎の奇病アルジャーノンの正体が明かされようとしていた……。


麻御(あさみ)「空は天にあり、空は地にあり、星は天にあり、星は地にあり……空にありしもの、すべて地に存在せり。謎を解かれし者、幸せなり……ダイブインスペクション……遺伝子レベルの突然変異を引き起こし、耐性病原体をも凌駕する不死身の人類を追及した実験!」
オフィサー「生体設計図・ホメオボックス遺伝子をリンカージェルにより書き換えるはずだった。しかし……」
麻御「ひょっとして、ベターマンは数千年前にダイブインスペクションを成功させた種族!?」
オフィサー「このモーディワープの地下実験施設で何度もダイブインスペクションを繰り返したが、私はベターマンにはなれなかった。だが……」

オフィサーの口が動くことなく、声が響く。

オフィサー「リミピッド・チャンネルを手に入れることは叶った。そして私は、膨大な意識の海を渡り、遂に答を知る者に辿り着いたのだ」


蒼斧(あおの)蛍汰(けいた)(さい) 火乃紀(ひのき)たちのもとには、死んだと思われていた尊者(そんじゃ)ヤクスギが現れていた。

ヤクスギ「ペルー・ポーポ湖の水が、我の才力を鎮める唯一の解毒剤であった。しかし、その水もすぐに純度を保てなくなった。異常気象を招いたヒトの自然破壊が、我の中のカンケルを解き放ったのだ……記憶を失った我は、チャクラの導きによってここまで来た。だが……それはカンケルによる全生命死滅への準備に他ならない」
蛍汰「い、生きていたんスね! 爺さん」
火乃紀「カンケルって……?」
ラミア「ヒトは、滅びることのない細胞を目指した……滅びは新たな命の進化。しかし、ヒトはそれを拒んだのだ……」
ヤクスギ「老いていくことの恐怖に、耐えられぬのだ! 尊は、寿命なるものを超越した不老不死への進化を望んだ! だが……その結果がこれだ!!」


最 終 夜

- mu -


ヤクスギの姿がカンケルへと変貌する。尊者ヤクスギこそがカンケルの正体だった。
中破した覚醒人(かくせいじん)に迫るカンケルの巨大な姿。

麻御「やはり……尊者ヤクスギはベストマンとして完成していた!?」
オフィサー「尊者は、永久に分裂を繰り返す不死身の細胞を手に入れた」

蛍汰「うわ、うわぁ……!? お、お前は何でベターマンを襲うんだ!?」
紗孔羅(さくら)「それは……ベターマンがヒトを守る免疫抗体だから……ベターマンが滅べばヒトも滅びることを、カンケルは知っているの……」
火乃紀「紗孔羅!?」

オフィサー「蒼斧蛍汰に硬膜を提供したドナーは、当時日本在住の地質学者、ロリエ・ノワール」
麻御「リンカージェル研究の第一人者といわれた、あの……!?」

紗孔羅「ロリエが教えてくれたの……蛍汰さんの中にいるのに、ずっと自分を取り戻せなかった。でも今は……」

オフィサー「彼が覚醒人に近づいたのは偶然ではない」
麻御「蛍汰くんの中のロリエが、自らのニューロン・ネットワークを再生させるために、リンカージェルを利用したと!?」
オフィサー「そう……」

蛍汰「じゃあ、俺が1人で覚醒人を動かせたのって……」

麻御「デュアルカインド2人分のニューロンが、蛍汰くんの脳内には存在している……!」
オフィサー「大昔、人はリンカージェルを地下より湧き出ずる生命の源、シムゾニアと呼んでいた。そして、それと対話することで様々な知識を得ていたという」

紗孔羅「ロリエはお話する方法を欲していたの……たくさんの命と触れ合うことで、エネルギーを生み出すリンカージェルと……」

オフィサー「カンケルはほかの生物の染色体を改造し、己の中に融合させる能力を持つ。しかし、そのハイブリダイゼーションには無力。恐らくはそれが……」

蛍汰「生命の源だから……」
火乃紀「ケーちゃん……?」
蛍汰「何もかも、すべてはあいつが元凶の源だったんだ」
火乃紀「成長型ヘッドダイバーって、ケーちゃんの中のもう1人のことだったの……」
蛍汰「やっつけるぞぉ! うぉぉ──っ、シナプス弾撃ぃぃ!!」

覚醒人のシナプス弾撃がカンケルを直撃。

ラミア「ダメだ……」
紗孔羅「減らしても減らしても増えてるから……」
蛍汰「不死身の細胞!?」
火乃紀「元凶の源!?」

麻御「では、ダイブインスペクションで生き残った私たちは!?」
オフィサー「元凶なりし力……カンケル誕生という生態系への危険情報を脳内のプリオン蛋白に焼き付けたまま、我々は世界中へ散って行った。そして我々は、接するヒトすべてに、このインパルス・パターンを感染させていたのだ! 結晶性角剤により瞬時に水が氷と化すように」
麻御「それが、脳内の死滅プログラムを活動させた……!?」

紗孔羅「アルジャーノン……」

覚醒人のシナプス弾撃は、カンケルにまったく通用しない。
カンケルが覚醒人を壁面に叩きつけ、覚醒人の装甲が粉々に砕けてゆく。

がっくりと膝をつく麻御。

麻御「私自身が……アルジャーノンの……元凶!?」
オフィサー「アルジャーノンは、ヒトの特殊な死により双生するアニムスにとって、ベターマンという免疫抗体を呼び寄せる生物界のメカニズム!」


蛍汰の夢の中。
真っ暗な空間。イルカの姿の光がいくつも、彼方へと消えて行く。

蛍汰「あれ? お前たち……覚醒人の中に入っていた12匹のイルカ? 海に帰ってくのかぁ? あぁ、嬉しそうだなぁ! ……ん?」

いつか蛍汰が見た、人型の光が現れる。

謎の声「見ろ……見ろ……地の底を……滅びの国……」

その光が、人間女性の形をとる。

謎の声「蒼斧……蛍汰……」
蛍汰「人型の光……ひょっとして、俺の中のもう1人?」
謎の声「ロリエ・ノワール……私のせいで、あなたの脳も若干の混乱が生じたようです」

かつて学園祭や自宅で蛍汰が見た奇妙な光景……

蛍汰「混乱……って、時々見えた妙な幻覚とか?」
謎の声「今あなたが見ている私も、あなたの脳内に作られた虚像に過ぎません」
蛍汰「そうなんだ……」
謎の声「もうすぐ、すべては終わります。ありがとう、蒼斧蛍汰……」

光が消えてゆく。

蛍汰「あ、あの……」

目覚める蛍汰。そこは水の中。周囲には大破した覚醒人の残骸が散乱している。

蛍汰 (あ……俺……やべぇ……)

傍らには火乃紀もいる。

蛍汰 (火乃紀……)

火乃紀の手を、蛍汰が手を伸ばして掴もうとするが──

蛍汰 (ダメだ……もう動かねぇ……)
火乃紀 (ケー……ちゃん……)
蛍汰 (ごめん……火乃紀、俺……)
火乃紀 (ケーちゃん……約束、守ってくれたんだね……ずっと、そばにいてくれるって……)
蛍汰 (火乃紀……)

火乃紀の瞳に涙が浮かぶ。

火乃紀 (ごめんね……ケーちゃん……私みたいな、バカのために……)

蛍汰の瞳にも涙が浮かぶ。

蛍汰 (俺、火乃紀を守ってやれなかった……)
火乃紀 (いいよ……ありがと……大好き、ケーちゃん……)

蛍汰 (火乃紀……死ぬのか? 俺たち……)
火乃紀 (私が死んだら、アニムスの花になるから……そしたら、私……お兄ちゃんに食べられる……きっと、ケーちゃんを……助けてもらう、から……)
蛍汰 (火乃紀、火乃紀……火……乃紀……)


オフィサー「空爆開始まで、あと5分。すまない、都古(みやこ)くん。君はやはり、強引にでも研究室へ帰すべきだった……」

床に麻御の涙がボトボトと流れ落ちる。

麻御「私は……父と母の遺志を継いで、大勢の人たちを病気から救うために、戦ってきたのに……なのに……滑稽です。世界中にアルジャーノンをばら撒いて、罪もない人たちを殺し続けていたなんて!」
オフィサー「死は、次なる誕生のための宿命」

部屋の扉が開く。

麻御「はっ……?」
オフィサー「そして……」

ブッタが現れる。

麻御「Dタイプのハンター!?」
オフィサー「甲殻形成バクテリアとの共生を成立させた強化人間。あの子も、我々の宿命のために……」
麻御「倫理を……超えて……」

ブッタの頭部が開き、中のチャンディーの素顔が覗く。

チャンディー「あんたたち、殺してあげる」


とある水路。倒れている紗孔羅を、阿嘉松(あかまつ)が見つける。

阿嘉松「紗孔羅ぁぁ──っ!!」

阿嘉松が紗孔羅のもとへ駆け寄り、抱き起こす。

阿嘉松「はぁ、はぁ……おい! 目を開けろ、紗孔羅! おい!」

阿嘉松が紗孔羅を抱いたまま歩き続ける。
墜落した麻御のグリアノイドがある。

阿嘉松「はぁ、はぁ……こいつぁ、麻御の姉ちゃんが乗ってたグリアノイド? まさか、みんな死んじまったんじゃあ……?」
紗孔羅「早く……逃げて……」
阿嘉松「紗孔羅……やっぱ、お前は連れて来るんじゃなかった。母さんが出てってから、俺ぁ『どこへ行くにもお前と一緒だ』なんて約束しちまったからよぉ。モーディワープから特殊移動用マニージマシンの使用許可をもらうっちゅう条件で、技術協力したのがそもそもの……」

紗孔羅が目を開く。

阿嘉松「まさか、こんなことに……俺ぁつくづく、ダメな親父だなぁ……」
紗孔羅「うぅん……いいの……色んなとこ、一緒に行けて……嬉しかったよ……」

紗孔羅が瞳に涙をためる。

紗孔羅「ありがと……お父さん……」
阿嘉松「紗孔羅……」

阿嘉松が紗孔羅を抱いたままグリアノイドに乗り込み、必死に操縦桿を握る。

阿嘉松「くそ……くそぉっ! 動け、動けっ! 動け、動け、動けぇっ!」

バーニアから弱々しく炎が吹き出す。

阿嘉松「動け、動けぇっ! 動け、動けっ! 動けぇぇ──っっ!!」


ついに国連軍による爆撃が開始され、モーディワープ本部が崩壊してゆく。
既に事切れたオフィサー、麻御の上に瓦礫が降り注ぐ。

モーディワープ本部を包む爆撃の光。その光の奔流の中に、ヤクスギが浮かび上がる。

ヤクスギ「すべては──カンケルによって奪われる」


どこかに横たわっているラミア。
その周りに、すでに死んだパキラ老、ルーメ、ボダイジュの幻影が現れる。

一同「ラミア」
パキラ「まだ終わってはいない──」
ラミア「私には……もはやウィウェレすら手にする力はない」
ボダイジュ「忘れたわけではあるまい? その手にあるフォルテ」
ラミア「(フォルテ)では……カンケルを倒せぬ」
ルーメ「フォルテ合せるとき──生まれ出ずるもの」
ラミア「それは……」
ルーメ「そう──カンケルが脅威とする」
ラミア「……誕生(オルトス)!」

3つのフォルテの実が現れる。それはオフィサー、麻御、魔門麦人の死によって実った実。

ボダイジュ「お前にオルトスへの耐性が備わっているか」
パキラ「今ここで試す以外に道はない」
ルーメ「まだ戦う意志が残っているのなら──立て。灯火を消さぬためにも」

3つのフォルテの実が融合し、「オルトスの実」となる。

一同「ラミア──」

3人の幻影が消えてゆく。

ラミア「パキラ老、ボダイジュ、セーメ……私を──」

実を手にするラミア。

ラミア「──新たな誕生へと導いてくれ!」


ヤクスギ「この我を止めろおおぉぉ──っっ!!」

ヤクスギがカンケルへと変貌する。


ラミアがオルトスの実を噛み砕く。
その身体が光と化して変貌し、巨大化し、装甲質の皮膚に実を包んだ巨人、ベターマン・オルトスと化す。
オルトスが翼をはためかせて空へと舞い上がる。

上空で対峙するオルトスとカンケル。

ラミア「尊者ヤクスギ──辿り着いた、カンケルの潜む宿主!」
ヤクスギ「チャクラに封印されし才力、我に信ずられる事実」

カンケルの腕が長く伸び、刃の如くオルトスの胸を突く。

ラミア「死滅の才力を上回る、誕生の命力がお前を止める!」

オルトスではなく、オルトスの胸を突いたカンケルの腕の方が砕け散る。
なおもカンケルはオルトスに抱きつき、海へと飛び込む。
そのまま海底をも突き抜け、2人は地下空洞へと現れる。眼下は溶岩の泉。

ラミア「我らソムニウムは、生態系のバランスを保つ肝機能の如き存在──我ら滅びるとき、免疫力無きヒトもまた滅びる!」
ヤクスギ「我、ヒトの細胞を奪う者──我、ヒトの命を超える者──我、ヒトの進化の到達点、カンケルなりし者!」

オルトスのパンチがカンケルに胴にめりこむ。
カンケルがオルトスを捕え、振り回し、溶岩の泉へと叩き込む。
高熱の溶岩の中へと沈んでいくオルトス。

ヤクスギ「ヒトはベストマンになることを目指した──共生すべき掟を破ってでも。だがもしお前が、真に正しき道を選び進む者ならば、我を止めるのだ──ベターマンよ!」
ラミア「染色体の螺旋は、2重に連なることで共生し、環境の変化により組み換わる──ただし、無限の細胞分裂はヒトにとっての進化ではない。唯一、カンケルと同じ能力を持つもの──それは!」
ヤクスギ「生殖細胞!?」
ラミア「サイコ・バース!!」

溶岩の中から飛び出すオルトス。
その額から放たれた光の刃が槍の如く、カンケルの脳天を貫く。

ヤクスギ「我の能力を解放に導くのかぁ!?」
ラミア「すべての遺伝情報が目覚めたとき、プログラムは無に戻る!!」

オルトスの振るう拳が、カンケルの五体をバラバラに砕く。

カンケルが光に包まれ、消滅──


海の底へと沈んでいくブッタ。
チャンディーの素顔が覗く。

チャンディー「あんだたったの? 私に色んなこと教えてくれてたの」

そこにいたのは、八七木(やなぎ)と楓の間にできた子供の胎児。

チャンディー「一緒に行こ! ここ、なんにもないから。遊ぼ、遊ぼ! 遊ぼ! 遊ぼ!」

ブッタが胎児を抱き、どこかへと泳ぎ去って行く。


海上に浮かぶグリアノイドの残骸。
その上で、目を閉じた紗孔羅を抱き、阿嘉松が天を仰いでいる。

阿嘉松「紗孔羅……アルジャーノンは、消えたのか……?」
紗孔羅「うん……何も……聞こえない……」
阿嘉松「なぁんでこんなことに……なっちまったのかなぁ……」

天を仰ぎ続ける阿嘉松。

阿嘉松「……紗孔羅? 紗孔羅!?」

答は返らない。
陽の光が差し始める。

紗孔羅の目は開くことはない。

阿嘉松「……紗孔羅……そっか……眠ったか……」


入道雲の浮かぶ青空の下。

どこかの小島の海岸。浅瀬に倒れている蛍汰。
海鳥の声が響く。蛍汰が目を覚まし、起き上がる。

火乃紀「ケーちゃん」

振り向くと、火乃紀が浅瀬の中に座り込み、こちらを見ている。
それは、蛍汰が火乃紀に再会した日、夢に見たあの光景──

蛍汰「火乃……紀……」

夢と同じように、瞳を涙で潤ませた火乃紀が微笑を浮かべている。

火乃紀「運んで……もらったんだよ。私たち……ここまで」
蛍汰「え……誰に?」

見つめ合う2人。

蛍汰「俺たち……生きてる!?」
火乃紀「うん!」
蛍汰「本当に……本当に……!? ハハ、ハハハハハ!」

大笑いしながら蛍汰が飛び回る。

蛍汰「アッハハハハ! 生きてるよぉ、生きてるよぉぉ──っ!! アッハハハハ! アッハハハハッ!」

大声で笑い続ける蛍汰につられ、火乃紀も笑い始める。

火乃紀「フフ……フフフ、フフフフフ! アハ、アハハハハ、アハハハハ!」
蛍汰「アッハハハハッ!」
火乃紀「アハハハハ!」


燦々と照りつける太陽のもと。
青い空と青い海が広がる中、生存を喜ぶ2人の笑い声がいつまでも響き続ける。


サヨヲナラ…

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