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あしたのタマゴ 

・・・ STEP:10 ・・・


これまでのあらすじ

高校生・勝矢真琴の前に、自分は未来からやってきた孫だと名乗る少年が現れた。
その少年・祐介は開発中のタイムマシンに乗って行方不明になってしまった人達を
探し出すため、未来から真琴に助けを求めにやってきたのだった。
戸惑いながらも、真琴は幼なじみの桃香・綾子と一緒に祐介に協力することになった。
そして行方不明者の一人目を発見!ドタバタはあったものの無事救出に成功した。
その老紳士を助けたことにより、4人のチームワークはバッチリ(?)に。
ところが、真琴が思いを寄せる綾子は、未来から来た祐介に夢中。一方桃香は、
親友のように接してきた真琴のことが本当は好きなのに、その思いを言い出せない。
やがて、事件も解決に近づいた頃、複雑に入り乱れる4人の心はバラバラになり…
そんな中祐介は、悩む真琴を未来ではなく、なぜか過去へと連れて行った。
そこで真琴が出会った幼稚園生の頃の自分…
綾子をいじめるいじめっ子と決闘するため、ひたすらオモチャの剣を振る自分…
そんな自分を見て、「好きな子を守る」という気持ちを思い出す真琴。
その時、祐介がその子の前に飛び出し、「剣の稽古をつけてあげる。」と言い出した!



公園の芝生
(祐介の奴、俺にこんなこと押し付けやがって…)
真琴は、幼稚園児の自分の振り回すオモチャの剣を、
棒切れで受けながら、恨めしそうに祐介を睨んだ。
しかし祐介は、ベンチに座ってニッコリと手を振っている。
幼稚園児真琴は、何度真琴がはね付けても、ひるまず向かってくる。
「もうこの辺でやめようぜ。」
草の上にしりもちを付いた幼い自分に、呆れたように真琴はそう言ったが、
幼稚園児真琴は、キッと真琴を睨み、
「いーや、まだまだ!」
と、再び剣を構え、パンパン真琴の棒を叩く…
(我ながら、偉いといおーか、頑固といおーか、呆れるといおーか…)
「…お前、なんでそこまで頑張るんだ?」
真琴の問いに、幼い真琴は頬を真っ赤にして叫んだ。
「綾子ちゃんが大好きだからに決まってんだろ!!
俺は綾子ちゃんを守るナイトだ!
もっともっと強くなって、いじめっ子をやっつけるんだ!」
「……………」

『真琴くんなんか大嫌い!!』
さっき、綾子に言われた言葉を思い出す真琴。

パーン!少し強めに幼い真琴の剣を跳ね飛ばす…
コロン…ドサッ!芝の上にうつ伏せに倒れた幼い真琴…
「剣なんか強くなっても、好きになんかなってもらえないって…」
真琴の言葉を聞いて、幼い真琴は目にいっぱい涙を浮かべて立ち上がった。
「うそ言うなー!!綾子ちゃんと俺は、コイビトドーシになるんだー!」
ハッとする真琴…と、その時!!!
バキッ!
幼い真琴の剣が、真琴の眉間に入った!

うそ…

ズデーン!気を失って倒れる真琴。
「やったー!!勝ったぞー!!」
「おじいさん!!」 駆け寄る祐介。

…思い出した……

幼い真琴 『いいか、取った物返せよな!』
いじめっ子 『お前が勝ったらな。』
幼い綾子 『真琴くん、がんばってー!!』
幼い桃香 『負けるな真琴ー!!』

そーだった 思い出した
俺 勝ったんだ…

自分の部屋で目を覚ます真琴。
「え?家…?戻った…!?」
ズキッ!「いてーーー!!」
額の痛みは、まだ消えていなかった。
「祐介の奴が、運んでくれたのか?」
真琴が、額に手をやりながら階段を降りていくと、
リビングから、父と母の声が聞こえてきた。
(あれ…母さんと父さん?)
そっと、中の様子を覗く真琴。
「どうしてもっと早く言ってくれないんですか?
相談してくれればいいのに…」
…母は、泣いている。
母に背を向け、椅子に腰掛けている父は言った。
「3年くらい俺一人でやっていけるさ。
それに、この家だってあるんだぞ。真琴だって…」
「そうやって、真琴や家のせいにするつもりなのね…」
「だってそうだろう?お前の大切なものだからな。
それに、せいせいするんじゃないか?俺がいない方が…」
パン!母が、父の頬にビンタ!
廊下で焦る真琴…(まずいっっ、とうとうキレた!?)
「何するんだ!!」
立ち上がる父!
すると母は、毅然としてこう言った。
「私も一緒に行きます!単身赴任なんてさせません!
私は、あなたのそばにいます!」
「む…無茶言うなよ。」
「これ以上離れたら…もう二度と元通りにならないじゃない…!
そんなのいやです!」
「真琴はどうすんだ?」
「真琴も連れて行きます!」
(一体…何ごと…?)
ガラスの扉に顔を押して付けて中を覗いていた真琴に、
母が気が付いた。
「真琴!お願い、真琴。母さんと一緒にイギリスに行って!
お父さんの赴任先に!」
母は、そう言って、真琴にしがみついた。
「い…イギリス〜〜〜〜!?」

夜の公園
「イギリスかぁ…」
ポケットに手を入れて、うつむき加減に歩いてくる真琴。
やがて、大きな木の下で立ち止まる。
そこへやって来た桃香。
「真琴、どうしたの、こんな時間に呼び出して…綾子は?」
「桃香、ごめんな、今日ひどいこと言って…」
真面目な顔でそう言う真琴に、ちょっと頬を赤らめて…
桃香は、ふざけてテレ隠し。
「な…何言ってんのよ、らしくないよ、いきなり…ぶきみ!」
その時、綾子もやって来た。
「桃香ちゃん、真琴くん…」
「綾子ちゃん、来てくれてありがとう。」
「うん…」
幼い頃からずっと親友だった3人が、大きな木の下に集まった。
真琴が、その大きな木を見上げて言った。
「この木さぁ、覚えてる?」
「え?この木…?」
「この木が、どうしたの?」
「幼稚園の時にさあ、明っていう悪ガキがいて、
俺達の大事な物、取ったんだ。」
そう言って真琴は、今度は木の根元に視線を落とした。
「あ…思い出した!綾子にちょっかいばかり出して、
真琴とケンカばかりしてた子だ。」
「あ…ああ、そういえばいたわね…明くん…
この木も思い出したわ…」
「うん、思い出した!この木だったのかあ…
私達が隠したタイムカプセル。」
懐かしそうに微笑む、桃香と綾子。
「そう、俺があんなに頑張って取り返したタイムカプセルだ。
今、掘り返していいかな。」
「ええ、もちろん。」
「掘り返しましょう。」
桃香と綾子の見つめる中、
真琴が、小さなシャベルで木の根元を掘り返す…
しばらくして、姿を現した3人の思い出。
それは、ハートの模様の四角い缶だった。
その中から、それぞれの詰めた思い出の品を取り出す3人。
「おもちゃだ…俺こんなの入れてたのか…」
真琴の手には、車のおもちゃ。
「これ、ママが作ってくれたお人形だわ。
失くして怒られたけど、ここに入れてたのね。」
綾子の手には、手作りのお人形。
「私…戦隊もののカードセット…」
桃香の手には、一束のカード。
「手紙だ…」
封筒を開き、中の手紙を見る真琴。
『あやこちゃんとけっこんしてますように(は〜と)まこと』
覚えたての、たどたどしいひらがなで書かれたその手紙…

『綾子ちゃんが大好きだからだ!』

真琴は、そう叫んだ幼い自分を思い出す…
そして、綾子の方を向き直って言った。
「綾子ちゃん、俺ガキん頃から、ずっと綾子ちゃんが好きだ。」
「真琴くん…」
綾子は、真琴の真剣な眼差しに、ちょっと戸惑ったようだった。
桃香は目をそむけるように、黙って下を向いた…
「……ごめんなさい…私…」
うつむく綾子。
「わかってるよ、綾子ちゃん。それでも俺…
綾子ちゃんが好きだから、言っておきたかったんだ。」
「真琴くん…」
「俺いつか、祐介よりもすっごいカッコいい男になってみせるからさ、
綾子ちゃんを、好きでいてもいいかな。」
真琴の言葉に、頬を赤らめてコクっとうなずく綾子。
真琴は、安心したようにそっと微笑み…
「ありがとう、綾子ちゃん。」
そんな二人を黙って見ていた桃香は、
「なんか大人になったじゃない。」
と、ちょっとふざけて、真琴の肩をポンとたたいた。
「簡単には諦められねぇってわかったからさ。」
「私も…簡単に諦めなくていいよね?」
真琴の顔を覗き込む桃香。
「?…??いいんじゃないか?」
桃香の気持ちには全然気付いていない真琴は、
首をかしげながら、とりあえずそう答えた。
「うん!」
嬉しそうにニッコリ笑う桃香。
「もう一回さ、タイムカプセル埋めようよ。
そして十年後に掘り返すんだ。」 真琴が言った。
「十年後か、誰かと結婚してるかもね。」 と、桃香。
「今度こそ、忘れずにいましょうね。」 と、綾子。
「そしてまた、3人して一緒に掘り返すんだ。
出来る限り続けていこうか、タイムカプセル。」
「そうね。」
並んで、遠くを見つめる3人…
まるで、遠い未来を見つめるかのように…

思い通りにならないのが未来なら…
思い通りに変えられるのも未来なんだ


卵型のタイムカプセルには
『AYAKO MAKOTO MOMOKA』
の文字…

真琴の家
「真琴、真琴、用意は出来たの?」
「ああ、出来てるよ。」
「外に出ててちょうだい。タクシーもうすぐ来ると思うから。」
「は〜い。」
大きなスーツケースを下げて、玄関から出てくる真琴。
今日は、母と二人、父の待つイギリスへ行く日なのだ。
「おじいさん。」
いつの間にか、そこに立っていた祐介。
真琴にそっくりの目で、じっと真琴を見つめる。
「なんか久しぶりだな。もう来ないのかと思ったぜ。」
「いいんですか、このまま行って…
今日が出発だって言ってないんでしょう?
桃香さんと綾子さん、怒りますよ。」
「…………」
真琴は黙ったまま、
ちょうど着いたタクシーのトランクに、スーツケースを詰め…
「いいさ、三年したら会えるんだし…休みになったら戻って来るつもりだしさ。
そん時、怒られるから…それより祐介…」
真琴は祐介の方を振り返り、右手を差し出す。
「お前にとっても、いい"おじいさん”になるからな。
37年後に会おうな。」
微笑む真琴…
そんな真琴の笑顔に、やがて祐介も硬かった表情を崩し、
真琴の手を握って…初めてこう言った。
「とても楽しかったです。
ありがとう…真琴。」
真琴と真琴の母を乗せて走り去るタクシー。
見送る祐介の後ろには、祐介の父(真琴の息子)が…
「父さん…」
「大丈夫だよ、おじいさんの信じるように
生きればいいんだから…」
「そうだね、心配する必要なんかないんだ。
あれもこれも、真琴おじいさんの生きて来た道なんだ。」

タクシーの中
窓の外をぼんやり見ている真琴…
「そうだわ、真琴。
これ、桃香ちゃんと綾子ちゃんから預かってたの。」
母は、二枚の紙を真琴に渡した。
「綾子ちゃんと桃香から?
これは…10年前のタイムカプセルの…」
真琴がそれを開いてみると…!!!
『いつまでも あやこちゃんとまことといたい。ももか』
『ももかちゃん まことくん ずっとだいすき あやこ』
どちらも、たどたどしいひらがなの…愛らしく優しい手紙。
それを見てハッとする真琴。
「真琴?」
「タクシー止めてくれ!!」
キキキキイイ!
真琴は、急ブレーキを掛けたタクシーから飛び降りた。
「ごめん母さん、俺やっぱりイギリス行けない!」
「真琴!」
「新婚に戻ったと思って、二人で仲良くしててくれよなっ。」
「新婚って…真琴ったら…」
あ然とする母…

未来がなんだ!
過去がなんだ!
俺は思ったように
今を生きるんだ!


ふっ切れた…そんな表情で家へ駆け戻る真琴。
そこには、桃香と綾子が…
幼い頃からずっと変わらない、いつもの笑顔で、
真琴を待っていた。

どう生きたって
未来(あした)は未来(あした)だもんなっ



「朝ご飯はきちんと食べなくちゃだめですよ。
片岡さんのご飯おいしいのに。」
真琴の家のダイニングテーブルで…
ニッコリ笑って食事中なのは、祐介とその父(真琴のむすこ)。
そばに立つ片岡(祐介の父の協力者、もちろん未来の人)
「なんで…なんで貴様らがここにいる…」
キレてる真琴…
「しょっちゅーしょっちゅー遊びに来やがってっっ…
いーのかよ、こんなところにいてっっ…」
『真琴、遅ーいっ、早く行くよーっ』
『真琴くーん!』
外から、桃香と綾子が呼んでいる。
「ほら、綾子さんと桃香さんが来ちゃいましたよ。」
「…無視すんな!」
「父さんの無罪が確定するまでですよ。
それまで仲良くしましょうね、おじいさん!(は〜と)』
祐介のウィンクに、ますますキレる真琴…

「おじいさんって呼ぶなーーーー!!」


・・・ STEP:10 終わり ・・・


・・・ STEP ・・・


てくてく…てっ、てっ、てっ…
ベチッ!
「……………」
よちよち歩きのカワイイ男の子、
転んでうつ伏せに倒れたまま、無言…
「おいおい、少しは『んー』とか『ピー』とか泣けよ、真司。」
真司くんを抱き起こし、そのままかたぐるまする男。
zzzzz…
「あらら、こいつ寝てるぜ。」
男の肩の上で、頭にもたれて眠っている真司くん…
「真ちゃんは大物になるんだもんねー」
「そうそう、大発明家だものね。」
男の前を歩く、二人の女が言った。
「ろくな発明じゃねぇーぞぉー」
3人プラス真司くんは、大きな1本の木のところにやって来た。
「あっ、あそこよあそこ。」
「あの木だわ。」
「ここら辺も開発地区だろ?よく残ってたなぁ。」
その時…!
「真琴おじいさーん!」
その声に振り向く3人。それは、10歳大人になった
真琴と桃香と綾子だった。
「祐介さん!」
「ゼイゼイ…すみません、遅くなりました。」
息を切らしてやってきた祐介、
真琴の肩で眠っている真司くんのほっぺをツンツン。
「お父さんは、おねむですかぁ…
むすこの祐介が来ましたよっ。」
「お久しぶりね、祐介さん。」
笑顔の綾子。
「真司が落ちそうよ…真琴。」
慌てる桃香。
「呼んでねぇぞ、お前なんぞ。」
すっかり大人に…そして、真司くんのお父さんになった真琴。
祐介は、10年前に現れたままの姿で…
おそらく、あのタイムマシンに乗って、
この日に合わせてやってきたのだろう。
「今日は10年前に埋めたタイムカプセルを
掘り出す日じゃないですか。
過去から未来へのメッセージを送る、
大切な日なんですから…」
木の根元から現れたタマゴ型のタイムカプセル…
10年分汚れてはいるが、そこにはしっかり
『AYAKO MAKOTO MOMOKA』
の文字が、寄り添うように並んでいた。


・・・ あしたのタマゴ 完 ・・・

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