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●前回のあらすじ

政治的思惑が絡んだ長老の偽りの卦により、是枝ら日本人の抹殺を請け負ったカラトラ族の戦士たち。
元来日本人であるシャン(柊成)だったが、自らがカラトラで生きるために叔父と従姉妹の草乃実を
殺そうとする。だが、抹殺の決意を持って草乃実の前に立ったはずのシャンは、幼い頃日本で暮らし
たことを思い出し、彼女を殺すことはついに出来なかった・・・・




○FINAL



 (タイ領内、潮州シンジケートのアジト。朴(トー)が電話でバーキンに怒鳴っている)
 (ミャンマーでの麻薬横流し計画について話しているようだ)

朴「どういう事だバーキン!!こっちの準備はできてるんだ 今さら中止はきかんぞ!!」
バーキン「その調子じゃ君は知らんね朴」
朴「あぁ!?」
バーキン「ミャンマーのクーデター騒ぎのことさ ごく小さなもので外には出んがね」
朴「クーデター!?」
バーキン「こんな騒ぎのど真ん中では中佐も動けんさ これは軍の『上』にも極秘の計画だったからねえ
製薬会社のほうでも残念だが仕方ないと言ってる なにアメリカの阿片輸入枠が拡大されないかぎり
彼らはまた阿片が欲しいと言ってくるよ」「君にもチャンスはまわせるよ」
朴「冗談じゃない!?今回はわしにとっても賭けなんだ!! こっちだって上には内密で阿片を集めた!
DEAと軍が協力するとあんたが言ったからだ!!」
バーキン「実に気の毒だ」

 プッ(とりつくしまもなく電話を切るバーキン)

朴「ちくしょうあのタヌキめ!!ブッ殺してやる!!ブッ殺・・・・」

 ガシャアアアン(怒り狂い物を壊しまくる朴)

側近「どうしますか カラトラのほうは」
朴「ああっ!?」
側近「日本人ジャーナリストの暗殺を依頼してありますでしょう」
朴「ばかやろう!!それどころか!!こっちのケツに火がついてんだっ!!」
側近「定住地の約束は・・・」
朴「知らん!!」

 (荒れまくる朴の様子を冷静に見ている側近のひとり・馬(マー))

馬「日本人は殺され損ですね」
朴「知るか!!こっちは殺し損なんだ!相殺だろうっ」

 (さらに荒れまくる朴。肩をすくめる側近たち)


 (一方、カラトラ族に追われる日本人たち)
 (石川と目加田、彼らを案内してきたトマ族のノ・ニーが川沿いに集まっている)
 (はぐれた是枝を待っているのだ)

ノ・ニー「あと2分だな」
石川「ノ・ニー!頼むよ是枝さんが来るまで待ってくれ!!」
目加田「おまえ死にたいのかよっ!!もう待ったって無駄だっ!!」
石川「あんたそれでも・・・・」
目加田「ノ・ニー!!何やってんだよ 早く船を出せ! ノ・ニー!!」
ノ・ニー「しッ!」

ガサササ (静かに森のほうを見るノ・ニー)

ノ・ニー「どうやら 目加田の考えは当たったね」

 (森から出てきたのはカラトラの戦士のひとりタイ)

タイ「動くな そこへ並べ」
目加田「うっうわあああっ!!だから言ったんだァッ おれが言ったとおりだーーーッ!!」
ノ・ニー「タイ・ミ・ラン!聞け!!」

 (何とかタイを説得しようとするノ・ニー)

ノ・ニー「彼らは華(ホァ)とトマ軍の客人だ!!我々との協力関係を反古にする気か!」
タイ「おれは精霊の仕事をするだけだ それにもう後にはひけない 日本人親娘はすでに始末した」
石川「何だ!?彼は何と言った!?」
タイ「後ろを向いて並べ!!」
ノ・ニー「ま・・・・・・・・」
?「待て!!タイ・ミ・ラン!!」

 (と、声がして現れたのはカラトラの戦士のひとりソン・ツーだった)

ソン「彼の話は聞いたほうがいい」
タイ「ソン・ツー!?」
ソン「まだ間に合う まだ誰も殺してないからな」

 (そういうソン・ツーの後ろから現れたのは是枝)

石川「是枝さん!!」
タイ「ソン・ツーきさま!!」
ソン「長老はウソをついてる」
タイ「・・・・・・・・!」
ソン「おれにはわかる あの苦々しい顔」

 (あまりのことに唖然とするタイ)

ソン「それに精霊の卦を伝える場にト・カンパがいた 変じゃないか あの場に族長が同席するなんて
ト・カンパは不安だったんだ おれたちに長老が本当に命令するかどうか だから儀礼を破って
同席したんだ」
ノ・ニー「ありえるぞ!!ト・カンパは定住地を欲しがってた!!朴がそれを持ち出せば彼は折れる!
占いがどう出ようとこの仕事を受けたかったんだ!!」
タイ「それが真実なら 長老も族長も村から追放だ・・・・・!!」

 (激しい怒りを隠せないタイ)

タイ「ソン・ツー!!おまえ同様シャンも長老を疑っていたというのか!?」
ソン「違うな 奴の性格から殺せないと考えただけだ」

 (タイとは対照的にあくまで冷静なソン・ツー)

ソン「おれはまず彼らに話を聞きたかった だが彼らは逃げた仕方なく追った おまえはおれの言葉を
聞こうともしないしな」
タイ「そんな事はもういい!おれには政治はわからん 『仕事』は長が選び精霊に許しを得て兵はそれに従う
それでいい 今おれの最大の関心はシャンだ!!奴が女を殺していなければそれは妹と部族への裏切りだ!!
おれは家長として妹の恥を濯がねばならん!!」
ソン「タイ!!」

 (ソン・ツーの言葉に応えず森に走っていくタイ)

是枝「な・・・・何だ!?どうなった!」
ノ・ニー「タイは『仕事』をやめたが今度はシャンに怒っている」
是枝「え!?」
ノ・ニー「妹を裏切ったと これは血を見るかもしれない」
是枝「ソン・ツー!」
ソン「村へ戻って長老に知らせよう ああなったら止められるのは長老だけだ」
是枝「君は実に冷静だ助かるよ・・・・・!」
ソン「ト・カンパは賢いが 自分が思うほど賢くはない いつか墓穴をほると思ってた」

 (そういって歩き始めるソン・ツー。その後をついていこうとする是枝)

目加田「お・・・・・おい行く気か!!」
石川「是枝さん!」
是枝「大丈夫だ 彼は信用できる」(柊成・・・・・! 草乃実を頼むぞ・・・・・!)



 (そのころ川原にたたずむシャンと草乃実)

シャン「草乃実ここで待ってろ 迎えに来るまで動くなよ」
草乃実「うん・・・・・・・!」「どこ行くの!?」
シャン「叔父サンを捜してくる たぶんまだ生きてる」
草乃実「ホ・・・・・ホントっ!!」
シャン「ソン・ツーには殺気がなかった 殺してないと思う」

 (ふと顔が曇るシャン)

シャン「・・・・オレは叔父サンにイジワルしてた」
草乃実「へ?」
シャン「パパが死ぬまで繰り返し言ってたのは 二人に裏切られたって恨み言だ」
草乃実「う・・・・・そおおっ!!」
シャン「安心しろ 気持ちのうえでだ ママも叔父サンも裏切るにはマジメすぎた それが余計に腹立たしい
としつこく言っていた」

 (シャンの語る事実に驚きまくる草乃実)

シャン「オレのパパは負け犬だ 女にフラれたぐらいの事で生きる気力を失い 家族をも捨てたクズだ」
草乃実「しゅーちゃんっ!! そんな言い方あんまりだよーー 伯父さんがかわいそうじゃないっ!!」
シャン「・・・・・・叔父サンを見てわかった パパより叔父サンを好きになったママを責められない
叔父サンは優しい人だ そして家族のために命を投げ出せる立派な家長だ」
「だけど クズでも負け犬でもオレのパパだから 叔父サンがちょっとだけ憎らしかったんだ」

 (そういって自分の首飾りに手をかけるシャン)

シャン「草乃実これをやる これは『家族の守り』」

 (首から外した飾りを草乃実につけてやるシャン)

シャン「家族が戦地に行く者の無事を祈り作る オレには家族がいなかったからノゥ・ミァンが兄のと同じ物
を作ってくれた」
草乃実「えーーーーっ そんな大事な物もらえないよぉ せっかくノゥ・ミァンがァ」
シャン「いいんだ オレがもう持っていてはいけない 返すのも捨てるのももっといけない だから オレの
『家族』であるおまえが持っててくれ」
草乃実「しゅーちゃん はっ じゃあくてェ シャン! つっついさあ」

 (昔の愛称でシャンを呼ぶ草乃実。これはカラトラ語で『臆病者』を意味し侮辱となるだが・・・)

シャン「『しゅーちゃん』でいい」
草乃実「えっ」
シャン「『臆病者(シューチャン)』もイヤじゃなくなった」
草乃実「・・・・・・しゅーちゃん」

 (草乃実を川岸に残し森に入るシャン)


シャン(血の跡はない 殺してはいないとしても ソン・ツーは叔父サンをどこへ・・・・)

 どっ!(と、その時、どこからか山刀が飛んでくる。咄嗟に避けるシャン)

タイ「やはりここに来たかシャン・パ・ルー!! 結局カラトラにはなれなかったか!!」

 (木に刺さった山刀を無言で抜きタイに投げ返すシャン。それを受け取るタイ)

シャン「タイやめよう 無駄な事だ」
タイ「何!?」
シャン「おれは『仕事』をやめた『戦士』の資格もない このまま村を出るつもりだ ノゥ・ミァンは恥を
かく事もなく婚約を解消できる」
タイ「妹の事だけではない!! いつもいつも目をかけてやった 他部族の者だが見所のある奴と思えば
こそだ! それを自分の部族が現れただけでこうも簡単に裏切るとはな!!」
「おまえの・・・・・っ カラトラでの11年とは何だったのだ!!」

 (激昂するタイに対してシャンは・・・・・)

シャン「おまえにもノゥ・ミァンにも感謝している 裏切ったつもりもないだが おれに今できるのが
おまえに応える事だけなら」
タイ「闘え!! 魔精霊(イン・サーラ)と一体となって!!」

 (戦士の証である髪飾りをとるタイ。それは命を懸けた決闘の合図である)

シャン「受ける!」

 (タイの言葉に自らも髪飾りを外すシャン。今ここにカラトラの戦士たちの決闘が始まった)
 (山刀を振るうタイに対し、素手で抑えようとするシャン)

タイ「シャン・・・・・ッ 抜けッ! 真剣に立ち会え!!」

 (激しい格闘の末、ついにシャンが山刀を抜く)

クシュッ!(シャンの山刀はタイの脇腹に命中した)

タイ「が・・・・・・・」

 (膝をつくタイ。さらに追い討ちをかけようとするシャンだが・・・・)

タイ「待て!! 負けた・・・・・・」
シャン「ハッ ハアッ」

 (息を荒げるシャン)

タイ「このおれが・・・・・・おまえの血肉となるため死ぬ事になるとはな ノゥ・ミァンに伝えろ
『一人で生きていけ』」
シャン「うん」

 ヒュッ(山刀を振るい、タイの頚動脈を断ち切るシャン)

シャン「タイ・・・・・・・・・!!」

 (息絶えたタイに触れるシャン。と、その時・・・)

?「ヒッ」
ソン「シャン!! ああ・・・・・遅かったか・・・・・!」

 (そこに来たのはソン・ツーを先頭に、ノゥ・ミァン、ト・カンパ、長老、ノ・ニー、是枝)

ノゥ・ミァン「あ・・・・ああ いやいや・・・・ッ ああああああああ」

 (兄の死に激しく動揺するノゥ・ミァン)

ノゥ・ミァン「うわあああああああああッ あああああああどうしてーーーーーーっ」
どうして殺したのなぜよーッ 言ってよシャン 言ってーーッ」
シャン「『一人で生きていけ』タイからおまえに」「おまえはおれを殺していい その権利がある」
ノゥ・ミァン「うっ・・・・わーーーーーーああああああああああっ」
ソン「ノゥ・ミァン 『戦士』の闘いを汚すような事を言ってはいけない タイは誇り高く死んだのだ」

(激しく泣き叫ぶノゥ・ミァン。彼女を慰めるソン・ツー)

長老「シャン おまえは村を出るつもりだったろう あの娘を殺せなかったその時から」

 (シャンに手を触れる長老)

長老「もとはといえば偽りの卦を伝えたわしの間違いからおこった わしにもすでにシャーマンの資格はない
おまえと共に『はぐれ鳥』となり村を出よう」

 (その言葉に反応するト・カンパ)

ト・カンパ「お父さん何を・・・・・・!!」
長老「おまえは残り長老となれ この間違いを肝に銘じ部族につくせ」
ソン「もう二度と華僑どうしの権力闘争にまきこまれたりしてはいけない それでいいなノ・ニー」
ノ・ニー「朴の裏切りを華に伝える。カラトラは華に恩を売れるよ」
ト・カンパ「お父さんっ!!村を出るなんて無茶だ 体だってよくないのに政府軍にでもつかまったらっ!!
どうしてもと言うなら私も・・・・・」
長老「おまえがいなくて誰がカラトラをまとめる!!しゃんとせんかっ!!」
ト・カンパ「お父さん・・・・・・っ!!」

 (泣きそうな顔のト・カンパを毅然と叱咤する長老)

是枝「柊成・・・・・・・っ」
シャン「叔父サン この河を少し上流にさかのぼった大きな岩の下 そこに草乃実が待ってる 迎えに行って
やってくれ」
是枝「おまえは・・・・!?」
シャン「長老は年寄りだから一人じゃ危ない タイのために祈ってやらなきゃならないし 一緒に行くよ」
是枝「帰らないのか!! おまえの本当の国へ!!」
シャン「叔父サン オレ ホントは・・・・・迎えに来てくれてうれしかったんだ」
是枝「柊・・・・・」

 (長老を支え森の中に消えていくシャン。その様子をみるしかない人々)

是枝(止められない・・・・この子は子供じゃない 自分の人生の方向を自分で決められる大人の男なのだ
とても 止められるものじゃなかった)



「そう言って ずいぶん後だけど パパはため息をついてた」
「私はってゆーと」

 (森の中で再会する是枝と草乃実。そのまま倒れてしまう)

「パパの顔を見たらホッとしていきなり高熱を出しちゃって」
「気がついたらバンコクで入院中だったなんてマヌケぶり」
「日本に帰ってくるとまるで夢みたいで ウソみたいに平和で」
「でも夢みたいじゃすまされないのっ 絶対絶対もう一度いかなきゃっ!!」
「だって あのジャングルで今も柊ちゃんは生きてるんだもんっ」



 (ジャングルの道無き道をかきわけつつ進むシャンと長老。一休みして長老が腰を下ろしている)

長老「どうだったね」
シャン「大丈夫だ政府軍はいない 駐屯地を変えたらしい」
長老「では明日あの頂に登れるな 早くタイのために祈ってやらんとならん」
シャン「あの聖地でならタイは 早く次の生を受けられる?」
長老「ああ それが終わればわしの命も消えるだろう」
シャン「長老・・・・・・・」
長老「その後はおまえは一人で飛んで行け」
シャン「どこへ」
長老「おまえの生きるべき場所へ おまえの部族の元へ」
シャン「・・・・・・帰らない おれの生きる場はここだ」
長老「帰る それが運命だ 精霊の言葉を疑ってはいけない」

 (そういいつつシャンに手を差し伸べる長老)

長老「おまえは『暁(シャン)』を名に頂く者 そこからいつかこの地へ帰り暁をもたらすだろう」
シャン「精霊がそう言った?」
長老「さあ・・・・・・・・行こうか」

 (杖をついて立ち上がる長老)

長老「次の運命が動く時まで 共にはぐれて飛んでいよう」

 (差し込む光の中どこか誇らしげなシャン)

長老「おまえの宿り木が 再び見つかるその日まで」

 (二人の前には果てしない木々が広がっている・・・・・・・)

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