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●前回のあらすじ

今までのわだかまりを捨て、観鈴と本当の親子になることを決意した晴子。
だがその矢先、病状の悪化した観鈴は、記憶を失い歩くこともできなくなってしまった。

そんな彼女を晴子から引き取ろうとする敬介は、三日の期限付きで二人の最後の日々を許す。

そして約束の三日目、観鈴は実の父親である敬介ではなく、晴子とともに居ることを選ぶのだった・・・・




  (ベッドに入っている観鈴に話しかける晴子)

晴子「考えてみると、これまでのこと、みんなうちがあんたのホンマの母親になるための試練やった気がするわ」
  「あんたの足が動かんのも、記憶失うてしもたんも、すべて最初におうた日からやり直すための試練やったって」
観鈴「ママ・・・うっくっ!」

  (突然苦しみだす観鈴)

晴子「!観鈴!! 観鈴しっかりしい!! どこが痛いんや!? お母さんがさすったるで!」
観鈴「痛い!痛いよ!ママ!」
晴子「ここか?! ここが痛いんか?!」

  (言いながら観鈴の背中をさする晴子)

観鈴「ちがう・・・」
晴子「足か?! 手か?!」
観鈴「つ・・翼・・!」
晴子「!」
観鈴「翼が・・・痛い・・・」
晴子「・・・・・・」

  (観鈴の背中をさすっていた手を離す晴子)

晴子「・・!」

  (かつての往人の言葉を思い出す晴子)


往人(そのうち、観鈴は忘れていく。俺のことも、あんたのこともな。そして、最後の夢を見終った時、たぶん観鈴は死んでしまう)


晴子「嘘やろ? 眠ってしもうたら・・・夢見てしもうたら、この子・・・・」
  「観鈴! 夏祭り行くんやろ!? お母さんといっしょに夏祭り行くんやろ!?」
観鈴「お祭り行きたい・・・・恐竜の赤ちゃん欲しいな・・・」
晴子「ヒヨコのことやろ。きっと屋台でてるで」
観鈴「恐竜さん飼ってもいい・・・?」
晴子「美味しいもん食べよ! 明日は二人で最高に楽しい日にしよう!」「せやから元気になってや・・・観鈴!!」

  (ベッドに横たわる観鈴にすがる晴子)



  (夜が明け朝日がさしこむ神尾の家。ベッドで寝ている観鈴と壁にもたれている晴子。ベッドにはそらがとまっている)

晴子「観鈴、朝やで。夏祭りの日やで・・」
観鈴「ふう、お祭り・・・」

  (立ち上がってカーテンを開ける晴子)

  ザーザーザー(外は雨だった。表情を曇らせる晴子)




●最終話 そ ら −air−




  スザザザザ!!(容赦ない大雨により海は荒れている)

  (そんな雨の中、バイクに乗ってひた走る晴子。後部座席には観鈴とそらが乗っている)

晴子(神様、お願いや・・・何とかしたって、お姉ちゃん!)
そら「クワッ!クワッ!」


  (祭りがあるはずの神社にたどり着いた晴子たち。だが・・・)

晴子(うち、アホや・・・やってるわけあらへんのに・・・・)(奇跡なんか起こらへん・・・神様なんておるわけないのに・・・!)

  (雨の降り続く天を仰ぎ、絶叫する晴子)

晴子「この子が何悪いことしたいうねん!! ごっつええ子に待ってたやないか!! 夏祭り楽しみにしてたんやないか!!」
  「なんで報われへんねん・・?!!」


  (神社の境内に座り込む晴子と観鈴)

晴子「あの時といっしょや・・・・結局うちは、あんたに何もあげられへんのやなあ・・・」

  (十年前の夏祭りを思い出す晴子。ひよこを欲しがった観鈴だが、買ってやれなかった・・・・)

観鈴「ママ・・・・恐竜の赤ちゃんは・・・・?」
晴子「・・・・・・」

  (何も言わない晴子。と、その時)

そら「クワックワックワッ!」

  (そらがなぜか騒ぐ。立ち上がった晴子が境内の賽銭箱の上を見てみると・・・・)

晴子「・・・?!」

  (そこには恐竜のぬいぐるみがおいてあった)

晴子「なんでや? なんで、こんなとこにあるんや・・?」「捨てたのに・・・・」

  (観鈴への誕生日プレゼントだったが、渡さずに捨ててしまったはずのものである・・・・)

晴子「ずーっと待っててくれたんやな・・・」
そら「・・・・・・」
 
  (じっと恐竜を見つめているそら)

晴子「観鈴、観鈴、起きるんや」

  (観鈴を立たせる晴子)

観鈴「何ママ?」
晴子「恐竜さんいてるで、あそこに!」
観鈴「はあ〜」
晴子「いっしょに取りにいこう! なっ!」

晴子「ほら・・頑張って・・」
観鈴「うん」
晴子「お母さんも手伝うたるから」

  (観鈴の体を支え、恐竜を取らせようとする晴子)

晴子「これは二人の幸せな思い出や。大事に二人で育てていこう」
観鈴「ーーもう疲れた。眠い・・・」

  (力が抜けてしまう観鈴)

晴子「あかん! お母さんといっしょに頑張ろう! あんたの友達もここにいてるで!」
そら「クワ〜!」
晴子「みんないっしょや、みんなでしあわせになろう!」
観鈴「うん・・」

  (ふたたび晴子に支えられ体を伸ばす観鈴)

晴子「もうちょいや、届くでうちらの幸せに・・!」
観鈴「うんんん」

  (精一杯の力を込めた観鈴の両手はついに恐竜へ届く)

晴子「ほら・・・つかまえた・・!」
観鈴「やったあ・・」
そら「クワッ!」

  (つかまえた恐竜を抱いている観鈴。支える晴子)

晴子「うちからの誕生日プレゼントや・・・出会った日ぃからずっとあげられへんかったけど、受け取ってくれるか?」
観鈴「うん、うれしい・・」
晴子「そうか! よかったなあ、観鈴・・・」
観鈴「かわいい、にゃははは」
晴子「”がお〜っ!”って!」
観鈴「がお〜」
晴子「神様、感謝や・・・」

  (いまだ雨のあがらぬ空を見る晴子)



  (夜、家に戻った二人と一羽。ベッドに座る観鈴は、顔を伏せている晴子に気がつく)

観鈴「お母さん・・・」
そら「クワッ?」
観鈴「ずっと寝てないんだよね? 私のために・・・」

  ガタッ(物音がして晴子が目を覚ます)

晴子「・・! ああ、いかん。今寝てたなうち、堪忍や」
観鈴「ううん、寝よう。わたし、お母さんといっしょに寝たいな」

  (その言葉に頭を抱える晴子)

晴子「どないしたらええんや? あんたは寝て夢を見たら痛みがひどなるやろ?」
観鈴「ううん、もう痛くない」
晴子「えっ?」
観鈴「痛くないの・・・さっきからずうっと・・どうしてかな?」
晴子「ほんまか? ほんまに、いたないんか?」
観鈴「うん。だから寝たい。いっぱい寝てもっと元気になる」
晴子「そうか。よかったあ〜! ほんまによかったなあ観鈴! あんた、頑張ってたもんなあ! 報われたんやなあ観鈴!」
観鈴「にゃははは」

  (喜ぶ晴子の様子に笑顔を浮かべる観鈴)


  (電気が消され、真っ暗な神尾家。だらしない格好で晴子が寝ている)

晴子「観鈴〜あかん〜、それカリントウちゃうで〜〜食べたらあかん〜〜〜」

  (寝言を言っている晴子の隣のベッドで寝ていた観鈴。ふと起き上がり・・・)

観鈴(ごめんねお母さん、ウソついて。そうしないと休んでくれそうになかったから・・・)
  「うっ!・・・往人さん・・・・」

  (苦しむ観鈴。机のほうに向かう)

観鈴「絵日記かこうっと・・・・」

  (机に向い絵日記を描く観鈴)


  (翌朝。飛び起きる晴子)

晴子「!! 観鈴?」

  (ベッドには観鈴の姿が無く、机に顔を伏せていた)

晴子「!!」

  (慌てて机に駆け寄る晴子)

観鈴「わたし寝てた・・・」
晴子「体、痛ないか? うちのこと、覚えてるか?」
観鈴「お母さん、おはよう!」
晴子「はあ〜」

  (元気な観鈴の様子に安堵する晴子。窓を開けるとよい天気だ)

晴子「よう晴れたなあ。台風一過ちゅうやっちゃなあ」
観鈴「お母さん、わたしゆうべも夢見たよ」
晴子「夢? あんた、夢見たら具合悪なるんや・・?」
観鈴「だいじょうぶ。どこも痛くないから。それにね、わたしの夢は今日で終わり」
晴子「ほんまか? ほんまになんともないんやなあ? どこも痛なったりしてないんやなあ?」
観鈴「平気。ブイ!」

  (元気な様子でVサインを出す観鈴)

晴子「そうか。居候が最後の夢見てしもうたらなんちゃら言うてたけど、ありゃ間違いやったんやなあ」

  (観鈴に抱きついて涙を流す晴子)

晴子「うち、不安やった。まるで長い悪夢見とったような日々やった。でもやっと終わったんやなあ!」
観鈴「お母さん・・・・」
晴子「ははっ! 観鈴にもう泣くな言われへん。うちも泣き虫さんや」
観鈴「泣いたらあかんよう」
晴子「そうやなあ! 悲しいことなんも無いのに泣いたらあかんなあ!」

  (朗らかに笑いあう晴子と観鈴。その様子をじっと見ているそら)


  (神尾家の居間。縁側で晴子が観鈴の髪を整えている)

観鈴「ゆうべの夢はね、羽のある恐竜さんの夢。気持ちよさそうにね『がお〜っ!』て飛んでた」
晴子「そうか?」
観鈴「そのもっと上をわたしが飛んでるの。私、肩から後ろを見てた。翼があったの。真っ白な翼で、わたし空を飛んでた」
晴子「そうか? ええ夢見たなあ」
観鈴「ううん、悲しい夢だった・・・・世界で一番悲しい夢・・・・」

  (晴子と朝ご飯を食べる観鈴)

観鈴「でもね、これが私の夢の終わり」

  (洗濯物を干している晴子。それを縁側で座って見ている観鈴)

観鈴「これからは、お母さんのそばにいるの。いつまでも、すっと・・・・・」

  (顔を見上げる観鈴。青い空の向こうに白い鳥が飛んでいる・・・・・)



  (暑い日差しの中、車椅子に乗った観鈴(およびそら)は晴子に連れられて散歩に)

晴子「う〜ん、ごっつ気持ちええなあ」
観鈴「うん、ごっつ気持ちいいねえ」
晴子「夏の匂いがするわ」
観鈴「うん、する」
晴子「どんな匂いがする?」
観鈴「潮の匂い」
晴子「せやなあ、するなあ」
観鈴「お日様の匂い」
晴子「せやなあ、それもするなあ」
観鈴「お母さんの匂い」
晴子「せやなあ、それもするなあ・・・って! 自分の匂いぷんぷんしてたら嫌やん!」
観鈴「いっぱいするよ、お母さんの匂い」
晴子「ほんまかいな?」
観鈴「うん。この夏はお母さんの匂いたくさんした。大好きなお母さんの匂い」
晴子「はっ、それ臭かったらたまらんなあ!」
観鈴「たまらんねえ。でも、いい匂いだった」
晴子「そうか・・・よかったわ」
観鈴「うん。よかった」

  (膝の上に恐竜のぬいぐるみを乗せた観鈴。二人は道を曲がる)

観鈴「暑いねえ」
晴子「せやなあ。暑いなあ」

  (観鈴の視線が動く。何かを見つけたようだ)

晴子「なあ、観鈴。あんたの考えてることあてたろか?」
観鈴「うん」
晴子「『ジュース、飲みたいな』」
観鈴「当たり、すごいね」
晴子「誰かて当てられるわあ」

  (自動販売機の前で止まる二人)

観鈴「わたしこれ」

  (観鈴が指差したのは、例によって”どろり濃厚ピーチ味”)

晴子「またこれかいなあ。あんたほんまにこれ好きやなあ」
観鈴「にゃははは」

  (言いながら件のジュースを買う晴子)

晴子「うちは何にしようっと・・・・」
観鈴「その”ゲルルンジュース”ってのがおすすめ」
晴子「ほんまかいな?」

  (観鈴に言われ買ってみる晴子。飲んでみるが・・・)

晴子「!!!」

  (”どろり濃厚ゲルルンジュース”を飲もうと顔を紅くして悪戦苦闘する晴子)

晴子「ぷはあっ!! ”どろり”っつうか固いで! こんなジュースいるか〜〜〜!!」
観鈴「捨てたらダメ。これはね、ギュッギュッてして飲むの」
晴子「こうか?」

  (観鈴に教えられたとおりに飲んでみる晴子)

晴子「まあ・・・まずくはあらへんけど・・・」

  (浮かない表情の晴子と対照的に、おいしそうな様子でピーチ味を飲む観鈴)

観鈴「夏休みだね」
晴子「二人っきりいの夏休みやなあ。でもええもんな、二人で遊ぶもんなあ」
観鈴「・・・ねえ、お母さん。ちょっと先に行ってて欲しい」
晴子「なんでや? なんかあるんか?」
観鈴「うん。そらも連れてって」



  (なんだか分からないまま、そらといっしょに観鈴から離れたところに立つ晴子)

晴子「このくらいでええのー?」
観鈴「うん。そこで待っててー」

  (車椅子から立ち上がろうとする観鈴だが、座り込んでしまう)

そら「クワー!クワー!」
晴子「!無理すなや!」

  (かけよろうとする晴子だが観鈴に止められる)

観鈴「お母さんはそこで立ってて!」
晴子「えっ?」
観鈴「何があっても来たらだめだよう。ひとりで頑張るの。頑張ってそこまで歩いてみる。お母さんが、ゴールだから」
晴子「そうか・・うちゴールか・・・」

  (後ろに下がる晴子。車椅子から立ち上がった観鈴が歩いていこうとする)

観鈴「うん。そらといっしょにゴール」
晴子「ゆっくりでええで。なんぼでも待ったる」
観鈴「うん」
晴子「大丈夫か?」
観鈴「うん。ブイ!」

  (ゆっくりと歩き、Vサインを出す観鈴)

晴子「ブイ!・・・・・観鈴ここや、うちここやで!」

  (Vサインを返す晴子。手を叩いて観鈴を呼ぶ)

晴子「そうや、ゆっくりでええ。こうして頑張っていけばきっと元気になれる。いっしょに頑張っていこうな? 観鈴!」

  (明るく声をかける晴子。歩いていた観鈴が立ち止まる)

観鈴「もう・・・いいよね?」
晴子「? 何がや?」
観鈴「わたし、頑張ったよね? もう、ゴールしていいよね?」
晴子「もう疲れたんか? よしーゴールしたら家帰ってトランプでもして遊ぼう」
観鈴「ううん。私のゴール。ずっと目指してきたゴール・・・・」
晴子「へ・・・?」
観鈴「わたし・・・頑張ったから・・・もういいよね・・?」
晴子「!?」
観鈴「休んでも・・・いいよね・・・? うっ!!」

  (痛みで崩れかける観鈴)

晴子「あんたまさか痛いんか? ほんまは痛かったんか?」
観鈴「動いちゃダメ!」

  (駆け寄ろうとする晴子だが観鈴に止められる)

観鈴「・・・・・! にゅふふふふ」

  (痛みをこらえ笑顔を見せる観鈴)

晴子「嘘や・・・嘘やいうてや・・・・これからはあんた元気になっていくんやろ? 悪い夢は終わったはずやろ!?」
観鈴「ごめんね、お母さん。でもわたしは、全部やり終えることができたから・・・だから・・・ゴールするね?」

  (ゆっくりと歩いていく観鈴)

晴子「あかん、観鈴。来たらあかん! ゴールしたらあかん! 始まったばっかりやんか! 昨日やっとスタート切れたんやないか!?」

  (夕日の中、幼い観鈴が晴子を追ういつかの様子)

晴子「取り戻していくんや! 十年前に始まってたはずの幸せな暮らし、これから観鈴と取り戻していくんや!」

  (走って転んだ幼い観鈴。でもすぐに起き上がって笑顔を見せる)
 
晴子「うちらの幸せは始まったばっかりやんか!!」
観鈴「ううん。全部した。もう十分なくらい。この夏に一生分の楽しさがつまってた・・・・」
晴子「あかん! ちがう! うちたくさんしたいことあるんや! 大好きな観鈴とたくさんしたいことあるんや!!」
  「全部これからなんや!!!」
観鈴「もういちどだけ、頑張ろうって決めたこの夏休み・・・往人さんと出会ったあの日から始まった夏休み・・・」

  (往人と楽しそうな様子で遊ぶ観鈴の姿)

観鈴「いろんなことがあったけど・・・辛かったり・・・苦しかったりしたけど・・・わたし、頑張ってよかった!」
  「わたしのゴールは幸せといっしょだったから、ひとりきりじゃなかったから・・・だから・・だからね・・・」
  「もう、ゴールするね?」
晴子「あかん! これからや! これからや言うてるやろう!!」

  (晴子の元へたどり着いた観鈴。ゆっくりと体を預ける)





観鈴「ゴール!」






  (晴子に支えられている観鈴)

観鈴「やっとたどり着いた・・・・すうっと探してた場所・・・・幸せの場所・・・・ずっと・・・幸せの場所・・・・」
晴子「いやや!! そんなんいやや!!!」

  (大粒の涙を流す晴子。そんな様子を見ながら笑みを浮かべて両目を閉じる観鈴・・・)

観鈴「お母さん・・・・・・ありがとう・・・・・・」
晴子「観鈴ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



  (夏祭りに来ている幼い観鈴)

晴子「あんたに何もかも教えてもらったんやないか!」

  (ひよこを欲しがる幼い観鈴)

晴子「ひとりっきりやない生き方!」

  (観鈴の後ろから現れる晴子)

晴子「おいていかんといて! うちをひとりにせんといて!」
  「ほかには何にもいらんから! 友達もいらん、新しい服も贅沢も何もせんでええ!」

  (ヒヨコを買って帰る観鈴と晴子)

晴子「ただ、あんたとおれたらそれでええんや!」

  (ダンボールから出してきた真っ赤なランドセルをしょってはしゃぐ観鈴。名前欄には”神尾晴子”とある)

晴子「ずっと神尾の家で仲よう暮らそう? なあ・・・観鈴・・・観鈴ーーーーーーーーー!!!」

  (海辺の砂浜を歩いていく晴子と観鈴・・・・)





  (日差しの強い日。神尾の家で晴子と敬介が話している)

晴子「あの日からうち、泣いて泣きまくってすごした。もう流す涙も尽きたわ」
敬介「ああ・・・・」
晴子「すごかったんやな家族って・・・」

  (晴子の言葉を表すかのように、霧島家の人々や旅する美凪など、人々の姿が見える)

晴子「この上ない幸せとこの上ない辛さ・・・全てがそこにある。それはまさしく人が生きるということや」

晴子「せやからうちは生きとった。あの子と二人で生きとった。がむしゃらで、ボロボロで、強くて、弱かった」
  
晴子「何言うてるかわからんようになってきたなあ」


  (堤防に立つ晴子と敬介。佳乃が手を振っているのに振り返す晴子)

敬介「いや・・わかるよ・・・・痛いくらいに・・・・」
晴子「せやなあ・・・あんたやったらわかるわなあ・・・うちら大人やもんなあ」

  (堤防に腰を下ろす晴子)

晴子「うちな、もう自信あるんや。うちはあの子の母親なんやて。立派と違うかもしれへんけど・・・あの子の母親なんや・・・・」
  「うち、今までの仕事やめて、近所の保育所に勤めることにしたんや」

  (保育所で遊ぶ子供たちの姿が見える)

晴子「これからはいろんな家族に囲まれて生きていきたい。そう思うてるんや」



  (車に乗りこもうとしている敬介。堤防の上からそれを見ている晴子)

晴子「そのうち、そっちにも遊びに行くわ」
敬介「そうだね。待ってるよ」
  (夏の終わり・・・・僕の休暇も終わりだ・・・・)

  (空を見上げて思いをめぐらす敬介)



  (神尾家の観鈴の部屋。主のいなくなった部屋の机には日記がおかれている)
  (そこには、楽しそうな観鈴と晴子の絵が描かれていた・・・・)



  (敬介を見送った晴子。ふと隣を見るとカラスがいる)

晴子「? あんたそらか? ずいぶん大きなったなあ」「いやあ、別のカラスか? ようわからん」
  「でも、もしあんたがそらやったら、うち叱ったらなあかんなあ」
  「『あんた今もこんなところにいてるんか? もうあの子はいてないんやでーーー』って!」

  (分かっているのかいないのか、話を聞いているようなカラス)

晴子「あんたはいかなあかんで。あんたには翼があるんやから」

  (言いながら手を天に掲げる晴子)

晴子「空はずうっと届かん場所や! うちら翼の無い人にとっては」「せやから、あんたは飛ぶんや! 翼の無いうちらの代わりに!」
  「人の夢とか願い、ぜーーんぶこの空に返してや!! 頼むで!!!」

  (さらに大きく手を掲げる晴子)

晴子「そうずればうちらはきっと穏やかに生きていける。そんな気がするんや!」

  (そう言ってそらを見つめる晴子)

晴子「またいつか、会えたらええな。ほな、元気でやりや!!」

  (堤防から降り、歩いていく晴子。カラスだけが残っている)

カラス(そしていつしか、僕は空を見ていた。いつだって悲しみの色をたたえていた空。限りなくどこまでも続く青)
   (その無限へと還ってしまった少女。今もひとりきりでいる少女)
   (だから僕は、彼女を探し続ける旅に出る!)

  (大きく翼を広げはばたくカラスは大空に飛び立つ)

カラス(そしていつの日か、彼女をつれてかえる。新しい始まりを迎えるために!)

  (カラスはどこまでも、高く高く果てしない空を目指していく・・・・・・)




  (宇宙。星々が流れる世界)

「我が子よ・・・・よくお聞きなさい。これからあなたに話すことはとても大切なこと・・・」

「私たちがここからはじめる、親から子へと、絶え間なく伝えてゆく、長い長い旅のお話なのですよ」

「私たちは星の記憶を継いでいく。この星で起こる全ての事象を見聞き、母から子へと受け渡していく」

「星の記憶は、永遠に幸せでなければなりません」

「憎しみや争いで空が多いつくされた時、この星は嘆き哀しみ、全ては無に帰すでしょう」

「いつの日か、滅びの時を迎えること。それも避けようの無い結末」

「けれど最後は、星の記憶を担う最後の子には、どうか幸せな記憶を・・・・・」

  (不思議な声と共に現われるのは地球に生きるあらゆる生命の姿。そして、翼を生やした少女・・・)




  (夕焼けで紅く染まった海辺の砂浜。男の子と女の子がいる)

男の子「・・・・・」
女の子「どうしたの?」
男の子「なんでもないんだ。ちょっと昔のことを思い出していた・・・」

  (遊びを止めて立っている男の子の様子を不思議がる女の子)

男の子「もうすぐ日が暮れるね・・」
女の子「そうだね」
男の子「その前に、確かめに行こうか」
女の子「何を?」
男の子「君がずっと確かめたかったこと。この海岸線の向こうに何があるのか」
女の子「わたしそんなこと言ったっけ?」
男の子「言ってないかもしれない。でも、そう思っているような気がしたんだ」
女の子「そうだね、確かめてみたい」

  (話しながら振り向く二人。堤防に往人と観鈴が座っている)

男の子(今なら、その先に待つものがわかる。僕らは・・・・)

  (二人に手を振る観鈴。手を振り返す男の子)

男の子「行こっか」
女の子「うん」

  (海岸線を歩いていく二人。ふと男の子が振り返り・・・)

男の子(彼らには過酷な日々を・・・そして僕らには始まりを・・・・)
   「さようなら・・・・」

  (女の子を追っていく男の子。手をつないだ二人は海岸線を歩いていく・・・・・・)



 AIR 終 END




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